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第1話B ベルリン逃亡戦

 ベルリンの市街地に怒号が響き渡った。

「逃すな!追えー!!」

 騎士たちが忙しなくあちこちを駆け回る。

 騎士たちを何とか押しのけ、講堂を脱したアルフォンスたちは全力で市街地を駆けていた。

「これからどうするつもりだ? 父さん!?」

 息を若干切らせながら、アルフォンスが叫ぶ。

「このまま皇国領にいてはまずい! なんとかポーランド領の、シュチェチンへと脱出するのだ!」

 シュチェチンはポーランドの西端、ドイツ皇国国境近くにある大都市である。

 ドイツで捕まってしまえば、いくら無罪を主張しても講堂での状況判断と証拠品により<公爵殺しの罪>で即刻極刑である。

(奴は私を貶めるためにあの袋を私のスーツに忍び込ませたのだろう。しかし、何故? どうやって?)

 ヨナタンの頭の中で次々と疑問が浮かぶ。

「しかし、解せませんね。ビットマンのあの態度は」

 ヨナタンの隣を駆けているイリーネが言った。

「アーレント君、君は戻りなさい! 君まで巻き込むわけにはいかぬよ!」

 ヨナタンは声を張り上げた。

「いえ、私はあなたが犯人でないことを確信していますし、それに無実の罪を着せられた方を放っておく事など出来ません」

「むう……」

 イリーネの毅然とした態度に彼は呻いた。

「……俺の心配はしないのかよ」

 アルフォンスは父を不満そうに見、ぼやいた。

「貴族は名声と血筋こそが全てだ。私の名声が失墜すればアルフォンス、お前に未来はない! そればかりか、家族・親族全員の未来をも奪いかねないのだぞ!」

「くっ……!」

父の叱責にアルフォンスは押し黙った。


 市街地を、騎士たちを撒きながら東へと駆け抜けること約一時間……

 アルフォンスたちはベルリン市街地の東端近くへと来ていた。

「待てーい!」

 いきなりの大声に三人はその方角を見た。

「セバスチャン、何故ここが!?」

 アルフォンスが声を上げた。

 セバスチャンが携帯で現在位置を騎士たちに教えれば、アルフォンスたちは捕まってしまうだろう。

「ふふふこの俺様を嘗めないでもらおうか! 俺は犯人が誰なのか知っている!」

 セバスチャンは騒動の一部始終を見ていたのだ。

「なに!? 本当か!?」

 アルフォンスがセバスチャンに迫った。

「うるさい! お前は黙ってろ!」

 セバスチャンはアルフォンスを一蹴すると、携帯の画面をヨナタンとイリーネに見せた。

「こちらです、団長閣下!!」

 二人がその画面を覗いた。するとそこには映像が映っており、トイレへと向かうヨナタンが映し出された。

 それを追う撮影者。

「……」

「……」

 これは所謂、盗撮だ。

 二人は自信満々に犯罪記録の映像を見せ付ける彼を、呆れを含んだ表情で見たが直ぐに視線を映像へと流した。

 そこには個室に入る前に立掛けのハンガーに、スーツを掛けるヨナタン。

 これは潔癖主義の貴族によく見られる癖だ。

 そしてそのスーツに忍び寄る人影。

「っ!?」

 人影の顔を見て驚愕するイリーネ。

「やはりか……」

 映像に映っていた人物は、ヨナタンが脱出を決意するきっかけとなった、彼を嗤った者だった。

 その人物の名は、フェルディナント・ブルーメ。奇しくも被害者遺族の人間だった。

