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婚約破棄から始まるけれど、どこまでもやさしい世界  作者: 倉永さな


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23/30

*二十三* ばれてしまった二

     ◆   ◆


 ルークスさまの言葉に、ラーウスさまは余裕そうな笑みを浮かべた。その表情は無理して虚勢を張っているようでもなくて、本当に余裕そうな笑みだった。


「私はおまえのことを、すっかり失念していたよ」

「ひどいな」

「でも、大丈夫だ」

「大丈夫なわけないだろう!」

「いや、それが大丈夫なんだ。私は偽装してきたのだから」

「は?」


 え、偽装ってなにをしてきたんですか、ラーウスさま?


「なにがあるか分からないから、あの部屋に私とルベルの幻影を置いてきた」

「……用意周到だな」

「それを作るのにちょっと手間取って、時間が掛かってしまったんだよ」


 とラーウスさまはわたしに向かって説明してくれた。

 そうだったんですか、そんなものを……って。


「え、幻影っ?」

「そうだよ。ほら、すぐに戻れるとも限らないだろう?」


 確かにそこは気になっていたところだったけれど、幻影で誤魔化すことができるのだろうか。

 だって、幻であれば、ご飯なんて要らないだろうし……と、わたしが考えていることが分かったのか、ラーウスさまは説明をしてくれた。


「幻影を動かすためには動力が必要だ」

「はい、そうですね」

「外から魔力を補給するのが一番なんだが、私はいない。なので、食物から補給するようにするのが難しくてね」

「えっ、そんなことができるんですかっ」

「かなり大変だったけれど、できたんだよ」


 ラーウスさま、いつの間にそんなことをしていたのでしょうか。わたしが薬草園で作業していたりしたとき? それとも、ここのところ、外へのお使いが多かったのは、そういうことですか?


「ただ、この幻影も一日しか持たない」


 ということは、早いところ解決させて戻らないといけないってことですね。


「それと、ルークス。私の魔力に反応できるのは、おまえだけだぞ」

「なんだって?」

「確かに、城であんな大きな魔法を使ったことは反省しているけれど、バレないように使ったからな。おまえは魔法探知能力が桁違いだから、分かっただけだ」

「それ、褒めているのか?」

「褒めてない」

「……そうだよな、おまえが褒めるわけがない」


 ルークスさまは呆れたようにため息を吐くと、ラーウスさまとわたしへ視線を向けて来た。


「で、ここはどこだ?」

「アウリスだ」

「アウリス……? はっ? アウリスだってっ? って、それ、どこだ?」


 普通なら、アウリスって言われて、すぐに分からないですよね。ラーウスさまはすぐに分かったようだけど、前もって調べていたんだろうなあ。


「アウリスはアーテル国の北部に位置する町だよ」

「北部……。どおりで寒いわけだ」


 と、ルークスさまを改めて見ると、いつもの黒の神官着を着ているだけだった。対するわたしたちは、アウリスに行くと分かっていたので、きちんとコートを着込んでいた。しかも、ラーウスさまはご丁寧に、毛布まで持ってきていたのだ。今は魔法でどこかにしまい込んでいるから、わたしたちは手ぶらだ。


「寒いか?」

「寒いに決まっているだろう!」

「仕方がない。我が国の神官殿に風邪を引かせるわけにはいかないから、毛布を貸してやろう」


 そう言って、ラーウスさまは手をくるりと回すと、その手にはとても軽いけれど暖かい、毛布が出てきた。先ほど、ラーウスさまが仮眠をした時にかぶっていたものだ。


「これを羽織っておけ」

「あぁ、ありがたい。遠慮せずに借りる」


 ルークスさまはよほど寒かったのだろう、そう言ってラーウスさまから毛布を受け取り、肩にかけた。


「はー、暖かい……」

「それならよかった」


 ラーウスさまは軽くわたしの手を引いて、歩くようにうながしてきた。わたしはそれに合わせて、歩き始めたのだけど、ルークスさまの声で足を止めた。


「ちょっと待て。それで誤魔化そうとしているな」

「…………」


 あ、やっぱり、ラーウスさま、説明をしないで済ませようとしたのね。


「それで、どうしてこんな北部にまで転移魔法で移動しようとしたんだ?」

「それ、やっぱり説明しないと駄目か?」

「当たり前だろう! なんの理由もなく、城内で危険を冒してまでやるわけないだろう!」

「積もった雪が見たくて、私がルベルにわがままを言ったという説明では納得して」

「するわけがないだろう! 現に、ここには雪など降ってない!」

「ですよねー」


 ラーウスさま、嘘をつくのならもう少しマシな嘘にしてくださいよ! アウリスは寒いし、谷間だけど、滅多に雪は降らないんですよ!


「それに、なんでここはこんな壊れているんだ? ここには人は住んでないのか?」

「いや、人は住んでいた。たぶん、この間の嵐の日に、この家は壊れた」

「壊れた? ……あの嵐の日に?」

「今、神殿にも協力要請がいっているだろう?」

「あぁ、治癒魔法を得意とするものが主にかり出されているな」

「ここは、ルベルの故郷なんだ」

「ルベルの……?」


 あ、それ、言っちゃうんですね。


「届くはずの荷物が届かないから、なにか起こっているのではと心配して、様子を見に休みが欲しいと言われたけれど、私が許可を出さなかった」

「鬼上司だな」

「あぁ、好きに言えばいい! 私は自分かわいさに、ルベルの願いを却下したんだ! それに、なにかあったから、荷物が届かない。そんな危険な場所に、ルベル一人で行かせられる訳がないだろう!」

「それなら、正規の申請を出して、おまえも一緒に来られるように……って、それができない理由でもあるのか?」


 ルークスさま、鋭すぎです!

 って、気のせいでしょうか。ルークスさまの視線が、頭の上にある……。

 ああああ、ここのところ、ずっとウィケウスの花の香りを嗅がないでも耳と尻尾が出ていなかったから油断していたけれど、今、間違いなく、耳と尻尾が出ている! 肝心の乾燥させたウィケウスの花もウングラから逃れるために投げつけていたんだった!


「ルベル……もしかして君は……」

「あの……」

「ラーウスは、知っていたのか?」

「知っていた。というより、知ったから、それを盾に結婚を迫った」

「あぁ、おまえならやりそうだな、それ」


 はー、とルークスさまはため息を吐き、それからわたしへ視線を向けた。


「よく今まで、獣人だってバレなかったな」

「…………」

「荷物が届かなくなったせいで、バレてしまった訳だ。だからその原因を調べに来たんだ」

「なるほど、そういう訳だったのか。分かった、俺も黙っておこう」


 その一言に、わたしは目を見開いた。


「あ、ありがとうございます!」

「ルークス、助かる」

「ラーウスのためじゃない、ルベルのためだからな!」


 ルークスさまはそう言って、赤い顔をして、視線をそらせた。


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