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神華  作者: 紫音
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二章 十三話

 保健室まで麗華を送って来た大輝は、彼女の体調が良くなるまで付き添おうとした。だが、養護教員は、保健室は病人が来る場所で、付き添いは必要ないと拒否した。

 ひと悶着あったものの、養護教員の毅然とした態度に負けて、大輝は保健室を追い出された。

麗華は足の痛みが少し落ち着くまで休んでいなさいと言われ、ベッドに寝かされていた。騒いでいた大輝が居なくなった保健室は静かだ。養護教員が何か書き物をしているらしいボールペンの動く音だけが聞こえている。

 保健室の戸をノックする音が聞こえ、入室を告げる声がした。人の気配に麗華は体を起こし、ベッドを囲うようにかけられているカーテンの隙間から誰が入って来たのか覗いた。養護教員と話している一人の女子生徒がいる。誰だろうと思っていると、養護教員が麗華の方を指さした。女子生徒は指さす方へ体を向け、軽く養護教員に頭を下げてから麗華の方へ歩いてきた。


「麗華さん……大丈夫?」

「湖ノ葉さん?」

 今日も分厚い本を持ち学校指定のベストを着ている長い黒髪の少女、水谷湖ノ葉がやって来た。真琴の又従妹である彼女とは、あまり話したことがない。もの静かな彼女はいつも謎の分厚い本を持ち、彰華の後ろ側にいるイメージがある。

 長く真っ直ぐと伸びる黒髪を軽く耳にかけて、麗華の様子を窺う。

「……足、治す」

 水谷家の湖ノ葉は真琴と同じく治療が得意だ。ふいに胸元のピンズに目が行くと二年生の青い色をしていた。一つ上だったんだと、今更年を知る。

「彰華君に言われてきたんですか?」

 陽の守護家である湖ノ葉は彰華の命令で麗華の足を見に来たのだろう。

「……違う。……一年の教室……騒がしい。だからきたの……よ」

 湖ノ葉の言葉を理解できない麗華は少し困ったと思う。

「えっと……」

「足……触る……いい?」

 湖ノ葉が分厚い本を麗華の枕元に置くと足の方の毛布に触れた。麗華が頷くと、右足に触れて呪文を紡ぎ、最後に傷跡に唇を落とした。淡く光、痛みが無くなっていく。唇の感触に驚き体を固くするが、湖ノ葉は何事もなかったように分厚い本を持ち麗華に終わったと告げた。

 真琴の治療の時も、必ずと言って傷口を唇で触れていたので、過剰に反応しない様にしようと思った。じんわりと痛んでいた足の痛みが無くなり、麗華は湖ノ葉にお礼を言う。

「有難う御座います。痛みが嘘みたいに消えて軽くなりました」

 湖ノ葉は軽く首を振る。

「……真琴兄さんたち……悪い。……麗華さん、頑張っている……」

 麗華の右足が傷ついた原因である真琴たちの行動を湖ノ葉は怒っていた。どんな理由があったとしても、人に妖魔を襲わせていた彼らの行動は許されないと、湖ノ葉は今でも思っている。又従兄である真琴が、麗華の足を傷つけたのだから、学園内ではその治療をするのは身内である湖ノ葉の役目だと思っていた。

 

 麗華が、どうして湖ノ葉がここに来たのか不思議そうにしているので、来た理由を話した。

 隣の教室である高校一年生の教室でちょっとした騒ぎがあり、麗華が保健室に居ると言う声が二年生の教室まで聞こえてきた。何があったのかわからないが、治療なら自分の出番だと湖ノ葉は思い、LHRを抜けて保健室へやって来たという。

 おそらく、大輝が真司たちに麗華が保健室に居るとでも伝えた時に騒ぎがあったのだろうと推測し、麗華は顔が引きつる。大事になっていないといいけどと思う。

「……ありがとう。あ、でも先生に怪しまれないかな?」

 麗華は養護教員が急に元気になった彼女を見て何も思わないのか、心配していた。湖ノ葉は軽く首をふる。

「大丈夫。彼女、……水谷家の遠い親戚。……治療の力ある」

「そうなんですね」

 考えてみれば、術者を養育する学校の養護教員が術者について知らないのは変な事だ。大輝のあしらい方も慣れていたところを思い出し納得が行く。

「術者と一般の人って見分けたり出来ないんですかね?」

「……出来る……よ。術者の気配を、感じるの……」

「気配、ですか」

「ん……。勘、みたい……な?」

 勘のような、感覚は麗華にも少しわかる。父がかけたという術が解けてから、今まで見えていなかったものや感覚が違うものがある。一度、面識のある人なら、わかる気がするが、他人だとよくわからない。

