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転生者だと言う少女


長期休みが終わり、生徒たちが寮へ戻って来た頃、私は校長先生に呼ばれた。


「ロッテ先生はキュリヴェス出身だったね?」


突然そんな事を言われて面食らった。校長だから私の事(経歴など含め)は全て知っていて当然だが、なぜそれを持ち出されたか謎だ。


「キュリヴェスは内戦が終わったとは言え、まだまだ国が疲弊していたな…」

「……あの…?」


まさか「お前はもうこのアズベーク学園にいらないから故郷に帰ってくれ」とでも言われるのだろうか?嫌な汗がじんわりと額から流れる。


確かに私はキュリヴェス出身だが、内線が勃発した時に、妹と母とこのウォーレンス王国へ逃げて来た。故郷が恋しいと思う事もあるが、今更キュリヴェスに帰るつもりはない。キュリヴェスは未だに混乱の中にあるからだ。


「ああ、警戒するでない。別にロッテ先生をここから追い出すとか、そういう事ではないよ」

「………はい。あの、では…?」

「これからする話は作り話ではないということだけ念頭に置いてほしいのだが」

「? はい」


校長先生はひどく神妙な顔つきをして手のひらを組んだ。


「実は、ある貴族の子供についてなのだ」


ある貴族の子供について。


目を丸くさせれば、校長先生は溜息一つついてから口を開いた。




***




その数日後、私は再び校長室へ呼ばれた。


「ロッテ先生」

「!クラウス先生?」


校長室の前ではクラウス先生が立っていた。手を挙げて私に挨拶をしているから、どうやら私を待っていたようだ。


「クラウス先生も呼ばれたのですか?」

「それはこちらの台詞だ。先ほど校長から‘ロッテ先生も来る’と聞いた時は驚いた。なぜロッテ先生もここに呼ばれるのだ?」

「え…、ああ…それは私が詳しく知っているだろうって校長先生は思ったのでしょうね」

「……よく分からない…。この件について、何を詳しく知っているのだ?」


私のことはさて置き、クラウス先生こそ、なぜここにいるのだ?

するとクラウス先生は肩を上げて溜息をついた。


「元々、今回の話を校長に持ってきたのは私だ」

「え!…どうしてクラウス先生が?」

「家の繋がりで…と言えばいいか?客室で校長と共に待っている貴族は知り合いなのだ」

「ははあ…。ヴェクトヴァ-ン家の知り合いということですね」


今はそれ以上説明してくれる気はないらしい。校長とお客様を待たせるわけにはいかないので、私とクラウス先生は一緒に校長室へと入って行った。





客室には校長と、貴族の女性一人と、その女性の子供がいた。女性は見たところ、二十代後半といったところか。下手したら私よりも若い。品がある、美しい女性だ。


子供の方は興味を隠しきれない様子で私を眺めている。金髪の巻き毛が可愛らしい、いかにも貴族の令嬢といった風貌だった。九歳と聞いていたが、もう少し年上にも見える。


女性はクラウス先生と軽く頭を下げた後、私の方に視線を寄こしてきた。


校長はその女性に私を紹介し始めた。


「こちらの女性教師がロッテ先生です」

「…キュリヴェス出身だと言う方ですね?」


横からクラウス先生の視線を感じる。私がキュウリヴェス出身だと知らなかったのだろう、何か言いたげな雰囲気だ。


「はい、初めまして。ロッテ・ダナーと申します。仰る通り、私はキュリヴェス出身です」

「アズベーク学園の唯一の女性教師とお伺いしております。そんな方がキュリヴェス出身だと知って驚きました…」


女性はエリザベス、子供はアメリエーヌと名乗った。校長から聞いた話だと、にわかに信じがたい事だと思っていたが、こうして二人揃って来るからには相当困っているのだろう。


