新しいクラスでの災難
固有スキル、タフネスを覚えたが、元の体力が0に等しい僕にとっては、あまり意味がないように思えた。
それでも、基礎体力をつけるため、毎日走り込みをした。
そして春休みも終わり、気づけば4月を迎えた。
初登校の日、僕はほんの少し、テンションが高かった。
なぜなら、今から向かうクラスにはテストがないのだ。
恐らくそこに集う生徒も、優等生タイプは少ないに違いない。
学校に到着し、2階の4組に向かう。
「やっぱり少し緊張するよなぁ……」
帰りたい、という気持ちもある。
僕はやっぱり一人で、周りにはすでに1年からの友達同士でつるんでる者もいるだろう。
それでも、新しい出会いに期待を込め、扉を開けた。
教室には生徒がちらほら。
(意外と早く着いちゃったかな)
そう思い、黒板に張り出されている座席表を見る。
それに従い、右から2列目、後ろから2番目の席に着席する。
その後、生徒が入って来ては、席に着く。
だんだんと周りの席は埋まっていったが、僕の前がまだ空いている。
僕はこの前の席の生徒こそ、友達候補になりえるということを知っている。
次こそ絶対に、友達を作るんだ。
しかし、神様は僕に試練を与えた。
8時29分。
あと1分で学活が始まろうとしたその時だった。
ザワ……
クラスでざわめきが起きた。
金髪の坊主頭。
いかにもヤンキーといった風貌の生徒がクラスの中に入って来た。
そしてその生徒は、僕の前に座ったのである。
(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……)
僕の前に座った生徒は、1年の頃から札付きの悪で知られた生徒だった。
万引き、ケンカは日常茶飯事。
昼休みに、校舎の裏から聞いたウワサだ。
霧島錐斗、通称デッドスポット。
一部の者からはそう呼ばれ、恐れられていた。
最悪の事態である。
僕は学活での話の内容が一切頭に入ってこなかった。
ずっと嘘という単語で頭の中が埋め尽くされていた。
休憩中、僕はどうするか考えた。
(とにかく、今日は早く帰ろう)
今日を何とかやり過ごす。
それを目標にして、周りから気配を消す。
空気と一体化するのは得意中の得意だ。
しかし、
「お前さあ、何色気づいちゃってんの?」
「え?」
首を180度ひねって霧島は僕の方に振り向き、そう発した。
「ネックレスとかしてんじゃねえよ、貸せ」
しまった、と僕は思った。
最近つけたりはずしたりが面倒になり、つけっぱなしにしているのが普通になってしまっていたのだ。
ただのネックレスならいくらでもくれてやる。
だが、このネックレスだけは渡せなかった。
「あ、あの……すいません、外します」
僕は辛うじてそう言い、ネックレスを外そうとしたが、
「俺は貸せ、って言ったの。耳たぶ引きちぎっていい?」
といい、めちゃめちゃ強い力で耳たぶを引っ張って来た。
「い、痛いっ!痛いよおっ!」
僕は涙目になり、椅子から転倒した。
周りの者も僕に注意を向けたが、相手が霧島と知り、何も言えなかった。
「はい、お前俺の玩具けってーい」
思いっきりガン、ガンと足蹴を食らう。
そして、霧島は席に着いた。
よろめきながら、僕はどうにか自分の席に着席した。
帰り道、僕は憎悪と恐怖に駆られていた。
これから1年、あんな奴の玩具にされて過ごさなければならないのか……
初日に一気に地獄に叩き落され、何でこんな目に合わなきゃいけないんだ、という気持ちでいっぱいだった。
すると、帰り道にルークとばったり会った。
ルークは向こうからボクシング部の人らと一緒に走って来ていた。
「よう!新しいクラスはどうよ?」
「ル、ルークうううう」
僕はルークに擦り寄った。
「ど、どうした。わり、お前ら先行っててくれ」
ルークに今日あった出来事を説明した。
「霧島か、ああいうやつは弱いやつを嗅ぎ付けてストレスのはけ口にするからな。俺がぼこってもいいが、お前が一目置かれるようにならないと、解決しないぜ」
とルークは自販機でなっちゃんを選択しながらそう言った。
ガコン、とジュースが出てくる。
「一目置かれるって、どうすればいいの?テストもないしさ」
「駅伝があるじゃねえか」
僕ははっとした。
そうだ、駅伝があるじゃないか。
「そこで1位になりゃ、見せつけてやれるじゃねえか。霧島によ」
僕は駆け出していた。
「ありがとうルーク!」
公園に行って練習するつもりだった。
その日から、駅伝のために、僕は日々を耐え抜いた。
そして5月。
駅伝の日を迎える……