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抜け出しましょう!

 屋敷の前で、母と弟のルーカスに向き合います。


「おとうさま、おねえさま、いってらっしゃいませ」

「いってきます」


 4歳のルーカスは、今回の招集対象年齢から外れますのでお留守番です。

 今、私とルーカスの姉弟仲は、可もなく不可もなくです。会話をするのは母に散歩に誘われた時くらいで、だいたい週に一回くらいです。そのときは甘々に甘やかしていますが、こちらから接触しに行くことはしません。

 だって確実に好かれる方法なんて、わからないじゃないですか。彼の扱いは一番気を遣うのですよ! 嫌われて刺されるより、興味を持たれない方がましです。


 父と母は当り障りのない会話をしていますが、夫婦仲が良好なのは知っています。なんせ二人とも、今朝は寝坊しましたからね!


 軽くいちゃついている両親を無視して馬車に乗り込み、小窓からルーカスと母に手を振ります。チェリは私と共に馬車に乗り込み、クラウドは騎乗します。乗り物酔いする父も、やはり騎乗します。

 ふふ。計画通りです。


「モリオン、お願いしますね。寝たふりをしていればいいですから。わからないことはチェリか、直接私に聞いてください」

『はいっす!』


 びしっと右手を挙げた私の姿のモリオンをよしよしすると、店に転移します。店の調薬室にある椅子の気配は覚えたので、オニキスにお願いしなくても転移できるようになりました。

 「カーライル」に見えるように、視覚阻害をかけます。


「さて、開店しますか」


 しばらく午前のみで、午後は閉店の張り紙をしました。いつも通り、暇でなく、忙しくもない時間をすごした後、売れ残りのパンを持って難民キャンプに向かいます。


 もとはぼろ布の群れだったそこは、まばらに掘っ立て小屋ができています。私が実験の為に植物魔法で一気に育てて、不要になった木を欲しいというので進呈したら、こうなりました。

 勝手に住み着いても大丈夫なのかな?

 侯爵様は「カーライル」が係わっているのは知っているでしょうから、苦情なら最初に私に来るでしょう。いきなり壊されたりしなければいいか。


 ちなみに空色の髪のカーライルが、水魔法以外の魔法を使えるのはおかしいのですが、そこはほら、闇魔法で、ね?

 鬼畜と呼んでもかまわないですわよ。ぐふふ。


「カーライルさま、いらっしゃい」


 私の周りを3~10歳くらいの子供たちがちょろちょろしています。その手には根っこ付きの草。順にパンと交換していきます。

 パン屋のご主人は優しい方みたいで、カーライルのしていることを知って、わざと多くパンを焼いてくれます。酵母を使ったパンは売れに売れているので、負担にはなっていないようですが。とてもありがたいので、たまに持病の腰痛改善の薬を差し入れたりしています。

 大人も寄ってきましたが、子供優先にパンを渡していきます。

 お、これは見たことがない植物ですね。新種を持ってきたときはポーションと交換します。しかし残念ながら実が生るような植物ではないようなので、お蔵入りです。


 用意したパンがなくなると、あとは新種のみポーションと交換していきます。今日はめぼしい収穫がありませんでしたが、まあこんなものです。


 さあ、私のマンゴー畑はどうかな?


「カーライル様、おおむね問題なく育っておりますよ」


 スキップしそうな勢いでマンゴー畑に向かうと、栗色の髪にこげ茶の瞳のナイスミドルが待っていました。


 この方はダーブさん。マンゴー畑を作るとき、一番協力的かつ、欲のない人でした。しかもカーライルがいない間の管理を、無償でするとまで言ってくれました。

 もとはガンガーラの果樹園で働いていたのを、病気を理由に解雇されたとか。


『これ程まで悪意がない者は珍しい』


 と、オニキスに言わしめた人物です。


 さすがにタダ働きでは申し訳ないので、私が必要とする分以外は好きにしていい事にしました。遠慮していましたが、半ば押し付けるように。

 売るにしても、マンゴーは傷みやすいので、長距離輸送にむかないんですよね。丈夫にすると、ゴリゴリした別の食べ物になってしまいますし。

 そのうちドライマンゴーにでもして売ろうかと思うのですが、実ができてから考えることにします。


 なぜ植物魔法で実ができるところまでしないかというと、そこまで育ててしまうと、なぜか味に深みがなくなるというか、味気ない感じになってしまうからです。


 もちろんカーライルに好意的でない人もいますので、悪意をもってマンゴー畑に入ると、砂漠のどこかに転送されるトラップがはってあります。魔物にも有効なので、襲われた時はマンゴー畑に避難するよう伝えました。


「時々、様子を見にきますが、今までほど頻繁には来られなくなります。大丈夫ですか?」

「お任せください」


 ダーブさんが自信に溢れた笑顔で断言します。


「私が来ないときは、パン屋のご主人が閉門直前に南門までパンを持って来てくれるそうなので、受け取ってくださいね」

「かしこまりました」


 普通に接して欲しいと何度もお願いしたのですが、そのたびに固辞されたので諦めました。

 これで私がいなくともマンゴー畑は大丈夫そうです。


 そろそろ真面目に王太子の誕生パーティーのことを考えましょう。



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