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続・残滓の浴


 上機嫌ではしゃぎながら、色や柄、微妙に形が異なる水着を「なんちゃら以下略」を多用して、ひたすら着替え続け。さらに「ぐらびあぽぉず(グラビアポーズ)」と言うらしい、際どい体位でもって私の精神を乱しまくってくれたカーラは、結局、始めに身につけた黒の水着に決めたようだ。

 簡素に見えるが、彼女のとても魅惑的だと評される曲線をこれでもかと強調し、かつ近く寄れば繊細なレースによって装飾されているとわかる生地が、妖艶さを演出している。


 つまり。

 私の精神は今も乱されていると言うことだ。


「っしゃあ! 私の勝ちですね!」


 豊満な胸部をたゆんたゆんさせながら走るカーラは、その情欲をそそる姿態とは裏腹に、俊足だ。

 そんな彼女に、慣れた犬の姿ではない、見目を優先させた人の姿で追う私が追いつけるはずもなく。砂地に刺された(はた)は、1歩先を行っていたカーラの手の中に、あっさりと納まった。

 走り抜けつつ旗を引き抜き、くるりと振り返った彼女の、満面の笑顔が眩しい。

 この笑顔の為ならば「びぃちふらっぐ(ビーチフラッグ)」なる競技で愛する者に負けて、情けなさに己の矜持が傷ついたとしても悔いは無い。ある、はずが、無い。


「ふぉっ?!」


 私をその瞳に収め、後ろ向きに歩を進めて勢いを殺していたカーラが、砂に足を取られて後ろ向きに倒れかけた。私は慌てて手を伸ばし、彼女の腕を掴む。

 まではよかったが、自身の勢いを殺し切れていなかった私はたたら(・・・)を踏み、彼女もろともに砂の上へ倒れ込んだ。


「ひきゃんっ!」


 尻もちをついたカーラを潰さないように苦心し、倒れ込む過程でどうしても押し倒してしまう、彼女の頭部を保護した結果。

 私は彼女をまたいだ状態で、その頭を胸に抱き、顔から砂へ突っ込んだ。


『・・・・・・』

「お、オニキス! 大丈夫ですか?!」


 痛みはない。

 この体には痛覚がないため、顔が砂へめり込んだところで痛みはないのだ。


 だが、しかし。

 精神生命体である以上、精神の影響は多分に受けてしまう。非常に無様な姿勢で、かつ自分の顔全体に砂が張り付いていると分かっているだけに、本体がどんよりと重く痛い。

 顔を上げたくない。


 腕の中で暴れるカーラをそのままにして、全く動こうとしない私をどう思ったのか。カーラは私の背へ手を伸ばし、優しく撫で下ろし始めた。


 今の私は、カーラが作り出した膝上までの、ゆったりとしていて黒い水着を穿いている。当然ながら上半身は裸だ。よって素肌に直接触れるカーラの、そのてのひらの柔らかさまではっきりと感じることができる。

 痛覚はなくとも、必須であった触覚は抜かりなく付与してあるので、体を撫でられるのは非常に心地が良い。このまま堪能していたいところではあるが、いつまでも無様な姿勢でいることは、かなり苦痛である。

 どうしたものかと思案した私は、顔の砂を落としつつ、気分も変えられるいい手を思いついた。


『息を止めろ』

「え? はい?」


 カーラが戸惑いつつも息を止めたことを確認し、私は水深が腰あたりまである海中へと転移した。

 驚いてもがく(・・・)カーラを腕の中から解放し、彼女が無事に水面から頭を出した事を確認して、自身の顔の砂を落とす。海底へ足裏を付けて立ち上がれば、簡単に上半身が海上へ出た。

 顔に張り付く髪をかき上げ、先に立ち上がったはずのカーラを見下ろすと、目が合った彼女は何故か、軽く欲情していた。


 どこがどう気にいったのか、よくわからない。「水も滴るてらいけめんきゅんしおつ」とは何か。


 だが、まあ。間抜けづらを見られることなく、気分を変えられた上、カーラに秋波を向けられている。この状況に乗らない手はない。


『カーラ』


 近付いて彼女の頬へ手を添えれば、それへすり寄ったカーラが目を閉じる。もう一方の手を細い腰へ回し、ぐっと引き寄せると、カーラが唇を薄く開けて顔を上げた。


「・・・んっ・・・はぁぅ・・・」


 始めは軽く。徐々に深く。

 唇を合わせ、やわく吸い、開いた彼女の口内へ誘い込まれるままに舌を差し込む。負けじと押し返してきた彼女の舌を絡め取って愛撫したら、軽く舌を噛まれた。

 勿論、カーラに攻撃の意思はなく、ただ主導権を握りたいがための悪戯である。私はそのまま、彼女の狭い歯の隙間を利用して、私の舌をしごくように出し入れして見せた。

 思惑通りの行為を連想したカーラが絶句し、赤面して、反抗的だった彼女の口から力が抜ける。その隙に深く舌をねじ込んで甘い口内を蹂躙すれば、彼女は潤んだ紫紺の瞳をまぶたで半分隠し、力を抜いて私へ体を預けてきた。


「んぅ・・・ふぁ・・・」


 口付けと共に送り込んだ唾液同じくして、カーラの快感も溜まっていく。抵抗を止めて、素直に享受する彼女のそれに呼応して、私の快感も背筋を這い上がるようにして膨れていった。

 無意識にカーラの腰を撫でていた手が、布地に触れる。その縁を辿たどり、別の指であばら骨をなぞれば、私へ胸を押し付けるようにして震えたカーラの背が、きつい曲線を描いた。後方へ突き出され、誘うように揺れる臀部が、水中にあるせいではっきり見えないのは残念だ。


