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混乱の種を撒きましょう!

 あの後、父監修の当たり障りのないヘンリー王子宛ての見舞いの手紙を書き、怪我で療養中を装って屋敷に引きこもっています。もちろん、毎日のように抜け出していますが。

 

 そうそう! マンゴーは国境の町エンディアでしか流通していませんが、売れ行きは順調とのこと。パン屋のご主人におすそ分けしたら、知り合いの八百屋さんが買い付けに来たんだとか。美味しいですからね、マンゴー。そんなわけで、少しずつマンゴー畑は拡大中。


 そして、さらに嬉しいことに、スイカを見つけました! この世界のスイカ、外見は前世と同じなのですが、中が毒々しいほどの赤で、割ると流血したように見えて食べるのを忌避されていました。味は美味しかったので、中身を黄色にしてみました。これも大好評! 美味しくて水分も摂取できると、売れているようです。


 売り上げはダーブさんの好きにしていいと言ったのですが、泣いて嫌がるので、売り上げの3割をカーライルに収めてもらうことになりました。もっと割合が低くてもいいのですが、ダーブさんが呼吸困難になるほど泣くので諦めました。

 ダーブさん、いい人なんですけど、私が畑を去る時に拝むのをやめてくれないかな。


 一応、砂漠の拡大を食い止める目的で、ただの雑草も育てています。土壌改良も兼ねているので、いずれは何か食べるものを植える予定です。デ・・・ぽっちゃりの食べ物への執念は、転生しても消えません!


 そう、順調なのです。「カーライル」は。




「ねえ、カーラ嬢。教えて欲しいなぁ。おねがぁい」


 も・ん・だ・い・は! この人です! ヘンリー・モノクロード殿下!

 誰ですか? こんな聞き分けのないお子ちゃまに育てているのは! 第三王子とはいえ、王族ですよ。確かにゲームでもかわいい系キャラでしたが、扱いづらいことこの上ないです。


「鍛錬の最中です。お引き取りいただけますか? きちんと訪問の許可を求められた後、お見えになったら、お相手いたしますと申し上げたはずです」

「だって「療養中です」と、お断りの手紙がくるんだもん」


 ええ。来てほしくないですから。

 いえね。最初は丁寧に対応していたのですよ。怪我で療養中という設定でしたので、ベッドで臥せっている演技までして。

 しかし、この方は空気を読まない! 「そろそろ帰れ」的な空気を出しても帰らない。「もう来ないで」的なことを遠回しに伝えても毎日のように来る。しかも毎回「来ちゃったテヘペロ」的なノーアポで!

 扱いが徐々に雑になっていきまして、パーティーからもうすぐ一月という現在、このような扱いなのです。


「おねえさまは、ヘンリーでんかにきびしいですね」


 ルーカスが小声で隣にいたクラウドに話しかけました。


「ヘンリー王子が作法を無視されるからでございますよ、ルーカス様」


 クラウドも小声で返します。残念ながら、聞こえていますよ。

 パーティー後、父は弟のルーカスと母を王都に呼び寄せました。その方が守りやすいですからね。

 そこでお守りと称してペンダントを作成し、父の了解を得て父、母、弟の3人に渡しました。ペンダントに効果があると見せかけて、渡すときに本人に触れて直接「傷害無効」を付与しました。

 貴族の皆様はテトラディル領に帰って欲しそうですが、王都に居座りますよ! もちろん嫌がらせを兼ねて。


「カーラ様、投げるときに肩に力が入りすぎています。狙いはいいので、もう少し力を抜いてください」

「わかりました」


 もう話すことはないという私の態度に、チェリは追随することにしたようです。ヘンリー殿下を無視して、投げナイフの練習を再開しました。ナイフというか、苦無くないですけど。私が元日本人の転生者だからか、大和の国の武器は使いやすいのですよ。


 なぜクラウドではなく、チェリに教わっているのかというと、クラウドは天才肌のようで他者に教えるには向かなかったからです。「ふぅぇっと」とか「だわっと」とか言われても、理解できません。

 しかしルーカスには通じたようなので、クラウドはルーカス担当になりました。私としては弟と距離を置きたいのですが、悪意無く寄ってくるのを無下にもできず、こうして一緒に鍛錬しているのです。


 いつもはこのあたりでヘンリー殿下が諦めるのですが、今日は違いました。ニヤニヤとよからぬことを考えている顔で近づいてきます。


「あのこと、みんなに話しちゃってもいいのかなぁ?」


 警戒して動きを止めた私に、そっと耳打ちしました。

 庭園であったことは、父が知らぬ存ぜぬを貫いていますが、やはり私が魔物を倒したのではないかと噂になっています。ヘンリー殿下も約束通り、黙っているようですが・・・薙刀でばっさりや、無詠唱で魔法を話されてもまったくかまわないのです。

 なので「どうぞ」と言うように、にっこりとほほ笑んで見せました。ひるむと思いきや、殿下はさらにニヤニヤしました。


「いやだなぁ。忘れちゃった?」


 ヘンリー殿下は言い終えると、唇を尖らせて「ちゅっ」っと音を鳴らしました。

 あれか?! あれをばらそうというのですか?! 意外と腹黒いですね、ヘンリー殿下!


「あれは不可抗力でしょう?」

「ふふふ。私はこれでも王族だからねぇ。発言力があるのは分かっているよ」


 無邪気なふりして、計算君か。というか、殿下にも諸刃の剣でしょうに。

 ばれても殿下と婚約させられるわけではないでしょうが、私の「夜の女神再来計画」には影響がありそうです。噂大好き貴族連中が面白おかしく広げて、私を懐柔しようという連中が婚約話を持ってくるような気がします。

 私は色恋沙汰から離れたい!そしてこの方と無縁になりたいのですよ!


