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流されて生きる方がきっと楽 3


「ハイモ…馬鹿な事をしたものですね」


貧民街を出てしばらくしたところで、ジェラルド先生はハイモに向き合った。ハイモは真っ青で震え、こちらに視線を合わせようとはしない。


「麻薬をやっていると聞いた時はまさかと思いましたけれど…。本当にやっているとはね…」

「…それ……は……」

「あの店で薬をやっていたのを、僕とロッテ先生は見ました。言い逃れはできませんよ」

「………」

「なぜこのような事をしたのですか。麻薬はこの国では違法です。手を出せば犯罪ですよ。お母さんも悲しむでしょうに」


するとハイモは目を開いて口を真一文字に結んだ。その表情は怒りを含んでおり、なぜそんな顔をするのか理解できなかったが…。ハイモはがっくりと頭を垂れると、観念しましたとばかりに口を開きだした。


「悪い事だって分かっていました。分かっていたんですけれど…悪い事をしている時が一番楽しかったんです…」

「……」

「休日に街の中を、目的なく彷徨っていた時でした。ベンという男が僕に寄ってきて…天国に行けるくらい、気持ち良くて楽しいことをやらないかって」

「……誘いに乗ったということですか?」

「お金がかかるって言われたんですけれど、興味本位で…。直感で、これはいけないやつだって分かったんですけれど…」


ジェラルド先生はしかめっ面をやめようとはせずにハイモに言い放つ。


「全く…どうしてそこで止めておこうと思わなかったのですか!こうして取り返しのつかないことをしてしまって…」

「……止めようと思いましたよ…。でも…」

「でも?何です?」

「……ベンは僕の話を聞いてくれたんです。それがとても嬉しくて、認められたような気がして…。だから止めることができませんでした…」


思わずジェラルド先生の方を見れば、先生は私が何を言いたいのか分かったようだ。しかし片手で私を制し、ハイモに今一度向き直る。


「ハイモの言っていることは、あなたのお母さんのことですか?お母さんは、ハイモの話を聞いてくれませんか?」

「あの人は自分が一番大切なんですよ。僕の事なんて……。いつだって、あの人が全部決めちゃうんです。僕が自分で決めたことはありません」


何かを諦めた表情で空を眺めるハイモに、ジェラルド先生は口を閉じた。が、ややあってハイモに歩み寄る。


「ハイモ…お母さんに思うことがあるなら、ちゃんと真っ向から言いなさい。こうして逃げていては、何も解決しない」

「…でも、あの人は聞いてくれませんよ。僕の話なんて…」

「それでも話し合いなさい!口喧嘩になってもいいから!それをしないで、麻薬に逃げるなんて甘すぎますよ!」


ドカンと怒ったジェラルド先生に私とハイモは驚いた。この人、こうやって怒ることができるんだとついつい感心してしまったわけで。


「いいですか、ハイモ。僕もそうでした。僕も若い頃、周りに流されて適当に生きていました。そしてやるせない想いを抱え、世間で褒められることがない事もしてしまったのです。あなたも私と同じです。いや、あなたは私より酷い」

「……」

「あなたのお母さんは学園でも有名ですからね。僕も辟易するくらい、なかなか強烈ですよ。過保護な親ですよ。ハイモにとっては毒でしょうね。でも寄りによって麻薬に手を出すなんて…いけません!」


ハイモのお母さんの凄さは話でしか聞いたことがないので、イマイチ私にはピンとこない。しかしジェラルド先生の言葉にハイモは心が動いたようだ。目から涙がこぼれ、ううっと泣き出した。


