残滓の煩
閑話です
ちょいエロ注意
王子から離れ、頻度は減ったものの、カーラの悪夢は相変わらず続いていた。
もちろん全て私の妄想・・・ではなく、夢にすり替えている。
「カーラ、逃げないでくれ」
本日のお題は「かべどん」である。
いろいろやってみたが、カーラが私から逃げてくれなかったため、経緯を省いていきなり本題の姿勢から入ることにした。
壁に追い詰めたカーラの耳元に、私の唇が触れてしまいそうな距離で囁く。
カーラは頬をほんのり赤く染め、潤んだ瞳で私を見上げた。たまらず抱きしめてしまいそうになって、ぐっと我慢する。
壁に手をついた姿勢でなければ「かべどん」では、なくなってしまうではないか。
これまでの調査により、カーラの好みは少しずつ明らかになっている。
身長はクラウドくらいが理想のようだが、やつの「めじから」は苦手らしい。ついでに見るからに筋肉が発達しているより、脱いだらすごいんです系が好みのようだ。
クラウドは毎日の鍛錬を欠かさず、またカーラが休んだ後も鍛えているようで、筋骨隆々とは言わないが、従者服の上からでもわかる程度に筋肉質だ。哀れクラウド。
まあ、クラウドがカーラの好みであったとしても、そう心配する必要はないだろう。
なぜならカーラは、同じ年頃の異性に対する警戒心がかなり強いからだ。そして好意を感じると、無意識に接触を避けようとする。
つくづく人外の姿にしておいてよかったと思う。
カーラは私を警戒してはいないし、順調に私に対する好意が育っているようだから。あとはどうやって私を恋愛の対象として意識させるかが、問題だ。
「あっ・・・あの、ちょっと・・・オニキス?」
あぁ。考え事をしている間、無意識にカーラの首筋に舌を這わせていたようだ。私の唾液がカーラの鎖骨を伝って、その下の双丘の間にまで入り込んでいる。
「・・・」
触りたい。
いやいやいやいや、否!!!
私は精霊で、精神生命体で、物理的な接触に関しては疎いが、ここに触れるのがどういう意味を持つのかは知っている。
最近、カーラが毎朝のように鏡の前で揉んでいる、その手の動きによって形を変える二つの膨らみ。
誰だ! カーラにこんな胸を強調する服を着せたのは! って、私か。駄目だ。焦りすぎて思考がから回っている。
ひとまず落ち着こう。
カーラは「みけいけん」なので実際にそういった行為をしたことはない。しかし知識として持ってはいるので、私はここに触れる意味はもちろん、人の生殖行為についても理解している。
ついでに、カーラが最も好む「しちゅえいしょん」も知っている。
「んっ・・・」
しまった。また考え事をしている間に、カーラの腰に両手を回して拘束し、伝っていた私の唾液を舐めとっていたようだ。何とも形容しがたい感触を頬に感じつつ、白くなめらかな双丘の間に舌を差し入れて可能な限り下の方から舐め上げている。
考え事をすると、私の妄想が暴走するようだ。気をつけよう。
かなり際どいことをしてしまったようだが、手は触れていない。ぎりぎり許容範囲だろうか。
「・・・オニキス」
顔を上げた私の首にカーラが腕を回し、首元にその顔をうずめた。やや荒く熱いカーラの息が首筋にかかり、背中がぞくぞくする。
と、カーラが何を思ったのか、私の首にかみつき、きつく吸い上げた。
おそらく「きすまあく」が付けたいのだろうが、そんな可愛らしいものではなく、しっかりとした歯形が付くと思われる痛みだ。しかし先ほどの負い目もあるので、甘んじて受けよう。
「ふふ。お返し」
カーラは今だ私の首に腕を回したままで、つけた歯形を舌でなぞって満足げに、熱い吐息を漏らす。
そこから、記憶がない。
気づいたらカーラの意識から締め出され、顔を真っ赤にして荒い呼吸を繰り返すカーラに、見下ろされていた。
現実世界で。
『どうした? カーラ』
しれっと話しかけてみた。
カーラは私に何か問いかけようかと逡巡した後、首を横に振った。まさか私が夢を見せているとは、思ってもいないらしい。
「い、いいえ。何も」
そう言って、再び私の傍らに横になる。カーラは時々、こちらをちらりと見ては恥ずかしそうに身を捩っていたが、睡魔には勝てなかったようで、いつの間にか眠ってしまった。
危なかった。
私が夢を終わらせるのではなく、夢の途中でカーラが目覚めた場合、直前のいくらかは記憶に残るようだ。注意せねば。
規則的に上下する、カーラの胸に視線を向けた。私が人の姿なら、今頃、ニヤニヤとだらしない笑みを浮かべているに違いない。本当にこの姿でよかった。
時刻はまだ真夜中。カーラがまた悪夢を見ないとも限らない。
私に眠りは必要ないので、カーラの様子に注意しつつ、その寝顔を堪能するとしよう。
オニキス『誠に遺憾ながら、記憶にございません』