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魔法を教えましょう!

 社交シーズンが終わろうかという、なんとなく日差しが暖かくなってきたような昼下がり、いつも通りテトラディル邸の庭で鍛錬に励みます。

 しかし今日はルーカスがチェリに習って木剣を振り、私はクラウドに土魔法を習っています。


 クラウドは武器を扱うのに慣れているからか、土魔法で武器を作るのは割とすぐできるようになりました。私より使いこなしています。

 土魔法は鉱物すべてを扱えるので、その材質の特性さえ理解していれば、鉄でも合金でも宝石でも作り出せます。こればかりは感覚を覚えるしかないようなのです。

 そして残念ながら、私は武器を作ろうとするとなぜか、ただの「土」しか出せません。ですから私の得物は闇魔法で状態異常を付与しないと、脆くて扱えないのです。

 実際に武器に触れながら、その感覚をクラウドに教わっているのですが、感覚ですので言葉にするのは難しく、まだまだ習得するには時間がかかりそうです。練習あるのみです。


「カーラ嬢。私にも魔法を教えてほしいなぁ」


 今日も今日とて悪びれもせず、私の鍛錬に参加している殿下が、私の袖を引いて、こちらをチラ見しながら言いました。

 かわいい。相変わらず、無駄に女子力高いですね。

 

 ちなみに殿下は、近衛兵が持つような質のよさそうな剣なら、土魔法で作れてしまいます。しかし、その一種のみです。だから負けてなんていないのです!

 

「殿下の精霊にお尋ねください」

「だって、風って見えないでしょ? 実践されてもわかんないんだもん」


 あー。確かに。しかし、殿下の精霊は何を教えているのでしょうか?

 私の土魔法も行き詰っているので、気分転換に殿下にお付き合いしましょう。


「殿下。殿下の精霊にお尋ねしたいことがございます」

「カーリー、みんなに姿を見せて」


 あ、こら。声だけでよかったのに。

 殿下の右斜め後ろの中空に、金茶のわしが現れました。ルーカスがキラキラした目で見つめています。


 弟がなぜこんなに落ち着いているかというと、殿下が契約して早々、精霊を見せてしまったからです。「この屋敷内なら、カーラ嬢がいるし、何でもありでしょ?」とか言って!

 そして無詠唱での魔法使用を練習したがり、弟のルーカスに無詠唱魔法を披露してくれました。自分はできないと知ったルーカスをなだめるのに、一苦労でしたよ。


 この世界で魔法を使用するには、通常、呪文が必要です。先人たちが精霊の力を引き出すために、考察に考察を重ねた呪文が。

 オニキスによると、寄生状態の精霊は宿主が望まないと力を出すことができず、また宿主に協力する気もないとか。それを無理やり引き出すのが呪文であり、呪文を学ぶ場所が学園なのですよ。


 学園へ通えば魔法が使えると話したのですが、どうやらルーカスは自分の精霊を説得することにしたようです。毎日、寝る前に話しかけているのだとか。

 契約方法は教えてませんよ! ルーカスが勝手に、精霊を説得すればできるようになると思っているだけです。精霊の声はルーカスに聞こえていませんが、ルーカスの声は精霊に聞こえていると、オニキスが言っていました。精霊の反応はいまいちだとか。

 母が心配して相談に来たと、父から苦情が来ました。苦情はヘンリー殿下にお願いします。


『何用でございましょうか?』


 殿下の精霊は堅苦しい口調で問いました。


「殿下に何をどうお教えしているのですか?」

『攻撃魔法を所望されましたので、鎌鼬かまいたちを実践いたしました』


 ふむ。これも感覚というか想像力なのですよね。

 想像力といえば・・・頑張れば、ミスリルとか、オリハルコンとか作れちゃうのかな?! この世界には存在しませんけど。 

 わくわくしてきたので、殿下の方をとっとと終わらせてしまいましょう。要は見えればいいんですよね。


「殿下、殿下は王族ですので、先に身を守る術を習得されるべきです」


 不満げな殿下が、ぷっくり頬を膨らませます。かわいいんですけど、本性を垣間見てしまうと、ね。


「えー。だって地味そうなんだもん」


 派手に見えればいいんですね。わかりました。


「クラウド、私を攻撃してください」


 皆から距離をとりつつ、クラウドに頼みます。クラウドはものすっっっごい嫌そうな顔をしました。


「嫌です」


 むう。仕方ないので、オニキスを見ます。


『断る!』

『嫌っす!』


 訊ねる前に断られてしまいました。モリオン、あなたもですか。

 この際、投げナイフでもいいので、ルーカスの隣にいたチェリに・・・。


「お断りいたします」


 くっ。これでは話が進みません。仕方がない。これはやりたくなかったのですが・・・


「クラウド・・・お願いします」


 必殺、水魔法うるうる! クラウドの目が泳ぎました。もうひと押しですか。両手を胸の前に組んで、上目づかいで見つめます。


「お願いします」


 ぐぅっ。これ、三十路みそじ越えの精神に突き刺さるのですよ。早く折れてください。


「い、いや・・・」

「ご褒美」


 うろたえつつも断ろうとするので、最終手段をつぶやきます。途端にクラウドがきりっとした顔で、右手を胸に一礼しました。


「かしこまりました」

『ク~ラ~ウ~ド~!!』


 クラウドを責めようとするオニキスに、視線を向けます。

 あなたでもいいのですよ?


『・・・やれ。クラウド。カーラは私が守る』


 渋々といったふうのオニキスはそう言って、私の影に溶け込みました。

 大丈夫ですって。オニキスの魔法ならともかく、クラウドの魔法ならなんとかできますから。


「ではクラウド、火魔法でお願いします」


 了承したもののやはり嫌なようで、渋い顔をしたクラウドが右手を私に向かってかざします。彼はこの予備動作と、呪文とまではいかないまでも起こそうとする事象を言葉にしないと、魔法が行使できません。これも練習次第で、なくせるとは思いますが。


「殿下、私の周りに渦巻く風が見えますか?」


 私の周りの空気が、私を中心に緩やかに回りだします。殿下が首をかしげるので、微細な氷を水魔法で作り、風に巻き込んで人為的にダイヤモンドダストを作りました。

 キラキラときらめきながら私の周りをまわる風を、両掌で示します。


「きれいだね!」


 そっちですか。ではもっと派手なの行きましょう。クラウドに目くばせします。


「火球!」


 クラウドの前に大人の拳大の火の玉が現れました。そしてそれをクラウド! 振りかぶって! 投げました!

 打ち返してはいけないので、風の回転速度を上げながら、巻き込みます。火球は渦巻く炎となり、火柱になりました。私はその上昇気流に乗って、高く舞い上がります。

 もちろん風魔法で上昇気流は割増ししましたよ。いえ、私が重すぎるわけではありません。決して。


「カーラ嬢?!」


 炎が目隠しとなって、私が消えたように見えたことでしょう。風を操り、静かに殿下の後ろに着地します。殿下の無防備なうなじに、ふうっっと息を吹きかけました。


「きゃあっ!」

「いかがでしたか? キラキラしていたのは氷の粒ですが、それ以後は風魔法しか使用していませんよ」


 首を抑えて、驚いた顔の殿下がこちらを振り返りました。にっこり笑って見せます。


「おねえさま、すごいです!!」


 ルーカスがはしゃいで言いました。

 でしょう? 誇らしげに胸を張ります。殿下はそんな私をまじまじと見つめると、やる気に満ちた表情になりました。


「感じがつかめましたか?」

「ああ。頑張るよ」


 よしよし。では、私もミスリルを作って見せましょう!

 




 



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