『カーラ』


 唇を離して、とろりとしたカーラの瞳を覗き込む。

 息苦しさに酸素を求めた彼女が、口で息をするために、薄く空いていた口を閉じて溜まっていた唾液を飲み込んだ。華奢な喉元が上下した後、再び開いた唇から、深く熱い吐息が漏れ出る。

 カーラの口内が空であるという事実に、征服欲が満たされたことを自覚した。私の精神が、いつになく高揚しているのがわかる。


 まずいな。焼き切れてしまわないだろうか。

 

 そんな心配が頭をかすめたが、ここでやめて我慢する事なんて無理だ。

 私はまた、彼女の甘さを求めて顔を寄せ―――。




 ―――かけたところで、カーラの背後に水しぶきが上がった。


「ぷえっ?! なになに?! 何なの?!」


 カーラが慌ててそちらを向く間に、それが旧知の気配を持っていて、危険はない事。そして甘い雰囲気をぶった切って、確実に邪魔をしてくれる、忌々しい人間であることを悟った。


「・・・え? あれ? クラウド?」

「カーラさっ?!」


 ところどころ破れた従者服をぐっしょり濡らして、どろどろに蕩けきった笑みでもって喜びを表現していたクラウドが、次の瞬間、両手で口元を押さえ、眉間に皺を寄せて咳き込んだ。


「んぐっ・・・ぐはぁっ!」

「き、きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大量の血を吐いたクラウドに動揺したカーラが、念願の形で悲鳴を上げた。

 その隙に倒れるようにして、海中へ姿を消そうとする、クラウド。


 冷静であったならカーラも、ほとんど半裸状態であることに羞恥心を覚えたはずなのだが、いかんせんその格好で私とほぼ1日過ごして麻痺していたのと、目の前でクラウドが血を吐いたという恐慌状態に陥ったせいであろう。慌てて、助け起こそうと近寄っていく。

 海中でゴボゴボしているクラウドへ、差し伸べられたカーラの手を、私は掴んで押しとどめた。

 こちらを勢いよく振り向いた彼女が、非難の視線を向けてきたので、私はくだらない事実を伝えるために口を開いた。


『カーラ、大丈夫だ。クラウドのあれは―――』

「夢」


 あれは吐血したのではなく、すすり切れなかった鼻血が口から出ただけだ。


 と、続けようとした私に向かって、水中で痕跡を消し去ってきたクラウドが、海水を滴らせながらいつものすまし顔で呟いた。どういう意味だと睨み付けつついぶかしめば、私とクラウドを往復するカーラの視線が逸れた合間を狙い、厭味に笑いながら声を出すことなく、口を動かした。


(「カーラ様の夢。毎晩のように悪戯してますよね?」)

『っっ!!!』


 こいつ!


 そうだった!

 クラウドは精神がいびつで不安定でも、能力は高いんだった!


 現に、あちらの世界にいる「狂乱」から分からぬよう、施された偽装は完璧だ。

 それも存在を隠すのではなく、他の色彩に成りすまし、そうする事によって力の消費も抑えている所が小賢しい。ただし、案を提供したとしても、実行出来たのはモリオンだな。


 その功労者であるモリオンは、1度で跳べない長距離を、休眠から覚めるたびに何度も跳ばされた影響だろう。いつもより深い休眠状態に陥っている。

 不憫な。

 

「申し訳ございません。取り乱しました。大丈夫です」


 嘘をつけ。水中で窮屈だと主張している下半身は、微塵も大丈夫ではないだろうが。


 胸に手を当て、何事も無かったかのように礼をしたクラウドを、カーラが唖然として見上げている。クラウドはというと、そんなカーラを見返しているようで、微妙に焦点をずらしていた。


 今のカーラは、ほぼ裸に近い姿だからな。クラウドの強靭な理性と、従者としての矜持を以ってしても、余りある刺激に耐えられないのだろう。

 クラウドはカーラの心配そうな視線を受けながら暫く、すまし顔に油汗をかいて、本能にあらがっていた。

 が、ついに―――。


「も・・・無理・・・」


 鼻血を吹いて倒れた。


 カーラを血で染めぬよう、身をひねった努力は認めよう。


 だが、カーラの胸の中へ倒れ込むことは許さん。


 私はクラウドの後頭部がカーラに触れる直前、強制的に水上こてぇじ(コテージ)の1室へ転移させた。

 作りたくはなかったが、絶対についてくるだろうし、従者としては優秀な方なので、カーラの生活が楽になるなら仕方がないと用意した、クラウドの私室だ。早々に汚さないよう、服を乾かし、血液を除去した上でベッドへ転移してやったのだから、感謝するがいい。


 クラウドの気配を追って、カーラがそちらへ転移する。頭に血が上りきって完全に気を失っているので、これ以上の惨事は起きないと思う。しかし目を覚ます前に、カーラを着替えさせた方がいいだろう。


 カーラとの蜜月へ邪魔が入ったことに不快感を覚えつつ、どこかで安堵している部分もあって、私の精神が揺れている。

 そうだ。焦るから精神が焼き切れかけて、溶けるのだ。ゆっくり、じっくり行こう。


 私は気分を変えるためにふんすと息を吐いて、カーラの元へ転移したのだった。

 




暑い日が続きますね!

皆さま体調に気を付けてお過ごしください。


全く別のお話ですが

異世界トリップものを書いてみました。

よろしければそちらも読んでみてやってくださいませ!

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