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第1話C あの女は強過ぎる絶対おかしい

これはギャグみたいな設定をした戦記ものです。

 アルフォンスたちが逃亡をはじめてから四時間――


「あと少しで騎士達がが到着する。お前たちは逃亡者たちの追跡をしろ!」

「はっ!」

カーラは近くの兵士たちに指示を飛ばす。

 指示を受けた兵士たちは命令に従い、アルフォンスのいる通りの隅っこを移動し始めた。

「行かせるか!」

アルフォンスは兵士たちに視線を向け、叫んだ。

だがその隙が――アルフォンスを危機に陥れた。

 風斬り音と共に暴風がアルフォンスを襲った。

「っ!!」

 声を出すことすら出来ず、アルフォンスは地面に叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 地面に叩きつけられ、肺の中の空気を一気に吐き出した彼は呻いた。

――ごほっ――と彼が苦しそうに咳き込んだ。

 彼は数瞬思考が止まった後、靴音が近付いてくるのに気が付いた。

 仰向けで倒れている彼の腹に、圧がかかった。

「うっ!」

 アルフォンスが目を開けると、目の前には黒いブーツと雪のような白い脚があった。

 カーラがアルフォンスの腹を踏みつけていたのだ。

「もしお前を殺したら、お前の父はどんな表情をするのだろうな?」

 彼女は嗜虐的な顔をして、足に入れている力を強めた。

「ぐあああ!」

 痛みに耐え切れず、アルフォンスは悲鳴を上げた。

(くそ、<ミラージュ>が壊された!)

 先程のカーラの魔法により、アルフォンスを守るはずの防御魔法は消滅していた。

 だが、不意に彼を襲っている圧迫感が緩んだ。

 その隙に彼は何とか逃れようと、彼女の靴を掴み押し戻した。そして側に落ちていた自身の長剣を引き寄せ、彼女に斬りかかったのだ。

「ちっ!」

 美しい彼女の美貌が歪み、双眸から落ちた雫が輝いた。

 一瞬目元を拭うと彼女は瞬時に自分の愛用の、華美なレイピアを出現させアルフォンスと斬り結んだ。

「くそっ! ……」

 アルフォンスは移動魔法を併用したバックステップで素早くカーラから距離をとった。

 彼は先程の一撃で彼女を倒そうと全力を込めようとしたのだが、失敗してしまった。――女の涙など卑怯だ――

 さらには疲労と魔法によるダメージで、腕力はほとんど残されていなかった。長剣を持っているだけで精一杯の状態だ。

 彼にはもう彼女を倒す術がない状態だ。

 仮に彼が全力を尽くそうが彼女の剣を壊すことは不可能だった。

 それは彼女のレイピアが魔法武器(ハイブリット型)の中でも一級品を超える特級品だからだ。折れることはまず無いと言っても過言ではない。

「投降する気はないのか?」

 アルフォンスにはその言葉に少し懇願めいた情が含まれているような気がした。

「ない」

「はぁ……往生際の悪い奴だ」

 彼女は軽くため息をついた。

――しょうがない、これは仕方のないことだ――何か諦めの様な覚悟の言葉を呟いた後、彼女は左手をギュッと握った。

 すると、落雷のような音と共に握り拳から前腕にかけて稲妻が発生した。

 アルフォンスはあまりの音に耳を押さえた。

――いったいどれほどの威力なのだろうか――彼は彼女の左手が纏った稲妻をジッと見た。

 彼女は右手を前に構るとアルフォンスに向かって駆けた。

(やばいな)

 アルフォンスは咄嗟に距離を取れたのは良かったが、既に体の端々が限界近くを迎えていた。

 彼にはもう彼女を正面から迎え撃つだけの体力は残されていなかった。

「くっそ!!」

 だが彼は気力で腕を持ち上げ、持っていた長剣をカーラへと向かってぶん投げた。

「武器を捨てるとは、愚かな奴だ!」

 カーラはレイピアで弾くのではなく左手を、長剣を殴るように突き出した。

 すると鋭い音を立て、アルフォンスの長剣が一瞬で蒸発した。

「じょ、冗談じゃない!」

 鋼鉄で出来た剣が、しかもそれなりの性能の防御魔法を表面に施されたそれが、一瞬で蒸発した。

(ありえないだろ!)

 アルフォンスはカーラの、稲妻を纏った手を呆然と見た。

 一瞬思考が停止したが、彼は彼女の左手を改めて観察した。

(おそらく触れられたら即蒸発、触れずとも近付いただけで炭になるだろう。……無理だ、絶対に無理だ!)

