婚約破棄につきまして
一話目は短編と同じです。
王族から名門貴族・商家、いわゆる良家の子供が通う名門校・アズベーク学園。
その学園に通う、プライドの高い十代のキラキラしたお子様たちを教育をするのが私、ロッテ・ダナー。今年三十歳、独身まっしぐらだけれど、仕事が大好きな女です。
そもそも私は平民出身で、「良家」と言える家柄の出ではない。さらに言えば出身もこの国ではなく、戦火の絶えなかった遠い異国である。内戦で父親を失い、家族で着の身着のままこの国に逃げ、そこから努力をして今の職に就いたわけである。
この国の王様は随分寛大であり、かつ斬新で画期的な思想の持ち主だった。「実力があれば国籍や身分、年齢を問わずに取りたてる」という王様のお言葉こそが、私がこの学園にいる理由だ。
金持ちの子達の教育など私に出来るか心配だったが、身分関係なく、子供はやはり子供なのだということを最近理解しつつあるのだが…。
さてさて、この場合どう「教育」をしたらよいのだろうか。
先程から泣いて止まない、グレーティアの扱いにほとほと困り果てていた。
***
「今この場において、私は宣言する!私とグレーティア・アデナウアーの婚約を破棄し、ここにいるメリー・ブレーメと婚約を発表する!」
学園の卒業パーティーで、着飾った生徒達が集まったホールで勝手にやらかしてくれたのは、この国の第二王子・ゴットフリート。パーティーも盛り上がって来たところで、ツカツカと中央にやって来たと思ったらいきなりこの宣言。呆気にとられたのは私だけではないハズだ。
「理由を…お聞かせ下さいませ」
真っ黒な髪の私と違い、美しい金髪で色白美少女のグレーティアは、その顔を必死で歪ませまいとしながらそう言えば、
「理由?そんなもの、分かり切っているだろう!お前がメリーにした行為の数々、知らぬ私だと思っているのか!?陰で嫌がらせをする女を私の妻などにできないだろうが!これが婚約破棄の理由だ!そして私は生涯をかけてメリーを守ってみせると誓ったのだ!」
ゴットフリート王子サマは胸を張っている。
「さあおいで、メリー。君はもう大丈夫だ。そしてこれから、君が私の婚約者だ」
「…ゴットフリート様…!」
メリーを胸の中に抱いて、ゴットフリート王子は目を閉じた。残されたのは婚約破棄宣言をされて一人佇むグレーティアだけ。
「うわぁ…。三角関係、まさに修羅場。三文芝居でも見せられている感覚ですね」
「……ジェラルド先生…」
「ゴットフリート王子は色々と問題があると聞いていましたが…やはりですか」
「ジェラルド先生、不謹慎ですよ」
私の隣で楽しんでいるであろう、同僚のジェラルド先生をねめつけるが、しらっとした顔で返される。
「不謹慎だと思うならば、ロッテ先生が止めに入ったらいかがです?」
「大丈夫です。私が止めなくても、止めに入る先生はいるものです」
きゃんきゃん言い合っている王子とグレーティア、そしてメリーの間に割って入ったのはこの学園の校長先生だ。
「やめないか。今は卒業パーティーであるぞ。個人的な話はひかえよ」
ほらね、とジェラルド先生に視線を向ければ、ジェラルド先生も納得して頷く。クイッと黒ぶち眼鏡を上げてホールを眺めるジェラルド先生の姿に、ついつい溜息が零れる。
「校長先生を差し置いて私が止めに入るなんて恐れ多いことはできませんよ」
「ただ単に面倒だったからではないですか?」
「いやですねぇ。それ、ジェラルド先生には言われたくないです」
ホールの角でコソコソと無駄口をたたき合っていれば、私は校長先生に呼ばれてグレーティアを別室に連れて行くように言われた。教師の中で、私だけが女だからだろう。
別室に入るまで、グレーティアは口を真一文字に固く結んで一言もしゃべろうとはしなかった。しかし部屋に入るなりその大きな瞳からはボロボロと涙が流れた。
「…こっちに座って」
彼女の腕をとり、ソファーに座らせる。ハンカチを差し出せば、少しだけ頭を下げてそれを受け取った。
