残滓の夢
閑話です
いつからか、カーラが悪夢にうなされるようになった。
カーラを慕うものが、増えてきたあたりからのように思う。
眠りについて暫くすると、息を荒げ、苦しそうに呻く。そして声を殺して泣きながら、目を覚ますのだ。
心配してどうしたのか問うても、ただの悪夢だと力なく笑うだけで、内容は教えてくれない。
そう言うならばと、一月ほど様子をみていたが、悪夢の頻度は増すばかりだった。
いくら問い詰めてもカーラは頑なに夢の内容を言わないので、勝手に覗き見ることにした。呪いの類いかと、心配したのもある。
カーラの悪夢は、毎回同じ異世界での出来事だった。
幸せそうな男女。
見送る前世のカーラ。
異世界の文字が書かれた掌大の薄っぺらい四角いもの。
目まぐるしく切り替わる様々な異世界の風景。
黒い服の人の群れ。
夢はそこで唐突に終わる。カーラが泣きながら目を覚ますのだ。
意味のわからない、そして全く音のない夢だった。
おそらくカーラの前世の記憶が見せているのだろう。
悩んだ末、私の力を行使して、悪夢を食べる事にした。
しかしただ悪夢を消すのも面白くないので、私の妄そ・・・夢にすり替えることにした。
澄みわたる青空、一面の花畑、むせかえるような甘ったるい匂い。そして、その中に佇むカーラ。
「愛しているよ、カーラ」
そう言って、後ろから抱きしめる。人の姿で。
カーラは頬を染めてうつむいた。その頭に口づける。腕の中のカーラは恥ずかしそうに身を捩るものの、逃げはしない。
口づけを繰り返しながら、カーラの耳元まで下りていく。そしてその耳朶を口に含むようにして、ほんのり赤い耳をぺろりと舐め上げた。
「んっ!」
カーラがすとんと地面に座り込んでしまった。その背を包むように、後ろからカーラの腰に腕を回す。そうして引き寄せ、私の膝の上に横向きに座らせた。
恥ずかしそうに両手で顔を覆うカーラの耳元に、唇を寄せる。
「愛しているよ」
もう一度、愛を囁くと、カーラがその背に回していた私の腕にしがみついた。
「本当に? ずっと? 変わらず?」
「永遠に、変わらぬ。我がお前に偽りを言うと思うのか?」
カーラの頭が小さく横に振られる。そしてしがみついていた私の腕に口づけをくれた。
まるで私の愛に答えてくれたような気がして、魂がぎゅっと握られるような、あの感覚がした。たまらず、私はカーラを抱きしめる腕に力を入れてしまう。
「オニキス、痛い」
「む・・・すまない」
腕の力を緩めれば、カーラが潤んだ紫紺の瞳で私を見上げ、私の胸に縋りついた。再び、抱きしめる。
「好きよ、オニキス。・・・その・・・ごめんね」
まだカーラの気持ちはそこまでなのだろう。私の妄想とはいえ、カーラの意識に入り込んでいるだけなので、彼女の反応は本物だ。
「カーラの気持ちは、我が少しずつ育てればいい。気に病む必要はない」
そう言って額に口づける。カーラはよくわからないという顔をして、私を見上げた。
愛おしさから浮かんだ笑みをそのままに、彼女の目元に口づける。次に頬、耳元、首筋と順に口づけて・・・
と、ここまでにしておこう。
どうせ起きれば夢の内容など覚えていないので、もっと好き勝手してもいいのだが、自重しておく。現実との区別がつかなくなると困る。私が。
さて明日はどんな夢にしようか。カーラの記憶からよさそうなのを見繕っておこう。
あぁ、ついでにカーラの好みの顔を探ろう。今後の参考に。
思わぬ楽しみができて、心が弾む。
さあ、カーラが悪夢を忘れるまで、続けようか。
カーラ「はぁぁ・・・欲求不満なのでしょうか」(なんとなくそんな感じの夢を見た覚えはある)
オニキス「・・・」