 もはやアルフォンスは彼女を『倒す』、彼女から『逃げる』ということは不可能だと考えていた。

 彼はカーラが使っているような攻撃魔法を一切保有していないのだ。

 基本的に魔法具による攻撃手段しか持たない彼、使っていた長剣は蒸発、銃は副団長六席に返してしまった。

「どうした? 考え事か?」

 少し動きが鈍くなっているアルフォンスにカーラが迫った。

「う、うわっ!」

 アルフォンスは慌てて、痛む体に鞭を打ち移動魔法を使って彼女から距離をとった。

 なんとか瞬時に彼女の攻撃範囲から逃れたのだ。

「ちっ、ちょこまかと!」

 攻撃をする前に逃げられたことに苛立つカーラ。

(ん?)

 アルフォンスは彼女に違和感を抱いた。

(何故すぐに追撃してこない?)

 魔法を使える者同士の近接戦は基本的に移動魔法と攻撃の応酬だ。

 しかし、カーラは近接戦の肝である移動魔法を使ってこない。

(もしかして……いや、しかし確証が……)

 アルフォンスはある仮定を考えた。もしそれが正しければ、この危機を脱することができる。

 だが、その仮定を正しいと裏付ける判断材料が圧倒的にないのだ。

 確証を得るために、彼は汗を垂らしながら彼女を挑発した。

「どうした? 来ないのか?」

「なんだと貴様!」

 そう言ってから彼女は、アルフォンスが何を考えているのかを悟っってしまった。

「まさか!」

 彼女の驚きの言葉を聞いた瞬間にアルフォンスは仮定を確信へと変えた。

 彼は彼女に背を向けると、ガタがきた体を奮い立たせて全力で移動魔法により、駆けた。

「くっ、逃げるなー!」

 カーラは叫んだ。

 彼女はヘルメットを拾うと、停めてあるバイクへと駆けて行った。

 カーラは両親の、強力で性能の高い魔素ばかりが遺伝した娘だ。その代わりに、貴族ならほぼ誰もが遺伝している普通の魔素が遺伝しなかった。

 彼女の両親は彼女の保有する魔素を精密な遺伝子調査を依頼して調べ上げた。

 しかし、彼女の保有している魔素をどのように組み合わせても移動魔法は一切扱えないという結果を、当時のスーパーコンピュータがはじき出したのだ。

 実際彼女は生まれて一度も移動魔法を扱えた試しがなかった。だが、悪い結果だけではなかった。

 彼女は炎・水・土・雷・風、この世界で五大魔法と呼ばれる、これらの属性魔法全てを扱えることが判明したのだ。

 それのことに彼女の両親は喜んだ。『娘は最高の騎士になる素質がある!』

 ――両親が喜ぶなら移動魔法など使えずとも良い――当時の彼女はそう考えていた。

 だが、現在の彼女はそうではなかった。

「ベルンシュタインめ!」

 バイクを走らせながら、ヘルメットの中で彼女は怨みの篭った声を上げた。


 アルフォンスは全力で、ポーランドへと続く道路を駆け抜けていた。

彼の走る速度は高速道路で走る車とほぼ同じで、車と人間がまるで競争しているかのような光景を作っていた。

 だが実際は競争しているわけではない。

『止まれ!無駄な抵抗は止め、降伏せよ!』

 アルフォンスのやや後ろを走っている車両、それの外部スピーカーから人の声が発せられた。

 人に追いつけない車、常識的に考えれば異常な光景だ。

 しかしアルフォンスの今のスピードは時速一二〇km超を出していたのだ。

「はあ、はあ、はあ……!」

 アルフォンスは死に物狂いで走っていた。

(こんなところで捕まるわけにはいかない! 父さん!……)

