あなたの言葉が突き刺さる
お題.comさんより二作目です。
軽い感じのお話です^ ^
ふとした時に出るさり気ない言葉って、一番残酷だと思う。鏡と睨めっこしながら目尻を斜め45度上に引っ張る。
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「高倉さんって垂れ目だよね〜」
残業を終え意気揚々とロッカーに足を向けようとした私に、上司から事も無げに告げられた一言。
「そうですか? 普通だと思いますが。お疲れ様です」
興味も無さそうに答えると、話を打ち切り足を進める。
コツコツコツコツ……コッコッコッコッ……
自然と歩く速度が上がる。速攻で筆記用具をバッグに突っ込むと、コートを羽織り職場を飛び出す。
人には言って良い言葉とそうでない言葉があると思う。よりによって、よりによってあのたぬき部長に垂れ目と言われるとは一生の不覚。誰にも知られたくないし、何よりあいつの方が絶対垂れてる。
歩く速度を緩めずコンビニに立ち寄ると梅酒とサラミと雑誌を1冊だけ買って、即家に向かう。コンビニ滞在時間1分強。新記録だ。
ピンポンピンポンピンポーン……
チャイムを3度連続で鳴らしてからドア開くのをじっと待つ。すると、
「今日も? 」
と露骨に呆れた声で出迎えてくれる妹の態度が、嫌いではないと思う。
「そうだよ、今日もだよお。お土産買ってきたから聞いてくれよお、妹! 」
姉の嘆きにため息を吐きながらも、愛のある表情でコンビニ袋を受け取ってくれるから、姉ちゃんはストレス社会で生きていけるんだと思うよ、本当に。
「それで? 今日は何があったの? 」
サラミの皮を剥きつつ妹が言う。私は手を洗いながら、
「たぬき部長に垂れ目って言われた」
と苛立たしげに答える。
「それで? 」
「……それだけ」
「えっ? だってねーやん垂れ目じゃん」
悪意無く吐かれるさり気ない一言って、本当に残酷だと思う。
「つり目じゃないだけだもん」
私が不満げに言い返すも、
「いや、ねーやんは結構な垂れ目だと思うけどなあ」
とまな板に手を伸ばしつつ追い打ちをかけてくる。いくらサラミに全力の関心を注いでるとはいえ、そりゃ無いよ妹。
私は無言でコンビニ袋から雑誌を取り出し抗議するように妹の前に投げ置くと、サラミと梅酒を一瞥し、
「寝る……」
とだけ告げて部屋に向かう。
アラサー女性のお悩み特集が掲載されている雑誌を見た妹が、何を思うかは知らない。5つ下だからって油断しているのかもしれない。けれど、5年後は確実に君の悩みにもなるのだよ。そんな事を思いつつ、ひとまず妹がいじけた姉に輪切りのサラミと梅酒のロックを運んで来てくれる事を信じ、布団に潜ろうと思う。例え背後から、
「化粧落とさんままで寝たら老けるよ〜」
と止めを刺されたとしても。
ばたりと毛布に倒れこみ、羽毛に飲み込まれつつサラミと梅酒の夢を見て眠れればそれもまた、幸せかもしれない。
例え翌朝また鏡と睨めっこすることになるとしても……
垂れ目、可愛いと思いますけどね〜。
お題を見た瞬間に、最近重力に負けはじめている自分が突き刺さりそうなネタを考えると、こんなお話になりました。
社会人姉妹が同居している設定です。頻繁に愚痴る姉に、過去に妹がせめて手みやげくらい用意して愚痴ってよと言った事から手みやげ持参制度が生まれました。また愚痴られる心の準備をする為に、愚痴る日はチャイムを三回鳴らすというルールも設けられているらしいです笑
今回は妄想が膨らんで楽しんで書けた気がします。少しでも楽しんで読んで頂けると幸いです^ ^