ハデスの優しさとやさぐれ
いきなり現れた悠達に、口をポカンと開けて動揺する凛。
「私は心から許してるよ、凛」
「なんで、ここに?」
ハデスは指をパチンと鳴らす。
「それは僕から説明しよう、なんと僕は、先ほど二階のトイレに行くと嘘をつき、悠、闇、灯、に凛の呪術について説明して回っていたのさ、それと、仲直りさせるために、リビングに呼んだのさ!さあ、みんな、リビングに入ってきなよ」
悠に手を引っ張られて、灯と闇がしぶしぶ入場する。
「凛、立って」
悠に言われるまま立ち上がると、悠は力一杯凛を抱きしめた。春を告げるミモザのような優しい香りがする。
「私たちのこと大好きって言ってくれてありがとう、それに、私も凛のこと、もっと聞きたいし知りたい、これからも一緒に暮らそう」
闇と灯のことを忘れて、はい、と即答しそうになるほどの安心感。相変わらず、凛のことを見ようともせず、そっぽを向く闇と灯が目に入ると、凛の流されそうになっていた感情はまた静止した。
「でも、迷惑かけるから、それに、灯と闇は私を嫌ってるだろうし」
「迷惑は誰だって生きてる限りは少なからずかけるもの、気にしなくて良いよ、それに、灯と闇は凛を嫌ってはいないよ、さっきは、凛を嫌ってたんじゃなくて、私のことを度がすぎるほど心配してくれたせいで、って、自分で言うことじゃないね。二人から直接聞いたら信用してくれる?」
そういうと、悠は凛から離れ、灯と闇に合図する。相変わらずそっぽを向く二人、目線を変えないまま灯から話を切り出した。
「俺は、別に、凛に出て行けなんて言った覚えはねぇ、さっきは凛が悠を傷つけたのかもと思ったから、ひどいこと言っただけで、師匠が凛にかかってる呪術は他の奴に影響はねぇって言ってんだから、それを信じる」
そう言うと、目線はいっそう遠くを見つめ頭を少しかく。
「だから、別に家にいて良いんじゃねぇの、ひどいこと言っちまった俺と、凛が暮らしたいって言うなら。それに、羊の毛、お前が倒れたせいで刈ってないし、羊が毛を刈ってる間、暴れないように抑えるぐらいは手伝えよな」
泣きすぎで赤く充血している目が、また潤み始める。
「私だって出て行けと言った覚えはないですの、それに、この筋肉変態は呪術については一流ですし私も信頼しているの、だから、影響がないと言うことも信じるですの。まったく、たった2日で好きだなんて、わかりきった嘘をよく堂々と言えたものなの、私はたった2日で人を嫌いと判断するほど安っぽい性格ではないですの」
わかりやすく、少し頰を膨らませる。
「それと、悠に謝れと言われたから謝ってやるのだけれど、さっき、結論を急ぎすぎて手にかけようとしたのは謝るの、悪かったとだけ言っておくの」
二人が言い終わると、悠は凛に、ね?、と可愛らしく目配せを送る。
「私はこの家に居てもいいの?」
「もちろん」
「凛が居たいなら勝手にしろ」
「好きにしなさいですの」
凛が涙をこぼした。
「もう、私は眠いから寝るの」
「俺も明日早いし寝るぜ、羊の毛は明後日刈るからな、凛」
そう、言い捨てると灯と闇は自室に戻っていった。
「闇も僕の弟子も、相変わらず素直じゃないねぇ」
「その通りですね」
ハデスと悠が笑顔で会話する。
悠は、座りこみ静かに泣く凛を抱きしめ、背中をさする。泣き疲れたのか、凛はいつの間にか眠ってしまっていた。凛の体を悠が支える。ハデスは眠ったことに気づくと凛の部屋のベッドに転送した。
リビングに悠とハデスだけが残る。
「いやー、凛が疲れて寝ちゃったね、せっかく野菜だけ食べていたのに、凛のために残した肉も、勿体無いし僕が食べてしまおう、スイーツプロテインを振る舞う約束もしていたんだが、明日の朝に振る舞うとしよう、新作のハッションフルーツ味だよ、悠も飲むかい?」
「スイーツプロテインはそうですね、明日の朝にしましょう、私も少しいただきますね、この野菜炒めはまた作れるので、全部食べてしまっても大丈夫ですよ、それに、明日は朝から仕込みして、凛のためにイノシシ肉の赤ワイン煮込み、作ってあげなきゃですね」
「そうだね、きっとすごく喜ぶと思うよ、凛は良い子だ、良い、と言っても、定義は様々、例えるなら、少し悠に似てるかもね、そんなこと言ったら嫌かもしれないが」
「いえいえ、灯と闇にあれだけ言われて好きだって言えるんですもの、私より心が広いかもしれませんよ?」
「悠より心が広いか、悠の果てしない心の広さを超えるとなると、例えようがないね」
二人は目線を合わせ、笑い合う。
「ハデスさん、相変わらず優しいですね、今日は色々と助かりました、なにか、お礼ができれば良いんですけど」
「その必要はないさ、この野菜炒めだけでお礼には十分すぎるよ」
ハッハッハ!とハデスが陽気に笑う、その後、悠とハデスはしばらく談笑を続けていた。
ハデスがたまに指を鳴らすのは癖である
悠の一番好きな愛情表現はハグかもしれない
灯と闇の悠に対する強い親愛は、過去編の中で書く予定。