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婚約破棄から始まるけれど、どこまでもやさしい世界  作者: 倉永さな


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*二十二* ルークスさまと合流

     ◆   ◆


 実家に近づくにつれ、辺りの荒廃具合がひどくなっていたから覚悟はしていたのだけど、まさかのまさか、家があった場所が、がれきの山になっていた。

 え、なにこれ。

 ここに家があったはず……だよ、ね?

 それとも、久しぶりに帰るから、記憶違い?

 元々ここはがれきの山で、家はもうちょっと別の場所だった?

 でも、あそこに生えている木の形、すっごく覚えがあるんだけど。あの木は、わたしの部屋の横に生えていて、よく、こっそり家から抜け出すときに使っていた木で……。

 それを確かめるために、わたしはふらふらと木に近寄った。

 木の根元に立ち、見上げる。古くなっていたけれど、見覚えのある脱出用の縄が木の間から見えた。

 ということは、やっぱり家の場所を間違えた訳ではなくて……。


「ルベル?」


 がれきの山の側でうろうろしていたわたしを訝しく思ったのか、ラーウスさまが名を呼んだ。その声で、ハッと我に返った。


「ラーウスさまっ」

「なんでここは、こんなになっているんだい?」

「あの……ここが、その、実家でして……その」

「ここがルベルの実家?」

「はい。確かに家があったはず……なのです、が」


 どうして家ががれきの山になっているのか、訳が分からない。


「もしかして、さっきのウングラが関係あるとか?」

「ウングラが……?」


 ウングラは、ウィケウスの花を前にしたときは凶暴化するけれど、それ以外の時は気持ちが悪いという以外は取り立てて危険な生き物ではない……はずだけど。


「ルベルの家の中には、ウィケウスの花がたくさんあったりした?」

「しますが、ウングラが分からないような場所にしまってあります」

「それなら、別の理由?」

「…………」


 仮にウングラが家の中に入り込んで、ウィケウスの花を求めて暴れたとする。としても、こんながれきの山になるようなことにはならないような気がするのだけど……。


「それか……あぁ、もしかして」


 ラーウスさまはなにかを思い出したのか、手を叩くとわたしの顔を見た。


「一月程前に、嵐の日があったよね?」

「え……と、はい」


 この国の冬に一度は、激しい嵐の日がやってくる。だけど、それはこの谷間のアウリスではあまり影響がなかった。


「今、思い出したのだけど、あの嵐は数十年に一度の規模のひどさで、あちこちに被害をもたらしたと聞いている」

「わたしも聞きました」


 そういえば、ラーウスさまのところに届けられる書類にも、あの嵐の日に関連したものがここのところ多かったことを思い出した。


「ここからは私の推測なのだけれど」

「はい」

「ルベルの家は、あの嵐の日に吹き飛ばされてしまったんじゃないかい?」

「えっ」

「ここは町の外れのようだけど、町中はどうなっているんだろうね」

「…………」

「アウリスから救援要請は今のところ、出されていなかったと思うけれど、もしかしたら、ひどいことになっているのかもしれないね」


 アウリスの町自体に被害があったとしても、“獣人の町”ということで、よほどのことがない限りは、自分たちでどうにかしようとするだろうから、救援要請は出さないだろう。それに、わたしたち獣人はたくましい。寒さをしのげる場所さえあれば、家という形にはこだわらない。


「町を後から見に行きましょう」

「そうだな」

「町外れのうちだけの被害ならいいんですけど……」


 と口にすれば、ラーウスさまは複雑そうな表情を浮かべた。


「町に被害がないことの方がいいのだけど、ルベルの家は被害に遭っている」

「そうですけど、うちは大丈夫ですよ」

「しかし、思い出の品などもあるだろう?」


 思いがけないラーウスさまの言葉に、わたしは思わず目を見開いた。

 ラーウスさまがおっしゃるとおり、騎士団入りするときには、必要最低限の物しか持っていかなかったので、実家には大切な物がたくさん置いてある。この状態を見て、それが無事であるわけないと分かったけれど、それほど心が痛んでいなかった。

