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入学式に参加しましょう!

学園名を修正いたしました。

 

 

 

 

 さて、いよいよゲームの舞台。王立学園ヴァイスセットへ足を踏み入れる時がやってきました。


 長い歴史を感じさせる、石を積んで作られた見上げるほど高い塀と、鉄の門を見上げます。学園名が掲げられた門の上部はアーチ状になっており、意図してからませたかのようにバラの蔦が這い、赤や白、ピンクといった華やかな色合いの花を咲かせていました。

 まあ、ゲームオープニングの一部なのですから、製作者の意図がありありなのですけど。


 門の前で守衛と思われる人に学生証を提示すると、何かの書類を見ながら全身を検分されました。身元確認でしょうか。意外と厳重な警備なことに驚いている間に、さらに手荷物検査をされ、簡単なボディチェックの後に門の中へ足を進めます。


 まっすぐに伸びる石畳の道は、距離があるためにやや白くぼんやりとしている建物へと続いていました。クラウドによると、あの真っ白で体育館位の大きさの建物が、今目指している講堂らしい。

 それに続く右側の、同じく白い3階建ての建物が教育棟で、左側へ続く建物がクラブ棟ですね。これらの裏手に寮や鍛錬場、植物園や馬場があるそうな。


 ここで知力、体力、精神を磨き、女子が目指すのが戦乙女ヴァルキュリア。男子は戦神テュールの称号を得ることを目指します。

 入試の時は他の受験生に悪影響だというので、屋敷に試験官を派遣されて一人寂しく受験。私物の運び入れはクラウドが「お任せください」というので、お願いしてしまいました。ですから私は初めて訪れたことになります。


 学園ヴァイスセットは500年くらい前のモノクロード国建国時。初代モノクロード王、初代ジスティリア大公と共に建国の立役者となった、賢者ジウ・ヴァイスセットによって建てられた教育機関です。

 この賢者、かなりの変わり者だったようで、爵位を与えようとした初代モノクロード王に「領地経営する時間が惜しいから、爵位はいらない。代わりに研究所と研究費くれ」と、のたまったそうな。しかし勝手気ままに魔法研究に没頭する賢者が望むまま、研究費用を国費から出し続けるのは外聞が悪い。よって研究所ではなく教育機関とし、その長に賢者を据えることにした。そうしてこの学園ができたという事です。


 学園の名前・・・ゲームのプロローグ時にしか出てこなくて、後は皆「学園」で通っていましたから、入試時に初めて知りましたよ。つまり知ったのは一年くらい前という事になります。てへっ。


「カーラ様、こちらでございます」


 クラウドが先導し、私、ルーカス、レオンの順に続きます。もうすぐ入学式が始まる時間ですからね。すでに周囲に学生たちの姿はありません。

 ちなみに闇の精霊である私とクラウドの精霊、オニキスとモリオンはそれぞれの影の中に潜んでいます。レオンの精霊トゥバーンは地水火風の複数属性持ちなので、風に溶け込んでいるらしい。ルーカスは精霊と仲が良くても契約はしていませんから、そのままです。

 学園内では実体化禁止と、父にさんざん言われたため、たとえ人には見えずとも他の精霊たちに契約が知れないように姿を隠してもらっています。王侯貴族の子女が通うこの学園の警備は厳重です。精霊たちが活躍するような事態はない・・・と思いたい。


 とりあえず隣国ガンガーラとは、期限付きとはいえ和平条約が締結されましたから、戦争は回避済み。魔王ダラヴナはトゥバーンになってしまいましたし、回避できたと思います。ラスボスはカーラというわけで、何もしなければいいだけ。

 ゲーム主人公に近付かなければ魔物に襲われることもないでしょうし。

 そう。主人公が定期的に魔物に襲われるのは、強制レベリングかと思っていたのですが、オニキスによると主人公の精霊に対する嫌がらせらしいのです。だから彼女に近付かなければ、私たちに害はないと。よかったよかった。

 

 現状の私はヘンリー王子に一目ぼれなんてしていませんから、ヘンリー・モノクロード第三王子のルートに主人公が入っても問題なし。

 誰とも婚約していませんから、アレクシス・トリステン公爵令息のルートでも問題なし。

 弟との姉弟仲は良好だと思われますので、ルーカス・テトラディル侯爵令息のルートも問題なし。

 レオンは・・・だいぶシナリオから反れていますが、私が闇魔法の「魅了」を使って取り巻きを作りさえしなければいいのですから、レオンハルト・ペンタクロム伯爵令息のルートでも全く問題ありません。

 あとは隠しキャラのルートが問題なのですが・・・こればかりはプレイしていないため全くわかりません。


 隠しキャラ以外なら、どのルートでもバッチコーイ!! な状態なのです。


 やった! 私、頑張ったよ!! 頑張ったんだよ・・・うぅ・・・いけない。うれし涙は1年後のゲームスタート時にとっておかなくては!!!