 彼は別れた父たちの安否が気になっていた。

 彼らの安否を知るには、安全なポーランド王国の領土に入る必要がある。

 そのため、捕まるわけにはいかなかった。

 アルフォンスと兵士たちの乗る車両がレースを繰り広げること五分ほど。

 アルフォンスの後ろにいた車両の助手席から、一人の兵士が身を乗り出した。

『おい、いくらなんでも……』

『警告を無視するあの貴族が悪い!』

 スピーカーから漏れ出る焦った声と苛立った声。

 車内で二人の兵士がどうやら揉めているようだった。

『あの貴族は、あいつはブルーメ団長の命を奪った奴の息子だと聞いている! おい、やっちまえ!』

 その声と共に防御魔法の訓練でよく聞いた、アレ(・・)の発射音がアルフォンスの耳に届いた。

 するとアルフォンスが駆けていたすぐ脇に発射されたものが着弾。

 爆音と共に爆発が起こった。

「くっ!」

 アルフォンスは爆発に曝されてバランスを崩しかけたが、なんとか体勢を立て直した。

『効いてねーぞ!?』

『化け物かよ!?』

 スピーカーから戸惑いの声が漏れた。アルフォンスの<ミラージュ>は破壊されても四、五分で再生するという特性を持っている。

 彼はその反則級な性能のお陰で現在命拾いをしている状態だった。

『おい、スピーカーのスイッチ切れ!』

 焦った声の後、何かを断ち切るような音がした。


「何なんだ、あいつは!」

 車内の兵士の1人が叫んだ。

彼らは副団長主席の命令で、逃亡者捜索をしていたブルーメ騎士団の兵士たちだ。

 彼らは偶然にも、アルフォンスの逃走先に配置されていた。

「ロケットランチャーの爆発受けといて、無傷ってどういうことだよ!」

 助手席に座っていた兵士が困惑しながら叫んだ。

「なんて奴だ!」

 彼らの戸惑いはもっともかもしれない。

 普通の貴族たちが扱える、普通レベルの対物理防御魔法は銃弾を防げる程度の強度しかない。

 通常ならロケットランチャーの爆発には耐えられない。

 だが、目の前で走る少年は耐えるどころか、少しバランスを崩した程度で無傷だったのだ。

 このまま追跡するだけでは何れ国外へ逃げられる。

 車内を沈黙が支配した。

 数秒の沈黙の後、無線に連絡が入った。

『カーラ・ブルーメだ。追跡御苦労、奴は私が止める! 奴の直線上の車線を空けろ!』

「カーラ様からだ!」

 無線から連絡を受けた運転手の兵士が、嬉々とした声を上げた。

「うおおお!」

「追跡していた甲斐があったぜ!」

 ざわめく車内、後部座席にいる兵士二人は後ろを振り向いた。

 すると、爆音を伴った一台のバイクが凄まじいスピードで近付いてきていた。

 それをバックミラーで確認した運転手は車の車線を変更した。

 カーラがアルフォンスに追いつけたのは、ヘルメットに搭載されている魔法探査装置のおかげだ。

 現在使用されている魔法のカテゴリーを選ぶことで、それの使用者がマップ内に表示される。そして、近くで移動魔法を現在進行形で使用している者は一人しか表示されなかった。

 即ち、それがアルフォンスだ。

「私から逃げられると思うなよ!」

 カーラは何処からともなく、一丁のショットガンを取り出した。

コッキングレバーを引く音、戻す音と共に、彼女は右手に持ったそれを前方のアルフォンスへと向けた。


 アルフォンスは車とは違う凄まじい走行音に、首を横に向ける形でチラッと後ろを向いた。

 するとそこにはショットガンを自身へ向けて構えた、ヘルメットを被った人物がいた。

「うわあ!」

 後ろを振り向いて、そんな人物がいたら誰でも驚く。

 だが、彼にとってはそれだけではない。

 もはや彼にとっては恐怖の権化となっているカーラ。その彼女がショットガンを自分へ向けて追いかけてきているのだ。

(や、やばい!絶対殺される!)

