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変装注意報

クロ不憫な目に遭う。

R15、若干下品注意。

男同士を匂わすニュアンスあり。

何度も言っているけど、クロは整った顔をしているのだ。


ヒューゼルのモノだった時のクロの、特に見た目に関して何か思うことはなかった。そんなのじゃなくて、恐々と見え隠れするような優しさとか、不器用で真っ直ぐな生き方とか、そういうところに惹かれたんだけど。


「……やっぱりカッコいいんだよね」


目の前で繰り返されるやり取りを見ながら、思わずぽつりと呟いた。


場所は酒場。良心的な価格と、用心棒を務めるおじさんたちのフレンドリーさと、安心安全を売りにしている人気の店だ。

もちろんご飯も美味しい。その上、お姉さん達もとても魅力的な人ばかりが揃っていた。


「ねぇ、今夜こそいいでしょう?」


女の私でも凝視してしまいそうな魅惑の膨らみをクロの腕に押し付けて、綺麗なお姉さんが誘惑している。


「やだ、それなら私が先よね?」


スカートのスリットから覗くすらりとした足を組み替えながら、もう一人のお姉さんがクロの太腿に手を置いた。


多分男の人ならクラッとくるだろうお誘いに、眉一つ動かさずお酒を飲む横顔はやっぱりカッコいい。


「……でも、なんかイヤだなぁ」

「あら、君も遊べばいいんじゃない?」


再び漏れ出た独り言に返事があって、驚きのあまり体がびくりと反応する。条件反射で声の方へ顔を向けると、そこにもまた綺麗なお姉さんが座っていた。


「お姉さん、君のこといいな、って思ってるんだけど、どうかな? 色々教えてあげるよ?」

「い、色々っ?」


女なのにお姉さんの色気にクラクラしてしまう。

色々って、色々って……


「おい、こいつに変なことを吹き込むな」


頭の中で「色々」が駆け巡っていると、黙ったままだったクロが急にこっちの話に入ってきた。


「変なことってなぁに?」


お姉さんが可愛らしく小首を傾げたら、クロの眉間に深い皺ができた。何で?


「こいつにはまだ早い」

「えー? もう充分じゃない? そんなに心配しなくたって大丈夫よ、私が、優しく、全部教えてあげるから、ね?」


流し目がとてもセクシーです。

何だか落ち着かない気持ちで、カツラなのに髪をそわそわ触ってしまう。


そんな私にお姉さんが体を寄せてきて、ふわりと甘い香りに包まれる。思わず近寄りそうになった私の腕を、いつの間にか席を立っていたクロがぐっと掴んで引き離された。

眉間の皺が更に深くなっている。目付きも更に悪くなっている。何で?


「必要ない!」

「いつまでもそんな過保護じゃ、この子が大人になれないんじゃないのぉ?」

「まだ早いと言ってるだけだ」

「お兄さんがそんなことばっかり言ってたら、時期逃して誰も教えてくれなくなったりして」

「オレが教えれば問題ないだろう!」


はっきりと宣言されたクロの言葉に、辺りが一瞬静まり返る。


教える、って何を?


今までのやり取りを思い出そうと首を捻った瞬間、キャーッ! という黄色い声が綺麗なお姉さん達から上がった。


「なになに、やっぱりそう言うことだったんだ!」

「道理で私達の誘いに乗らない訳だぁ」

「ええー! せっかくの好みの初物がー!」

「でもほら、そっちは譲ってくれるんじゃないのっ?」


悲鳴にも似た歓声が酒場に響き渡る。何だ何だ、と他の客の注目も浴びる中、クロは顔を真っ赤にしていた。


「……違う! そういう意味じゃないからな!」


鬼のような形相でこっちを睨んでくる。

そういう意味って何だろう? でも、その前にクロの赤い顔とか新鮮だ。


最近は少しずつ話をしてくれるようになって嬉しいし、色んな顔も見れるようになってきて嬉しい。


「何かを教えてもらうなら、クロからが良いです」


そうしたら、また違う顔が見れるかもしれない。


「おまえっ……」


素直な気持ちでそう言ったのに、火を吹きそうな程真っ赤になったクロは私の腕を引っ張って酒場から外へと飛び出した。


「ちゃんと優しくしてあげるのよー!」

「分かんなかったら聞きにおいでねぇ」


じゃんじゃん掛かる声には一言も言葉を返さず、店を出たクロは大きな溜息を吐いた。


「……もうここには来れない」

「えっ! 何でですか? ご飯美味しいのに」

「おまえな……今自分がどういう格好してるのか分かっているのか?」


どういう格好?

自分の姿を見下ろして確認。シンプルな上着に黒いズボン、そしてごつめの革靴。そして、赤茶のカツラだ。


そこまで確認してふと気付く。

そっか、お姉さんは私のこと男だと思っていたんだ。そりゃそうだ、男装してたんだから当たり前のことなんだけど……


「……ごめんなさい、クロ」


多分男同士でそういう感じの二人だと見られたことにようやく気付いて、クロに申し訳なくなった。

変装していてもぼんやりとしていたら、男の振りをしていることをすぐ忘れてしまう。


「分かればいい。まあ飯くらいなら少々煩くても食えるしな。気が向けば来てもいい」


渋々とでも結局は私の願いを叶えてくれる。

クロはやっぱり優しい人だ。






それからと言うもの、この店に行くと綺麗なお姉さん達がクロにアピールすることは無くなった。代わりになぜか私のところへ「どうだったの?」と聞きに来るから困ると言えば困るんだけど。


でも、お姉さんにモテモテなクロを見ずに済むのはちょっと嬉しい。

クロには内緒だけど。






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