プロローグその2
変な理論的なやつあるので突っ込みどころ満載です。
「それでは筆記用具を置き、試験監督が来るまで自分の席で待機しなさい」
静寂を保っていた講堂に凛とした声が響いた。
イリーネの声を皮切りに新米の騎士たちは肩の力を抜き、各々リラックスをし、伸びをする。
「アルフォンスどうだった、出来は?」
後ろを振り向き、眉を吊り上げながらクラウスは言った。
アルフォンスは教卓から見て左側、廊下側最後尾列の席に座っており、彼に話しかけたクラウスはアルフォンスの丁度前の列に座っていた。
「卒業試験よりは楽だった。なかなかだと思う」
そう言うと彼は軽く伸びをして体の緊張をほぐした。
「次は実技試験か……」
アルフォンスは顔を引き締めた。
今アルフォンスたちが行っているクラス分け試験は筆記と実技からなり、科目ごとの点数や戦闘能力、所有魔法によって兵種や階級が分けられる。
特に実技においては分け方が顕著で、実技の評価の低いものはほぼ文官である管理兵に確定するといっていいほどである。
「また叱られない様に早く移動するぞ、クラウス」
彼の言葉にクラウスはニタニタと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ははーん。さてはアルフォンス、お前……」
アルフォンスはクラウスの言外の意味を悟ったのか少しむっとして言い返した。
「違う! ただまた怒られるのが嫌なだけだ。それに彼女からの評価は父にも報告されるだろうからな」
そう言うやいなや、アルフォンスはそそくさと移動し始めた。
「お、おい! ちょ、待てよ!」
クラウスは慌ててアルフォンスの後を追った。
今年のドイツ騎士団入団者は一五〇〇名いる。そのうちの八〇名はドイツ騎士学校卒業者であり、全員が貴族だ。
要するに彼らはエリートであり、騎士団から求められる要求もそれに応じて高いのだ。
これから始まる模擬戦は八人一組でチームを作り、新騎士達どうしで試合を行う。評価のポイントは、勝敗はもちろんリーダーの指揮能力、メンバーの各役割の徹底、戦闘能力・魔法技術、防衛・制圧能力などを見られる。
アルフォンスたちは模擬戦を行う城外の広大な訓練場へと来ていた……
「俺はBチームだったが、お前は?」
クラウスが小さい紙切れをぴらぴらと振ってみせた。
「クラウスと同じだな。番号票にはBって書いてある」
「へえ、そりゃあいいや」
「他のメンバーはどういう人たちなんだろうな?」
少し期待を含んだ表情でアルフォンスは周りを観察し始めた。
「ん?」
アルフォンス以外にも他の新騎士たちが視線を彷徨わせていた。彼ら以外も自分がいるチームのメンバーが誰なのか気になっている様子だった。
「全員集合していますか?」
先程の筆記試験で試験監督をしていた如何にも文官ですといった風な眼鏡をかけた茶髪の男が声を張った。
彼の声に辺りを見たり、話をしていたりする新騎士たちが一斉に彼を見た。
「え、えっと。こ、これから模擬戦の説明をします……。説明後三〇分で試合開始しますので準備はスムーズに済ませてください」
一斉に見られたことに彼は一瞬どもったが直ぐに持ち直して淡々とした口調で述べた。
新騎士たちはわらわらと試験監督の前に集まっていった。
模擬戦の具体的な内容は一言で言えば<制圧戦>だ。
縦横一kmほどの訓練場(匍匐すれば隠れられるほどの背丈の小さな草原や林、倉庫棟などが設置されている)の範囲の中に十五チームが各チームの陣地を置き、それの防衛・侵略をするというものだ。
陣地にマーカーを点滅させた状態で配置し、それの点滅を解除されたら敗北、またはチームの全滅も敗北を意味する。
評価は常に各チームの近くの監視映像を試験官たちがチェックしているため、行動全てが評価対象となっている。
説明を聞き終えたアルフォンスたちは、試験官から支給品を受け取ると、Bチームと表示された立て札の前まで集まった。
立て札の前には既に三人いた。
「おう! アルフォンス、クラウスお前たちBなのか? よろしくな!」
三人の中の一人で、クラウス以上にごつい男が手を挙げた。
「ディルク! ああ、よろしく」
「よおー! よろしく頼むぜ!」
