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神華  作者: 紫音
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二章 四話

 菫との話し合いが一区切りついた麗華は、実家から持ち出すモノを段ボールに入れる作業をしていた。細かい物や華守市でも買える物は要らないと言われていたが、大切な思い出のある物は持って行こうと思った。もしかしたら、この家にまた戻って来る事は出来ないかもしれない。荷物を入れながらそんな事を考える。

 箪笥の上に並べられている手造りのお豆腐レンジャーのぬいぐるみを手に取る。華守市に行ってから毎日見ていた、お豆腐レンジャーの夢はあれから一度も見ていない。菫に言われて、父の術を解くために空けていた宝箱から出て来たのは、母、桃華が手作りしてくれたぬいぐるみだった。

 桃華は何を思ってこのぬいぐるみを作ったのだろう。桃華は、麗華の力を封印するのを反対していた。記憶が曖昧に為っていたとは言え、藤森家との関わりを切りたくて記憶喪失を装っていたはず。桃華の行動の真意が良く分からない。

 麗華はお豆腐レンジャーのぬいぐるみを段ボールに入れる。父とはまた手紙でやりとりできるが、亡くなった母に理由を聞く事は出来ない。

 大切なものを段ボールに入れると、部屋の物が少なくなり寂しい気がした。


「麗華姫、準備は順調か?」

 麗華の部屋に顔を出したのは、菫色の瞳をした、ゆるやかに波打つ黒髪の男、菫だ。

「菫君、順調だよ。あんまり持って行かなくていいって言われてるから、本当に大切な物だけ入れてるんだ。あ、菫君はこれからどうするの?」

 菫は元々麗華を陰から見守る為に、父が付けた式神だ。麗華がこの家に居なくなるのなら菫も家に居る必要がなくなる。

「その事で、麗華姫に頼みたい事があるのです。私の本体である石がこの街の結界の中心に埋められている。その結界を消し去り、石を解放して頂きたい」

「この街の結界って、術者も妖魔もうちを発見できないし、たどりつけもしないって言うあれだよね。それに菫君の石が使われているの?」

「そうだ。麗華姫は藤森に行くのならば、この結界も必要が無くなり、私は土地に縛りつけられる事もなくなるのです」

 父の命令で麗華を守る為に結界を今まではっていたのならば、その必要はもうない。縛り付けられているのは菫が不憫に思える。

「うん、いいけど、お父さんに頼めばいいんじゃないの?」

 父が作った結界ならば、麗華が解くよりも本人に解かせた方が楽だろう。

「主は地上に戻る事は出来ない身なのです。結界を解くのは不可能」

「そっか。あ、もしかして、菫君が私を藤森家に行かせてお父さんの術を破るように仕組んだのって、自分が結界から解放されたかったからとか?」

 菫は菫色の瞳を細めて、柔らかく微笑む。

「麗華姫がここに居るのならば、いくらでも結界の柱となりましょう。麗華姫がいなくなるのならば私がここに留まるのは不要な事ことでしょう」

 麗華は苦笑いをする。

「菫君はずるいな。イエスともノーとも言わないんだからさ。結界解いた後自由になったら、菫君はどうするの?」

「主の元に戻ります」

「そうなんだ。藤森家に来るかと思った」

「一緒に居て欲しいですか?」

「正直に言うと、藤森家に一緒に住むって言うのはちょっと面倒そうだからいいかな。ほら、真司とか大輝君とかいるから毎日騒がしくなりそうでしょ?」

「蹴散らす事ができますが?」

「菫君なら本当にそうしそうで恐いな」

 麗華は、菫が真司や大輝を蹴散らしている所を想像してくすくす笑う。

「でも、必要ないよ。守護五家の皆さん頑張ってくれているからさ。安心して、お父さんの所に戻ると良いよ」

「麗華姫は昔より良く笑うようになりました」

「そう?」

 麗華は自分の頬を軽く触る。藤森家に行く前、そんなに笑っていなかっただろうか。菫は嬉しそうに微笑み小さく頷いた。



 階段を下りて、真琴と蓮がいる居間に戻る。二人も荷物の整理を手伝うと言ってくれていたが、大がかりな物は何一つないので荷物を詰めている間、居間で楽にして貰っていた。

 居間に飾られている写真を、真琴が興味深そうに見ていた。

「お待たせしました。荷物を詰めるのが終わったので、後は郵送すればOKです。これ、母と私ですよ。こっちは幼馴染と撮ったやつ」

 小学校の入学式に母と一緒に撮った写真と、その隣には高校の入学式、幼馴染の司と撮った写真が並べられている。司と撮った写真は、ある日遊びに来た司が無断で置いて行った。別に外す必要もないので一緒に飾ったままだ。

