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確認に行きましょう!

 主人公の存在を暴露した翌日、殿下は一人でいらっしゃいました。

 アレクシス様は王太子の婚約者の弟という立場を利用して、王城にいらっしゃる大公閣下にそれとなく探りを入れに行くとのこと。私がまだ王都にいるため、王都の貴族たちはずっと緊張状態で、大公閣下は王城に詰めていらっしゃるのだとか。

 ほほほ。ごめんあそばせ。


「殿下、本当に殿下自ら確認に行かれるのですか? そして、なぜ私も?」


 私の目の前には、地味な紺のドレスを着た、美少女・・・に見える殿下が立っています。殿下の侍従を扉の外に待機させ、何を始めるかと思えば、これですよ。

 殿下のお着替え中、私は寝室にいましたよ! チェリは楽しそうに手伝ってましたけど。


「大丈夫だって。これなら誰にもわからないさ。そして、信用できる人が他にいないからだよ」


 だからなぜ、私を信用するのですか。

 栗色の肩下ストレートのかつらをかぶり、にっこり微笑む姿は、どこからどう見てもいいとこのお嬢様にしか見えません。常々、中性的だとは思っていましたが、ここまでとは思いませんでした。


「お似合いです。殿下」


 心からの賛辞を贈ると、殿下は得意げにくるりと回り、ぱちんとウインクしました。相変わらず無駄に女子力高いですね。


「殿下じゃなく、カーリーって呼んでね」


 殿下の精霊の名前でいいのですか。そこはこだわらないのですね。


「では私はカーライルとお呼びください」

「りょーかい!」


 私の方は一般的な小姓の服装に、黒髪を押し込んだ帽子をかぶっています。動きやすい服、最高!


「で、どうやって抜け出すの?」

「風魔法で目的地の屋根の上まで飛びます」


 手の内は隠したいので、転移はせず、風魔法で飛んで向かいます。「認識阻害」と「傷害無効」もこっそりと、ね。


 ゲーム主人公は私の鬼門中の鬼門なので、居場所を把握しておきたくて、すでに居場所を突き止めてあります。王都にいるのは知っていましたから、私が王都にいる間にと、オニキスに頼み込んで探してもらったのです。こうも早く役立つとは思いませんでしたが。


 チェリとモリオンにはあらかじめ目的地付近に待機してもらい、状況を確認してもらっています。モリオンから遠話で付近に異常なしとの報告を受けていますので、そろそろ向かうことにします。クラウドはアリバイ作りの為にお留守番です。

 何故この配置なのかというと、ゲーム主人公に寄生する予定の光の精霊は、闇の精霊をかなり嫌っているらしいからです。まだ寄生していませんが、すでに目をつけられているため、あまり近付かない方がいいとのこと。ですから闇の精霊持ちの私とクラウドは、ゲーム主人公に近付けないのです。


「では参りましょう」


 バルコニーに出ると、殿下が後ろから腰にぎゅっとしがみついてきました。美少女に迫られても、ドキドキなんてしないんだからね!


「いえ、殿下。すでに私の精霊が、殿下の精霊に伝授いたしましたので、殿下の精霊にお任せください」


 努めて冷静に伝えます。多少、揺れるかもしれませんが、墜落することはないでしょう。

 昨日、人間たちがどういうことかと話をしている間に、オニキスがぼーっとしていた精霊たちを捕まえて、スパルタで詰め込んだらしいのです。これで二人とも来る必要がなくなったと、満足げでした。


「ちなみに私がお見せしたような防御も伝授いたしましたので、殿下の最低限の安全は確保できると思います。だだし精霊は、敵味方の区別がつきませんので、お気をつけください」

「え。いつの間に・・・」

「殿下、行きますよ」


 私から離れた殿下がふわーっと浮いたのを確認して、私も飛びます。どこぞの戦闘民族になったような気分ですね。さすがにばびーんと行くのは怖いので、原付バイクくらいの速度ですけど。


 はしゃぐ殿下と、人が豆粒くらいに見える高さの空の旅を楽しむこと10分弱で、目的地に着きました。そっと二階建ての屋根の上に降り立ちます。

 主人公の母はこの中規模な商家のメイドとして、住み込みで働いています。大公閣下もこんな近くにいると思っていなかったのか、あるいは主人公の母が身を隠すのがうまかったのか、よく見つからなかったものです。


「あちらの金髪の少女です。これから買い物に行くようですね」


 ブロンドに明るい碧眼の女の子が、商家の裏口から出てきました。体が弱い母の為にお手伝いとは、健気ですね。 


『モリオン、チェリと市場まで先回りしろ』

『はいっす!』


 私の思考を読んで、オニキスがモリオンに指示しました。遠話もばれたくないので、オニキス経由です。

 私と殿下も屋根の上を伝って、市場まで先回りします。


「どうやって確認するのですか?」

「王家と大公家は時々、血を混ぜるんだよ。だから本当に大公の子なら、彼女にも王族の特徴が出てるはず」


 あぁ、角度によって虹彩の色が変わるってアレですね。では結構、近付かないといけないのでは?


