現場監督の心配
けんが帰って来ない。
なんでこんなに気になるんだ?
「兄上のような趣味はないっていうのにな。」
オレはため息をついた。
「なにいってんだい、えっちゃん。」
花乃おばばが言った。
「けんのやつ、ちゃんと飯くってんのかなと思ってな。」
オレの目の前には花乃おばば
の美味しそうな朝食が並んでいる。
「....けん君なら大丈夫だろ?城ならご飯...食べ損ねてそうだね、あの子人がいいから。」
花乃おばばもため息をついた。
そうだよな、人の事やってて食べもんにありつけないなんてことがありそうだ。
「大店奉公なら差し入れてやれるのに。」
よりによって城かよ。
「まったく心配かけるよ、あの子は。」
花乃おばばが言った。
花乃おばばはオレのもと乳母だ。
母上の実家の三田の分家の人だ。
その分家も母上がオレを世継ぎにするという
企みのせいで、おとりつぶしになった。
「心配と言えば、神無月さんはどうなんだ。」
オレは聞いた。
神無月さんは花乃おばばの孫だ。
「グーレラーシャで警護官してるよ、可愛い嫁もらったとかこの間の通信でいってたけど...ひ孫が出来たらしいね。」
花乃おばばが嬉しそうに言った。
ひ孫か良かったな。
三田の分家は花乃おばばと神無月さんしか残ってないからな。
「えっちゃんも早く嫁もらいなよ。」
花乃おばばが言った。
あんた、ラーガラースの縁談知ってるくせに
のんきにいうなよ。
「嫁より、けんだ、城でお手打ちとかなってたらどうしようか?」
様子を見に行くべきか?
...どこに配置されたんだ?
「そうだね~、けん君の方が心配だね。」
花乃おばばがニヤニヤして言った。
何を考えてる?
「そう言えば、世継ぎの君が波留日の分家の姫をご寵愛なさってるって聞いたけど。」
花乃おばばが言った。
そうらしいな?
あの女嫌いがどういう風の吹きまわしだ?
「頭でも狂ったか?」
まあ、兄上の母、藤野御前は大喜びだろうが。
「奥宮の女なんて、ある意味いじが悪いのが残るからね、その分家の姫も気の毒にね。」
花乃おばばが言った。
「筆頭が母上のご正室三田様か?」
母上は強い。
「優衣様は気がお強いだけ、辰昭様のご母堂の大多御前が最強かね。」
ああ、あのおばさん強いね。
「まあ、けんはせいぜい前宮の掃除とか下働きだからな、関係無いだろうよ。」
あるいはあいつがオレのみこみ通りなら護衛の下っ端あたりに入ってるかもしれんが。
…それ、危険すぎるだろう。
まあ、勤務も危険だが、ああいう男所帯にけんみたいな見目麗しい美青年が入ったら…。
恐ろしいな、食われるだろう、絶対。
警護と守秘義務の都合上そうそう城下にでられないから女にうえてるという噂が…。
「心配なら物陰から確認したらいかがですか?孝政様。」
花乃おばばが本名を呼んだ。
「…まあ、休みの日は帰ってくると言ってるんだ様子を見よう。」
オレは自分を納得させるように言った。
けん、あんまり深入りするんじゃないぞ。
城の出来ごとにヘタにかかわって怪我したりするんなんて馬鹿を見るからな。
手打ちになったりしたらお袋さんが悲しむぞ。
だから、無事に帰ってこい。