「お父様の写っている物はないのね」

「はい、父は写真に写るのが嫌いだったみたいで、撮るのが専門でしたから」

 司と写った写真を手に取り、これも持って行くべきか少し悩む。家族のアルバムと友人と撮ったアルバムは持って行く予定だが、この入学式の写真はこれ一枚だけだ。高等学校入学式と書かれた立て札の前には、親子で写真を取る人で溢れていた。その中に入る気が起きずに、そのまま帰ろうとしていた麗華を、司が捕まえて一緒に撮った写真だ。愛嬌のある瞳を三日月にして満面の笑みの司の隣に、栗色の瞳はレンズを見ていなく、少し不貞腐れた顔の麗華が立っている。

 この後、不貞腐れた顔を司に指摘されて、横腹をくすぐられたのだ。その時の事を思い出して、麗華は思い出し笑いをする。

「隣に写っているのは例の彼?」

「……はい」

 何で分かってしまったのだろうと、少し苦笑いして頷く。

「へー。結構可愛い顔をしている子なのね。学校でももてそうね」

「そうなんですよ。なぜか、もてるんですよね。馬鹿な性格のはずなのに気がきくと言うか、さりげなく場を和ませるのが得意と言うか。あ、でも今彼女一筋ってクラスで公言するような彼女馬鹿になっています」

「そう、それで、告白はしたの?」

「え。……してないですね。なんというか、自覚している時に彼女が出来たと言うか……。向こうも、私が好きだった事気付いていない様ですから、このままが良いかなっと」

「あら。もったいない。告白してみればいいのよ」

「え、なんで? 振られるのが分かっているのに告白してどうなるんです」

「振られるとは限らないじゃない? 告白したら意外にうまく行くかもしれないでしょ?」

「真琴」

 蓮が真琴を鋭い目で見ている。髪の毛が短くなっても美しい顔で妖艶に微笑む。

「なにかしら?」

「麗華はもう気持ちがないと言っているんだから掘り起こす事ないだろう」

「麗華さんは全く、彼の事に興味がないと言う訳ではないでしょう。ずっと一緒に居たのだもの。どうなるかは別にしても、思っている気持ちを伝えるのは悪い事とは思わないわ」

「いや、でも、そんなつもりで帰ってきたわけじゃないし。いきなり告白されたら、司吃驚しますよ。気まずくなりたくないし。それに、司をすきって気持ちももうない……し」

 失恋が決まってから、気分転換に母の実家に行ったのだ。そこで起きた様々な出来事で、司を好きという気持ちは何処かに吹き飛んでしまった気がする。だが、改めて司の事を言われると悩んでくる。

「ここに戻って来る事は、難しいと分かっているでしょ? それなら、悔いは残さない方がいいと思うわよ」

 好き。好きと言われれば、司の事は好きだ。でもそれは、友情として? 恋情として?

「ん~…………」

 頭を抱えて悩み始めた麗華は、ふとある事に気が付いた。

「なんで私、真琴さん達とそんな話してるんです!? 私の初恋の話しなんて楽しくないでしょ!?」

「恋バナ楽しいでしょ?」

「私だけ、初恋の話ししたって楽しくないです。真琴さんはどうなんです? 初恋はいつなんです?」

「私? 小学校六年生の時ね。三つ上の奈乃香さん。瞳の大きな可愛らしい子だったわ。三カ月ほど付き合ったけど、ふられちゃったわ」

「奈乃香……」

 蓮の頬が引きつり、眼鏡に触れて真琴を見ている。そんな蓮の表情が珍しい。

「蓮さん知り合いですか?」

「あら、麗華さんも会った事あるわよ。藤森家の血族でこの前の宴会の時に並んで居たわ」

「え、居たんですか」

 麗華は必死に思い出してみるが、あの時何人もの人が挨拶に来て、誰が誰だかさっぱり分からず、全く覚える事が出来なかった。

「藤森家の血族と付き合っていたって、しかも、小六の時に中三と!? さすが、真琴さんですね」

「でも、これはここだけの話よ、他の誰にも言っていない事だから」

 真琴がウインクして人差し指を口元に持って行く。

「蓮さんも気がつかなかったんですね」

「……あぁ」

「蓮みたいな朴念仁に気付かれる様なへまはしないわよ」

「ちなみに、どちらから告白したんです?」

「告白したのは向こうからね。でも先に好きになったのは私よ。向こうから告白してくれないと、付き合うなんて出来るはずないから、私の事を好きに為ってくれないかって、ずっとドキドキしていたわ」