校長に促されたので、私もクラウス先生も椅子に座った。エリザベス夫人はクラウス先生に笑いかける。


「久しぶりですね、クラウス。お元気にしておりましたか?」

「…ええ。あなたもお変わりなきようで。ところでアメリのことですが、真実なのですか?」

「…お話しさせて頂いた通りですわ。この子は……」


エリザベス夫人は私達一同を見渡し、静かに、けれど力強く言い放つ。


「信じられないとお思いかもしれませんね。私も最初は疑いました。けれど今では信じております。この子には……アメリエーヌには…前世の記憶があるのですわ」




***



校長から聞いた話の内容はこうだ。


‘アメリエーヌという若干九歳の少女に、ある日前世の記憶が蘇った。それはマイエル・ゾリーという男性の記憶だ。これはすなわち、アメリエーヌはマイエル・ゾリーの生まれ変わりだという証拠だ’ということだ。


マイエル・ゾリーと言えば、キュリヴェス出身者ならば知らない人はいないと言われる人物だ。


キュリヴェスで内戦が勃発した折、政府軍と戦いながら民間人達を守って死んでいった若き英雄……と言われている。彼はまだ二十歳そこそこで、しかも女性に人気高い容姿をしていたものだから、死んだ時は盛大に悲しまれた。


キュリヴェスでは未だに内乱が続いているが、マイエル・ゾリーのように誇り高く死んでいくべきだ!と考える阿呆な連中が沢山いるらしい。私にはさっぱり理解できないが。


校長から「アメリエーヌがマイエル・ゾリーの生まれ変わり」という話を聞いた時、「何を馬鹿なことを」と思わず口走ってしまう程、呆れ果てた。


前世の記憶がある、だから生まれ変わりだというのはあまりにも信じ難かった。


しかもマイエル・ゾリーはキュリヴェスでとても人気が高く、また有名な人物故に、その人生を誰かから聞かされることだったあり得る。つまり「誰かから聞いた話」を、「かつて自分がした体験」とアメリエーヌの脳内で変換されていてもおかしくはないだろう。


「信じるか信じないかを聞きたくて、ロッテ先生をここに呼んだわけではないのだよ。君を呼んだのは、そのマイエル・ゾリーという人物について詳しく教えて欲しいのだよ。なぜならば君はキュリヴェス出身だからね」

「……でしょうね…」


有名とは言え、それはキュリヴェス国内での話。他国では「マイエル・ゾリーなんて知らない」と答える人がほとんどだろう。だからこそキュリヴェス出身の私がこうして呼ばれているわけであるが…。


正直に言えば、マイエル・ゾリーという名を聞いて逆上しそうになった自分がいた。


私の父は家の中に侵入してきた人物達によって殺された。その中心にいたのが、何を隠そう、マイエル・ゾリーなのだ…!


内戦の原因は、政府軍と反政府軍の衝突だ。父は政府関係者の下で働いていたから、必然的に政府側ということになる。そしてマイエル・ゾリーは反政府軍だった。マイエル・ゾリー率いる反政府軍は片っ端から政府関係者達を殺していた。


マイエル・ゾリーらが家に入って来た時、私が真っ先に彼らと会った。


『この家の娘だな…。ということは、こいつも政府関係者だな。殺せ』


マイエル・ゾリーは何の感情も宿さない冷たい顔でそう言い放った。未だにその顔をよく覚えている。


震える身体は動いてくれず、自分に剣が振り下ろされるのを黙ってみていた私の前に飛び出して来たのは、私の父だった。


『殺すならば…俺だけにしろよ!娘は関係ねぇ!』


普段、娘に対する思いやりも優しさも見せることのなかった父の愛情を感じた瞬間であった。それが父の最期であったことも…。


私は父が撲殺されて死んで行くのを、最初から最後まで見ていた。その光景は未だに目に焼き付いていて、マイエル・ゾリーらが、父を殺している間に、ニヤリと笑ったこともまだ覚えている。


マイエル・ゾリー達は、私達や妹や母には手を出さずに帰って行った。近くの場所で爆発が起こり、その方向へと踵を返して行ったから…。父は殺され、私達は命拾いをした。


『ここにいたら殺される…。逃げなくちゃ!』


その後、私達はキュリヴェスを脱出し、山を越えてこの国・ウォーレンス王国へと逃げてきた。


ウォーレンス王国は豊かな国だった。王と貴族が治める国と聞いていたから、時代遅れの政治をしているに違いないと思っていたが、よく統制がとれており、教育熱の高い国だという印象を受けたものだ。


