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難民キャンプに行きましょう!

 さて、この難民キャンプを訪れるのも、4回目となりました。おそらく今日で、全員一通り治療したことになると思います。あとは自力でなんとかしていただきましょう。私は慈善事業をしているわけではないですからね。そろそろ商人が釣れるといいな。

 モリオンと契約したクラウドですが、残念ながら即戦力にはなりませんでした。存在する物の形を変えることができても、目前に無い物を生み出すことができないのです。モリオンはできるので、問題は想像力なのでしょう。練習あるのみです。


「さぁ、サクサクいきますよ!」


 すでに難民の皆様が列を成しています。今回も鞄から水の入った瓶を取りだし、必要な条件を付与して渡していきます。あ、ちゃんと瓶は再利用前に滅菌しましたからね!


「カーラ・・・イル様、少しよろしいですか?」


 あと数人という頃に、後ろに控えていたクラウドに声をかけられました。振り返ると、彼はエンディアの方を視線で示します。その視線の先に、エンディアの南門から出てくる何か?がいました。


「先日の護衛たちです。見知らぬ方もいますが・・・商人でしょうか」


 マサイ族と張り合えそうな視力ですね。私には点にしか見えませんよ。いろいろ突っ込まれても面倒なので、彼らが来る前に治療を終わらせてしまいましょう。


「この方で最後です」


 チェリが連れてきた最後の難民に瓶を手渡します。先ほどの一団は、なんとなく顔が判別できる距離にいました。


「ひぃっ!」


 動きを止めた、というか動けなくなった私を心配して、オニキスが足元にすり寄ってきました。


『どうした?』


 ああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!

 ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバいヨ。ヤバいデスよ。思っていたより大物が釣れてしまいました。

 なんでここにいるのですか? なんで徒歩なんですか? せめて騎乗しているべきだと思うんです! どうして馬車に乗ってないんですか?! 気付くのが遅れて、逃げられないではないですか!


「大丈夫ですか?」


 慌てて空瓶を鞄へ放り込む私を、チェリが心配そうに覗き込みました。言葉にしたいのですが、焦りのあまり声が出ません。


『どこかへ飛ばすか?』


 いやいやいや! やめてください!!

 私たちが転移するのも駄目です! 距離が近すぎます!!


『カーラの父であろう? 何を焦っている?』


 そう! 父です!! テトラディル侯爵なのです!!!

 オニキス、気付いていたんですか?! 害はないですけど、ないですけど! 教えて欲しかった!!


 はっ。とりあえずクラウドとチェリに認識阻害をかけてください。暫定とはいえ、私の侍女と従者がここにいるのは不味いです。

 モリオンに伝え聞いたのか、クラウドの顔が強張りました。そしてチェリにそっと耳打ちします。チェリの顔も強張りました。


「クラウドとチェリは、ここで父に顔を覚えられると困ります。あなたたちの茜色の瞳は目立ちますからね。認識阻害はかけましたが、念のため気付かれないように難民に紛れてください」


 周りに聞こえないよう、小声で話します。

 先に帰らせようにも、モリオンはまだ転移を練習中ですし、オニキスは対象が見えるところにいないと転移させられません。今、オニキスに私から離れてほしくないですし、隠れてもらうしかありません。

 どうしよう。どうしよう。焦りすぎて思考が空回りしています。


『落ち着け、カーラ』


 とりあえず、深呼吸します。

 よし。もしもの時は「カーライル」とポーション販売をあきらめて、とんずらしましょう!


『大丈夫か? その時は我を見て頷け』


 意を決して、テトラディル侯爵とその御一行に、体を向けます。こわばりそうになる顔に、営業スマイルを張り付けました。


「貴殿がカーライルか?」


 父の従者が問います。跪こうか迷った挙句、右手を胸に当てて頭を下げる、略式の礼にとどめました。あちらが名乗ったら、跪こうと思います。

 

「はい。私がカーライルです」


 油断すると引きつりそうになる顔を叱咤し、不自然でない程度に口角を上げます。


「この薬を配っているのは貴殿か?」


 クラウドが護衛に渡した瓶を差し出されました。確かに、私が作ったものです。


「はい。そうです」


 悪いことをした覚えはないので、堂々としていればいいのですが、前世でパトカーを見た時のように無駄に緊張してしまいます。早く、本題に入ってほしい。


「何か問題でもありましたか?」


 問題なんてあるはずがありません。該当する状態異常がないものが飲んだら、ただの水ですからね。


「いや、問題はない。作ったのも貴殿か?」


 それは企業秘密です。

 というか、恐ろしいことをサラッと聞きましたね。NOならどこで手に入れたか聞かれるだけですけど、入手先は自分なので聞かれても困ります。YESなら光教会に目を付けられること間違いなし。最悪、暗殺されるかもしれません。答えないがファイナルアンサーです。

 営業スマイルのまま口を閉ざします。


「言わぬのか、言えぬのか・・・」


 父がぶつぶつ言っています。は・や・く! 本題プリーズ!!

 そういえば名乗ったのに、名乗られていません。どちら様ですかと問うような視線を、父に向けてみました。


「これは失礼した。私はマーティン・テトラディル。このテトラディル領を治める侯爵だ」


 驚いた表情からの流れるような平伏。うまく驚きの表情が作れたか不安だったので、とっとと顔を隠しました。


「侯爵様とは存じませんでした。申し訳ございません」

「よい。顔をあげよ」


 不安そうな顔をしてみます。実際、不安なんですけどね。


「そう警戒せずともよい。悪いようにはしない。カーライル殿、少し時間をくれぬか?」


 あー。もうすぐお昼の時間なのです。

 嫌です。と言いたいところですが、いつの間にか護衛たちがさりげなく私の退路を断っています。仕方がない。腹をくくりましょう。


「はい、かまいません。お供致します」


 これから町へ移動するみたいです。その間に兄妹には屋敷へ帰ってもらって、カーラのアリバイを作っていただきます。チェリなら上手く誤魔化してくれるでしょう。モリオンもいますし。

 オニキスが心配そうに、こちらを見上げています。大丈夫ですよ。逆らわなければ、危害を加えられる事はないでしょう。心配なら傷害無効でも付与していってください。


『わかった。すぐ戻る』


 すっと消えたオニキスを見送り、私は大人しくドナドナされました。


 



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