表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/154

ありのままを見せましょう!

 

 

 

 

 レオンの剣には先ほどこっそり「切りたいものが抵抗なく切れる」の状態異常を付与しましたので、難なくダラヴナの頭に大剣の柄まで深く刺さりました。巨大スイカの蔓に簀巻きにされているダラヴナは、抵抗らしい抵抗もできず徐々に弱っていき、そして小さくなっていきます。


「さすがカーラ様。一目で奴の弱点を見抜かれるとは。惚れなおしました」


 危険は去ったと判断したらしいケララが、私を振り返ります。そのうっとりとした表情に思わず身を引くと、クラウドが間に入ってくれました。茜色の瞳で睨みつけ、無言でケララを威圧します。

 ちなみにこのケララ、情報収集が専門らしく、戦闘力は一般人よりましな程度しかありません。それでも私より前に出て、盾になろうとしてくれたのですから礼の一つでも言うべきなのでしょうけど・・・言ったが最後、私に何かダメージが来そうなので言いたくない。


「テトラディル侯爵がこちらに向かっておいでですね。私はこれで失礼いたします」

「え、ええ。あの・・・ありがとうございました」


 平伏するケララにちゃんと礼を言うと、目に涙を溜めて恍惚と見上げてきました。


「あぁ・・・光栄にございます、カーラ様。愛する貴女様のためでしたら何度だって、何にだってこの体を差し出せます。何時でもお申し付けください」


 ほら! やっぱり鳥肌が立ちましたよ!

 思わず自分を掻き抱いた私に、ケララはもう一度頭を下げてから去っていきます。

 彼の言う通り、エンディアの領軍と思わしき人たち20人ほどを引き連れた父が、こちらへ向かってきていました。遠目でもダラヴナを倒したことがわかるのでしょう。走ってはいませんが、土煙が立つ程度の速さで歩いて来ます。


「僕、ケララ嫌い。だってカムの事、ねっとりした感じで見るんだもん」


 大剣に付着したダラヴナの体液を布で拭きながら、レオンが心底嫌そうな目でケララを見送っていました。そして綺麗になった大剣を背負うと、私の腕に自分のそれを絡みつけて、しなだれかかってきます。

 いつの間に着崩したのか、軍服の前を開けており、はだけた胸元から色気を垂れ流していました。14歳のレオンは私とそう身長が変わりません。私の肩に頭を乗せて、上目遣い気味に私を見上げてきます。


「・・・貴方も大概ですよ」

「えー。僕はカムが好きだって気持ちを、素直に表現してるだけだよ」

「はいはい。どうも。」


 いつもの軽口に対応しながら、しがみつかれている方の指先でそっと大剣に触れて、付与してあった状態異常を解除しました。

 そして自由な方の手で、色が変わってしまったレオンの髪に触れます。癖のある髪は思ったより柔らかく、一戦交えた後だというのに絡まりもなく指を通していきました。

 嬉しそうにすり寄ってくるレオンのプラチナブロンドを一総ひとふさつまみ、彼にも見えるよう前へ持ってきます。


「髪色が変わりましたね」

「うん。これってやっぱり、そういうことだよね」


 つまりレオンの精霊、レグルスが消滅したということなのだと思います。ちらりと私の足へ張り付いているオニキスを見れば、彼は深く頷きました。正解のようですね。


「レグルスには申し訳ないけど、少しほっとした。もうあの嘆きを聞かなくて済むんだって」


 金の瞳を、こちらも髪と同じ色に変化した睫毛で陰らせて、レオンが苦しそうに言いました。

 確かに「死にたい」とか「殺せ」とか毎日言われては、気が滅入りますよね。ペンダントへ封じてからは無かったはずですが、勝手に私が付与した眠りを解いてしまったくらいなので、定かではありません。

 慰めるように優しく頭を撫でると、私の脇の下に腕を回して前からぎゅっと抱き着いてきました。


「カム、大好き」

「・・・その、どこでも抱き着く癖は学園入学前に直しなさい」

「わかった。人目がないところでするね」


 二人きりの時だけというのは、それはそれで問題なような気がしますが、相手と合意の上ならば大丈夫でしょう。


「ちゃんと相手の了承を得てからにするんですよ」

「うん。りょーかい!」


 レオンは私から離れると、軍服のボタンを上まで止め直しました。そして私の斜め後ろへ下がって跪きます。私をはさんで反対側の斜め後ろには、すでにクラウドが跪いていました。

 私も跪こうか迷いましたが、右手を胸に頭を下げる略式の礼にとどめます。地面へ向いている私の視界に、父の足先が入りました。・・・近い?


