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父と交渉しましょう!

「お待たせいたしました」

「いや、いい。予告なく来たのは私だからな」


 店を出ると、父はさっさと歩きだしました。いつも通り、昼食をとる店は決めてから来たようです。カーライルに拒否権は初めからないということですね。わかっています。

 それなりに混雑している店でしたが、用意してあった席にすぐつくことができました。


「ここはパンがおいしい。隣のパン屋から仕入れていると聞いた」


 あー。父が言いたいことがなんとなく読めました。どうせ聞き出されるので、自主的にゲロします。


「パン屋に酵母を渡したのは、私ですよ」


 美味しいパンが食べたい! その一心で、前世の知識を掘り起こし、調薬室でうろ覚えの記憶を頼りに試行錯誤して天然酵母をつくったのです。半年くらいかかりましたよ。元デ・・・ぽっちゃりの執念ですね。

 満足いくパンが焼けるようになった頃、ちょうどいいところに近所のパン屋が火傷の治療に訪れたので、レシピと一緒に渡したのです。対価は毎日出る売れ残りのパンで。

 でも侯爵様にしては、情報が古いですね。2年以上前の話ですよ。


「パンを餌に、荒野で難民たちに何をさせている?」


 あら。そちらが本命でしたか。父の目が剣呑な光を帯びています。きっといくら探っても、カーライルが何をしているのかがわからなくて、直接聞くことにしたのでしょう。随分長いこと観察しましたね。


「侯爵様の不利益にはならないことですよ。利益にもならないかもしれませんが」


 売れ残りのパンや水、治療を対価に、難民たちに乾燥に強い植物を集めて、育ててもらっているのです。


 オニキスお願い! をすれば、乾燥に強い植物どころか、一帯を森にすることもできるようなのですが、残念ながら彼の力で作り出した植物は繁殖できず、一代限りなのです。


 ここで役立つのが植物魔法です。植物の品種改良は植物魔法の方が適しているのです。ただしDNAという、生命の構造情報があるという概念がないとできません。そして操作するべき情報の場所がわからないと、改良に時間がかかります。育てて様子をみないと、結果がわかりませんからね。でも私には状態異常を探ることができます。「乾燥に強い」ことを「異常」とみなせば簡単でした。


 植物魔法はこの世界の人たちに、成長促進や操ったりしかできない、ハズレ魔法と思われています。しかしその神髄は品種改良にあるのです。いちから作れないこともないですが、人食い植物とか出来ちゃったら、恐いじゃないですか。


「侯爵様。エンディアから国境までの荒野と砂漠で活動する、許可をいただけませんか?」

「何をする気だ?」


 にっこりと微笑んでみせます。父はじっと私を見つめたまま、動きません。


「砂漠の拡大を止めたいとは思いませんか?」


 父が眉をひそめました。カーライルの真意を量りかねているようです。


 植物採集自体は、店に慣れて余裕ができた2年前からずっと続けています。雑草と引き換えに、パンを与える。カーライルに張り付いていた監視も、どう報告していいか悩んだでしょうね。一見、慈善事業にみえますから。


 慈善事業に見えても、私にも利益があることです。メンタリストな父には、悪巧みしている人間の気配がするのでしょう。

 利益と言っても、追放後のガンガーラで生きていくための布石ですけど。今、余裕がある間に、乾燥に強い植物を作って保管しておけば、あちらで生活していくのに役立つと思うのです。

 父は諦めたようにため息をつきました。


「いいだろう。ただし、監視は付けさせていただく。金も出さぬ」

「かまいません」


 ホクホクと昼食を再開します。

 実はどうやって話を持っていこうか悩んでいたんですよね。だって、ついに、ついに! 1月ほど前ですが、乾燥に強くて食べられる実のなる植物を見つけたのですよ! この世界では酸っぱくて、かつ強いえぐみの為に好んで食べる人がいなかった、マンゴーもどきです。味の方はどげんかせんといかん状態でしたが、それも改良済みです。後は栽培するのみ!

 お腹いっぱい食べるのが、待ちきれないです。

 まだ私を観察していた父は、再びため息をつきました。


「カーライル殿、申し訳ない。いつもの薬をくれぬか?」

「はい。どうぞ」


 話題を変えることにしたようです。言われると思って用意していた瓶を手渡しました。


「どこか行かれるのですか?」

「王都だ」


 長旅ですね。王都までは馬車で片道1週間くらいかかります。渡したポーションの作用時間は長くとも1日。足りないですね。


「あとで店に寄っていただければ、必要な分お渡ししますよ」

「悪いな」


 この3年で判明した父の弱点、それは乗り物酔いです。体調が優れないと、馬車どころか馬に乗っても酔うらしい。

 乗り物酔いの気持ち悪さを思い出してしまったようで、父が渋面で食事の手を止めます。思わず笑いそうになって、美味しいパンが喉につまりかけました。






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