エンディング
7月になり、いよいよ夏休みも近づいてきた。
しかし、一つ気になることがあった。
あれから闇木は学校に来なくなってしまったのである。
このクラスは出席がすべてと言っても過言ではない為、ほぼ100パーセントの生徒が毎日来ている。
唯一、一番後ろの角の席だけが埋まっていなかった。
1時間目の数学の授業。
カカカッとチョークで微分積分の公式が黒板に書きだされていた。
みんなそれをノートに書き写していく。
さっぱり理解できない公式を書きながら、だんだんと頭の働きが鈍っていった。
そのまどろみの中で、僕は無意識に闇木のことを考えていた。
最後にあったのは地下だ。
あいつはみんなを地下に幽閉するつもりだった。
何でそんなことができるのか?
そんなことをして、罪悪感にかられはしないのか、と思った。
闇木は本当に何も感じないやつだったのか?
記憶を遡っていくと、ある出来事が思い出された。
それは、最初に会った時だ。
闇木は窓から飛び降りようとしていて、僕がそれを止めた。
そして、飛び降りようとした理由を聞いた…
その時、僕ははっとした。
闇木は、両親のサイフからお金を盗んだ罪悪感から、飛び降りようとしたんだ。
闇木にも、そういう感情はあったんだ。
それに気づいて思わず僕はガタッ!と席を立ってしまった。
「あったんだ!」
と授業中なのに、一人で叫び声を上げた。
「屑木君、夢の中でワン○ースでも見つけたのかな?」
先生にそう言われ、睨み付けられる。
「す、すみません」
めちゃくちゃ恥ずかしい気持ちで、急いで席に着いた。
周りの生徒たちにも笑われてしまった……
うるせーな屑木、と目を覚ました霧島はそう言って、また眠りについた。
暗く、どんよりと濁った空気の中に、闇木はいた。
(ビビッテンジャネエヨ)
心の中で声がした。
霧島にいじめられてから、心の中に住み着く黒い声。
闇木の手にはカッターナイフが握られていた。
(キリシマヲ、ヤリニイケ)
(嫌だ、やりたくないよ!)
闇木は懸命に自分の中の声に逆らっていた。
しかし、それを拒もうとすると、心臓を握りつぶされるような苦しさに襲われる。
今まで、すべてこの声に従って来た。
逆らったら自分でもどうなるか分からなかったためだ。
助けて、助けて……という声が部屋から漏れだす。
闇木はこの声から逃れるために、手首にカッターナイフを当てがった。
ぐぐ、と肉に刃が食い込む、
闇木は目をつぶり、力を込めた。
ピーンポーン……
(……!)
インターホンのチャイムに反応し、一瞬手が止まった。
だが、関係ない。
一気に引き切ろうとした。
(母さん、ごめん……)
その時、
「リン!お友達が会いに来てくれたわよ!」
下から母親の声がし、思わずカッターを放り投げた。
ガタガタ、と手が震え、体全体が震え出した。
今の声が無かったら、間違いなくやっていた……
「だ、誰が来たの?」
上ずった声で返事をし、下に向かった。
そこにいたのは、屑木だった。
僕は闇木の家に行くことにした。
このままうやむやにしたくないと思ったからだ。
闇木の家の住所を先生から教えてもらい、スマホで場所を検索してここまで来た。
近くの公園のブランコを漕ぎながら、二人で話をした。
「俺は、心の中の黒い声に逆らえなくなってしまった」
闇木は打ち明けてくれた。
正直、それがどんなものかは僕にも分からなかったが、闇木のやつれた顔を見て、苦しんでいたんだということだけは分かった。
最後に、僕はこう言った。
「あの時、君に友達ができればって思ったからネックレスを渡した。生徒会のメンバーと絡めば、自然と友達になれるから」
そして、僕の前の皇帝もぼっちだった僕を見て、ネックレスを渡した。
こいつならいい学校にしてくれるとか、そんな深い意味はなかったんだ。
部活とかでも、自然と友達はできる。
でもそういうのに躊躇してしまう性格って見抜いたから、無理やり託して来たんだ。
「一人で悩んでたら暗くなるだけじゃん。だから、友達って大事だよね」
「……」
闇木は、コクリとうなずいた。
「みんなと一緒なら、多分楽しいよ」
僕は闇木に手を差し出した。
そして、光の中に連れ出した。
終わり
バッドエンドとハッピーエンドを用意してたんですが、やっぱりハッピーエンドの方がいいですよね。ということで、明るい終わり方になりました。




