駅伝大会の結末
5月13日、体育祭(駅伝)当日。
僕は「チーム生徒会」のメンバーと共に円陣を組んでいた。
「緊張するなぁ」
そう言ったのは一番手のナイトである。
しかし、ナイトも1か月の訓練で、10キロを走破できるほどの体力は身についていた。
そんな僕はと言うと、妙にすがすがしい気分だった。
緊張はないと言えば嘘になるが、やれるだけのことはした。
はっきり言って、自信はある。
こんな気持ちは生まれて初めてかもしれない。
「皇帝、いい顔してますね」
そう言ったのはポーンだ。
「そ、そうかな?」
ちょっと照れ臭くなり、そう返事をした。
「みんな、自信を持って、絶対に一位を取るのよ。ナイト、ルーク、ポーン、あなたたちで皇帝が有利になるよう、圧倒的リードを作るのよ」
「おうよ!」
「了解!」
ルーク、ポーンが勢いよく返事をする。
「頑張るよ、皇帝」
ちょっと控えめにナイトが答えたが、それでも泣きそうなほど嬉しかった。
そして、僕たちはコースに向かった。
ナイトができるだけ前の方に陣取る。
当然のことだが、後ろにいるより前の方が有利だ。
僕と、他の2人はコースの外でスタートを見守る。
ひしめき合う開始位置。
そして、パアン!と合図が鳴った。
ナイトの懸命の走りもあり、序盤は先頭集団に食らいついた。
作戦では、ここでできるだけ離されないようにし、ルークとポーンで一気に引き離す。
先頭集団は陸上部、野球部、サッカー部といった体育会系集団に占拠されていたが、その中で演劇部のナイトが奮闘するという異例の事態だ。
「頑張れーっ」
僕は思わず声を張っていた。
そして、先頭集団の後方、やや遅れてナイトが戻って来た。
「はあっ、はあっ」
「よくやった!」
とルークがバトンを受け取り、猛スピードで戦闘集団に食い込んでいった。
無駄のないランニングフォームで、一気に追い上げ、追い越す。
先頭から飛び出して、そのまま独走態勢に入った。
しかし、それを機と見て、ペースアップを図る生徒が出てきた。
陸上部の長距離のエース、村上疾風だ。
「出てきやがったか!」
村上とルークはほぼ互角の走りを見せた。
そして、ややルークの方が早く、ポーンにバトンを渡した。
「ぜえっ、ぜえっ」
ルークはゴールすると同時に倒れ込んだ。
ポーンと陸上部が接戦を繰り広げる中、ノーマークのテニス部が追い上げてきた。
そして、3人が一線に並ぶ。
次の走者まであと1キロ程度か。
僕は開始線の前に立った。
そして、隣にいる2人を見た。
ほんとに、誰が仕組んだのだろうか。
霧島がアドレナリン全開で、バトンを待っている。
「こいやあああああああああ!」
そしてもう1人は、柿崎だった。
僕は無意識のうちに霧島を通り越して柿崎の方を見ていた。
向こうも何か言いたげにこちらを見た。
「お前か、張り合いないな」
そんなことを思ってるのかも知れない。
でもこれで勝って対等になるんだ。
そして、あの時言えなかったことを、言ってやる!
バトンが到達したのはほぼ同時だった。
だが僕が一歩前に出た。
ノールックでバトンを受け取り、ロスが生じなかったためだ。
「!?」
他の2人も目を見張る。
こいつにこんなテクが!、と言いたげな感じだ。
霧島が熱くなり、勢いよく前に出る。
だが、長距離は熱くなった方が負けだ。
体力の全てを走ることに回さなければいけない競技のため、ああやって感情を高ぶらせて走ればあっと言う間にバテるだろう。
よって、相手は霧島ではなく、すぐ後ろで機を伺っている柿崎だ。
柿崎は僕のすぐ後ろについている。
僕で風をガードし、ゴール間際で温存した走りで一気に勝負を決めるつもりのようだ。
(スリップストリームだ)
そんな言葉が頭をよぎった。
このままでは柿崎の狙い通りになってしまう。
ピッタリと後ろを走っている。
何か手を打たねば……
僕はペースを上げた。
タフネスで体力が底上げされていることに賭けたのだ。
徐々に差が生まれる。
「ぐっ、はあっ、」
しかし、これは明らかなオーバーペース。
しかもまだ2キロを残している状況だ。
とっくに霧島はリタイアし、僕と柿崎の2人での優勝争いだ。
だが、気持ちが折れるのが先か……
もう走りたくない。
死んじゃうよ……
これ以上走ったら死んじゃう!!
その時だった。
「皇帝!頑張れーーーっ!」
死、という言葉で頭が埋まりそうな時、力が底から沸き起こるような感覚。
ビショップ、ルーク、ナイト、ポーン、
みんなが力をくれた。
「うおおおおおああああああっ」
僕は叫びながら走った。
「はあっ……はあっ……」
僕はゴール地点で仰向けに倒れていた。
横には柿崎もいる。
勝ったのか?……
僕は立ち上がり、柿崎に手を貸した。
柿崎はそれを受け取り、立ち上がる。
そしてこう言った。
「一緒に、帰んない?」
「……おう」
よわむし○ダルみたい?