「わかりました。殿下と二人きりになる許可を得られれば、お教えいたしましょう」


 もう、なるようになれです。

 殿下は嬉々として、連れてきた侍従を説得に行きました。


『我ら精霊には特に問題はないが、もし話が拡がってしまえば混乱が起きるのではないか?』


 あんなでも王族ですし、振る舞いほど考えなしでもなさそうなので、大丈夫だと思います。でも念のため、制約を付けましょうか。

 行き当たりばったりとはいえ、「世界に混乱を!」なんて、悪役っぽくないですか? それに彼が契約できるとは限りませんし。なんか楽しくなってきました。


『しかし、あれに寄生している精霊は・・・』


 殿下が走り寄ってきました。許可が得られたようです。


「あの樹木のあたりで、こちらから見えるようならいいって」


 あぁ。あの距離なら会話は聞こえなさそうですね。では早速お話して、とっとと帰っていただきましょう。

 走って行く殿下の後を、やや早歩きで付いていきます。


「で、呪文なしに魔法が使えるのはなぜなの?!」


 目的地に着いたとたん、殿下が勢い込んで訊ねてきました。

 これですよ。これが聞きたいがために、ほぼ毎日のように訪問されていたのです。


「方法は簡単です。しかし、私と取引したことは話してもかまいませんが、その取引内容を話してはいけませんよ」

「なんで?」

「なんでって・・・皆が呪文なしで魔法が使用できるようになったら、混乱しますでしょう?」


 まあ、契約を嫌がる精霊の方が多いのですから、そんなことにはならないと思いますけど。


「そうじゃなくて。なんで、君と取引したことは話していいの?」

「それは・・・殿下には関係ありません」


 なぜかというと、私の妙な噂が広がるのは大歓迎だからですよ。もちろん「夜の女神再来計画」のためですが、それを殿下に教える気にはならないので、黙秘します。

 ヘンリー殿下は不満そうに、頬を膨らませました。

 おぉ。殿下がやると、かわいいですね。


「殿下。方法をお教えする前に、それを他言できないよう制約の呪いをかけますがよろしいですか?」

「いいよ」


 いえ、そこは悩みましょうよ。呪いと言っても、精霊との契約方法を口に出せなくなるだけですけど。


「では、遠慮なく。殿下、私の手に殿下の手を重ねてください」


 殿下はなんの躊躇もなく、差し出した私の手に触れました。王族として、少しは警戒してほしいところです。


「殿下は、私が怖くないのですか?」


 あまりに無防備なので、思わず訊ねてしまいました。殿下はきょとんと小首をかしげます。


「だって、君は私に危害を加える気がないでしょう?」


 それはそうですけど、なぜこうも信用されているのでしょうか。

 疑問がそのまま顔に出たのだと思います。ヘンリー殿下は無邪気に笑って言いました。


「そのつもりなら、あの時、魔物に襲われている私を放って逃げるだけでよかったんだよ。でも君は助けてくれた。君の秘密が明るみになるかもしれないのにね」


 秘密・・・無詠唱のことでしょうか。あの時は、隠蔽したいことができたら、あとで闇魔法を使ってちょちょいっといじくろうと思っていたからなのですが、黙っておきます。

 

「そうして信用させて、殿下を利用するつもりかもしれませんよ」

「それは、まあ、お互いさまだと思うよ」


 ふむ。それもそうですね。貴族社会とはそういうものでした。「精霊との契約方法を他者に伝えられない」を付与して、殿下の手を放します。


「これで、完了です」

「ずいぶん簡単だね」

「方法が他言できないだけですから」


 これで「夜の女神再来」計画が進んで、殿下ともおさらばできる! 満足いく結果が得られて、思わず笑みがこぼれました。

 殿下は不思議そうに、自分の手を見つめています。何も見た目に変化はありませんよ。


「では、殿下。殿下の精霊に名を与えてください。それができれば、あとは殿下の精霊が教えてくれます」

「え、名前? そんなことでいいの?」

「精霊が答えてくれなければ、名付けはできません。さあ、これで取引終了です。どうぞお帰りください」


 その場で考えこむ殿下に、侍従の方へ行くよう勧めます。

 ここで契約しようとしなくていいですから、早くお帰りください。 


「え。まって! 今、考えているから!」

「いえいえ、殿下。お帰りになってから、ゆっくりお考え下さい」


 ぐいぐいと殿下の背を押します。抵抗していた殿下は、私を見てはっとし、次いで満面の笑顔で叫びました。


「カーリー!!」


 ちょ、こら。嫌がらせですか。


『あぁ。やはり・・・』


 オニキスのため息交じりの声が聞こえました。え。まさか・・・・


『契約が成立した。カーラには見えないだろうが、金茶の髪をしたカーラの姿をしている』


 なん、だ、と?

 茫然としているヘンリー殿下の肩をつかみ、強くゆすります。


「殿下! 今すぐ! 精霊の姿を変えさせてください! でないと・・・えっと、でないと絶交ですよ!」


 幼稚な脅ししか出てこなかった自分にがっかりしました。

 殿下は再びニヤニヤした笑いを浮かべましたが、肩をつかんでいた私の手をやんわりと制すると少し考え込みます。

 そして殿下の侍従が私たちのところへ到達する前に、無事、殿下の精霊の姿は王家の紋章にも使われているわしの姿へと変更されました。









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