「この映像があればなんとかといったところか。すまぬ、礼を言おう。名は……」

「セバスチャン・カロッサです!!」

 興奮のし過ぎで危ない目つきになっているセバスチャン。

 彼は熱狂的なヨナタンのファンだ。

「そういえば何故、団長閣下たちは移動魔法を御使いになられないのでしょうか?」

 移動魔法は貴族のほぼ一〇〇%が扱える最もポピュラーな身体強化魔法(もちろん遺伝する魔素の種類によって、性能の優劣はある)だ。

 並みのレベルなら使用可能時間は一日最大十時間、時速八〇km前後のスピードで移動できるようになる。

 セバスチャンが彼らの先回りを出来たのもそれのお陰である。

 だが、彼のその発言に全員が彼を睨んだ。

「馬鹿もの! 探査魔法で現在地を特定されてしまうではないか!」

 ヨナタンが叫んだ。


 だが、彼のお陰で少し活路を見出したアルフォンスたちはセバスチャンを伴い、ついにベルリンからの脱出へと成功していた。

 しかし、セバスチャンのせいで追っ手を完全に撒けたわけではない。

 それは彼ら、特にアルフォンスを死地へと誘う事態を引き起こしたのだ。


 悲しみと憎しみを同時に表した様な顔をしたカーラの元に、街中の監視映像を監視していた監視班からの報告が入った。

「ベルリン市内東端の監視映像で、ベルンシュタイン侯爵一同を発見いたしました!」

「了解した! 直ぐに現場へ向かう!」

 その報を聞いた途端、カーラは監視班たちから詳しく場所を聞いた後、騎士団所有のバイクに乗り全速力でその場に向かった。

 カーラはお父さん子であった。

 前世の記憶がある影響か、彼女は最初今世の両親には心を閉ざしていた。

 だが父であるエーベルハルトは優しく、時間を掛けながら彼女の心を開かせていった。

 父との一番の思い出は、一緒にショッピングに出かけたことだ。

 他愛もないが輝かしい思い出だった。

 だがそれは、今はもう2度とすることが出来ない。

(殺す、殺す!)

 父を奪った存在を許せない彼女は、怨嗟の念を内に秘めながら更にスピードを上げた。

 ヘルメットの下半面に表示されるマップを見ながら走らせること約三〇分……

 彼女は一方的な戦闘が繰り広げられている場所へと到着した。


 カーラが到着する数分前……

「父さん、敵の数が多すぎる! このままだとまずいぞ!」

 建物に隠れながら、イリーネから借りた銃を撃つアルフォンス。

 この銃は魔素と原子でできた複合型の魔法武器(ハイブリット型)で、ある程度自在に縮小できる特性を持っている。

 逃走中は手ぶらだった彼らの手には現在、魔法銃系統の武器が握られているのはそのためだ。

「くっ!」

 道のいたる場所からライフルの発砲音が響く。

 ヨナタンは苦しげな表情を浮かべた。

(誰かが殿をつとめる必要があるな)

 アルフォンスは思った。

「アルフォンス、殿を頼んだ……」

 ヨナタンの表情は苦渋に満ちていた。

「団長!? それは!」

――息子に死ねといっているのですか――イリーネは言いかけた言葉を飲み込んだ。

 それは、アルフォンスの顔が決意に満ちた表情をしていたからである。

「アーレント副団長六席、奴らが使っているのは普通の銃です。なら問題はありません」

 彼の言葉を聞いて彼女は思い出した。(そうだ。彼の防御魔法<ミラージュ>はあらゆる物理的な攻撃を無効化する……)

