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暴君

駅伝以降、柿崎とは友達になれた。

そして、生徒会のメンバー。

みんなには感謝してもしきれない。

このつながりは僕の宝だ。


クラスでは相変わらず、中々なじめないでいたが、それでも不満はなかった。

霧島は僕に絡まなくなった。

何と言うか、興味がなくなったって感じに近いかな。

だがある日、とんでもないものを見てしまった……


皇帝室で今後の行事の取り決めが終わって、クラスに戻って来た時だった。

時間は6時ごろだ。

誰もいない教室にひとり、生徒が残っていた。


(あれ?まだ残ってる……)


確か名前は闇木倫(やみきりん)

なぜかずっと窓の外を眺めている。

僕は気にせず荷物を取って帰ろうとした。

だがその時、心臓が跳ね上がる思いがした。

闇木が窓に足をかけたのだ。


「えっ」


思わず上げた声に反応し、闇木はこちらを見た。

そして、勢いよく駆け出してクラスを出ていく。


「まって!」


僕は闇木を追いかけて、捕まえた。


「飛び降りようとしたの!?」


闇木はその場で崩れ、ボロボロと涙をこぼしはじめた。

ぐっ、といううめき声が漏れる。

僕はなぜ闇木がそんなことをしたのか、それを聞いてみることにした。

しばらく涙をこらえ、話せないでいた闇木だったが、だんだん落ち着いてきた。

そして、いきさつを話し始めた。


闇木は霧島にターゲットにされていたのだ。

万引きを手伝わされたり、ボクシングの練習台にされたり、そんな目にあっていたそうだ。

それがエスカレートし、とうとう金を持ってこいと脅され、親のサイフから2万を抜き取って渡してしまったらしい。

闇木はその罪悪感に駆られて家に帰れず、ここでケガをすればうやむやになるかも知れないと思い、あんな行動に出たとのことだ。


「……」


僕はショックだった。

そんなことがあっていいのだろうか。

あまりにも残酷だと思った。

闇木は大人しい感じで、僕に似ていた。

目を合わせて話すことができない。

時折、ボソボソと何を言っているのか分からないしゃべり方。

全部、自分への自信のなさからきているんだ。


「闇木、これ受け取れよ。僕の一番大切なものだ」


僕は皇帝の証のネックレスを闇木に渡していた。


帰り際、ビショップに報告するためスマホで連絡を取ると、下校途中だったが、駅前の喫茶店で待っていてくれるとのことだった。

僕はダッシュで帰り道を進み、約束の喫茶店に入った。

ビショップはカウンターに座っていた。

2人で並び、僕はアイスコーヒーを注文した。


「ふー、何で相談しないで勝手にそんなことしたの?」


いつになく咎める口調でビショップは言った。


「皇帝の地位を譲渡したら、あなたはもう私たちとは接してはいけない決まりになってる。コードネームのことや、皇帝に関することも口にしてはダメ。それが絶対の掟なの。私とあなたがこうやって話せるのは校舎の外限定になってしまった」


「ごめんなさい……」


「とにかく、こうなった以上、私たちは闇木君を皇帝として立てていかなければならない。あなたは部外者になってしまった。何があっても学校の中ではあなたのことは無視しなければならないから、それは覚悟しておいて」


僕は飲みかけのコーヒーを見つめる。

親に怒られて反論できなくなった子供みたいに、シュンとしてしまった。

しかし、僕は生徒会のメンバーのことが好きだった。

このまま終わりにしたくない。


「じゃあ、ビショップの本名教えてよ。本名で呼べば、振り向いてくれるでしょ?」


「……高峰真理(たかみねまり)よ」


「高峰さん」


なんか照れ臭い感じがした。


「困ったことがあったら、クイーンを探して。それが唯一の手段だから。私も正体は知らないけど、ネックレスをしているハズ」


高峰さんは、最後にそんな言葉を残して、喫茶店を後にした。


「って、お金僕が払うの!?」


僕は生徒会のメンバーと関わることもなく、6月を迎えた。

あれは夢だったのか?

そんな風にさえ思えた。

事件が起きたのはその日の学活だ。


「このクラスで急遽中間テストが行われることになった。そして、一つでも赤点を取ったものは退学となる」


担任がそう言った瞬間、教室内は凍り付き、徐々にざわめきが起こり始めた。


「うそだろ……」

「え、退学って……」


赤点を取ったら退学、これはどう考えても行き過ぎている。

さすがの僕でも、ヘタをうたなければ赤点は中々ないが、それでもありえない。

ふと前を向くと、眠っていた霧島が起きていた。

そして、小刻みに背中を震わせている。

ガタガタ、と音まで聞こえてきそうだ。

霧島は明らかに動揺していた。


(闇木のやつ……)


僕は放課後、闇木を問い詰めるため、校舎の裏に呼び出した。


「闇木、赤点取ったら退学って、やりすぎだろ」


すると、闇木はクックと笑い始めた。


「むかつくんだよ。どいつもこいつも。すれ違うやつも、みんな、ぶっ殺してやりたい気分だった」


スラスラと出てきた言葉には、狂気が込められていた。


「ふざけんなっ」


「だけど、妥協してやった。俺は暴君になってやる」


僕は闇木にとびかかろうとしたが、


「やめとけよ。もし俺のことを殴ったら、すぐに報告してやる。あっという間にお前も退学だ」


そう言って、闇木は去っていった。

一番渡してはいけないやつに、皇帝の地位を渡してしまった。

僕はすぐにそのことに気が付いた。





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