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残滓の底

閑話です

 いつ自分が生まれたのか、いつから存在していたのかはわからない。いつからか、様々な「色彩」にあふれた世界に在り、またその「色彩」たちから蔑まれていた。


 残滓ざんし、と。


 この世界は色であふれている。なかでも数が多く、幅を利かせているのが赤、青、黄、緑、茶だ。色の濃淡はあれど、この五色がほとんどをしめている。なにものでもない真白もいたが、根源より先にある彼らは神に近いものとされていた。そして五色も真白も混ざりものを蔑んだ。

 この世界の根源にある始まりの五色。根源から流れ落ちる過程でほとんどの者がその自我を確立し、個となる。それになれず、途中で混ざってしまったのが、なりそこないの混ざりもの。そして最後に残り溜まってしまった、残滓・・・黒。


 好きで溜まったわけではない。自身ではどうにもならないところを責められる。心無い言葉を投げかけられ、存在さえ否定されて、世界の底でただただ終わりを待っていた。

 無駄に多く長く溜まっていた黒だったのか、終わりの時はいつとも知れず、たまにやってきては汚い言葉を吐き捨てていく五色を眺める日々が続いた。


 どれほどの時を過ごしただろう。

 ある日、ふとこの世界に隣り合う、異なる世界の存在を感じた。妙に気になったので、定位置となった世界の底を離れ、五色たちの話に耳をそばだてた。どうやらここと同じ「色彩」の世界らしい。そしてそこで「命」なるものに寄り添い、その「命」の終わりまで付き合えば、自身の終わりを延ばすことができるらしい。


 終わりを延ばすことに興味はない。ただ、ここではないどこかに興味を惹かれた。


 早速、気配をたどる。なるほど、「色彩」とは異なる「命」なるものを感じた。すでに「色彩」が寄り添うものもいれば、そうでないものもいた。そうでないもののなかでも、存在が大きいものにはなぜか真白の気配がした。寄り添っていなくても。目をつけてるということか。

 「色彩」の感じない、真白の気配も感じない、小さな「命」を探した。


 いた。小さな、何色でもないもの。


 最初にみつけた「命」に寄り添うこととする。どうせここにいても苦痛が続くのだ。

 ここではない、この「命」とともにある世界に、ここにはない何かがあるかもと、ずっと沈んでいた心が僅かに弾んだ。





 そこは「色彩」と「命」なるものたちの世界だった。

 そしてここでも、他の「色彩」たちは、さらに「命」たちまでも、黒を蔑んだ。


 いや、正しくは「命」たちは黒を怖れていた。


 苦痛がつづくことに落胆を覚えていたある日、寄り添っていた「命」が私に言葉を返した。


「うーぁいー」


 驚いた。私の声は聞こえていないと思っていたから。それでも悪意を持つ「命」の存在を、警告のために伝えていた。

 しかし初めてかわす言葉が、うるさいとは。寄り添う「命」にまでも蔑まれるのかと思ったが、なぜか名をくれるという。


 名は契約だ。私たちの声が聞こえるものは稀で、さらに姿が見えるものはほぼいない。だから契約するものも稀だ。それに契約をすると、元の世界へ帰れなくなるらしい。「命」と終わりを共にするのだ。

 望むところである。


 契約後の世界は・・・なんというか言葉に表せなかった。以前よりも色にあふれた世界!

 「命」や「色彩」でない物にも色がついている。以前は存在を感じなかった物まで見え、形がある。そして触れられる。

 契約によって得た身体が、歓喜に震えた。


 主は・・・いや、主と呼ぶことを嫌い、相棒として対等に扱ってくれるカーラは、私と同じ黒を纏う幼女だった。力どころか、意識も共有しているのか、彼女の持つ知識が流れ込んできている。

 違うな。私が望んで覗いているのか。いけないと、なんとなく思うものの、彼女を知りたいと望んでいるせいか止まらない。

 知りたい。守りたい。そばにいたい。笑って欲しい。触れて欲しい。


 愛して欲しい。


 初めての感情に驚き、戦いた。

 なんて心地よくて、そして切ないのだろう。胸の表層に眩いばかりの喜びと、奥底にほの暗い欲望を感じる。


 愛しているよ、カーラ。

 すでに私の身も力も心も、すべてお前の物だ。願わくば、お前のすべてを手に入れられますように。

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