 だがたとえ今が、魔法を扱えない者たちとの戦闘だとしても、いずれ魔法を扱える者たちがやってくる。

 しかし、時間は有限だ。

 悩む時間はこの場の四人にはなかった。

 「アーレント、カロッサ! 私に続け!」

 ヨナタンは二人に号令を出すと、銃を撃ちながら東へ、国境目指し駆けていった。

 三人が東へと駆けていく様子を見た騎士たちが、追跡するために慌てて後を追う。

「ぐあー!」

 だが、庶民の騎士の一人が悲鳴を上げ地に倒れた。

 倒れた兵士――庶民の騎士――は肩をザックリと斬られ、大量に出血していた。

「ここを通すわけにはいかない!」

 アルフォンスの手には、魔法銃ではなく長剣と小さな円形の盾<バックラー>が握られていた。

「な、何だ、あいつは!?」

 斬られた兵士を見やってから、恐怖の表情を浮かべる兵士たち。

「う、撃てー!」

 いち早く持ち直した一人が叫びながら、持っているアサルトライフルをアルフォンスへと連射した。

 弾丸は真っ直ぐにアルフォンスへと突き進んだ。

 しかし、アルフォンスの前方に展開された、彼を守るように現れた膜。それが全ての弾丸を明後日の方向へと弾き飛ばした。

「ひっ!」

 普通ではありえない光景に兵士たちは小さく悲鳴を上げる。

「くそ! あいつ突撃兵だ!」

 魔法を扱えない庶民で構成された兵士の突撃兵たちにとって、貴族の突撃兵は恐怖の象徴だ。

 人の命を簡単に奪うはずの銃火器を、涼しい顔をして防ぐからだ。

 アルフォンスは硬直した一人の兵士に対して、逆袈裟斬りを放った。

 「ぐ!」

 苦しそうに呻き、倒れる兵士。

 アルフォンスは剣に付いた血を振り落とすと、移動魔法で瞬時に、まるでワープの様に移動すると次の対象に斬りかかった。

 「う、うあ~!」

 彼らは軽い恐慌状態へと陥っていた。

 銃弾は弾き飛ばされ、スタングレネードやフラッシュバンはたいした効果がなく、手榴弾の爆発を受けてすら無傷。

 斬りかかろうとしても斬り結ぶ前に切り捨てられる。

 一対多数だが、圧倒的に戦況を有利にしていたのは一の方だった。

 しかし、この状況も直ぐに引っくり返されることとなった。


 「良くもこれだけの兵を、ブルーメの兵士たちをやってくれたな」

 少しハスキーがかった女性の声が戦場に響いた。

 そのヘルメットを被った女性の登場により、兵士たちは表情を絶望から一転させ、希望に満ちたものへと変えた。

「副団長五席だ……」

「か、カーラ様だ!」

「カーラ様が来て下さったぞ!」

 カーラと呼ばれた女性――に見える大人びた少女――はヘルメットを脱ぎ、それを思いっきりアルフォンスへと投げつけた。

――ガキィッ――金属同士がぶつかるような音を立て、ヘルメットが弾かれた。

「ほお、なるほどな」

 カーラはアルフォンスを睨みつけた。

 彼女は彼を知っている。

 ポーランド王国の大貴族であり、王立の騎士団の団長の長子。――そして父の仇の息子――

 アルフォンスはヨーロッパではそれなりの有名人だ。

 だが、カーラは彼の能力を見るのは生まれて初めてだった。奇妙な防御魔法に対して感嘆の声を上げたのは、そのためだ。

「……カーラ・ブルーメ」

 アルフォンスは父の亡骸にしがみついていた彼女の姿を思い出し、同情的な目線を彼女へと向けた。

 彼も彼女を知っていた。

 彼女はドイツ皇国の全騎士団中最強の騎士と噂されており、公爵家の令嬢でもある。

 知名度で言えば彼女の方が上なくらいだ。

「ふん! 気安く私の名を呼ぶな!」

 カーラは怒鳴ると、右手に緑色のオーラを漂わせアルフォンスに向けて突き出した。

 次の瞬間、カーラの伸ばされた腕の延長線上に渦を横に倒した形の竜巻が発生した。

「ちぃ!」

 アルフォンスはその竜巻を何とか避けた――と思った――

 しかし、アルフォンスの服は所々引き裂かれ、裂け目からは血が流れ出ていた。

「ぐっ!」

アルフォンスは一番出血している右肩を抑え、呻いた。

(避けたと思ったのに、なんて攻撃範囲だ……)

彼は彼女の桁違いの魔法の威力に戦慄した。

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