さてさて、どう慰めようか。そもそも恋愛事はあまり得意ではないのだが…。何しろ碌でもない恋愛しかしてこなかった私だけに。
泣くグレーティアを横目に、困り果ててしまった私だったのだ。
***
ようやくグレーティアが落ち着いた頃に、私は話を聞いてみた。
家同士で決められた間柄とは言え、グレーティアは婚約者であるゴットフリート王子を心から愛しており、それ故彼に近づくメリーが鬱陶しかったらしい。だからメリーに嫌がらせもした…と認めた。
「具体的に何したの?」
「……婚約者のいる男性に近づくなんて非常識だと言ってやりましたわ」
「…ん…。まあそれは間違いじゃないからね。そこまで気にしなくていいんじゃないの?」
「やたら高い声で殿下に話しかけるのも止めなさいとも言いましたわ。媚びているようでみっともないと」
「男の前だけで声が高くなる女っているよね。本人気付いていないと思うから、教えて正解だったんじゃないの?言われなきゃ絶対に気付かないよ。わざとやっていたら言っても無駄だけれど…」
少しだけ面喰ったグレーティアに、私は突っ込んで聞く。
しかし出てくるのは「注意してやった」系が多く、彼女が進んで嫌がらせをしたということは出てこなかった。むしろ彼女のしている事は正当性があり、当たり前の事なのだが。
(まあけれど…いじめをしていた子が、‘実はいじめをしていました’なんて素直に白状するわけはないか)
とは言え、グレーティアがそうした行動に走った理由は可愛い「嫉妬」が原因だ。そもそも、嫉妬をさせる男が全て悪いじゃんか、とこっそり心の中で思う。
「私…本当に殿下が好きだったんですわ…。メリー嬢に渡したくはなかった」
「……うん」
「でも止められなかったですわね…。私がどんなにあがいても、メリー嬢の愛らしさと笑顔に殿下は惹かれてしまって…。こうして私は婚約破棄されて、社交界の笑い物にされるんですね」
メソメソ泣くグレーティアは美しくも可愛くもあって、今ならどんな男も落とせそうだなんて不謹慎な事を当初は考えてはいたが、話を聞く時間に比例して私のストレスも溜まっていった。
「グレーティア」
「…っ!は、はい…。ロッテ先生…」
「いいか、よく聞け」
ここから私の説教という名の教育が始まった。
「グレーティアは可愛いよ!いや、部類でいけば美人さんだね!間違いないからそこは自信を持て!メリー嬢も可愛いけれど、比べても仕方ないから!いいね!」
グッと親指を立てれば、グレーティアは戸惑いながらも頷く。
「それでさあ…。人様の好みにケチ付ける気はないけれど、あの王子のどこがいいわけ?男としては最低じゃん」
「……ロッテ先生…。今の発言は不敬罪に問われても」
「誰もいないからいいでしょ」
じろりと睨む。グレーティアは黙る。
「顔はいいかもしれないよ?金髪で碧い眼、王子様の条件揃えているし。でもさあ…中身がお子様だよね」
「…お子様…ですか…」
「そうだよ。くねくねして甘えてくる女が可愛い、俺が守ってやる~なんて考えている時点でお子様。そしてあの場で婚約破棄宣言を偉そうにするって事も最悪。何様なんだよって言いたい」
「何様って…王族で…」
「王族に生まれたからって全員に頭を下げなくてはならないなんて法律、私の中には存在しない!ましてや王子っていう名のただの餓鬼に」
断言すれば再び絶句するグレーティア。そして私は自分の体験談を彼女に聞かせた。
私の父は内戦で命を落としたわけであるが、私を守って死んだのだ。家の中に入って来た敵から私と母と妹を庇い、敵に向かっていった。そして父は敵を討ち取って死んだ。
父は無口な人だった。お酒が入るといい気分になって饒舌になり、それがうざったく感じる事も多かったが、普段は寡黙で何を考えているか分からない人だった。家の中では母を召使のように扱い、妹には厳しい事を言っていた。息子がいない代わりに、私を息子のように扱って、武器の扱いを教え込む。それが嫌で、嫌でたまらなかった。