ディルクと呼ばれた男は学生時代の彼らのクラスメートだった男だ。他の二人は違うクラスの者たちだったが、嘗て知ったる騎士学校の仲間なので、自然と打ち解けていた。
十数分後……
「んで、誰がリーダーをやるんだ?」
腕を組み片目を瞑ったクラウスが周りのメンバーを一瞥する。
「アルフォンスでいいんじゃないか? 団長の息子だし、強いし、指揮能力もある」
メンバーの一人がそう提案した。
「いや、俺の戦闘スタイル的には指揮官はあまり良くない」
「まあ、そうだろうな……」
アルフォンスの言葉をクラウスが肯定する。
「なんでだよ?」
「そりゃ、戦場の最前線に指揮官が出るわけには行かないだろ。こいつ突撃兵だぜ?」
彼の言う突撃兵とは最前線で戦闘をこなす騎士を示すが、彼は銃の代わりに魔法剣と盾を用いて主に近接戦を行い、味方の進路・退路を作るという役割をいつもしていた。
特に防御魔法の性能の高い突撃兵は通常の突撃兵では歯が立たない程に強く、普通の銃弾なら容易に弾き飛ばす。また、相手の防御魔法を中和できるのも防御魔法だけであり、戦場の最先端は主に突撃兵対突撃兵となる。
逆に言えば、防御魔法を扱えない突撃兵は唯の木偶なのだ……
アルフォンスは強烈な防御魔法を保有している突撃兵であり、突撃兵のエキスパートである。
「……しゃーねえーから俺がやるわ」
クラウスは組んでいた腕を解き、頭を掻いた。
「大丈夫なのか?」
一人が心配そうにクラウスを見る。
「とっさの判断力ならクラウスはある方だ。それに……別に頭は悪いわけじゃない」
「おい!」
アルフォンスの言に突っ込むクラウス。
ツッコミを無視したアルフォンスは、不意に携帯に表示される時刻を見た。
「あと十分しかないぞ!?」
少し慌てた様子で彼は言った。
彼の発言に他のメンバーも焦ったのか渋々といった様子でクラウスをリーダーとして認めた。
アルフォンスたちBチームは訓練場南の倉庫の屋上でマーカーを点滅させて置き、陣地を張った。
現在彼らの兵装は特殊なものとなっている。皆が装備している専用の防護服は、専用の武器(ペイント銃や木剣、杖、etc)や魔法による攻撃を受けるとブザー音を発し、カーキ色から真っ赤に変色するというものだ。
変色した防護服を着た者は戦闘不能者ということになり、即座に戦場を離脱することとなる。
「よし……」
アルフォンスは防護服を叩き、片手の木剣をギュッと握った。
「進路は俺が作る! 突撃部隊は俺に続け!」
そう叫ぶと屋上から飛び降りた。
しかし、誰も彼に続かなかった。
「飛び降りれるか~!!」
突撃隊役の一人が叫んだ。
アルフォンスが飛び降りた屋上は四階建ての家屋ほどの高さがある。
彼のような特殊な防御魔法を持たない彼らには無理なようだった。
待つこと約十秒……
軍隊のようにシャーッと、突撃兵役のメンバー二人と偵察兵役が順に梯子をスライドして降りてきた。
「ああー……悪い! いつもの癖でさ!」
片手だけ御免の形をとり、謝るアルフォンス。
隊列を乱すことは隙を見せることになるため、些細な事でも集団戦では致命的なのだ。
アルフォンスたちの隊列は偵察兵役を先頭に、その10m程後ろにアルフォンス、アルフォンスの斜め後ろに他の二人がそれぞれ左右に配置されている。
アルフォンスたちが建物から降りて僅か数分……
「敵発見~」
先頭を歩いていた偵察兵役が慌てて後ろのアルフォンスたちへと合図を送りながら、近くの木陰に身を潜めた。
彼らは今、小さな林の中に来ているのだ。
「敵の数は?」
追いついたアルフォンスが落ち着いた様子で尋ねた。
「四人。どうやらビンゴみたいじゃん」
偵察兵役が、マーカーが点滅している場所を見て言った。
「よし、フラッシュバンとスタングレネードを投げるぞ。三……二……一……!」
何かを引き抜く音の後、アルフォンスの右にいる突撃兵役が連続で二つの管を四人の集団へと投げ放った。
次の瞬間、閃光と耳を覆いたくなるような音が響いた。
「ぐあっ!」
「うわっ!」
四人のうち二人が強力な閃光と爆音の餌食となった。
しかし、残りの二人は襲撃に気づき、咄嗟にこれらを防いだようだった。
「ちっ、敵襲か!」
「早く連絡を……」
だが、それでも対応は遅かった……
