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土壌を改良しましょう!

 


 

 

 ドード君の言った通り、砂漠に隣接する町には軍の人間が多く滞在していました。王弟はこのあたりの領主の館に厄介になっている様子。年単位で居座られて、領主もさぞかし迷惑していることでしょう。

 さすがに軍の人間に黒髪の私を見られたくなかったので、次の領主が治める領土まで、別行動にしました。とはいっても、テトラディル領都の私の部屋に帰っただけですけど。5日もすれば抜けられるとのことでしたので、その間はクラウドにお願いして、王弟のいる領土を抜けたら呼んでもらうことにしました。


『おはよう、カーラ』


 ベッドで惰眠をむさぼっていた私に、オニキスが声をかけてきました。いつも起きる時間なのでしょう。しかし今日はもう少し眠っていたい。


 あれから・・・オニキスに唇をペロッとされてから、私たちの関係にこれといった変化はありません。

 しかし関係以外には少し変化がありました。

 朝はいつの間にか、こうして私の横に寝そべっているのですが、夜はベッドの上でいつものイチャイチャをせず、チェリと共に隣室へ下がるようになったのです。

 べ、べつにイチャイチャしたいわけではないのですけど! ただ、なんというか、横が寂しくて寝つきが悪いのです。そのせいで最近、朝がシャキッと起きられません。


「もう少し・・・」


 オニキスの方へ転がって、目をつむったままそこにあるであろう、もふもふに手を伸ばします。しかし触れたと思ったら、するりと逃げられてしまいました。


『今日は朝の鍛錬はしないのか?』

「・・・いいえ」


 今ので目が覚めました。ちょっとショックだったようです。

 布団から顔を出した私の目元に、オニキスが鼻先を押し付けてきました。いつものことなのに、心臓がどくどくとうるさく聞こえます。いつも通り、いつも通りと思いながら、オニキスの目元に口づけました。

 赤くなっているであろう顔をごまかすようにベッドの上で伸びをすると、オニキスが隣室に出ていきました。入れ違いにチェリがたらいをもって入ってきます。


「おはようございます。カーラ様」

「おはよう。チェリ」


 鍛錬着に着替えて、庭へ向かいます。

 オニキスがクラウドに擬態するのを嫌がったので、視覚阻害でクラウドに見えるようになってもらいました。なので私の斜め後ろを、オニキスがついてきます。

 いつも通り庭の外周を走り、組手をする相手がいないので、苦無くないの練習をしました。着替えて朝食に向かいます。


「お姉さま、気分が悪いのですか?」


 いつの間にか、パンをちぎる手が止まっていたようです。ルーカスが心配そうに私を見ていました。


「いいえ。少し、寝不足なだけですよ」


 ルーカスに微笑みかけて食事を再開すると、彼もほわーっと微笑みました。


「お姉さまも夜更かしするのですね」

「ルーカスはまだ夜更かししているのですか?」

「えへへ。お父様たちには内緒にしてください」


 照れくさそうに目を伏せるルーカス。かわゆす。

 まあ、多少夜更かししても、午後の鍛錬とお勉強には出てくるので問題ないでしょう。


「では、お姉さま。また鍛錬の時間にお会いしましょう」

「はい、ルーカス」


 食事を終えて、部屋に戻りましたが・・・カーライルを抹殺した今、やることがありません。

 クラウドたちは軍の人間がうろつく地域を進んでいますので、様子を見に行くわけにもいかず。


「エンディアの砂漠との境界を見に行きますか」


 あそこなら滅多に人が来ませんし、認識阻害をかけていれば大丈夫でしょう。


「カーラ様、私もお供してもよろしいですか?」

「珍しいですね、チェリ。いいですよ。何もいいものはありませんけど」


 チェリを連れて、砂漠の端に転移しました。予想通り、誰もいません。日傘を2つ出し、1つチェリに渡しました。


「さて、やりますか」


 風魔法で辺り一帯を均します。平坦になった砂の上に、土壌改良用の雑草の種をまんべんなくばら撒きました。ついで水魔法で種や砂を流してしまわない程度の、細い雨のようにして水を撒きます。


「むんっ」


 特に意味はありませんが、傘を両手で持って掲げ、しゃがんだ姿勢から勢いよく立ち上がりました。気合の一言と共に雑草があっという間に育ちます。


「いつ見てもすごいですね。カーラ様の魔法は」


 チェリがその存在を確かめるかのように、雑草を手で触っています。

 この土壌改良用の雑草は半径約3メートル、地下約1メートルにわたって細く細かい根をスポンジのように張ります。その根は砂地を押さえ、樹木が根を張っても倒れないように地面を補強してくれます。さらに根の一部が水を貯えて膨らみ、他の草に水分を与えるように改良してあります。そして枯れると肥料になる。素晴らしい!

 今度は根が水を貯えるように、大量の水を撒きました。この雑草自体は夜露だけでも生きていけるので、このまましばらくは持つでしょう。


「これを繰り返します。オニキス、大丈夫ですか?」

『この程度なら千分の一にも満たぬ。問題ない』


 また砂漠の端まで移動します。今度は歩いて向かっていると、オニキスが少し離れました。


『我も手伝おう。先ほどのを繰り返せばよいのだな?』

「はい。お願いします」


 私が向かおうとしていた真逆の端へ、オニキスは転移していきました。


「今、オニキス様が離れましたか?」

「よくわかりましたね。そうですよ。別の場所で手伝ってくれるそうです」


 チェリは辺りを伺いながら不思議そうな顔をしていましたが、私の顔を見ると、納得したように頷きました。


「なんですか?」

「いいえ。オニキス様の御目当ては一貫してみえるなと、思っただけです」


 意味が分かりません。チェリも説明する気がないようなので、土壌改良を続けることにしました。

 3度ほど繰り返した頃でしょうか。チェリが後ろを振り返りました。


「誰かが走って向かってきます」


 え。おかしいですね。ちゃんと私とチェリには認識阻害をかけてますよ。


「褐色の肌で背丈は兄ぐらい、黄色の髪の青年ですね」

「あぁ。たぶんドード君です」


 なぜ認識阻害が効いていないのかわかりませんが、先日カーラとして会った時の年齢である18歳に見えるよう、視覚阻害をかけました。

 

「こんにち・・・泣いているのですか?」


 近づいてきたドード君は涙も鼻水もだーだーでした。私を見て、さらに涙があふれます。


「カーラ・・・様。・・・魔法・・・カーライル様・・・かと・・・」


 なるほど。私たちではなく、魔法を目指して来たのですね。オニキスの方でなくて、よかった。


「これをお使いください」


 チェリがハンカチを手渡します。おずおずと受け取ったドード君は、チェリの顔を見るなり固まりました。涙がぱたりと止まり、頬がやや紅潮しています。


「あ、あの、あなたは?」


 おや。旅に出てここにいないはずの私より、チェリの方が気になるようです。彼はチェリに任せて、私はとんずらすることにします。

 チェリの背後に隠れて、小声で話しかけました。


「いないはずの私がここにいると、混乱を招きますから離れます。後でマンゴー畑まで迎えに行きますね」

「わかりました」


 もじもじするドード君を横目に、そっとフェードアウトします。どうやら私は彼の視界に入っていないようなので、大丈夫でしょう。

 ドード君、とりあえず鼻水くらい拭きなさい。


 気配を殺して二人が豆粒くらいになったところまで離れて、オニキスの近くへ転移しました。



 




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