きっと父は家族を自分の道具か奴隷のように思っているに違いない。反抗期にはそのように思い込んだこともある。
けれど父親は私達、家族を守って死んでいった。死ぬ間際、母に何かを言ったらしい。その内容は知らないが、母は涙を流しながら照れくさそうに笑っていた。きっと愛の言葉だったのではないかと推測する。
私の話をじっと聞いていたグレーティアに、私は笑いかけた。
「父の事を好きだったかって聞かれたら、半分好きで半分嫌いって答える。普段は無口で無愛想で何を考えているか分からない親父だったし、妙な威圧感もあったから恐れもあったし。けれど最期は家族を守って死んでいった…。自分に責任を持てる人だったんだなって、今なら思えるんだ」
「……責任…」
「男ってね、責任の塊だと思うよ。責任を果たせない男はクズ以外の何者でもないよ」
「……でも…殿下はクズでは…」
「クズだよ。あの王子殿下は子供でクズだよ。教え子の一人を悪くは言いたくないけれど。今日で卒業だし、はっきり言ってやる。あの王子殿下はクズだよ」
目を丸くさせたグレーティアは、言葉が出ないらしい。私も自分の言葉がきついのは自覚しているが、止めるつもりもない。
今なら分かる。
母は、父の事を心から愛していた。父の世話を焼くのが好きだった。そして父も世話を焼かれるのが好きだった。子供から見れば「父は母をこき使っている」だったが、本人たちはあれがお互いの愛情表現だったのだろうと。
妹に対して厳しくしていたのも愛の鞭だったに違いない。
妹はテキパキと行動する私と違って、のんびりおっとりで…悪く言えば鈍くさい子だった。近所の子達から馬鹿にされるのは当たり前で、器量も決して良いとは言えない子だからこそ、父親は世間に出ても強い心でいられるように教育をしていたのだ。
私に武器の扱いを教えたのは、自分が死んだ時に家族を守って欲しいという願いからだろう…。実際に、国境を超える時にそれが役立った。
そして最後は私達家族を守って死んでいった。自分の事よりも、家族を優先させた。父親として、一家の大黒柱としての責任を果たして死んでいった。
「あの王子殿下が、私の父と同じことをできるとは思えないよ。家の中に敵が入って来たら、真っ先に逃げるか、他人の命を差し出すかを選択すると思うね」
「……でも…それは王族だから当たり前では…」
「そうね。そうかもしれないね。でもさ、そう思われる王族なんだよ?土壇場で責任を放棄して逃げる人種だって思われているってことだよ。その事は理解している?」
「……」
第一王子であるルードヴィッヒも私の教え子である。確か今年二十歳になるルードヴィッヒは、彼が十八歳の時にちょろりと教えた事があったが、真面目でとてもよくできた生徒だった。
評判が良かった理由は、学力が極端に高いという事などではなく、自分の言動や行動に責任を持てる子だったという事からだ。
堅物で冗談が通じなくて扱いにくい生徒だったが、有言実行の精神と、己の全てに責任を持っていた。この子が王太子で良かったと先生たちは皆思っていた。
「ルードヴィッヒだったらね、きっと自分だけが逃げることはしないと思うよ。王族として、民を守る方を優先させるだろうね。勿論王族としては失格かもしれないけれど、人間としては、私は好感が持てると思っている。弟王子のゴットフリートと比べたらね」
「……ルードヴィッヒ様と比べては…」
「勿論、他人は他人だから比べるのは間違っているよ。さっきグレーティアに、自分とメリーを比べるなって言ったのにね。そこはごめん」
でもね、言いたい事は分かるでしょう?と静かに続けた。
「ゴットフリートが、自分に責任を持てる男だったなら…。嫉妬で暴走したグレーティアを諌めなくてはならなかった。そしてメリーに、自分は婚約しているからあまり馴れ馴れしくするなと宣言しなくちゃいけなかった。それが男の責任の果たし方じゃない?」