言葉も分からないこの国が、私達の第二の人生のスタートを切る場所となった。私も妹も母も、最初は戸惑いながら怯えて生活をしていたが、何年かしてようやく慣れ、そしてこの地で暮らして行こうと決めた。


キュリヴェスは私達の故郷だが、二度とキュリヴェスに帰らないと心に誓ったのだ。


それからしばらくして、国の状況とマイエル・ゾリーの死を知った。


彼を憎んだ事はなかった…と言えば嘘になる。


しかし親を失ったのも、悲しいのも私だけではない。それに、マイエル・ゾリー達にも彼らの信条と正義があったのだろう。だから政府関係者達を始末していた。助かったのだから、この幸運を噛みしめて生きて行けばいいと、そう思っていた。


思っていたのに…。





「アメリエーヌはある時から奇妙な事を言い出すんですよ。自分は戦って死んだとか、未だに国は荒れているとか、だから今こそ何とかしなくては…とか。それでよくよく聞くと、自分はかつてマイエル・ゾリーという人物で、英雄として死んでいったと言うではありませんか。私達、本当に驚いて…。それでクラウスにこの話をしたんですわ。で、クラウス?こうしてアズベーク学園の校長先生にお話下さったということは、あなたも信じて下さっているのでしょう?」


自慢げにエリザベス夫人は話を続けている。


「エリザベス…、私は全てを信じているわけではない…。勿論アメリを疑っているわけではないが、こういう事は滅多に起こらないものだしな。…それと、校長先生に話した理由は、いずれアメリがアズベーク学園に入る生徒だからだ。今から状況を把握してもらった方がやりやすいと思ったまでで…」


「まあまあ、エリザベス夫人、それにクラウス先生。アメリエーヌ嬢がそのマイエル・ゾリーという若者の生まれ変わりかどうかは置いておいて……」


三人が話すのを、私はただ黙って聞いていた。


かつての記憶が蘇る。あの辛く、悲しい日々が。


アメリエーヌ嬢が本当にマイエル・ゾリーの記憶を所持しており、生まれ変わりだと言うならば…彼女は私の仇ということになるのだろうか?敵討ちをしたいとは思わないし、第一生まれ変わりだというのも胡散臭いと思っているけれど…。


三人の話を遮るように、アメリエーヌ嬢は可愛らしい幼い声で口を開いた。


「私がマイエル・ゾリーの記憶を思い出したのは三年前なんです!」

「…そんなに前からか?」


クラウス先生が問うと、嬉しそうに頷いた。


「でも悲しい記憶ばかりなんです。マイエル・ゾリーは仲間たちと共に、国を良くしようと頑張っていました。なのに途中で殺されてしまったんです」


皆、アメリエーヌ嬢の話を黙って聞いている。


「私は思いました。どうして私はマイエル・ゾリーの記憶を持っているのだろうか。どうして思い出してしまったんだろうって。どうして、どうしてって…。だって途中で命を落としたマイエル・ゾリーは、悔しくて悲しい気持ちで一杯だったんです」


感極まっているようで、目に涙が溢れている。


「私は考えました。そして分かりました。今こそ私は、マイエル・ゾリーの意思を継ぐべきだと。キュリヴェスに行き、仲間たちと再会して、そして国の為に戦うべきなんだと!気付いたんです」


クラウス先生と校長は驚いている。エリザベス夫人は困り果てた顔をした。


「相談させて頂きたいのはこの事なんです…。百歩譲って、アメリエーヌがマイエル・ゾリーという若者の生まれ変わりだと認めても…。でも私達はこの子をキュリヴェスに行かせるつもりはありません」

