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面倒でも自己紹介はしておきましょう!




「絶世の美女だというから楽しみにしていたのに、男女とは。俺にだって好みがある。こんなのを「篭絡して帝国へ連れて帰る」なんて役目は、願い下げだな」

「・・・」


 私を前に開口一番、秘密にしておくべきなんじゃないかという事を堂々とのたまったのは、フランツ王子殿下と引き換えに留学してきた、ゼノベルト・オルカ・ドゥヴァ・バリーノペラ殿下です。


 ゼノベルト皇子殿下は先日急逝された先帝の御子で、ここモノクロード国の北に位置する、グレイジャーランド帝国現皇帝の異母弟です。皇帝にはまだ御子がいないため、彼が第1帝位継承者となっています。

 そして彼のラストネーム「バリーノペラ」は、皇帝の実子にしか名乗ることが赦されていません。


 ちなみに「ドゥヴァ」は部族名ですね。

 グレイジャーランド帝国は、5つの部族が寄り集まってできている国で、「ドゥヴァ」は北が海に接する帝国の、東南を治める部族の族長一族が名乗る姓です。


 また北の隣国、グレイジャーランド帝国には、少し変わった帝位継承ルールがあります。

 まず、皇帝は5つの部族から、1人ずつ伴侶をめとる事が義務付けられています。で、1週間を1クールとして5日、順に夜伽よとぎさせ、残り2日は休憩。または寵愛している者を呼ぶというきまりがあるのだそうな。


 さらに継承順位は男女関係なく出生順となります。

 現皇帝は女帝ですから、今後宮には寵愛を得るために選ばれた見目麗しい5人の男がいて、毎晩のように・・・げふんげふん。

 失礼。


 そんなことより「オルカ」ですよ!

 遂に、遂に現れましたよ。隠しキャラ。

 掲示板に載っていたのがセカンドネームだったのと、出現条件がよくわかりませんが、きっと私がプレイできなかったルートに理由があるのでしょう。

 ゼノベルト皇子殿下の「オルカ」は、「聖人」とうたわれた祖父の名を戴いたのだそうな。


 ついでに言うと、ここモノクロード国では、国への功績を認められた者に、国王よりセカンドネームが下賜されます。あと王族以外には関係ありませんが、立太子した時にもです。


 私の父であるテトラディル侯爵も、戦争を平和的に退けた功績により近々、下賜される予定です。和平交渉にやってきた南の隣国ガンガーラの王弟殿下が、交渉相手に父を指名したからなのですが・・・。

 納得いかないらしい父から来た「カーラの功績を横取りしたくない」的な内容の手紙に、「やっと戦争の抑止力という立場から解放されたのに・・・シクシク」的な、意図的に水滴を垂らして文字を滲ませた返信をしたりして、私を表に出さないよう説得しましたよ。実際に交渉して文書化したのは父なのですから、私に気負う事なんてないのに。


「あんたは「漆黒の魔女」なのだろう? 魔女らしく、妖艶な格好でもしてはどうだ? 女が男の真似事とは・・・気色悪い」


 面倒極まりない相手が目の前にいる事実を、他事を考えて現実逃避していたら、何も言わない私に気を良くしたのか、更にご自分の優位を示してきました。

 腰まである癖のない真っ直ぐな青銀の髪をかき上げながら、緑に金を散りばめたような、角度によって金にも見える瞳で尊大に、言葉だけでなく態度でも私を見下みくだしてくる、ゼノベルト皇子殿下。


 今、ヘンリー殿下とお話し中の、お連れの方の横に黙って立っていたときは、リアルエルフかというくらい完璧に整った顔と、長身ながらも華奢で理想を体現したかのようなバランスの体に、見とれてしまうほどだったのですがね。

 彼の青銀の髪は光の精霊が付いているのではなく、ものすごく小さな水の精霊が付いているせいなのだそうな。


「ご期待に添えられず、申し訳ございません。グレイジャーランド帝国皇子殿下。私はテトラディル侯爵が長子、カーラ・テトラディルと申します。お気を悪くさせてしまった事を、お許しください。こちらは弟のルーカス・テトラディルと申します。以後、お見知り置きくださいませ」


 跪いて一度、頭を下げてゼノベルト皇子殿下が軽く右手を挙げたのを確認してから立ち上がります。それから私の後ろで冷気を感じる笑みを浮かべていたルーカスを紹介して、今度は右手を胸に頭を下げました。


「ルーカス・テトラディルです。不勉強なもので帝国流のご挨拶はできませんが、どうかご容赦ください」


 優雅に微笑みつつも目が笑っていないルーカスが、嫌みを吐いてから跪いて右手を胸に頭を下げ、許可もなく立ち上がります。

 私の敵をとろうとする強気なルーカス、かわゆす。でも、ここはさらっと流して欲しかった!