「ジェラルド先生…」


ようやく分かってくれたかと私もジェラルド先生も思ったところで、


「てめぇ…教師だったのか!?」


いつの間に背後にいたのだろうか、ハイモと一緒にいたベンという名であろう男が立っていた。加えて、ベンの後ろには、ハイモ達と一緒に麻薬をやっていた男が三人もいた。


「様子がおかしいと思って来てみりぁ…教師だったとはよぉ!俺たちを捕まえにでも来たのか!?」


なぜ教師がチンピラを捕まえるという発想になるのか…。しかし男達の怒りは止まらない。


「ふざけんなよ!なんでそんな奴が店にいるんだよ!」

「俺たちを騙そうなんていい度胸してやがる!殺してやる!」


勝手に勘違いを始めた男たちは、懐からナイフを取り出す。本気だ…本気で私達に怒りを覚えているのだ。


「ロッテ先生!ハイモを連れて行ってください!」

「ジェラルド先生っ!?」

「いいから、早くっ!」


ジェラルド先生に背を押されて一瞬迷ったが、何より生徒の安全確保!と思って、ハイモの手を引っ張って道を走った。






ようやく人通りが多くなった道に出た時はすでに陽は落ちていた。


学園の門の前までハイモを送り、呼びに行くまで寮にいろと指示をしてからジェラルド先生の元へ急いだ。あの粗野な男たちに先生が対抗できるとは思えず、自警団が詰める屯所に寄り、屈強な男たちを率いて貧民街の方へと走った。


ジェラルド先生はうつ伏せになって倒れていた。気を失っており、ボコボコに殴れたのが分かる程ボロボロにされていた。


「ジェラルド先生っ!!しっかり…!」


必死になって呼べば、ジェラルド先生はうっすらと目を開けた。


「ロッテ先生…?ああ…怪我は…」

「私は大丈夫ですから!それより先生が…!」

「はは……僕も大丈夫ですから…。そこまで騒がないで…」

「ジェラルド先生!」


自警団の人たちがジェラルド先生を病院まで運んでくれる。命に別状はないと言われたが、それでも心配で落ち着かなかったのだ。





その夜、ジェラルド先生は入院になった。腕を骨折し、打撲が数か所。気を失っているジェラルド先生の代わりに、私が校長に呼ばれてハイモの件を話すことにわけで…。校長室にはニコラス先生とハイモもおり、ニコラス先生はペコリと私に頭を下げた。


結果的に言えば、ハイモは退学となった。麻薬は犯罪、それがバレたとなれば最早学園にはいられない。ハイモはぎゅっと目を閉じて退学という言葉を黙って聞いていた。


校長とニコラス先生にジェラルド先生の容態を説明した後、私はハイモと話した。


「ハイモ、大丈夫?」

「…ロッテ先生。はい…僕は大丈夫です」

「……ジェラルド先生もちょっと怪我しただけだから」

「……はい…。申し訳ありません…。ご迷惑をおかけしました」

「それはジェラルド先生に直接言ってあげてね。もう麻薬に手を染めるなよ」

「……はい」


とは言っても、麻薬から抜け出すことはなかなか難しい事だろう。ハイモはこれから苦労すると思う。思うが、自分でしたことは自分で責任をとらなきゃいけない。


ハイモは窓の外から夜の空を仰いだ。無表情で何を考えているのか分からない。私も何を言ったらいいのか分からない。そもそも私はハイモと今まで話したことがないから、私とハイモの間に信頼関係はない。


「ハイモ。いつかジェラルド先生とゆっくり話をしてあげてね。先生はとってもハイモのことを気にしていたよ」

「………」

「私はあなたの事はあまり知らないから、だからここで色々言う資格もない。けれどジェラルド先生とあなたは違うでしょう?」


ハイモは苦い顔をしていたが、ややあってゆっくりと頷いた。


「ロッテ先生とジェラルド先生はお付き合いをされているんですよね?」

「は?いやいや…えっとね…」

「でしたら教えて下さい…。ジェラルド先生は…僕のように、何も言えない子供だったんですか?流されて、いけない事をしてしまったと言っていましたが…」


お付き合いしていないと否定する間もなく話を進められ戸惑うが…。その辺をハイモは気にしているわけではなさそうだったのでスルーしておく。ハイモが知りたいのは、ジェラルド先生の過去だ。


「ある程度は知っているけれど…でも勝手にジェラルド先生の過去を話すことはできないかな…ごめん」

「……そう…ですよね。すみません…」

「とか言いつつ、私も詳しくは知らないのよ。まあ…ジェラルド先生は貴族だしね。貴族は個人よりも家柄とか名誉とか重んじるし?だから理不尽な想いを沢山したのかもしれないね」

「……」


それも含めて、ジェラルド先生と話をするといいよと薦めておいた。





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