 真琴はその時の事を思い出しながら、懐かしそうに語る。

「本当は用事がないと、お屋敷に近付いてはダメなのだけど、嘘の用事を作って何度も会いに行ったわ」

「恋する少年ですね」

「そう、奈乃香さんから告白された時は嬉しくて、嬉しくて幸せだったわね」

「良かったですね」

「でも、三カ月後には、振られてしまったけど、今ではいい思い出だわ」

「どうして、振られたんです?」

「そうね……」

 真琴が麗華を見て、少し困った笑いをする。

「俺が子供過ぎたのだろうな。身代りにするなと泣かれてしまった」

「…………そ、うですか」

 前に真琴の少年時代の話を少し聞いた事がある。陰の神華が現れなかった所為で、陽の神華がいる陽の守護家を羨んでいたと言っていた。陰の神華に飢えていた少年時代、藤森家の血族である奈乃香になにを求めていたのかは、言われなくても分かる。真琴が本当に身代りにしようとして付き合っていたかは解らないが、奈乃香はそう感じてしまったのだろう。

「さあ、私はしたから次は蓮ね」

「俺はしない」

 真琴が蓮の肩に腕を回す。

「あら~。私のトップシークレット聞いたんだもの、言ってもらうに決まっているでしょう?」

「聞きたくなかったが、勝手に話したのだろう」

「麗華さんだって聞きたいわよね? 蓮の初恋話」

「そうですね。私も、真琴さんも話したんですから、蓮さんだけ言わないのはずるいですよ。さぁ、言いましょう!」

「言いたくない」

「嫌だ、まさか、高校三年生にもなって初恋もまだな童貞!?」

 真琴が蓮の肩から手を外し、大げさに距離を取る。麗華もそれに習い離れる。

「いやだ、蓮さんって、恋の一つや二つした事ないんですか!?」

「寂しい男ねー」

「そうですねー」

 真琴と麗華がお互いに結託して頷き合う。

「誰が、した事ないと言った!」

「あれ、あるんですか?」

「初恋ぐらい俺にだってある」

「そうなの。それは知らなかったわ。どんな子だったの?」

 蓮は真琴と麗華を眼鏡のずれを直しながら、何故こんな話をしなければいけないのだと、一睨みする。

「幼稚園の頃、髪の短い少女が居て泣いているその子の笑顔がみたいと、ずっと思っていた。だから、俺の初恋がその子だと思う」

「幼稚園時代に初恋が終わっているとは、ませた子だったのね」

「その子とはどうなったんですか?」

「…………」

 蓮はあからさまに視線を逸らし、これ以上は語る気はないと口を閉ざす。

「あら、黙秘? 幼稚園時代と言えば、蓮が華守市に来た直後かしらね。あの時髪が短かった子っていたかしら。あ、まさか麻美とか?」

「違う。陽の守護家なわけがないだろう」

「それもそうね」

「なんで、そこで納得するんです? 守護家女子陣可愛い子ばっかりじゃないですか」

「全員があの頃から彰華にべったりだ。その光景を見ていたら好きに為る方が無理だ」

「……なるほど。じゃあ、蓮さん、その泣き虫な子は笑うようになりました?」

 麗華は蓮がこういう話にのってくれた事が嬉しくて微笑んで聞く。蓮は眼鏡のずれを軽く直す。

「あぁ。よく笑うようになった」

「良かったですね」

 真琴は、軽く笑う蓮と、楽しそうに笑う麗華を横目に、写真が飾られている台にある、幼稚園時代の麗華が写る写真を見つける。短髪の幼い麗華がお豆腐レンジャーと決めポーズで写っている。

 その写真を持ち上げて、真琴は蓮に見える様に見せてにやりと笑う。

「――っ」

 言葉に為らない声を発し、蓮が写真を奪おうとする。誰にも気づかれる事のない様に語ったのに、真琴にはいとも簡単にばれてしまった。

 蓮が真琴を追いかけて写真を奪おうとするが、真琴は軽々と避ける。

「なに、じゃれあっているんです? それ、お豆腐レンジャーの写真……。あ。なるほど! 私、蓮さんの初恋相手誰だかわかっちゃいました!」

 真琴と蓮の動きが止まり、得意げに笑う麗華を見る。二人はこの麗華の表情を見て、何かに勘違いしているだろうと直ぐに気が付いた。もし、本当に気が付いていたのなら、麗華がこんな得意げに笑うとは思えない。

「お豆腐レンジャーに出てくる博士の子どもでしょ! るるあちゃん! あの子可愛かったですもんね! 分かりますよ!」

 麗華の勘違いを蓮は利用するように頷き、毒気の抜けている真琴から写真を奪い取る事に成功する。

「るるあちゃん直ぐ泣いちゃうけど、お豆腐レンジャーのマスコットキャラでしたよね!」

 麗華はお豆腐レンジャーになると熱く語り始める癖がある。蓮とるるあちゃんについて語り合いたいと、目がきらきら輝いていた。蓮はお豆腐レンジャーについて詳しくない、麗華にまた今度といい、写真をもとに戻した。

「……残念」

 そう呟いて麗華は戻されたばかりの、写真に目を向ける。お豆腐レンジャーと写る幼い麗華の写真には、脇役のるるあちゃんは写っていなかった。

 その事に違和感を覚えたが、麗華はそれをあえて口にはしなかった。



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