魔王の休日
私は魔王だ。
この世界を支配している。
全ての命令を私が出している。
よって、休むヒマもない。
休日は年一日のみ。
ブラック企業みたいだな。
しかし、明日は待望の休日だ。
嬉しいな、嬉しいな。
休日が来た。
私は部下に厳命した。
「今日は休日だ。私は一日この部屋にこもる。出てくることは一切無い。もし、部屋に入ってきたり呼び出しなどしたら、誰であろうが迷わず殺す!」
部下は真っ青な顔で震えあがっている。
ハッハッハ。
部屋の中に入る。
狭い部屋だ。
小さい窓が一つ。
中には受付用の安っぽい長机と折りたたみ椅子だけ。
今日、直前に用意したからな。
さて、待望の休日だ。
何をしようか。
困った。
する事が無い。
毎日、働いてばっかりだったからなあ。
趣味なんて無いし。
トランプでもするか。
魔法で出現させる。
相手がいないし、ソリティアをやる。
何だか孤独だ。
つまらん。
トランプを消す。
ジグソーパズルを出現させる。
魔王なんで一億ピースだ。
こんなの一日で作れん!
魔法を使って、一秒で完成させた。
ちっとも面白くない。
ジグソーパズルも消した。
将棋盤を出現させる。
詰将棋をやってみる。
結構難しいな。
うーん。
やはり相手が居ないとつまらん。
将棋盤を消した。
けっして、解けなかったからではないぞ。
退屈だ。
誰か来ないかな。
来るわけないか。
殺すって言っちゃったもんな。
勇者たちが乱入してくれば面白いんだけどな。
もう勇者たちには期待していない。
最近の勇者どもときたら、ハーレム作るのに熱心で魔王のことなんて見向きもせん。
城の周辺を散歩するか。
部屋の扉を開けようとして、はたと気づいた。
今日は一日この部屋にこもると部下に言ってしまった。
私は前言をひるがえさない主義だ。
朝令暮改は良くない。
部下に迷惑だ。
仕方が無く、机に戻った。
うーむ。
他の魔王はどんな休日を過ごしていたのだろうか。
魔法で書庫から、魔王の伝記を取り寄せる。
中身を読む。
うーん。
何だか働いているんだが、遊んでいるのかよくわからんな。
偉そうに椅子に座って、適当に指示を部下に出しているうちに、勇者にやられて終わり。
みんな似たり寄ったり。
休日という概念はないようだ。
参考にならん。
ちょっと人間たちの伝記を取り寄せる。
どれも人間のくせに、魔王と呼ばれた奴らだ。
ある人間の独裁者は、休日に何をしていたかと聞かれ、
「御者と二人だけで、馬車をただひたすら走らせていましたよ。疲れ果てるまで」と答えている。
孤独な奴だ。
ちょっと親近感がわいた。
おっと、魔王が人間に親近感を持ってはいかん。
だいたい、付き合わされた御者の人が可哀想だ。
魔王なら一人で行動しろ。
もう一人の奴は宴会とか楽しんでたようだ。
しかし、その宴会で部下を泥酔させて本音をうまく聞きだし、逆らいそうな奴は数年経った後で粛清したりしている。
陰険な奴だ。
私なら、その場で瞬殺して終わりにしているが。
しかし、こいつも晩年は厳重警戒の庭を、ただぼんやりと一人で散歩する姿がよく見られたようだ。
寂しい奴だ。
おっと、親近感がわかないよう我慢した。
さらに、もう一人の奴。
部下に幸福とは何かと問い、
「休日に鷹狩をして、自分の鷹が獲物を見事に捕まえるのを見ることです」と部下が答えると、
「違う。幸福とは敵を殺し、財産を奪い、その敵の妻と娘を乱暴して我が物にすることだ」と言ったそうだ。
ヒデー奴だ。
絶対、友達にはなりたくないね。
しかし、魔王と呼ばれる奴らしいな。
人間に負けておれん。
よし、私も今日一日だけ、ひと暴れするか。
意気揚々と出発。
部屋の扉を開けようとして、また、はたと気づいた。
今日は一日この部屋にこもると部下に言ってしまったんだっけ。
やれやれ。
そんな事言わなきゃよかったなあ。
また、机に戻る。
力が余っているぞ。
仕方が無い。
最後の手段だ。
筋トレだ。
私は狭い部屋で腕立て伏せを始めた。
一万回やった。
つまらん。
何で魔王がこんな狭い部屋で腕立て伏せをしなくちゃならんのか。
筋トレはやめて、また椅子に座った。
漫然と折りたたみ椅子に座っている。
ああ、誰か来ないかなあ~。
殺すなんてアホなことを言わなきゃよかったなあ。
やれやれ。
すると、チュンチュンと鳥の声が聞こえた。
お、小窓に小鳥がいる。
私は魔法でパンくずを出現させ、そっと近づいた。
逃げられた。
仕方が無い。
私は「チュンチュン」と囁いて、小鳥を誘い出す。
うまく部屋の中に入ってきた。
パンくずを床に置き、そっと部屋の片隅に座り込む。
小鳥が近づいて、パンくずを食べている。
かわいいぞ。
やがて、小鳥は去って行った。
さよなら、小鳥くん。
私はまた椅子に座る。
小鳥のおかげで、仕事でたまった疲れが癒された。
気分が良くなった。
少しうたた寝をする。
そのまま、ぐっすりと寝てしまった。
気がつくと、休日が終わってしまった。
ま、休日なんてそんなもんだ。
いいや、来年に期待しよう。
しかし、また一年労働の日々が続くのか。
憂鬱だ。
やれやれ。
部屋を出ると、部下から報告がきた。
洪水が起きて大勢の被害者が出たそうだ。
直ちに、救援物資を送るよう命令した。
あれ、私は魔王だっけ。
まあ、しょうがない。
だいたい、最近の勇者たちがハーレム遊びばっかりやってて、こっちに来ないんだから仕方が無いだろ。
(終)