――ビーーー――
ブザーの鳴る音。
彼らが偵察兵たち三人を視認した時、鈍い痛みと共に彼らの防護服が真っ赤に染まった。
「えっ?」
「なっ?」
彼らは驚いた。
まだ襲撃者たちは銃を撃っていないし、木剣が届くような距離にいるわけでもない。
「よし、まずは二人!」
彼らの背後には何時の間にか木剣を振り抜いた体勢を解き始めたアルフォンスが立っていた。
続いて二つの発砲音……
残りの二人、軽いパニックを起こしていた二人の服が紅く染まった。
「林の中の一拠点を制圧した」
アルフォンスは無線で、自拠点にいるクラウスに連絡をしていた。
『了解した。探査兵の探査結果ではその林を二時の方向に進んだ草原で、魔法反応があったらしい。お前の苦手な魔道兵がいる可能性が高い。十分注意して進め!』
「了解」
クラウスの忠告に苦い顔を作るアルフォンス。
『ああ、あと現在の生存チーム数は三チームだそうだ』
「まだ開始から15分も経ってないぞ?」
七割のチームが既にリタイアしている。
それは即ち、他を圧倒する強いチームがいるか、みんな好戦的で潰し合っただけかのどちらかだ。注意すべきは前者だ。
『ああ、流れが異常だ。だからこうやって注意を促してんだろ』
「そうだな……」
(連携の取れた強いチームがいると考えた方が良さそうだな)
アルフォンスはそう結論付けると、無線を切った。
Dチームはメンバーに恵まれたチームだ。
騎士学校を次席で卒業し、アルフォンスに次ぐ突撃兵のセバスチャン・カロッサを筆頭に、三属性の魔法を扱えるミヒャエル、魔法探査の得意なムーペ、迷彩魔法を扱えるオットマーなどそれぞれ特徴的な面子がそろっている。
そんなDチームの彼らは七人で行動していた。防衛には迷彩魔法を扱えるオットマーを残しているだけだが、この迷彩魔法はこういう形の戦闘には絶大な効果を発揮する。
オットマー、彼はマーカーと自身を迷彩魔法によって、草原の草と見分けを付かなくしたのだ。
見破るにはある程度探査魔法を使いこなせる者が必要だが、見破れるのは新騎士たちの中では、ムーペ以外いない。
「こりゃ、楽勝だな~」
背丈の低い小太りの男、ミヒャエルが嬉々として呟いた。
「当たり前だろ。この俺が率いているんだからな」
少しスレンダーな体系の長身の男、セバスチャン・カロッサが自信満々といった様子でそう断言した。
(さあ、どこにいるアルフォンス! 今すぐ貴様を俺の前に跪かせてやる!)
彼はアルフォンスに主席の座を取られたのが許せなかった。
それは、彼はアルフォンスに会うまでは何でも一番を取り続けていたからだ。
生まれ、成績、容姿、剣術、魔法……これら全てが彼に劣っているという劣等感を、彼は強く抱いていた。
セバスチャンがそんな負の感情を表に出し始めた時に事は起きた。
「ベルンシュタイン発見ッスよ~!」
とんがり帽子を被ったちっちゃい少年がアルフォンスのいる方向を、草原に生えている唯一の木の上から指差した。
「しまった! 探査魔法使いか!?」
一五〇mほど離れた場所の集団がアルフォンスたちを見て騒ぎ始めた。
アルフォンスたちは匍匐状態を解除して戦闘体勢を整えた。
魔法探査は魔素を感知する魔法であり、大気中に残留する魔素ほど読み取りやすい。
というものだが、それだけでなく一定の範囲内であれば生物中の魔素を探知することが出来る。一定範囲内ではソナーのような役割も持つのだ。
ムーペは並みの魔法探査使いではない。
よっていくら匍匐して身を隠そうとも、探査範囲に入ってしまったアルフォンスたちの奇襲は失敗といって良い。
「くそっ!」
アルフォンスの隣にいた偵察兵役が焦り、悪態を付いた。
アルフォンスの丁度一五〇m程前方には男たち六人と木の上に一人がいる。
そのうちの一人、小太りの男が杖を掲げた。
すると、杖の先が赤い陽炎を生み出す。
「まずい! 全員伏せろ!」
アルフォンスがそう叫んだ数瞬後、ゴウッという大きな音を立てて子供ほどの大きさの火球が彼らの上を通り過ぎていった。
アルフォンスたちはすばやく体勢を立て直すと、アルフォンスは木剣を、それ以外はペイント銃を構えた。
「やっときたのかぁ~、遅いぞ~! ア~ル~フォ~ン~ス~!」