 案の定、眉を不快げに跳ね上げたゼノベルト皇子殿下が、声を荒げました。


「なんと不敬な!」

「不敬なのはお前だっ!」


 スパーン! と、美しい放物線を描きながら、完璧な形の青銀の後頭部へ降り下ろされる・・・ハリセン?!

 この世界には、汎用するには高価ですが紙が存在します。しかしやや繊維質なので、かなり痛いと思われます。胸がすっとしましたけれど。


 そして短髪かつパンツスタイルであることから、男性だと思っていたお連れの方は、そのお声からすると女性のようです。波打つ鳶色の髪は肩につかない長さで切り揃えられ、細く垂れ目がちな蒼の瞳が私を見下みおろしています。

 私より背が高い女性は珍しいですね。しかし困りました。キャラが被っておりますよ。


「申し訳ございません。テトラディル侯爵御令嬢様、ならびに御令息様。この馬鹿にはよく言い聞かせますので、平にご容赦ください」

「おい! おまっぃて?!」


 再び降り下ろされたハリセンを横目に、にっこり笑ってルーカスと共に略式の礼をとります。


「いいえ。ご丁寧にありがとうございます。カーラ・テトラディルと申します。どうぞカーラとお呼びくださいませ」

「ルーカス・テトラディルです。ルーカスとお呼びください」


 彼だと思っていた彼女は、ゼノベルト皇子殿下の護衛兼世話役で、はとこに当たるお方だそうな。


「一度ならず二度までも! ダリア! この大男女め! 少しは加減しろ!」


 殴られたことは、咎めないのですね。

 横からがなりたてられているにもかかわらず慣れているのか、聞こえないという態度のダリア様が、優雅に略式の礼をされました。

 先程、私たちは跪いて礼を行いましたが、それは皇族、王族相手に限ってのことで、学園内では高貴な客人を除き、略式の礼でとどめるようにとされています。


「私はダリア・デルフィナ・バシロサと申します。どうかダリアとお呼びください」


 帝国では族長がモノクロード国でいう公爵位にあたり、彼女のバシロサ家は族長一族であるドゥヴァ家の分家の分家にあたるので、だいたい伯爵位くらいの扱いをすればいいのだそうな。

 ここまで「だそうな」が付いた情報は、私の斜め後ろから囁くクラウド情報でございますよ。


「はい。ダリア様」

「よろしくお願いします。ダリア様」


 穏やかに笑顔を交わしあっていると、ゼノベルト皇子殿下が私たち姉弟とダリア様の間に割って入ってきました。


「この俺を無視するとは、いい度胸だな!」


 ゼノベルト皇子殿下の後ろで、ダリア様がハリセンを構えたのを視界の端にとらえながら、嫌みを吐いてみます。


「そう露骨に悋気をふりまかれずとも、私たち姉弟はダリア様を横取りなどいたしませんよ」

「んな?! は?! ばっ・・・だ、誰がこんな大男女!!」


 おや。あながち大ハズレというわけでもないようですね。

 ゼノベルト皇子殿下が北国の人間らしい透き通るような白い肌を、首まで桃色に染めてあたふたしています。

 思わずにいっと口角を上げると、ゼノベルト皇子殿下が後退りました。


「意図的ではございませんが、ゼノベルト皇子殿下の大切な御方を真似るなど不敬でしたね。明日はちゃんとスカートを・・・」


 そこまで口にしたところで、いつの間にか側にいたヘンリー殿下に肩を叩かれました。言葉を切って、そちらへ向き直ります。

 ヘンリー殿下は真剣な眼差しで告げました。


「それはなし。やめて。」


 その後ろにいたアレクシス様とレオン、私の横にいるルーカスとクラウドまでもが大きく頷きます。

 うん。気持ちは分かりますよ。私だって、他の女生徒たちと同じミニスカをはく気はありません。

 いろいろ考えた結果、ただスカートを長くするだけでは動きづらいので、ストレートな踝丈くるぶしたけで両側に深めのスリットを入れたものを作っておいたのです。

 

「ヘンリー殿下、ご心配なく。くるぶしまであるスカートを用意いたしましたから」

 

 何をする気だというように眉をひそめたヘンリー殿下へ、にっこり笑って見せます。殿下が口を開きかけたタイミングで予鈴が鳴ったため、それぞれの席に着きます。

 そうして絶対に面倒な生徒を集めただろうという、呪わしい教室での1限目が開始しました。

 

 

 

 

 

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