『カーラ、光の精霊は我ら闇を嫌う。これ以上、近付かない方がいい』


 了解です。やはり予定通り、殿下とチェリに行っていただきましょう。

 人目のない路地裏でチェリが待っていたので、そこに降り立ちました。主人公はもうすぐ、この先にある通りを横切るはずです。


「でん・・・カーリー、私はこれ以上近付けません。チェリがご一緒いたします」

「カーライルは?」

「私は上から見ております。もしもの時は、お助けいたしますよ」


 少し不安げな殿下に、にっこり笑って見せます。殿下の精霊もついてますから、大丈夫でしょう。


「じゃあ、行ってくる」


 殿下とチェリが足早に、通りに向かっていきました。その姿が通りに消えてしまう前に、私は屋根に飛びあがります。瓦の上に四つん這いになって、通りを覗き込みました。


「モリオン、クラウドの所へ戻ってもいいですよ」

『主は大丈夫っすから、カーラ様と一緒にいるっす』


 確かに。あの屋敷内ほど安全な場所はないですよね。

 殿下とチェリは道を聞くふりをして、ゲーム主人公に接触しました。少しして殿下が小さく頷くと、チェリと共に主人公から離れます。無事、確認は終わったようですね。では、二人と合流して・・・。


『『真白!!』』


 オニキスとモリオンの焦った声に驚いて、屋根に身を伏せました。さらにその私の姿を隠すように、オニキスとモリオンが私の背に乗って伏せます。


『感づかれたか?』

『たぶん、こっちは気づかれていないっす。でも王子と妹様にかけてある魔法の気配は、読まれたかもしれないっす』


 ましろ? ぼそぼそとやり取りする精霊たちの声に耳を傾けながら、通りに視線を向けます。

 あぁ。なるほど。フードをかぶった人物が、殿下とチェリの後をつけていますね。


「重くはないのですが、問題なければどいていただけませんか?」

『すまない』

『申し訳ないっす』


 精霊たちがどいたのを確認して、立ち上がりました。殿下たちはまっすぐこちらに戻らず、市場から出る方向に向かっていますから、尾行に気づいているようです。


「人目のないところで殿下を回収します。チェリにしばらく泳いでもらってから、モリオンはチェリと転移で帰ってきてください」

『了解したっす!』


 ある程度の距離を保ちながら、屋根の上を走って二人を追います。今いる通りと、並行して走る通りとをつなぐ、路地へと入ったところで、殿下たちの前に降り立ちました。


「殿下はこちらへ。チェリ、しばらく泳いでから撒いてください」

「かしこまりました」


 急いで殿下と共に屋根の上に飛びます。チェリは走って路地を抜けました。


「モリオン、離れて追ってください。頼みましたよ」

『はいっす!』


 尾行が気付く前に、殿下と上空へ高く飛びました。モリオンには引き続き、尾行に気付かれない距離を保ってチェリを追ってもらいます。

 ぼわっと雲の上に出たところで、一息つきました。さすがにここまでこれば、大丈夫でしょう。


「殿下、収穫はありましたか?」


 殿下はポカーンと口を開けたまま、微動だにしません。口に虫でも入りましたか?


「殿下?」

「・・・すごいな」


 殿下の視線を追うと、そこには雲の切れ目から見える小さくなった王都と、その先に広がる地平線がありました。この世界も地平線はまるいんですね。確かに圧倒的な景色です。


 そういえば風魔法に「飛翔」はありませんでしたね。「跳躍」や「浮遊」はできても、コントロールというか精霊への指示が難しいので、「飛翔」は契約なしには不可能なのです。 


「君は本当にすごいよ」


 やや頬が上気しキラキラと輝く瞳で、殿下が私を見ました。ひいっ。鳥肌が立ちましたよ!


「殿下、収穫はありましたか?」


 見なかったことにして、真顔で殿下に問いかけます。しばらくきょとんと首をかしげていた殿下は、はっと思い出したように頷きました。


「ああ。彼女は確かに王族の血をひいている。大公閣下に瓜二つの瞳をしていた」


 よし。では、イケニエ確定ですね。

 ついにやけてしまったのか、殿下がため息をつきました。


「君は・・・もう。なぜそうも私を遠ざけようとするのさ」


 答えは決まっています。堂々と胸を張って、腰に手をあてて答えました。


「もちろん平穏に暮らしたいからです」

「もう十分、平穏とは程遠いと思うよ・・・」


 そんなことはあると思いますが、だからと言って政権争いに巻き込まれたくはありません。殿下から視線を逸らすと、苦笑されました。


「それでも助けてくれるんだから、頼りたくもなるさ」

「結果的にそう見えるだけで、殿下を思ってのことではなく、すべて私のためです」


 何がおかしかったのか、殿下がクスクスと笑い始めました。ムッとしながら、殿下を軽くにらみます。


『カーラ様。尾行は妹様が自力で撒いたっすから、転移で帰りますっす』


 了解しました。では私たちも帰るとしましょう。


「殿下、帰りますよ」


 スカイダイビングは怖すぎるので、落下速度を落としながら元いたテラスへと向かいました。

 


 

 

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