「ですがお母様、私はそれが使命なのです!でなくば、マイエル・ゾリーの記憶が蘇ったりはしないでしょう!」

「早まるのはよせ、アメリ」


クラウス先生も止めた。校長も頷いている。


「君はアズベーク学園に入学をし、ここで沢山の事を学んで、いずれどこかに嫁ぐのですよ。それが貴族の令嬢としての道です。戦場に行かせるためではないですよ」

「言ってやって下さいまし、校長先生!この子ってば聞かなくて」


ああでもない、こうでもないとお互いの言い合いが始まっている。キュリヴェスに行きたいというのがアメリエーヌ嬢の願いらしい。当然、皆は止める。成程、この場の話し合いはこういうことだったのか。


「ロッテ先生の意見も聞きたいです!特に先生はキュリヴェス出身ですから!アメリエーヌ嬢の願望をどうお思いですか?」


校長が私に聞けば、一同の視線が私に集まる。


私はゆっくりとアメリエーヌ嬢を見つめ、彼女も私を見つめた。


何て言ったらいいのだろう。複雑で黒い感情が私の中で渦巻いている。生まれ変わりなんてもの、私は信じていない。幼い頃に誰からから聞いた話が頭の中に残り、そのせいで彼女は「自分は転生者なんだ」と思い込んでいるだけだ。


いや、生まれ変わりだろうが何だろうがここではどうでもいい…。そんな結論の出ない話はどうでもいいのだ。


「キュリヴェスに行きたいと言うのならば…止めた方がいいですよ。あなたのようなお嬢様は簡単に狙われます」


私の答えに、エリザベス夫人やクラウス先生、校長はほっと息を吐く。アメリエーヌ嬢だけが納得していない顔をする。


「マイエル・ゾリーはきっと志半ばで死んだんです!もしくはやり残した事があるとか…!私はその為にキュリヴェスに行きたいです!」

「………」

「国の為にも働きたい!どんなに危険が分かっています!ですからお母様、クラウスお兄さま、校長先生達…認めて頂きたいのです」


そしてまた三人は必死で止める。こんな事をやっているのがとてもバカバカしくなってきてしまい、早く終わってくれないかなぁと心底思っていた。




***



「ロッテ先生」

「……クラウス先生。どうしました?」


結局、生涯に一度くらいはキュリヴェスに行くという結論になったらしい。「らしい」というのは、私は最後まで聞いていない。用事があるので、と見え見えの嘘をついて部屋を退出したから。


「何か機嫌が悪かったようだからな」

「………すみません、失礼な態度でしたね」


教室で外を眺めながらぼうっとしているとクラウス先生は隣まで足を運ぶ。


もう夜も遅い。当然だが生徒たちは寮に戻り、先生たちも学園内にはいないだろう。


「こんな暗い部屋で、何を考えているのだ」

「………何も。ただ、ぼーっとしていましたよ。仕事で疲れたので」

「……アメリの話が気に食わなったのか」


それには答えない。答える気力もわかなかった。


「…ロッテ先生がキュリヴェス出身だと言うのは知らなかったな」

「………言ってないですからね。知っているのも、教師の中では校長先生のみですよ」

「……隠したいのか?」

「……そういう訳じゃないですけれど、大っぴらに言いたくないだけです」


お互いに無言になる。何故だか今はこの空気が凄く嫌なものと感じてしまう。


クラウス先生は窓の外を見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「…アメリだが…。マイエル・ゾリーとかいう者の生まれ変わりだというのは、私は信じていない。いや、別にどちらでも良いというのが答えだな」

「……ふうん?そうなんですね」

「アメリがどうしたいのか、という方が重要だからな。キュリヴェスに今すぐ行く!と言うならば全力で止めるというまでだ。行ったところで、九歳の貴族令嬢が出来ることなどほとんどないからな」

「…そうですよ。行くなんて馬鹿なことは考えないことです。今のキュリヴェスは私がいた頃よりも荒れて酷いと聞きます。まあ…国境に入る前に止められるのがオチでしょうけれど」

