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主従契約を結びましょう!

 侍女長と、従者頭が来る前に、聞いておかなければならないことがあります。


「お名前を聞いていませんでしたね」


 そう。私は名乗りましたが、彼らの名はまだ聞いていませんでした。こちらの情報を与える前に帰そうと思っていましたからね。

 兄妹は膝をついたまま、兄の方が答えます。


「私たちに名はありません」


 え。なにそれ。不便ではないのでしょうか。


「普段はお互いになんと呼んでいるのですか?」


 訊ねると、兄妹は互いに顔を見合わせました。


「兄さん」

「妹」


 そうですよね。ごめんなさい。質問の仕方を間違えました。


「村ではなんと?」


 質問を変えると、兄がこちらに視線を戻して答えました。


「親の名の後に何番目の子と呼ばれます」


 えっと・・・太郎のとこの一番目という感じでしょうか。なんというか、アバウトな村ですね。私の困惑に気づいたのか、妹の方が説明してくれます。


「私たちの村は、外で働いた者が送ってくれるお金と、畑で育てた食糧で生活しています。外で働いていた者は子ができると村へ帰って産み、また働きに出ます。子供は働けない者がみるのです。そして怪我や歳をとって働けなくなると村へ帰り、子供たちの面倒を見ます」


 すごい。町ぐるみで出稼ぎを支援しているのですね。でも名前がないのは何故なんでしょう?


「そして里に居着かないようにと、忠誠を誓った主に名をいただくのが慣わしです」


 えぇー。また名付けですか。オニキスのときは閃きましたが、一度に二人となると・・・。


「数日、時間をいただくのは」

「いいえ。余計な時間をいただかないよう、その場で名付けるのが決まりです」


 でしたら、名付けの慣わしなんて作らないでくださいよ。期待を込めてこちらを見上げる二人の視線。プレッシャーを感じます。


「ええと・・・」


 こうなったら、またもや色から連想しましょう。

 兄の髪は鈍色です。ネズミ・・・はダメ。雨雲・・・、雲、クラウド? よし。とりあえず候補!

 妹の髪は赤みがかった桃色。桃・・・ピーチ? いやいや、なんかよく拐われそう。それにどちらかというと、さくらんぼの色に近いです。チェリー・・・は、私が違う意味を連想してしまうし。語尾を伸ばさずチェリとかどうかな。

 一度、お伺いをたててみましょう!


「ではお兄さんがクラウド。妹さんがチェリはいかがですか?」

「了解いたしました」


 あっさり具合に私が焦ります。


「文句があれば、気にせず言ってください」

「いえ。ございません」


 兄妹が頭を垂れました。よし! もう悩まない! 本人たちがいいというのだから、私の義務は完了したとみなします。

 ほっとしたらなんだか眠くなってきました。私はまだ3歳児ですからね。お昼寝が必要なお年頃なのです。


―コンコン―


 ナイスタイミングですね。

 返事をすると、元私付きになる予定の侍女と侍女長、従者頭が部屋に入ってきました。3人とも顔が青いです。3歳児がずっと部屋に一人でいたはずなのに、いつのまにか見知らぬ2人の人間が増えているのですから、当たり前ですよね。

 でも説明はしません。説明したところでさらに怖れられるだけなのですから、このまま怖れられたほうが面倒が減ります。

 

「侍女長、従者頭、私の侍女と侍従を見つけてきました」


 大の大人3人がびくつきます。私はできるだけ不気味に見えるよう口角を上げました。


「私は少し休みます。あとはよろしくお願いします」


 拒否権はないと態度で示すように、踵を返して寝室へ向かいます。扉を開ける音にはっとした侍女が、着替えをさせるために寝室へついてきました。

 あぁ、眠たいです。肌色から異国の人間だからとか、連れてきた方法だとか、問題はいくつかあります。しかし今日のことで、さらに私に仕えたいというものはいなくなるでしょう。ですから、彼らが何とかするしかないのです。私が自分で両親を説得するの面倒ですし。だって3歳児ですよ? 最悪、認識阻害をかけて異常を異常と思わないようにしてしまいましょう。そうしましょう。

 やや機嫌がよさそうな侍女に促されるまま、私はベッドに入りました。




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