アルフォンスの後ろから人を小馬鹿にしたような声がした。
「セバスチャン……!」
アルフォンスは油断なく木剣を構えた。
「今度こそはぶちのめすぜ!」
セバスチャンは木剣をペロッと舐めた。
「汚ね……」
セバスチャンの奇行にアルフォンスがぼやいた。
「うるせーよ! まあ、いいさ。ほら、剣構えろよ」
セバスチャンが纏う雰囲気に、アルフォンスのチームのメンバーは何も行動できず、ただ見ているしか出来なかった。
だが、うち一人が気を取り戻して敵たちを見た。
セバスチャン以外の者たちは攻撃を仕掛けては来なかった。
それはセバスチャンとアルフォンスの決闘を見たいという野次馬根性と、人数の差による優位性が彼らに攻撃するという選択肢を出させなかった。
「ギャラリーもいることだしよー。派手に行こーじゃねーか」
そう言うや、セバスチャンはアルフォンスに激しく斬りかかった。――ガツン。
堅い物質同士がぶつかり合う音が響く。
アルフォンスは斬り結んだ状態のままセバスチャンに話しかけた。
「やめておけ、今の状態は俺に対してこの上なく相性が悪い。集団戦なら勝てる見込みがあるんだぞ?」
挑発と思えるような、そんなことを言うアルフォンス。
「上等だこら! 最っ高にイラつくぜ、お前!」
セバスチャンは怒りを露に力を込め、アルフォンスを弾き飛ばした。
そして、すぐさま移動魔法で高速で飛び掛り追撃の袈裟斬りを見舞った。
しかし、その彼の渾身の一撃はアルフォンスの生身の腕により防がれた。
「はああああ~~!?」
在りえない物を見たときのように目を大きく開き、大声を上げて動揺するセバスチャン。
「おまっ! これ! 本当にただの木剣かよ!」
どうやら彼はこの木剣を魔法具だと勘違いしているようだった。
彼の落ち度は、今まで木剣を使わずに魔法だけで他のチームを倒していったことにあった。
一方のアルフォンスは涼しい顔をして言い放った。
「だから言っただろう。相性が悪いと」
「ふ、ふざけんじゃねえー!」
激昂したセバスチャンは、大振りに木剣を振るった。
それをアルフォンスは難なく避け、セバスチャンの鳩尾に突きを放った。
「ぐおっ!」
情けない声と共にブザー音が鳴る。
リーダーがやられたことにDチームのメンバーは焦って防御魔法を発動したが、遅かった。木の上にいるムーペ以外の全員はペイント弾の一斉射に遭い、服を赤く染めてしまった。
アルフォンスとセバスチャンの決闘が彼らの注意を引いている間にBチームの他の三人は迂回して匍匐しながら徐々に近付いて行ったのである。
「残りの一人、もしくは拠点はどこだ?」
アルフォンスは木剣を突き付けながら、木から降りて降参したムーペに尋問した。
「おら、キリキリ吐けや」
気が大きくなった偵察兵役が小突く。
「あ、あ、あそこだよ!」
耐えられなくなったムーペは木の直ぐ近くの草むらを指差した。
「ん? 何も無いぞ?」
アルフォンスが不審がっていると、ガサガサと草むらが揺れ、中肉中背の少年が飛び出してきた。
「こ、降伏するんで、虐めないでください」
眼に涙を溜め、少年はマーカーを差し出してきた。
頭が腐ると全身も腐るというのはこういうことを指すのだろうか。
セバスチャンは一個人としては決して先のような、やられ役ではないし雑魚でもない。しかし、敗北してしまったのは恐らくプライドや感情が理性を押しのけ最善の手を選べなかったからだろう。
実際集団戦なら、アルフォンスたちの勝ちは薄かった。
アルフォンスの防御魔法は物理攻撃の影響を受けない。たとえ近距離でロケットランチャーを打ち込まれようと、それどころか核ミサイルの爆発・放射能でさえ通用しない。さらに、相手の反原子性魔素によって発動する、敵の対物理防御魔法を打ち消す効果を持っている。
しかし、この防御魔法は反魔素性魔素によって引き起こされた魔法の影響は多大に受けるという弱点がある。
故に彼らはミヒャエルがアルフォンスを、セバスチャンがBチームのアルフォンス以外と戦えば確実に勝っていたのだ。
アルフォンスたちがDチームを下して約三〇分後、Dチーム制圧後に制圧メンバーにクラウスを加えたBチームは奇襲や挟撃をうまく使い、残りのチームの拠点を制圧していった。




