固有スキル
体育祭の内容が決定し、気づけばもう春休みに入ろうとしていた。
3月19日、このクラスで最後の登校日を迎えた。
結局1年の間で僕には友達ができなかった。
柿崎とは最後に話をしたかったが、僕の方が逃げるように帰ってきてしまった。
(あーあ、この一年はなんだったんだろう……)
昼前に学校が終わり、帰り道にそんなことを思った。
これから春休みに入るというのに、浮かれた気分にはなれなかった。
来年も、もしこのままずっと一人だとしたら、つまらなすぎる。
背中からさみしいオーラを放ちながら帰っていると、後ろから、バシッ!とはたかれた。
「って!誰?」
「辛気臭いわよ、皇帝」
それはビショップだった。
「あっ!ビショップ!」
「私と途中まで一緒に帰ろう。春休みの予定も伝えないといけないし」
僕は電車で、ビショップはバスで帰るとのことだった。
駅までは方角も一緒だった為、帰りの10分くらいの道のりを2人で歩いた。
「早速、春休みから駅伝のトレーニングを始めるわよ。明日10時に平成公園に集合。他のみんなにも伝えてるから、遅刻しないようにね」
「明日って、急だなあ」
「体育祭は5月よ。すぐに始めなきゃ、1位なんて狙えないわ」
そんな話をしていたらいつの間にか駅についた。
しかし、春休みにトレーニングか……
そんなに張り切らなくてもいいのに。
翌日、僕は8時に起きて、体操服を持って平成公園に向かった。
母親にも、休みの日に早起きなんてめずらしいじゃない!なんて言われてしまったが。
平成公園には、入り口に直結する駅がある。
駅から出てすぐの入り口の広場が待ち合わせ場所だ。
「皇帝!こっちこっち」
10時ちょうどに着くと、すでにみんな集まっており、僕が最後の一人だった。
ポーンが手招きしていたので、小走りで向かう。
300円の入場料を払い、中に入る。
向かうは体育祭で実際に走るコースだ。
途中、ビショップが説明する。
「これから走るコースは一周10キロで、体育祭では40キロをあなたたち4人で走破してもらうわ」
「4人って、ビショップは入ってないの?」
僕がそう聞くと、私は準備の方に回るから無理なの、と言われた。
芝の生えた木陰に集まり、みんな自前の体操服に着替える。
各々ストレッチをして体を温め、走る準備を整えた。
「じゃあ、まずはみんなどれくらい走れるのか、試しに一周してきて」
ビショップに促され、みな位置に着き、一斉に走り出す。
「ビリは罰ゲームで坊主にしない?」
ポーンが走りながらみんなに提案した。
「俺はボクシング部で走り込んでるから、ビリはないぜ」
ルークが言う。
「ちょっと待ってくれ、演劇部の僕が圧倒的にふりじゃないか!」
ナイトが変なフォームで走りながら言う。
確かにポーン、ルークに比べたら遅いだろう。
でも、帰宅部の僕もビリ候補なのを忘れちゃいけない。
ちなみにポーンは卓球部らしい。
2キロくらい走った時点で、1位はルーク。
2位、ポーン。
かなり離されて、3位のナイト。
僕はダントツのビリで、しかも息切れで死にそうだった。
「がっ、はあっ」
とうとう両手を地面について、走れなくなってしまった。
遠くでビショップがつぶやいた。
「まだまだね、皇帝」
走り込みのトレーニングの後は、ビショップ指導のもと、リレーのテクニック講座となった。
「コーナーはできるだけ内側を通って走るようにして。これは走行距離短縮と呼ばれるテクニックね。そして、バトンは、目視無し(ノールック)ができるようになるまで特訓よ」
そして、夕方になるまで特訓が行われた。
みな汗だくで疲れ果てていた。
そろそろ終わりかな、と思った時だった。
「みんな、帰っていいわ。皇帝だけ残って」
「おつかれっしたー」
僕とビショップを残した他の3人はそのまま帰っていった。
まだやるの!?と文句がのど元までせり上がる。
すると、
「あなたは私とこれから学校に行って、転職の手続きよ」
と得体の知れないセリフを口にした。
学校に到着すると、そのまま情報処理室に向かう。
この部屋には、20台ほどのパソコンが置かれていて、ワードやエクセルを学ぶために、時折授業で使う。
休み時間でも使えるみたいだが、授業以外では、僕は使ったことがなかった。
(一体、何をするんだろう?)
ビショップがパソコンを立ち上げる。
「学生証を貸して」
と言われたので、定期入れの中に入れてあった学生証を渡す。
ビショップは、カード読み取り端末に学生証をかざし、パスワードを入れて、と言われたので、それに従ってパスワードを入力した。
すると、僕の個人情報が出てきた。
「これをこうして……」
ビショップは、僕の職業欄の、学生、という文字を消し、ランナーに書き換えた。
「えええっ、何するの!?」
すると、固有スキルの欄に文字が浮き出てきた。
「タフネス、これを身に着けさせるためよ。この固有スキルがあると、体力が通常の1.2倍に増えるの」
突如現れた職業、スキルの話に困惑したが、
「あとでちゃんと戻してよね」
とだけ言っておいた。