「…戦場に行くということがアメリは理解していない。本当にマイエル・ゾリーという英雄の生まれ変わりならば分かるとは思うがな」

「…ん?それはどういう意味です?」

「…英雄と呼ばれるくらいならば、賢い人物だったのではないか?ならば子供に出来ることなどないと分かろうものだろうに…」


何となくクラウス先生の言いたい事が分かった。が、私は苦笑しながら肩をすくめる。


「……別にマイエル・ゾリーは英雄じゃないですよ」

「………ロッテ先生?」

「英雄と周りが言っているだけで、彼自身は大した事ない人物だと私は思っていますけれど」


クラウス先生が私を見つめた。


「どうしてマイエル・ゾリーが英雄だと言われているのか私には理解できませんよ…。容姿が良かったからですかね?女性に人気が高かったから?」

「……平民達を助けたからではないのか?」

「助けたと言っても、一部の人たちだけでしょう。政府関係者は片っ端から殺していましたよ」

「………内戦だからそれも仕方ないのだろう?反政府軍達からは英雄と言われているということだろう」

「…そうかもしれませんけれど、私の父は政府関係者だったので。だからマイエル・ゾリーのことを、あまり良く思えないんですよ、私は」


口を閉じたクラウス先生を見て、思わず笑ってしまった。


「私情も入っていますけれど、あんな若造を英雄だとか言うなんて…キュリヴェスも落ちたものですよ。とっとと滅びた方が皆の為だと思います」

「………言いすぎなのでは?」

「言うだけならばタダでしょう。武力で勝ち取った国なんて、いずれ滅びます。だったら今滅びてしまえばいい。そしてまともな、どこかの王様が治めてくれればそれが一番幸せ」

「……」

「マイエル・ゾリーの生まれ変わり?そんなの信じません。どうしてマイエル・ゾリーだけが生まれ変われるんです?他にも死んだ人は沢山いるのに?私の父も、あの時死んだのに」

「………」

「であれば、父もどこかの誰かに生まれ変わっているんですかね?ふふ…想像したらおかしくなってきたけれど……」

「………確かに、マイエル・ゾリーだけが生まれ変わるというのは解せないな」

「…でしょう?確かに彼は英雄と言われているかもしれません。でも私はそうは思わない。むしろ私からしたら憎き敵になります…。まあ、別に憎んでないですけれど…」

「………」

「憎んではいませんが……。聞いていい気持ちのする名前じゃない…。むしろ二度と聞きたくはなかった」


その時、私はクラウス先生に抱き締められていることを知った。いや、抱き締められているという表現は正しくない。まるで子供をあやすように、よしよしと撫でられ背中をさすられているから。


彼の温かい腕が、私を優しく包む。


「泣きたければ泣くがいいだろう。そんな憎まれ口をたたいてないで…」

「……泣く?」

「……泣いていた。気付いていなかったのか?」


ああ、私ってば泣いていたのか…。全く気付かないでいた。


「辛い事を思い出させて悪かった…。私が校長に、アメリの話をしてしまったために…巻き込んでしまったな」


不器用な慰め方が、私の涙腺をさらに崩壊させた。


恨んだことはなかった。マイエル・ゾリーだって、きっと国の事を想って政府関係者を殺していた。父を狙ったのだって、そういう理由のはずだ。だから憎むのは止めようと思っていたのに…。


それでも、彼が死んだと聞いた時は「天罰だ!」と喜んだ醜い自分がいた。酷く苦い思いをした時のことをよく覚えている。これでもう、彼の名前を聞く事もない。父も安らかに眠れるだろうと思っていたのに。


どうして今頃になって、私の前に出てくるのだろう。二度と聞きたくなかった男の名前。どうして私の前に、生まれ変わりだとか言う少女が現れたのだろう。


あの日の事を忘れた事はない。私の人生で、一番の恐怖と悲しみと絶望を味わった日。


アメリエーヌはいずれこの学園に入学してくるだろう。私はその時、どんな気持ちで彼女と向き合えば良いのだろう。


アメリエーヌは知っているのかな。いや、覚えているのかなと言った方が正しいのかな?


‘あなたが殺した人を、覚えているの?’と…。今度会ったら聞いてみようか。


そんな意地悪をするつもりはないけれど。でも悔しいと、なぜお前が英雄扱いされて、幼い少女の中で誕生しているのだと、大きな声でののしってやりたいと思うのだった。




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