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意思を告げましょう!

 

 あの後、当たり前ですが大騒ぎになり、寮室検査ガサいれが済むまで生徒たちは各々の部屋で待機となりました。

 王族の命が狙われたわけですからね。生徒に限らず、教師、その他職員に至るまで、学園警備によって私室をあらためられるわけです。

 順次、部屋を検査されていく中、もちろん順番は貴族階級の順に行われるわけでございます。侯爵家の子女である私とルーカスが部屋を与えられている別館は、早々に立ち入り検査が終了いたしました。ついでにまた別館まで来る手間を省いたのか、クラウドの部屋も済んでいます。


 夕食には早過ぎる時間に解放されましたが、事件現場で夕食をとるわけにもいきません。そんなわけで今晩は各自の部屋や、寮の談話室で食事をとるよう通達されました。

 そして私はもちろん、殿下とのディナーの約束をなかったことにして、静かに別館で食事をするはずでした。だってイングリッド様抜きで殿下と一緒に食事をする意味などありませんし。

 オニキスに探りを入れてもらったところ、イングリッド様はお部屋で執筆活動に勤しんでおられるそうな。怪我やそれを負った記憶の影響も無く、お元気そうでなによりです。


 しかし問題なのは、殿下のディナーを断って妄想の世界へ旅立っているイングリッド様ではなく、早めの夕食を中断させたにも関わらず全く悪びれもせず、私の前に立っている人物なのでございます。


「来ちゃった」

「・・・」


 肩をすくめつつ顔を傾げるしぐさがものすごく可愛いですが、いつも通り嫌な予感しかしません。

 食堂が使用できないため、昨日のようにクラウドと二人きりではなく、今晩はルーカスも一緒に別館の談話室で夕食。それは当然のことだと思うのです。

 しかし殿下、貴方は命を狙われたご本人ですよね。こんなところにいないで、一人になってしまった護衛と一緒に、ご自分の部屋で大人しくしているべきではないのですか?


「申し訳ない・・・カー・・・カム」


 殿下のやや後ろで所在無げに佇み、私から標準で鋭い目をそらす、アレクシス様。巻き込まれただけのような彼には、同情を込めてできるだけ優しく微笑んでみます。

 そんな、無理に私を愛称呼びしなくてもいいのですよ? それに私と共にするより、自室で食事をされた方が落ち着くのではないですか?

  

「カム。怒んないで?」

「レオン。貴方もですか・・・」

 

 レオンが静かに近づいて来ているのは気付いていましたが、放置していたら私の肩へしなだれかかってきました。そして金の瞳を潤ませながら、上目遣いで私を見てきます。

 私よりほんの少し背が高いレオンがこの姿勢をすると、しがみつかれている腕が重いのですよ。その重い方の手でぎゅっと脇腹をつねってみましたが、全く動じません。

 ルーカスが冷気を感じる笑顔を浮かべながら、ぐりぐりと足を踏んでいるのも無視するのですね。痛くないのですか?

 

「あのね、カム。僕、しばらく殿下の護衛をすることになったんだ。だから・・・カムに呼ばれても駆け付けられなくなっちゃった。ごめんね」 

 

 ほう。それはそれは。朗報ではないですか。

 沈みきっていた気分が浮上しかかった時、殿下が胸を張って言いました。

 

「それについては、私も一緒に駆け付ければいいのだから、問題ないっ!」

「そっか! さすが、殿下!!」

「・・・」


 馬鹿なの? 死ぬの?

 守られるべき王族が自ら危険に身を投じようとか、問題以外の何物でもないでしょうが。

 とは言っても、私がレオンを呼んだのは昨日の入浴時だけですから、危険でもなんでもありませんけれど。だいたい、殿下もレオンも私に勝てたことありませんでしたよね?


 もういいや。

 追い返すのは無理そうなので、諦めて談話室で夕食をご一緒することにします。

 そもそもこの別館は、私の持ち物というわけではありませんし。殿下たちの後ろの方で、遠巻きに私たちのやり取りを見ている給仕たちがいますしね。


「夕食をこちらでご一緒するのはいいのですが、テーブルが足りません。ですからソファで食事してもらうことになります。よろしいですか?」

「構わないよ」


 機嫌よさそうにソファへ腰かけた殿下と、なんとなくほっとした様子のアレクシス様、ルーカスに踏まれていた足を確認しているレオンの前へ、夕食が運ばれてきます。そして、すべてをテーブルへ並べた状態で食事をしていた私たちに習い、殿下たちも給仕たちに同じようにするよう言って下がらせてしまいました。

 その間に給仕たちの手伝いをしながら、さりげなく別室へ、たぶん談話室の向かいにある厨房へ、自分の料理をもっていこうとするクラウドを捕まえます。


「逃がしませんよ」

「・・・」


 目を泳がせるクラウドを元の席へ戻らせ、ルーカスがクラブを迷っている話を聞きながら、なんとなく気まずい食事を終えました。

 

「殿下、先程のお話ですが・・・」


 食器が片付けられたソファの方で、クラウドが入れてくれた紅茶をいただきながら殿下へ視線を向けます。時間を置こうと答えが変わらないのであれば、早めにお伝えしておいた方がいいと思ったのです。


