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旅は始まったばかり

私を連れ去った銀髪様はやっぱり凄い貴族様だったらしく、なるべく早くここから離れた方が良いということなので、ひとまず私達は急ぎ森から抜けて近くの村へと向かった。


「服を買うぞ」


クロの言葉に思わず自分たちの格好を見直してしまう。

あんなことがあった後で気にもしていなかったけど、黒く焦げてしまっていたり、穴が開いていたり、と結構酷い状態だった。


「……そうですね」


良く良く考えてみると、これで村を歩くのはちょっと恥ずかしい。気付いてしまえば、誰も見ていないのにそわそわしてしまう。


目的地を知っているのか、速足で歩みを進めるクロの後を急いで追った。


「おや、あんた達、狩りに失敗したのかい? 酷い格好だね!」


こんな姿で店に入って大丈夫なのかな、と不安が過ぎった時には既にクロは店の中に入っていて、ドキドキする間も無く豪快な笑い声が店に響いていた。


「まあ初心者はみんなデッカい炎出したがるもんだからね」

「こいつとオレに合いそうな服を適当に出してくれ。後、付け髪は置いているか?」


中々笑いが止まらない店長さん? を気にすることなく、クロは淡々と目的の物を伝えている。


なんて言うか、慌てているクロってあんまり想像出来ないかも。


「付け髪? 代わったもんを欲しがるんだね。ああ、確か幾つかあったはずだよ。ちょっと待ってな」


店の奥に入っていく店長さんの後ろ姿を見送る振りして、チラチラとクロの髪を見てしまう。


クロは私よりずっと長い髪をしている。多分伸ばしっぱなしなんだろうけど、適当に一つ結びしてるだけなのに何だか様になっているのは、やっぱり顔面偏差値の差なのだろうか。ずるい。


あ、でも付け髪付けるってことは長髪が見れるってこと?

斜め後ろから想像してみたら、うん、意外と似合うかもしれない。一人で頷いていたら「おい!」といきなり呼ばれて、慌てて現実のクロに目をやれば、いつの間にか店長さんが戻ってきていた。


「おまえ、これ付けてみろ」

「え? 私!?」


差し出された黒い束を受け取ったものの、付け髪付けるのかまさか自分とは思わずに驚いてしまう。


「オレがつけてどうするんだ」


なんか呆れた顔をされている。そんな表情が珍しくて、じっと見つめてしまったら「早くしろ!」と顔を逸らされた。


よく考えてみたら、こちらの女性は髪が長いのが普通みたいだし、私みたいなボブは珍しいので目立つ。

そこまで考えてくれていたんだな、と有難く思いながら付け髪を付けてみた。


鏡は無いので適当だけど、付け髪の先にピンが何本が付いているので、多分これを自分の髪に差し込めば良いはず。


「おやまあ!!」


私を見ていたらしい店長さんがポンと手を叩きながら声を上げた。


「ちょっと、髪型が変わるだけでこんなに変わるんだね! これで化粧でもしたら……」

「こっちだ! こっちにするぞ」


店長さんの声を遮り、クロが私へと投げて寄越したのは赤茶の塊。何かと思えば、それは所謂カツラだった。付け髪ではなく、すっぽり頭に被せてしまうタイプだ。


「付け髪は外れることもある。それを被っておけばいい」


でも、これだと短い髪がますます短くなってしまうけど……

じっと手元のカツラを見ていると、バシッと音が鳴る程激しく店長さんがクロの肩を叩いた。


「嫉妬深い旦那は嫌われるよ! 赤茶の奴を買ってくれるなら黒の付け髪はおまけするから、二人の時にでも楽しんだらいいさ」

「べっ! 別にオレは……!」

「はいはい。ほら、あんたもさっさと服を選びなよ」


いつの間にか数着の服が棚に並べられていて、私は何が何やら分からぬまま服を選ぶことになった。


「いいか、オレは別に、その付け髪がどうって訳じゃなくて、変装するなら男の方が良いと思っただけだ」


なんかクロがすごい喋っている。

その事に感動して、とりあえず私は「はい」と頷いておいた。


「なんだ、あんた達まだなのかい? しっかりしないと取られちまうよ?」


また豪快に笑いながら店長さんはクロをバシバシ叩く。

黙ったまま叩かれているクロの耳がほんのり赤い事に、私はまったく気付かなかったのだった。




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