 それよりも気になったのは、家族がどうしているか、だった。


「品物よりも、わたしは家族の行方が気になります」

「あぁ、そちらも気になるな」


 わたしは、残り香がないか鼻をひくひくとさせてみたけれど、ラーウスさまから甘い香りがしただけだった。


「町まで行ってみるかい?」

「えっ」

「ルベル、キミの実家がこんな状態であるのなら、ご家族は町のどこかにいるかもしれないではないか」

「……たぶん、町にはいないと思います」

「どうして?」


 どうして、と聞かれても、理由はなくて、なんとなくとしか答えられない。

 そもそも町はずれに住んでいるのは、ウィケウスの花を栽培するためだけど、それだけではないような気がする。


「町にいないとすると、どこにいると?」

「ここにいなければ、ウィケウスの花を乾燥させる小屋か、あるいは、別のところか……」

「それでは、小屋に行ってみよう」

「はい」


 ここから小屋まではそれほど距離はない。

 この様子では、小屋も無事かどうかあやしいけれど、心当たりがあるのはそこしかないので、とりあえず行ってみよう。

 と思って移動をするために足を一歩、踏み出した時。

 わたしの耳にがさりという音がした。


「ラーウスさま、止まってください」


 歩き始めたラーウスさまに声を掛けて足を止めさせると、ウングラのときと同じようにラーウスさまを背中に隠し、剣の柄に手を掛けた。


「だれっ」


 剣をいつでも抜けるように鞘から少し抜きながら、がれきの向こう側に声を掛けると、手の先が見えた。ゆっくりと横に動き、現れたのは……。


「ルークスさま?」

「こちらには敵意は……って、ラーウスにルベル?」


 警戒を解き、剣を鞘に収めると、ルークスさまは苦笑をしながら近寄ってきた。


「ったく、おまえら、城の中であんな不安定な魔法、ぶっ放すなよ!」

「おまえこそ、そんな不安定な魔法を唱えている相手に追跡魔法仕掛けるとか、おかしいだろう!」

「おかしくない! 転移魔法だと分かったからこそだ! おかげでこうして、会えただろうが!」

「…………」


 わたしとラーウスさまは、同時にルークスさまにジトッとした視線を向けた。

 だって、本当に追跡魔法を追いかけて来たのなら、ルークスさまはこちらの正体に先に気がついていたと思うのだけど、さっきの言葉はここにわたしたちがいることに気がついていないかのようだった。


「なんだよ、その疑いの目」

「追跡魔法を追ってきたには、こちらの正体が分かってないのが怪しい」

「追いかけて来たのは間違いないんだが、近くまで来たから、目視確認に切り替えていただけだ!」


 と言い訳がましいルークスさまの言葉に、ラーウスさまはため息を吐いた。


「だからいつも、最後が甘いと言われるんだ」

「…………。け、結果的には問題がなかったんだからいいんだ!」

「そういうことにしておこう」


 まさかあの転移魔法にルークスさまを巻き込んでいたとは思わず、かなり気が重くなってしまった。

 ルークスさまに、そもそもがどうしてここに来たのかという説明をしなければならないだろうし、ことと場合によっては、わたしの正体も話さなければならないかもしれない。

 ラーウスさまに知られてしまったのはハプニングだったけれど、黙っていてくださると約束もしてくださったからいい。だけど、ルークスさまは? 同じように黙っていてくださるだろうか。

 ラーウスさまの親友という立場にいるので、ルークスさまは信頼するに値する人であるのは知っているけれど、もしも彼が獣人嫌いだったら? そう思うと、恐ろしくなる。


「とりあえず、ルークス。今から見聞きしたことはだれにも話すなよ」

「はっ? ことと場合に寄っては、神殿と陛下に報告しなければならないだろう。おまえ、そもそも城内であんな魔法をぶっ放したんだぞ? 今頃、城は大騒ぎだぞ」

「それは大丈夫だ」

「なにが大丈夫だ、だ。現に俺は、おまえの魔力に反応して慌てて駆けつけたんだぞ?」

「…………」


 もしかしなくても、大事になっているのでしょうか。

 わたしだけではなく、獣人たちのピンチですかっ?


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