 そう。ゲームは1年後の主人公入学時から、ヘンリー王子殿下たち今の1年生が卒業するまでの2年間が舞台となるのですから。


「こちらになります。カーラ様」


 うきうきと講堂へ足を踏み入れた私。まさに入学式が始まらんとするタイミングだったようで、集まっていた生徒たちが一斉にこちらを向きました。

 静まり返る講堂。いや、初めから静かだったんだよね? とりあえず敵意はないと示すためににっこりと笑ってみました。


「・・・黒髪」


 誰かがぼそりとつぶやきます。

 遠くで聞こえた何かが倒れる音をきっかけに、悲鳴が上がりました。それは私に向けたものだったのか、倒れた人に対するものだったのか。

 阿鼻叫喚を極める講堂に背を向け、私は入学式へ参加することを諦めました。




 講堂を後にし、教育棟へ向かって歩くクラウドの後をついて歩きます。

 ゲームのカーラは闇魔法の「魅了」を使って取り巻きを作り、学園生活に馴染んでいくわけですが・・・入学時は魔法が使えなかったはずですから、今の私と同じ状況を経験したことになります。

 ひとりで。

 そりゃ、皆に愛されてちやほやされるゲーム主人公をひがむわけですよ。

 今の私には、本人より機嫌悪そうに歩く弟と従者、王家から派遣された監視がいますけど。


「みんな酷いよねっ! 誰のおかげで戦争の心配もなく、のうのうと過ごしていられると思っているんだっ!」

 

 プリプリ怒りながらレオンが私の腕に絡みつこうとしてきます。そこへルーカスが後ろから手刀を落として、レオンを私から遠ざけました。


「あの凍り付いた空気・・・実際に凍り付かせてやろうかと思いましたよ」


 レオンと私の間に割って入り、ふふふ・・・と笑い声を漏らすルーカスの目は笑っていません。彼は詠唱なしに魔法が使えないというのに冷気を感じます。邪神降臨かという黒い笑みに、思わずぶるりと身震いをしてしまいました。


「まあまあ。でもよかったではないですか。面白くもない話を長々と聞く必要がなくなったのですから。あの状態で私がいないことをとがめる人は、さすがにいないでしょう?」


 なんで私がフォローしているのだろうと思いつつ、二人を落ち着かせます。ルーカスは私を見てほわーっと笑い、レオンがため息をつきました。


「そうですね」

「まあね」


 納得したらしい二人にほっと胸を撫で下ろすと、先を歩いていたクラウドが振り返りました。


「式の後は教室で履修科目についての説明や学園内の案内の予定ですが、このまま教室へ向かわれますか?」

「そうですね。後から入っていくより、先に待っていた方が、反応がまだ良いような気がします」


 誰も入ってこないかもしれませんけど。

 やさぐれた気持ちで自嘲的な笑みを浮かべたのを、レオンに見られてしまったようです。彼は私の顔を覗き込むようにして笑いました。


「誰も入ってこないってことは無いと思うよ。カムはヘンリー王子と同じクラスだから」

「・・・なぜ知っているのですか?」

「うふふ。企業秘密」


 人差し指を唇に当てて、レオンが妖艶に微笑みます。タイを外し、シャツのボタンも2つ目まで外して、色気を漏らすのはやめなさい。

 警備上なのか、個人情報保護的なものなのか、クラス分けは貼りだされるわけではなく、学生証と共に各個人へ郵送されてきます。実際に教室へ行ってみないと、誰がクラスメイトなのか分からないという事ですね。ちなみに今一緒にいる4人、私、ルーカス、レオン、クラウドは同じクラスです。

 普通、姉弟を同じクラスにはしないと思いますが・・・まあ、私と同じクラスでも正気を保てる人間はそう多くはなさそうですからね。わざと怖がらせて、他者を遠ざけてきたツケがここにも・・・って。

 はっ! ヘンリー殿下が一緒という事は、まさか・・・!!!


「レオン、まさか・・・アレクシス様も?」

「うん。一緒」


 な・・・なぜですか? なんで攻略対象たちが、そろって私と同じクラスなのですか?!

 ちょっと眩暈めまいがしてふらついた私を、ルーカスが支えてくれました。


「大丈夫ですか?! 姉上、救護室へ行きましょう」

「いいえ・・・いえ、そうね。そうするわ。」


 大丈夫と言いかけてやめました。先延ばしにしたところで、何にもならないことは分かっていますが、今日1日くらいさぼってもいいと思うのです。


「ルーカス、お願いできますか?」

「はい。姉上!」


 私より2つ年下だというのに、ルーカスは私よりやや低いだけで同じくらいの身長があります。そしてゲームでの根暗もやしと同一人物とは思えないほど、健康的に成長しました。

 ひょいっと簡単に私を横抱きにして、何の負荷もないような足取りで教育棟へ向かっていきます。


「ルーカス様、場所は・・・」

「大丈夫。わかっているよ」


 代わろうとするクラウドに笑顔で返し、ルーカスは迷いなく歩きます。私は逞しく育った弟の首に腕を回してしがみ付き、その肩越しにクラウドとレオンへ言いました。


「二人は教室へ向かいなさい。後で私に内容を説明してくださいね」

「承知いたしました」

「・・・わかったよ」


 クラウドは右手を胸に略式の礼をします。レオンは不満げに口を尖らせました。


 その後、救護室にいた若い女性の治癒術師に「なんて耽美な!」とか言われた挙句、気絶されるというハプニングもありましたが、私をベッドへ寝かせた後、教室へ向かったルーカスが上手くやってくれたようで、私のさぼりが問題になることはありませんでした。



 


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