「カーラ・・・」


 渋面の父にがしっと肩を掴まれます。そして頭を上げた私の前面をざっと見ると、くるっと後ろを向かされました。怪我をしていないか確かめているようですね。


「お父様、私は何ともありません」

「怪我はないのか」

「はい」


 レオンには打ち身がありますけどね。髪に触れた時に確認しましたが、私が治すほどでもないようなので放置しています。

 私の返事にほっと息をついた、父。その後ろで、父が連れてきた討伐メンバー3人がダラヴナだったものを確認しています。

 2人足りない。と、考えた所で理由に思い当たりました。


「お父様。もう隠し事は無しにいたします。重傷者の元へ私を連れて行ってください」

「・・・わかった」


 ケララが「ダラヴナは襲ってこない」と言っていましたが、レオンのように反撃されたものはいるはずです。

 私に何ができるのか思い当たったのでしょう。父が渋い顔で頷きました。


「リオ、アルティガス。ここは任せた。スールはついてこい」

「はい。侯爵様」


 討伐メンバー2人が略式の礼をします。それに背を向け、スールと呼ばれた青年と共に父は歩き出しました。

 父を連れて転移で飛ぼうかとも思いましたが、ここは人目が多すぎます。大人しく歩いて付いて行くことにしました。途中、スイカの蔓を解体している領軍の人たちの横を通ります。


「あっ・・・」


 象ほどの巨大なスイカが割られるのが目に入って、つい声が出てしまいました。

 あれ。美味しいのかな。


『カーラ。大きくはしたが、味は保証しない。諦めよ』


 オニキスはふんすと息を吐いて、父の方を鼻で示します。父が早く来なさいと言うように、こちらを見ていました。慌てて父の横まで走り寄ります。


「今なら怒らないから、正直に答えなさい」


 歩きながらそう言う父は無表情で、今にも怒り出しそうに眼が据わっていて恐ろしい。でも逆らうのも恐ろしいので、こくりと頷いておきます。

 なんかカーライルの時にドナドナされたのを思い出しますね。あの時の父も怖かったな。


「ガンガーラが探していた「黎明の女神」はお前だな? あぁ、今は「黒」だったか」

「・・・・・・・・・然様さようでございます」


 焦って変な言葉遣いになってしまいました。

 斜め後ろで笑いをかみ殺しているレオンを睨みつけると、彼はぶんぶんと勢いよく首を横に振ります。話せないように口止めの状態異常が付与してありますから、彼が告げ口できるはずはありません。そもそもガンガーラの王宮へはクラウドしか同行させていませんし。

 と、いう事は父の推測でしょうか。父は無表情のまま、私に話し出しました。


「不思議なことに細かい容姿は皆覚えていないのに、「黒髪の女性」で「セバス族の従者」を連れているという証言は一致していた。そもそも「黒髪」という時点で、カーラが一番怪しいのだよ。しかも「カーラ」と名乗っていただろう? 別人がお前の名をかたっているのかとも思っていたが、先ほどの移動手段を知って確信した。あれができれば、短時間でガンガーラとモノクロードを行き来することが可能だからな」


 国外だからと、実名で好き勝手したことが間違いだったようです。

 気温のせいだけではない汗が、背中を伝い始めた私に、無表情の父はさらに続けました。


「先日、和平交渉にみえたニルギリ・ピーラ・ザバルダスト・カーリチャイ殿下に「貴公のご息女は息災そくさいか?」と、直接尋ねられて驚いたぞ。しかもカーラのことを「黒」と呼びかけてから言い直された。あぁ、殿下はガンガーラ王の弟君で・・・・・・。知っているどころか、お会いしたことがあるのだろう? カーラ」

「・・・はい」


 ケララ・・・私の正体を王弟殿下にチクりましたね? まったく、いつ気付いたんだか。「愛してる」とか言いながら王弟殿下を優先するのですから、油断も隙もありゃしない。

 それに何してくれてるんですか、王弟殿下! 今度、王子様方にアレルギーやら何やらが見つかっても治してあげませんよ!!

 体の横でこぶしを握りしめて怒りを耐えていると、それまで無表情だった父が苦々しい顔になりました。


「そうまでして戦争を回避したかったのか」

「・・・ええ。まあ、そうです」


 そう。そうでした。マンゴー畑を守るためとはいえ、戦争を回避したかったのは確かなので肯定します。別に悪いことではありませんし。

 その過程でガンガーラの王弟に弱味を握られて、ガンガーラ王に会って病を治し、精霊と契約させただけです。さらに最近、ガンガーラ王と似た症状が出始めた王子様方の状態異常を解除しましたけど、大したことではありませんわ。おほほほ・・・ほほ・・・・・・はぁ。


「私に黙っていることはもうないか?」


 勝手に脳内で開き直っていると、父が眉間にしわを寄せて聞いてきました。この際なので、私が「黒」と認めることで、芋づる式にバレそうなことも話しておきましょう。


「カーライルと面識があります」

「なっ?!」


 正確には本人ですけど、正直に話したところで信じられないでしょうから、公式的な事実の方を伝えることにしました。

 ここまで歩きながらだった父が立ち止まります。金魚のようにパクパクしている父へ、さらに追い打ちをかけました。


「ついでに彼の後継者扱いを受けています」

「は?!」


 そう言って、カーライル村へと視線を向けます。父は私の視線を追ってそちらへ向くと、すでに森かという規模になっているマンゴー農場や、その他施設を遠い目で見ながら、低い声で言いました。


「・・・カーラ。いつから外を出歩いているんだ?」

「えっと・・・5歳・・・でしたかね」


 視界の端のクラウドが微かに首を振りました。違う? 3歳だったかな? まあいいや。大差ないですし。

 父は両手で顔を覆って、ひとつ深呼吸をしてからゆっくり手を下ろします。そして真剣な顔で私の頭に手を置きました。


「次から、行動する前に相談しなさい」

「・・・はい。お父様」


 私の返事に満足したのか、再び歩き出します。大股気味に歩く父の後を、私は小走りで付いて行きました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