 アルフォンスは片目に涙を溜め、恐怖の表情を浮かべた。

 アルフォンスは頭の中を恐怖に支配されながらも、ただの的にならないように緩急をつけ斜めに走った。

 重い銃声が二つ鳴った。

「なにっ!?」

「ちっ」

 カーラは舌打ちするとショットガンを折って薬莢を落とした。

 彼女は器用に片手と口で弾を詰めなおすと、再びショットガンを構えた。

「次こそは外さん!」

 しかし、彼女が再びショットガンの引き金を引くことはなかった。


 バイクとは違った、大きな音何かの走行音が響いた。

「な、なんだ? ……うあっ!?」

 車の倍ほどの大きさの装甲車が十字路から飛び出し、猛スピードでカーラに突っ込んで停車した。

 カーラはバイクごと吹き飛ばされた。

 まるで風に吹き飛ばされるビニールのように吹き飛ばされ、道路を滑っていくバイクとカーラ。

『カーラさまあああ!!』

 何時の間にスピーカーのスイッチをオンにしていたのか、停車させた車の中にいる兵士たちが叫んだ。

 後ろで起きた惨状にアルフォンスは唖然として立ち止まった。

「な! 一体何が!?」

 アルフォンスは場の急展開に戸惑った。 

 思い切り扉を開け放つ音がして装甲車のドアが開かれた。

「アルフォンス! こっちだ!」

 装甲車から一人の男が出てきて叫んだ。

「クラウス!? いったいこの装甲車はなんだ!?」

 装甲車から出てきたのはクラウスだった。

「話は後だ! 早く乗れ!」

 アルフォンスは追っ手が迫り来るこの状況を考えると、すぐに装甲車に乗り込んだ。

「無事だったか……アルフォンス」

「父さん!」

 彼が装甲車に乗り込むと、そこには別れて逃亡したはずの父とイリーネ、セバスチャンがいた。


「くっ! おのれ!」

 カーラは自分の体を下敷きにしている、大破したバイクを風魔法で吹き飛ばした。

 天高く舞いボロ雑巾と化すバイク。バイクはアスファルトに叩きつけられると、爆発した。

「カーラ様! ご無事でしたか!」

 停車したブルーメ騎士団所有の黒い車から、兵士たちが降りてきた。

「ああ、問題ない」

 カーラは所々裂けたライダージャケットに付いた汚れを落とすようにそれを叩くと、憮然として言った。

 ぱさっ。

 夕日に照らされたもう一つの太陽のように輝く金髪が姿を現した。

 彼女はヘルメットを振り上げると、それをおもいっきり地面に叩き付けた。

 入っていた亀裂が大きくなり、ヘルメットは本格的に壊れた。

 大小の破片と化したヘルメットを無視した彼女は、国境を越えていく装甲車を忌々しげに睨みつけた。

「ちっ! お前たち、戻るぞ! この現場は警邏兵の処理班たちに任せる!」

 舌打ちすると、本来は四人乗り用の車へと乗り込んだ。


 モニター、無線機……これらしか積んでいないのは、警邏兵部隊の装甲車だ。その低性能な装甲車内では、クラウスが顎が外れそうなほどに大きく口を開いていた。

「装甲車の突撃食らって無傷とか……あの女何者よ?」

「カーラ・ブルーメ。有名人だろ」 アルフォンスが素っ気なく返した。 クラウスの視線の先には、徐々に小さくなっていく人影があった。その人影はこちらを睨んでいる。彼はそう感じた。

「ま、まさか追って来てないよな!?」

 装甲車に乗ってから、一度も後ろを見ないアルフォンスがやや焦って言った。

「あん? 何ビクビクしてんだ、お前?」

 クラウスは挙動不審な態度をとるアルフォンスを訝しんだ。

「そ、それはともかく! なんでクラウスが装甲車に?それに父さんたちも……」

 クラウスの問いをはぐらかすと、アルフォンスは一番感じている疑問を投げかけた。

「国王陛下の命令らしいわ」

 今まで黙っていたイリーネが腕を組みながら言った。

「陛下が、ですか?」

アルフォンスは目を見開いた。

「ええ、私と団長は国防の要人だから。それに、カロッサの証拠映像を団長が陛下へと送ったのよ」

 自国の大貴族に対して冤罪を着せたドイツ皇国に、王室の連中は大激怒していた。

 彼らのプライドは半端ではないのだ。

「でも、それだけじゃないわ……最もなりゆ――」

 彼女は言葉を続けようとしたが、ヨナタンに手で制された。

「これを見たほうが早いだろう」

 彼はそう言うと、装甲車内に設置されているモニターの電源を入れて操作した。


『此度の貴族会での事件は誠に遺憾である! 我が国の由緒正しいシャルロッテンブルク宮殿を血で汚し、我が国の大貴族ブルーメ家の当主の命を奪ったのだ。これは断じて許してはならん事件だ!』

画面の向こう側に移るドイツ皇帝が、怒りを露に豪華な椅子から立ち上がって叫んだ。

 皇帝の視線の先の民衆はどんな顔をしているのだろう。――メディアのカメラからでは後頭部しか映らないのだ。

『陛下の仰せられる通りだー!』

『そうだそうだー!』

 宮殿のテラスの下に集まっている貴族、庶民たちが皇帝に賛同した。

 殺されたエーベルハルトは大貴族の騎士団長でありながら、人格者の慈善活動家でもあった。

 皇族、貴族、庶民誰もが彼の死を無念がっていたのだ。

 民衆の声を聞いた皇帝は、大きく頷くと宣言した。

『我らドイツ皇国は現時点を持って、悪逆な国ポーランド王国へと宣戦布告する!!』

 その発言を聞いた民衆たちは一斉にざわめいた。

『皇帝陛下から宣戦布告が出され、とうとう戦争が始まりました! 以上、現場からでした!!』

 最後にマイクを持った女性が写ると、ヨナタンはモニターの電源を切った。

「そ、そんな! 戦争だなんて!」

 アルフォンスは券を強く握り締め、叫んだ。

「私も正直驚いている。まさかたったの2時間前に、皇国がこんな強引に戦争を仕掛けてくるなど……」

 ヨナタンは髭を撫でながら言った。

「陛下の命では、私とアーレントは首都の王宮へと出立せよとのことだ」

「では、私たちはどうすればよろしいでしょうか!?」

 今まで黙っていたセバスチャンが手を挙げて言った。不安そうな瞳だ。

「ビットマンの連絡では、既に奴らはシュチェンへ向けて、国軍のベルリン騎士団とブルーメ騎士団を派遣しているそうだ。よってカロッサ、デルリーン、アルフォンス。お前たちにはシュチェチン防衛を命じる。現地に滞在しているヴィシネフスキー三席と共に西の要所をなんとしても守り抜け!」

