二回目の会議
あれからアンケートを取って、例の特別クラスを作るかどうかが決められた。
結果的に、それを希望する生徒が複数いたため、議案は成立となった。
発案者の僕も(正確にはビショップだが)、そのクラスに入ることが決まった。
2年に上がる前に、まだ決めないといけないことがあったため、今日も皇帝室に呼び出された。
「はあ~、今日はサボりたいなあ……」
皇帝室に向かう足取りは重い。
自分がいなければ会議を始めることができないので、半ば強制参加だ。
この点が部活とかとは違う。
「失礼します」
校長先生はいなかった。
スイッチの本を引いて、本棚をスライドさせる。
ガチャリ、と僕はノブをひねって中に入った。
「まだ揃ってないね」
ポーンとルーク以外はまだ来ていない。
「ちょっと学活が長引いてるんだろ」
とルーク。
カバンを置いて椅子に座り、5分くらい経った時、ナイトが入って来た。
「お待たせ、ビショップがまだみたいだけど、始める?」
「とっとと決めて帰ろうぜ、今日の議題は体育祭をどうするか、だな」
「お、ルークが珍しく進行?」
ポーンが茶化す。
「うるせえな。俺は早く帰りたいだけだ。5分で決めちまおう」
勢いよくそう言ったはいいが、そこから発言するものはなく、シーンとなった。
時計の秒針が進む音まで聞こえてくる。
(どうしよう……僕が何か言わないといけないのかな)
すると、第一声を上げたのはポーンだった。
「皇帝はスポーツ得意?」
「に、苦手だけど……」
「そっかあ」
……再びシーンとする。
(会話終わっちゃったよ)
ルークはイライラしながら貧乏ゆすりをし、ポーンに至ってはスマホを取り出す始末だ。
ナイトは髪の毛をいじっている。
その時、救世主が現れた。
「何か決まった?」
ビショップである。
「いんや」
「全然」
「まだですね」
ルーク、ポーン、ナイトが揃って返事をした。
「やっぱりね。今日の議題は体育祭だったわね。で、皇帝、体育祭に関しては、どう思ってますか?」
「ど、どう思ってるって、うーん……あんまり乗り気じゃないです」
「体育祭をするかどうかから決めないといけないわね……」
と小声で言って、椅子に座る。
「今まで体育祭が無かったことなんてあるんですか?」
僕はビショップに尋ねてみた。
「体育祭を中止にしたっていうのは今まであまりないと思いますね。ただ、何年も前に一切の行事を廃止した年も1回だけあったかしら。でもそれだけですね」
やはりスポーツが苦手でも、それをなしにしてしまうのは僕の一存ではできないと思った。
それを楽しみにしてる生徒もいるだろうし、それをしたら音楽のテストで逃げた時と変わらない。
「体育祭はあってもいいと思います。でも、普通の体育祭じゃ面白くない……多分それじゃ僕は活躍できないと思うから」
最後の言葉は思わず口から出た。
ビショップにそう提案したら、なんでも叶えてくれる。
そんな信頼があったのかもしれない。
「では何をするかですね。皇帝が得意なことを競技内容にしてしまうのが手っ取り早いですが、時間の制約がある以上、できる競技は限られますね」
するとルークが割って入って来た。
「俺だったら腕相撲トーナメントにしたいところだが、それじゃ日が暮れちまう。そういうことだな」
謎の例えに一瞬ひるんだが、まあそういうことだろう。
「皇帝は何か得意なスポーツ等はありますか?」
ビショップの問いに、僕は頭を悩ませた。
スポーツと言えば球技だが、僕はドリブルができない。
そして、テニスなどラケットを使うものもやったことがない。
泳ぎもダメ。
運動なんて、走ること以外できないんじゃないだろうか。
「得意じゃないですけど、走ることはできます……」
「なるほど。ある程度情報が出そろったのでまとめます。ポーン、書記頼んだわよ」
そういうと、ポーンは了解、と返事をした。
「まず、体育祭は実施する。そして、走る競技で皇帝が勝てる形を用意する、ですね。ナイト、何かあるかしら?」
ビショップに振られ、ようやく会話に参加できると喜んだナイトは立ち上がり、例を挙げ始めた。
「コホン、えー、短距離、中距離、マラソン、ハードル、リレー、障害物競争、などでしょうか」
「そうね、その中で私が勧めたいのはリレー。全校生徒をシャッフルしてチームを編成し、近くの平成公園でみなで実施する」
「駅伝か!」
ルークが叫んだ。
「そう、私たちが皇帝と一緒のチームになって、1位を奪取するの。圧倒的リードを作って、最後に皇帝をアンカーにして、ゴールしてもらう。これなら、皇帝一人の力が足りなくても何とかなるし、この上ない自信につながるわ」
「ぼ、僕それやってみたい!」
こうして、体育祭の内容も決定した。
腕相撲トーナメントってなんだ