表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/154

悪魔のいる日常に慣れましょう!

 朝、いつも通りパチリと目が覚めましたが、寝覚めがいいとは言えません。何故なら今日は、金茶の悪魔が来る日だからです。

 殿下とアレクシス様は案の定、私の午後の鍛練に参加するようになりました。頻度は2、3日に1回。おみえになった日に、次の約束を取り付けてお帰りになりますので、ノーアポでは無くなりましたが。

 私はベッドに仰向けになり、両手を天井に向けて挙げました。


「オニキス。今日も頑張れるように、ぎゅってして」

『・・・あぁ』


 とは言ってもオニキスはオオカミ犬の姿なので、寝転んだままの私に上半身だけ乗っかってくれるのを、私が一方的に抱き締めるだけですけど。

 オニキスが私の両肩に前足を置いて、私の上に体を伏せました。彼に乗られても、重みは感じません。その首元に腕を回して抱き締めました。ぎゅうぎゅうと締め付けつつ、頬をすり寄せます。


「癒される」

『気が進まないなら、逃げるか?』

「いいえ。後が面倒なので、予定通り付き合います」


 抱き締めたままオニキスの目元にキスをし、それから腕の拘束を解きます。少し体を起こして、オニキスもまた、私の目元にキスをくれました。

 目覚めの行事が終わったので起き上がろうとしましたが、オニキスがどいてくれません。


「オニキス、どいてください」

『嫌だ』


 重みは感じないのに、起き上がれません。オニキスがどうやっているのか、いつも不思議に思います。

 乗っかったままのオニキスは、再び私の上に伏せると、私の首元に頭を埋めてくんかくんかし始めました。鼻息がくすぐったいです。


「何をしているのですか?」

『葛藤』

 

 意味がわかりません。

 首元に鼻息を感じながら、何となく逆立っている気がするオニキスの背を撫でました。最近はこうなると、オニキスの気が済むまで解放してもらえないので、大人しくそれを待ちます。

 オニキスも王子が来るのがストレスなのでしょうか? まさか精霊たちに、嫌味を言われたりしている?


「大丈夫ですか?」

『カーラが心配しているようなことはない』


 ふんふん言っていたオニキスの口が、かぱっと開いた気配がしたので、すかさず釘を刺します。


「耳と首を舐めたらお仕置きしますよ」


 オニキスは犬をコピーしているようだからと思って好きにさせていましたが、私の反応を楽しんでいる時がある気がするのです。特に、私が弱いらしい、耳と首を舐める時とか。


『・・・何をする気だ?』


 オニキスが嫌がることって、何でしょうか。添い寝禁止は私の安眠の妨げになってしまいますから、なしの方向で。


「そうですね・・・クラウドに聞いてみましょうか」

『なぜそこでクラウドがでてくる?』

「なんとなく? オニキスが嫌がることを知っている気がします」

『・・・』


 どうやら思い当たることがあるようで、黙り込んだオニキスがぐいぐいと頭を押し付けてきました。


『苦しい・・・』


 いやいや。どうみても、オニキスに頭を押し付けられている私の方が苦しいでしょう?


「よしよし。大好きよ、オニキス。後で悩みを聞きますから、とりあえずどいてください」

『何故だ?! 上手くいっていた筈なのに!』


 やはり、何か不満があるようですね。耳元で嘆くオニキスの背を撫で続けます。しばらくそうしていましたが、オニキスの毛がしっかり逆立ったかと思ったとたんに、彼が起き上がりました。


『わた・・・我は、我は・・・お前を』


―コンコン―


「おはようございます。カーラ様」

「おはよう、チェリ」


 チェリにしては珍しく、ノックの後、返事を待たずに扉を開けました。いつも通り、洗顔用のたらいを持って入ってきます。

 その姿を睨みつけながら、オニキスが私の上から降りました。

 自由になったので私はベッドから降りて、朝の鍛錬へ向かうために着替えを始めます。オニキスとは後で話し合う必要がありますね。


『チェリ』

「珍しいですね。オニキス様が私に話しかけられるなんて。なんでしょうか?」


 私が脱いだ夜着を軽くたたみながら、チェリがあたりを見回しました。オニキスは姿を見せてはいないようですね。


『何故、邪魔をした?』

「申し訳ございませんでした。いえ、あちらに控えている兄の顔が恐いとか、そんなことではありません」


 おぉ。クラウドが待ちくたびれているようです。身支度を整える手を早めると、オニキスがふんすと鼻を鳴らしました。もう聞こえないようで、チェリは反応しません。


『そんなもの、カーラが笑いかけてやるだけで、瞬時に回復するだろう』

「待たされたのに、笑っただけで許してくれるわけないでしょう?」


 準備の最後に軽く髪をまとめていると、オニキスが足元にやってきて、こちらを見上げました。


『ならば軽く触れつつ、上目遣いで名を呼んでみればいい。クラウドが蹲ったら私の勝ちだ』

「何の勝負ですか。私が勝ったら、何かくれるのですか?」


 準備を終えてオニキスを見下ろします。オニキスは少し考えてから、答えました。


『今後一切、耳と首は舐めない』

「オニキスが勝ったら?」

『キ・・・』

「き?」

『・・・考えておく』


 視線を逸らされました。では交渉が済んだところで、勝負とやらをしてみましょう。


「おはようございます。カーラ様」

『おはようございますっす』

「おはよう。クラウド。モリオン」


 朝の挨拶をしながら、クラウドに近づきます。まずは軽く触れるんでしたね。


「待たせてごめんなさい」


 握手する感じでクラウドの右手にそっと触れると、彼は体を強張らせました。そのまま上目遣いで彼を見ます。


「クラウド」


 クラウドは私が触れていない方の左手で、鼻と口を覆いました。同時に右手に力が入り、私の手が少し痛い程度に握られます。しかしクラウドは蹲りませんでした。

 上を向いて何度か深呼吸した後、クラウドは勝ち誇った笑みを浮かべ、オニキスを見ます。


「カーラ様の勝ちです」

『お前、聞いていたな?』


 笑みを浮かべたまま、クラウドは得意げにオニキスに言い返しました。 


「聞こえただけです。主に異変がないか注意を払うのは、従者として当然でしょう?」

屁理屈へりくつを! ・・・いつまでカーラの手を握っている?!』


 今にも嚙み付かんばかりのオニキスを、私も勝ち誇った笑みで見下ろします。


「約束は守っていただきますよ。さあ、行きましょう。クラウド」


 がっくりとうなだれる、オニキス。それを横目に、握られたままの手を引いて、クラウドと廊下に続く扉へ向かいました。

 


 






年内はここまでにすると思います


皆さまよいお年を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