「気配とかは……察知能力に関係してくるの……。見たいと、……思うと見えてくる……よ。あと、……練習」

 首を傾けて考えている麗華に、湖ノ葉は一度置いた本を手に持ち言う。

「見たいと思えばみえる。あと練習ですね。やってみようと思います」

 麗華は結界の作り方などを、彰華から教わっている。他にも術についての修業を少しずつ始めていた。麗華はもう一度湖ノ葉にお礼を言い、ベッドから降りた。

「華白館へ……帰る?」

「いえ、教室へ行きますね。遅れてしまったこと謝らないと」

 麗華は養護教員に体調が回復したことを伝え、担任に渡すようにと保健室連絡カードを受け取った。

「足……痛みはない?」

 廊下を歩いていると、隣の湖ノ葉が聞いてくる。

「はい、大丈夫です」

「……そう」

 湖ノ葉は本をきゅっと握り、自分の術が機能している事に満足そうに頷いた。

「湖ノ葉さんいつも本を持っていますね。本が好きなんですか?」

「……うん」

「どんな本を読んでいるんですか?」

「色々……」

「私あまり、本を読む方じゃないけど、前より時間に余裕が出来るから今度読んでみようかな」

 毎日、術の修業をしてはいるが以前のバイトを二つ掛け持ちしていた時よりは自由時間が出来ていた。

「図書室……いつも……いる。読みたい物……聞いていい……よ」

「湖ノ葉さんは図書委員なんですか?」

 湖ノ葉は軽く頷く。

「じゃあ、後で学校案内してもらったときに、図書室へ行ってみますね」

 湖ノ葉はまた頷く。麗華は軽く笑う。いつも、個性の強い陽の守護家の後ろに居るようなイメージの湖ノ葉だったが、話してみるとゆったりした空気はあるものの話しやすい。少しだけ仲良くなれた気がして、麗華はうれしかった。


 渡り廊下を渡り終え、術者クラスである特進科のクラス棟へ入る。



 湖ノ葉が高等部一年一組と書かれている教室の前で止まる。時間的にはまだLHR時間だ。少し緊張して来た麗華は、小さく深呼吸をする。その様子を軽く横目で見て、湖ノ葉は教室の戸をノックした。

 少し待つと、担任の眞尾が戸を開けた。麗華を見て軽く笑う。

「岩澤、もう大丈夫なのか?」

「はい、ご心配をお掛けいたしました」

「うん。転校早々、あまり勝手な事はしないようにな」

「はい、すみませんでした」

 麗華が頭を下げた。大輝を追いかけた時に眞尾の制止を無視し走った。悪いことをした自覚はある。

「あとで、反省文書かせるからな。水谷は自分のクラスへ行きなさい」

 湖ノ葉は頷き、麗華は彼女に感謝を述べてから、別れて眞尾の手招きに従い教室の中に入った。


 教室に入ると、そわそわしている様子の優斗と真司と目が合った。麗華が時間通りに来なかった事を心配していたようで申し訳ないと思う。教壇の真ん前に登世子が頬に手を当て、麗華を見ないように外側を見て座っていた。一番前の席に転校生は座るのかと、嫌だなと心の中で思い、もう一つ空いている席を探す。一番後ろの、優斗と真司の間の席に誰もいない。


「はい、もう一人の転校生、岩澤麗華さんだ」

「岩澤麗華です。遅くなり申し訳ありません。これから、よろしくお願い致します」

 麗華は深々頭を下げるとクラスから拍手が上がる。

「岩澤の席はあの空いている席な」


 麗華は軽く頷いてから、優斗と真司の間の席に座る。席につくとすぐに、優斗が心配そうに声をかけてきた。

「ごめんね。大丈夫だよ」

「自分で目立つことはしたくないって言っていなかった?」

 真司は呆れたような目で麗華を見た。麗華はバツが悪そうに苦笑いする。

「ごめん」

 真司は大げさに息を吐く。

「麗華は目を離したら何をするかわからなくて困るよ」

「ごめん、これからは大人しくするから」

「それが本当ならいんだけどね」

 また軽く息を吐かれて、これは相当怒っていると分かり、どうしたものかと頬を掻く。転校初日に、目立つことをして、彼らを心配させてしまった。口だけで謝罪しても行動に移さなければ信頼は無くなっていくものだ。奇しくも麗華が守護家に要求したことと同じだ。

 もう、自分勝手に動いていい身分じゃない。麗華が勝手に動いて、怪我でもしたら守護家の五人に迷惑が掛かる。麗華は改めて、平穏な学園生活を送れるように大人しくしようと心に決めた。

 

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