 車内において、アルフォンスたちは騎士としての過酷な初任務を言い渡された。


 ベルリンへと向かっている車の車内。

 車内は乗っている奴らの割には小奇麗だった。

 助手席に座るカーラは自身の壊れた携帯の代わりとして、隣で車を運転している兵士の携帯を使っていた。

 彼女は兄に、事態の経過の報告をしていた。

 真剣な表情でしばらくの間画面をタッチしていたカーラは、画面を触るのを止めると借りていたそれを兵士へと返した。

「すまない、礼を言う」

「いえっ!」

 兵士は緊張した様子で、左手で携帯を受け取った。

「そ、それにしましても、副団長五席殿は凄いですね。装甲車と衝突したのに、御体は無傷なんて」

 後部座席に座る一人の兵士が恐る恐るカーラへ言った。

「ふっ、私が恐ろしいか?」

 彼女は自嘲した様な笑みを浮かべた後、睨むように目を細めて後ろの兵士を見た。

「ひぐっ!」

 彼女と目の合った兵士は体をぶるっと震わせ、奇声のような悲鳴を小さく上げた。

「そうあからさまに怖がられると、流石に凹むな」

 肩を落とすカーラ。

「申し訳ありません……」

 カーラにびびった兵士の隣の兵士が、彼女に謝罪した。

「いい、気にするな」そう言うと、彼女は頬杖を付いて窓の外を眺めた。

 木々の多かった風景が次第に都会染みてきた。

(お父様……)

 遠くの高層ビルを睨む瞳には哀愁が漂っていた。


 数分間、外の景色を眺めていたカーラだったが、兵士たちがつけていたラジオから聞こえてくるとんでもない内容に、ばっと視線を車内に戻した。

『……ポーランド王国へと宣戦布告する!!』

 機械越しに聞こえる皇帝の言葉に、カーラは大きな目を見開いた。

「戦争だと!?」

 カーラはありえない、という表情のまま固まった。今まで戦争など経験したことなどない。

 経験したことはないが、それの引き起こす悲しみだけはよく知っていた。

「これからどうなるんでしょうか?……」

 一人の兵士が不安そうにカーラを見た。

「悲劇が始まるんだよ。これから壮絶な悲劇が始まるんだ」

 カーラは目を伏せ、そう言った。兵士たちは彼女の言葉に不安を煽られたのか、そわそわと落ち着きを失くした。

 その時、車内に設置されている無線に連絡が入った。

『この車にカーラ・ブルーメ副団長五席はいるな?』

 無線からは若い男の声が発せられた。

 カーラは目線斜め右下にくっ付いている無線を取ると、直ちに返事をした。

「はっ! ここに!」

『カーラ、追跡任務後直ぐで申し訳ないが指令を言い渡す』

 声の主は、彼女の兄のフェルディナントであった。

『我らブルーメ騎士団にシュチェン制圧命令が下った。カーラ、お前にはその前線指揮補佐を任せることとなった。作戦内容は追って伝える』

 兄のその言葉に、カーラは視線を鋭くした。

「それは誰から(・・・)の指令です?」

『誰から?皇帝陛下に決まっているだろう』

「……承知しました」

 少しの沈黙の後、カーラは了解の意を伝えた。

『ん?どうした、気分でも悪いのか?』

 カーラの耳に、少し戸惑った兄の声が聞こえた。

「いえ、何でもありません」

 カーラは兄を好きでもあるが嫌いでもあった。

 基本的には傲岸不遜な貴族然であるが、時折、昔のおどおどしているが優しい兄に戻る。

 彼女は優しいほうの兄は好きなのだが、貴族らしい方の兄は嫌いであるのだ。

「では……失礼します」

 大好きな方の兄と話せたことに、彼女は急降下中の機嫌を少し良くした。

 無線を切り、それを元の場所へ戻すと彼女は前に映る景色を見て、ニヤついた。

「ひぃー!」

 カーラのその表情を見た運転手の兵士が悲鳴を上げた。

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