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学園へ向かいましょう!



「ルーカス。それにレオン。王都まで一緒だったのは、まあ、わかるとして・・・なぜ、二人とも制服を着ているのですか?」


 入学準備の為、入学式から10日前に私は王都入りしました。

 普通はもっと早くというか、社交シーズンからの延長で王都にいるのですが、私は・・・ほら、居るだけで皆さまに緊張を強いてしまいますからね。検閲の後に私物を持ち込める最終期限の直前までテトラディル領で過ごしました。

 そしていよいよ入学式へ向かおうという朝、王都のテトラディル侯爵邸玄関で、ばっちり学園の制服を着た二人に出くわした・・・というか、二人が私を待っていたのです。


「あれ? 言ってなかったっけ?」


 レオンが首を傾げます。そして黒っぽい紫・・・滅紫めっしというらしい色の髪を、整えるように撫で付けました。

 深紅だった時のように束ねてしまうと黒髪に見えてしまうので、緩いくせ毛とふわっとした髪質を生かし、光に透けてちゃんと紫に見えるよう、アシンメトリーのショート? マッシュっていうのかな? にさせたのです。まだ慣れないようで、よく髪を気にして触るようになりました。


「何がですか?」

「僕らもカムと一緒に入学すること」


 今度は私が首を傾げます。弟のルーカスは満足そうにほわーっと笑いました。どうやら私を驚かせようと、秘密にしていたようですね。

 ルーカスが私をエスコートするように右手を差し出すと、彼の胸のあたりまである癖のないまっすぐな藍色の髪が、制服の上をさらさらと滑っていきました。

 男子の制服は普通のブレザーの様な感じです。もちろんその生地は上等で、襟元や袖に金糸で華美でない程度の刺繍が施されていますが。そして首はネクタイではなく、白いアスコットタイが巻かれています。

 ズボンは女子と一緒でタータンチェック柄なのですが、女子がグレーと黒、細いピンクのライン対し、男子は細い水色のラインが入っています。

 ちなみに濃紺の上着の胸に刺繍されている、男女共通の鳥の翼を模したエンブレムは学年ごとに色が変わります。


 一年生は白。

 二年生は黄。

 三年生は金糸で縁取りされた緑。


 毎年、制服を仕立て直せということでしょうか。

 差し出されたルーカスの手に私の手を重ねると、玄関前に横付けされていた馬車へと連れていかれました。


「姉上。学園に年齢制限が無いことはご存知ですか?」

「えぇ。だからこそクラウドを連れていけますからね。それは知っています」


 父に「お前にしか制御できない危険物を置いていくな」と言われ、太っ腹な父がクラウドの学費も払ってくれる事になりました。正直、どうしようかと思っていましたので、渡りに船ですね。父は個人的に運送業を営んでおりまして、カーライル村の保存が利く特産物をほぼ独占的に輸送しているおかげでウハウハらしい。


 実は、ドライフルーツの種類を増やしてそれを使ったパウンドケーキが食べたい!

 という事で捜索した結果、薬のような味のするパパイヤもどきをカーライル村の住民が見つけたので、もちろん改良して栽培。隣国ガンガーラで普通に食べられていたパイナップルに気付き、王弟殿下にお願いをして苗を貰って、これも栽培。国内モノクロードの他地域で普通に栽培されていたブドウは、乾燥には強いものの高温には弱かったので、品種改良をして栽培。

 全部ドライフルーツにして、子供たちのおやつにとパンを配っていたパン屋のご主人を捕まえて、練りこんだパンを焼いてくれるように依頼。

 結果、売れました。パンも、ドライフルーツも。


 そんなわけで私のポケットマネーでも学費は余裕で出せるのですが、出してくれるというのならと、遠慮なく脛をかじることにしたのです。

 クラウドは嬉しそうにしながらも始めは辞退していましたが、「ここにいても仕事はないぞ」という父の言葉と、「残って面倒が起こるのは御免だ」という有無を言わせない圧力に屈し、援助を受けることとなりました。


 で、私が学園生活を送っている間のチェリはというと・・・妊活しております。お相手はもちろん、ドード君です。良かったね、ドード君。5年越しの想いが叶って。

 チェリによると結婚の決め手は、カーライルに対する価値観がドンピシャだからなのだそうだ。おのれ、信者どもめ。子供たちにも吹き込まないように見張らねば。


 いつも通り入学式にギリギリ間に合うくらいの時間ですので、ルーカスに促されるまま、馬車へ乗り込みます。私の後から当然のように弟のルーカスと、レオンも乗って来ました。クラウドは御者と共に御者席へ座ります。