グレーティアは黙って私の話を聞いていた。
「それを抜きにして、メリーが可愛いからってあの場で婚約破棄をします宣言して、グレーティアだけ悪者にするなんて。男の風上にも置けないよ。しかもあんな風に婚約宣言されたメリーもこれから大変だよ?それを分かっているとは思えない。自分の感情だけで突っ走って…。結局あの王子殿下は、自分の事だけ良ければいいって男だよ」
「………はい…」
「グレーティアにはもっといい男がいるよ。まだ十八歳でしょ?大丈夫、まだまだこれからだよ」
「……はい…」
どこかふっ切れたような表情をしたグレーティアを見て私も少し安心した。やっぱり自分には恋愛相談は厳しいわ…。夢見る乙女のような思考回路はもうないし、こうして泣く乙女を慰める言葉にしてはきっときついに違いない。
おっと。夢見る乙女には悪いけれど、現実というモノをもう少し教えておく必要がありそうだ。
「それとね、グレーティア。男って、心と下半身はベツモノだからね?そこはよく覚えておきなよ?」
「え!? え!? そ…それはどういう意味ですか…ロッテ先生……」
「愛しているとか好きだとか言っても、複数の女と関係を持てるってことだよ」
「え!? え!? あの……えっと…!?でも不貞行為は法律で禁止されて……」
「…世の中は白か黒かじゃないよ。グレーの部分がほとんどなのだよ」
「ええええええええ~!?」
なぜ娼婦が世からいなくならないのか分からないのか。貴族だって愛人を囲うってよくあるでしょうが…。まあそこは深く突っ込むのは止めておこう。そろそろグレーティアが可哀そうになってきたから。
突っ走りすぎた話題を少しだけ戻す。
「王子殿下はねえ~…。メリーのナイスバディにやられたんだよ、きっと。メリーって結構胸あるでしょう?」
「う……っ!た…確かに」
メリーがどういうつもりであの馬鹿王子に近づいて婚約者の座を勝ち取ったのか知らないけれど、胸を武器に使ったのは間違いない!十八歳でそれを分かっているのも怖いけれど。
男も女も、特定の恋人や妻がいながら別の異性に心を惹かれることはある。それをいけないことだと私は思わない。心はいつだって自由だから。こっそりと慕うだけならばいいと思う。
けれど関係を持ったり、婚約者を押しのけて結婚をしたり、愛人となったりと「責任」が伴う事までになるならば、それ相応の覚悟はしなくてはならない。覚悟なしに、惚れただの好いただの、守ってあげるなどは馬鹿のすることだ。
思う事は様々あるようだけれど、グレーティアは私の話した内容を頭の中で反芻していたようで、最後にはそうですねと小さく同意をした。
「いい勉強だと思って、今回は諦めよう。と言うか、第三者から言わせてもらえば、あの王子殿下にグレーティアは勿体ない。グレーティアにはもっといい男がいる!これ断言する」
「ロッテ先生に、そこまで褒められるとは思いませんでした」
ふわりと笑った彼女はやはり美人さんだ。もう少し年を取れば、妖艶さも出てきそうだ。
「メリーもねえ…。あの子も幸せにはなれないと思うよ…あの王子といる限りは」
「…どうしてそうお思いになるのです?殿下とメリーさんは相思相愛ということで…」
「環境が違うでしょう」
グレーティアは王族にも近い公爵家の出だが、メリーは商家の出だ。いわゆる成金というやつで、父親が一代で財を築き上げた。
「王子がメリーの家に婿入りするならば上手くいくとは思うけれど…。王族の一員になったら絶対上手くいかないよ。結婚って、二人だけの話じゃないからね」
「それは…私も思いました…。メリーさんは貴族の礼儀作法にも疎い方だったので…」
「だからってあのプライドだけは高い王子殿下が大人しく婿入りするとは思えない。そして婿入りしたところで、メリーの父親の仕事の手伝いも出来るとは思えない」
「……ロッテ先生は殿下の事をことごとく貶しますね」
くすくすと楽しそうに笑うグレーティアに、私はわざとらしく「しまった」という顔をしてみせた。