「駄目。そんなすぐにでる答えなんて認めない。しっかり考えてからにして!」


 しかし殿下は手で耳を塞ぎ、私から顔をそむけてしまいました。そのまま頑なにこちらを見ようとしない殿下と、眉間にシワを寄せてそちらを見つめる私を見て、ルーカスが首を傾げます。


「何かあったのですか?」


 殿下はルーカスの方へ視線を向けましたが、口を引き結んで話そうとはしません。どうやら「言いたくない」という事を、態度から察しろと言う意味のようですね。

 しかしここで、空気を読めなかったのか、わざとなのか。レオンが少し機嫌悪そうに言いました。

  

「殿下がね、抜け駆けしたの!」


 おや、レオンさん。まさかあの場にいたにも関わらず、手を貸さず、隠れていたのですか?


「何?」

「どういうことですか?」


 アレクシス様とルーカスが先を促すように、レオンへ顔を向けます。

 レオンがプリプリした感じで、ソファへもたれかかり、腕を組みました。

 

「・・・っ求婚したんだよ! 自分が殺されかけたときに! 信じられる?!」


 私に関することを話せないよう、レオンには制約がかけてあります。ですから「誰に」という事を、発言することができなかったようです。しかし相手は誰なのかすぐに察したらしく、アレクシス様とルーカスが驚いた顔で私を見ました。

 やはりレオンは覗き見ていたようですね。別に手を貸してくれなくても大丈夫でしたが、悪趣味過ぎやしませんか。


「・・・ヘンリー?」

「なに? カムも私も、誰とも婚約していないし、別にかまわないだろう?」


 鋭い視線をふてくされたような顔の殿下へ向けて、咎めるように名を呼ぶ、アレクシス様。

 まあね。王太子派の人間としては、私なんかより大公令嬢であるゲーム主人公と婚姻を結んでいただいた方が、側妃派を牽制するのに効果的ですし。それにそうなれば殿下も次期大公となるのですから、殿下の地位も磐石になります。


 この国では王位に就かなかった王族は、臣籍降下が通例ですからね。

 そんなわけで万が一、殿下が私と結婚した場合、殿下は次期テトラディル侯爵となるわけですよ。嫡子より王族が優遇されるのも通例ですから、ルーカスのテトラディル侯爵への道が閉ざされる事になります。私は誰とも結婚する気がありませんから、ありえませんけれども。


「姉上。そんなお顔をされなくとも、僕が一生不自由をかけさせません。だから無理に婚姻される必要はありませんよ」


 ルーカスがほわーっと笑いながら言いました。かわゆす。

 我が弟ながら男前発言ですね。しかし相手が姉である私というのが空しい・・・。誰とも結婚する気がありませんが、ルーカスとそのお嫁さんの迷惑にならないよう、しっかり自立せねば。

 それにしても、いったい私はどんな顔をしていたのでしょうか?


「はいはいはい! 僕! 僕と結婚したなら、何しても大丈夫だよ! 秘密保持も口止めも任せて!」


 レオンが元気よく右手を挙げました。

 その口止めには「死人に口無し」的な意味が含まれている気がするのですが、気のせいですか?


「レオンの元へ嫁ぐのでは、カ・・・カムが降嫁となってしまうではないか。そ、それなら私との方が釣り合いがとれる」


 私から目をそらしながら、アレクシス様が言いました。そして恐る恐る私をチラ見する彼へ、私は精一杯優しく微笑んでみます。

 侯爵令嬢である私が、レオンと婚姻を結べば伯爵位へ降位してしまうという、私に気をつかった発言ですね。それに対して、アレクシス様であれば、公爵位へ上がるという。

 お気遣い、大変ありがとうございます。誰とも・・・以下略なので、必要ありませんけれど。


「その理屈なら、私でも問題ないだろう?」


 ヘンリー王子がぷくっと頬を膨らませながら言いました。安定の可愛さです。

 何故だかいつの間にか私の進路相談になっていますが、私の心は既に決まっています。ここは行き遅れ確定の姉を心配する弟のルーカスと、私の今後をお気遣いくださったアレクシス様の憂いを絶つためにも、しっかり意思表示をしなければなりませんね。


「私は・・・」

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「・・・」


 せっかく姿勢を正して発言したというのに、殿下に遮られてしまいました。気を取り直して、もう一度口を開きます。


「私」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 またですか。


「わ」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 どうしていちいち叫ばれるのですか?


「・・・」

「駄目。」


 何が駄目なのかわかりませんが。私に発言させる気はないようです。

 あ。そうか。皆の前で断られたくないのか。どうやら殿下のプライドに対する配慮が欠けていたようですね。

 私が諦めた事を察したのか、殿下がにっこり笑いました。


「ねぇ、カム」

「・・・なんですか?」

「ここのお風呂入っていってもいい? カムの後でいいから」


 唐突ですね。しかし別に構いませんので、許可する事にします。


「どうぞ」


 いいな。男子どもは自由で。

 いくら見目麗しくとも男ばかりでは、私の癒しにはなりえません。

 ああ。可愛いお嬢様がたと女子会したい・・・きゃっきゃうふふしながら一緒に入浴したい・・・と、しばらく現実逃避にひたる事にしました。

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