「行ってまいります」

「・・・くれぐれも大人しくしているように!」

「はい。お父様。お母様」


 学園で過ごすにあたってのお小言は昨夜までに、散々聞きました。ですから見送りに出てきた両親に馬車の窓から手を振っただけで、別れの挨拶は終了。馬車が学園へ向かって走り出しました。


「それで? 15歳に満たない貴方たちが、なぜ入学できるのですか?」


 私の隣に満面の笑みで座っているルーカスに問いかけると、弟はさらに笑みを深めて答えます。


「学園入学には年齢制限がありません。ですから教養、金銭等の要件が満たせれば、15歳に満たなくても入学できるのです。皆が15歳から通うのは、魔法学講座の受講条件に「分別がつく15歳以上」となっているからですよ」

「そうそう。だから魔法を習う必要がない僕らは、15歳まで待たなくてもいいんだ!」


 なん・・・だと?

 そんな抜け道もあったなんて。知っていたらヘンリー王子殿下とか、ゲーム主人公たちと絶対に被らない年齢のうちに卒業してやったのに!!

 茫然と向かいに座るレオンを見つめていると、頬を朱く染めながら目を逸らされました。そういえばいつもだったら私の隣に座る、座らないでルーカスともめるのですが、今日はあっさりと向かいに座りましたね。レオンはもじもじしながら目線を漂わせています。


「・・・ねえ、カム。・・・あの、さ」


 言いにくそうにしながら、時折、私の絶対領域へ視線を向けてきます。

 なるほど。レオンが私の制服姿を見るのは初めてでしたね。私だってこのパンチラしそうな長さのスカートなんて履きたくありません。可愛い女の子が可愛い服を着ているのは大好物ですが、自分が着たところで何の旨味もありませんからね。


「女子の制服のスカートなんだけど・・・実は柄以外に指定がないって知ってた? つまり素材や長さ、形に規定がないんだよ。過去の事例から、暗黙の了解でみんなその長さにしてるだけなの」

「・・・初耳です」


 そうです。脚フェチの王族を誘惑する為に短くなっていったという制服のスカート。短くすることが校則に触れないのですから、レオンの言うような可能性があることに気付くべきでした!! 

 ルーカスも驚いていますから、知らなかったのは私だけではないようです。

 よし。まだ学園に到着するまでには時間がありますね。とっとと、この犯罪的な長さのスカートとおさらば致しましょう!


「姉上?」


 何をするのかというようなルーカスの視線を横から浴びながら、今履いているスカートと同じ柄のボトムを植物魔法で作成します。そして出来上がったそれを手に「なんちゃらパワー以下略!」と心の中で唱えて、着替えを完了させました。

 何か言いたげなレオンを無視して、脱いだスカートを影の異空間収納へ放り込み、無造作に流していた髪を後ろの低い位置で一つに括ります。存在を主張するお胸たちは「なんちゃら以下略!」を応用して、ややつぶしてさらしを巻き、平均的な高さへ修正しました。


「お似合いです。姉上」

「うーん。さっきのはさ、ちょっと・・・いや、だいぶ刺激的だったけど・・・それよりは好きだったな。僕は。」


 明らかにほっとした様子のルーカスと、残念そうなレオン。私はルーカスにだけ微笑みかけました。


「ありがとう。ルーカス」


 どうですか? 超校則斜め上解釈、よそうGUYがいは?!

 まぁ、ズボンを履いただけただけとも言いますけど。

 そう。男どもを魅了する必要などないのですから、男装の麗人方面へシフトチェンジすることにしました。カーラはきつめの目に、自分で言うのもなんですが整った顔、やや長身ですから、男装もいけると思っていたのですよ。


「うん。でもこれで僕も遠慮なく抱き着けるよ!」


 がばっと抱き着こうとするレオンを足蹴にします。ズボンって中身が見えてしまわないか、気する必要がなくていいですよね!

 這いつくばったレオンを足置きにして、長い脚を組みました。あ。これ、悪役令嬢っぽいですよね! 男装しているので、令嬢感が薄いですけど。


「・・・これはこれでいいかもしれない・・・」


 新たな扉を開けようとするレオンに鳥肌が立って足を退けると、私の影の中でオニキスがため息をついた気配がしました。

 











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