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第一話

 なんでこんな容姿に生まれたんだろう……。歩くたびに肉が揺れ、全身から汗が吹き出てくる。自分の顔が、見るに堪えないひどい表情をしていることは鏡を見なくても自覚できる。何度ダイエットしようが少しも痩せなかった体であり、おそらくはこれかもスリムになることはないだろう。

 そんな肉団子もとい佐藤は、学校を終え、顔を伏せたまま通学路を通り帰宅の途についていた。自らの容姿は底辺といっても過言ではなく、底を突き抜けてしまうほどであることを自覚している佐藤は、下校途中で街を歩く今も周りからの視線を気にしてしまい、前を向くことすらできない。それは、視線を合わし、侮蔑の感情を向けられることが怖いからである。


 昔からそうだ。幼稚園ではじゃがいもと言われ、ころころと転がされて遊ばれて、小学校低学年では、覚えたての悪口をすべて浴び、小学校高学年でいじめはエスカレートし、佐藤菌などというわけのわからない病原菌にされ、中学では蹴る殴るの暴力が日常茶飯事となった。

 高校に入学して早一か月。偏差値57というそこそこな高校に入学したこともあり、直接的ないじめは受けなくなったが、誰からも話しかけられたことがなく、空気のような存在として学校生活を送っていた。

 これまでは母に余計な気を使わせたくないことから、いじめにも負けずに登校し続けたが、高校生活でこれから空気として残り3年間を過ごすことを考えると、本当に自分が空気になって消えてし、学校に通えなくなるのではないかと不安に駆られてくる。

 自らの今後をどのように過ごすかの計画を考えていると自宅が見えてきた。よくある二階建ての一軒家である。両親が共働きで、かぎっ子でもある佐藤は、財布に入れている鍵を取り出し、家の中に入る。


「ふぅ……。」

 一日の疲れがどっと押し寄せ、また、安全地帯に帰ってきたことから安堵する。一息ついて、そのまま二階の自室に向かい、ベッドへと身を投げる。


「あと2年11か月か……。」

 うつ伏せになり、先のことを考えると、自然と涙があふれ出て枕に顔を埋める。


「一度でいいからイケメンになりたいな。」

 心の底から出た言葉だった。


------イケメンになりたい


 その言葉は自らを否定することになるので、これまでの人生でどんなに辛くても、その言葉を発しはしなかった。しかし、15年掛けて心の底に根付いた願望が自然と出てしまったのだ。

 堰を切ったように涙が溢れてくる。自らの容姿を何度嘆いた事だろう。生んでくれた両親に対して、自らの存在を否定する言葉を何度投げかけたことだろう。佐藤の心はすでに限界だった。

 涙を流し切ると急に睡魔が襲ってくる。このまま寝よう。

 そう考え、瞼を閉じた。


 この時はまだ佐藤は知らなかった。

イケメンになりたい、この言葉を発した瞬間に、夕方にも関わらずに、大きな流れ星が流れたことを。


 そして、その願いが、叶うことを。


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