***
グレーティアは晴れ晴れとした顔で部屋を後にした。
「あんな男、こっちから願い下げですわ!」と言っていたが、心の傷が完全に消えたわけではないだろう。きっと今日の夜、また泣くに違いない。
けれどこの経験が彼女を更に美しくさせるのだろう。そしてもっと素敵な男性と巡り合えるのだと思う。
「相変わらず、手厳しくも独特な指導でしたよ、ロッテ先生」
いつの間に部屋に入って来たのか、そこにいたのはジェラルド先生。
「覗き見でもしていたんですか…。相変わらず趣味の悪い」
茶色の髪を掻き上げながら、楽しそうにして私のところに足を運ぶジェラルド先生はどこか楽しそう。絶対楽しんでいるよね、この人は。
「もう少し手加減したらどうです?グレーティア嬢は一生徒とは言え、公爵令嬢ですよ。そして王子を馬鹿だのクズだのと」
「事実ですから仕方ないでしょう。こういう時に言葉を飾っても、泣いている子には響きませんよ」
「ふふふ、そうでしょうねえ」
ジェラルド先生は自身の眼鏡を外して胸ポケットへしまう。
あ、これは逃げ遅れたと思った時は遅かった。私はジェラルド先生に引き寄せられてキスをされる。
「……ちょっと…。どこに誰がいるかも分からないのに止めて下さいよ」
「僕とロッテ先生以外には誰もいませんよ」
「いいから離してくれません?今は遊びたい気分じゃないんですよ」
「ロッテ先生にとって、僕との関係は遊びなんですか?」
思わず呆れる。
「何を言っているですか…。私と結婚もするつもりもないくせに」
「そうですね。僕は結婚するつもりないですね」
この男、結婚願望ゼロなのだ。そのクセ恋愛だけは楽しみたい男だから最低だ。
「先程、私はグレーティアに男の責任について話をしたんですが」
「はい、聞いていました」
「それを聞いて、何か思うことはないんですか」
「別にありません。人それぞれですし」
「……ジェラルド先生もクズの部類ですね」
耳元でくすりと笑う声が聞こえる。
「お互い様でしょう?ロッテ先生も、結婚には興味ないでしょう?」
「……まあ…そこまでないですね…。仕事が楽しくて…」
「ならいいじゃないですか。僕はロッテ先生が好きですよ」
「ジェラルド先生程の美貌ならば引く手あまたでしょうに」
いつの間にソファーに押し倒される。だから、生徒がまだホールにいるって言うのに。
「ロッテ先生も美人さんですよ?その美人さんが、僕の相手をしてくれているのが嬉しいです」
「……私、年下は趣味じゃないんですが…」
「たかが五歳じゃないですか。気にしない、気にしない」
再び唇が落とされ、服にジェラルド先生の手がかかる。こいつ、ここで本気でする気か…。涼しげな顔しているくせに、野獣だな。
「あ、そうそうロッテ先生。グレーティアとの話も終わったならば、メリーとも話をしてあげて下さい」
「……は?」
なんでメリー?メリーは馬鹿王子と一緒に校長室に行ったのでは?
しかしジェラルド先生はにっこりと笑顔で言い放つ。
「メリーも色々溜まっているようでしたので。ロッテ先生を呼んで来いと校長先生から言われたんですよ。どうやら校長先生の手には余ると。女性教師に任せようってことになりまして」
「………」
こいつ…!そういう事は早く言え…!そしてこの状況で言うのか!?
「ジェラルド先生、教師としての責任を持って行動して下さい!メリーのところへ行きますよ」
「ああ、駄目です。まずは僕の相手もして下さい」
「っ……!死んでしまえ…!」
何考えているんだと怒りが込み上げてきたが、ジェラルド先生は私に一つキスを落とすと、獲物をとらえた蛇のようなギラギラした目をした。
「最近、忙しかったですしね。ロッテ先生も、僕に対して責任を果たして下さいね?」
「…何の事ですか」
「さて、何の事でしょう?ともあれ、その責任は今ここで…」
思わずジェラルド先生の胸に入っている眼鏡に、拳を力いっぱいぶつけてやった。パリン、と音がしたのは言うまでもない。