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神華  作者: 紫音
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二章 一話

 残暑も残る日差しの中、新幹線に乗り麗華は実家に帰って来ていた。

 あと三日で、華守市にある花守学園の始業式が行われる。その前に麗華はどうしても実家に帰りたかった。学園生活に必要な細々した物は全て、華守市でそろえる事が出来る。実際に、菊華の命を受けて麗華の引っ越し作業は着々と進んでいる。明後日からは麗華達が住む寮に完全に移動が出来る状態だ。


それでも、家に帰る必要が麗華にはあった。麗華の父が作った、式神菫と会う為だ。

 いくら藤森家で待っていても菫は一向に現れる気配がなかった。その話を守護家と話しあっていると、麗華はある事を思い出した。菫は元々、麗華の家から出る事が出来ないと言っていた。だからいくら待っても来ないのだ。

 菫と話をする為に、麗華は実家に帰りたいと菊華に頼んだ。神華である麗華が、華守市を離れる事は禁止されている。さらに、蜜狩りと言う事件が遭った後で華守市の術者たちには緊張状態が続いていた。麗華に施されていた術者や妖魔に見つからないという、父がかけた術が解けている今、麗華が実家に戻る事は危険が多過ぎた。

 それでも、麗華は菊華に頼み込んだ。菊華は簡単には首を縦に振らなかったが、麗華が実家に帰る必要性を説いた事と、許可しなければ麗華は自分で華守市を出て行き実家に戻るかもしれないと、懸念した菊華は仕方なく麗華の外出を許可した。



 麗華は一日限定で実家に戻る事になった。その際に麗華の護衛役を決める時ひと悶着あった。陰の守護家全員が麗華の護衛として行く気満々だった。だが。

「え。嫌だ。私含めて六人で実家の周りうろうろするの、近所の人に見られたくない。駅からタクシーで行くとしても嫌だ」

 麗華が付いてくる気満々の陰の守護家を見た時、眉間に皺を寄せて本気で嫌がったのだ。麗華がそんな反応をすると思っていなかった、陰の守護家は衝撃を受ける。

「なんだよそれ。僕たちと歩いている所を見られたくないって」

 茶色の髪に、中世的な顔立ちの真司が不機嫌そうに麗華を睨む。

「家に帰るだけなのに、そんなにぞろぞろ連れて歩くのは変じゃない?」

「陰の神華なんだ。誰かに狙われたらどする」

 眼鏡に軽く触れて蓮が麗華に問う。

「分かっています。だから、人数絞って護衛してもらえればいいと思って」

「麗華さんに、掛けられていた術は解けているんだよ。もし、麗華さんに危害を加えようとしている術者が複数で襲って来た時に、人数が少ないと守れないよ」

 落ち着いた雰囲気で整った顔つきの優斗が言うが、麗華は首を横に振る。

「それは分かってるけど、二人か三人がいいな。五人は多いと思うのよ」

「何か、五人で行くと嫌な理由があるのかしら?」

 髪の毛を短く切っても、未だに女言葉の抜けない真琴は首を傾ける。

「何と言うか。周りに誤解を生みそうで。真琴さん、自分の容姿どう思います?」

「私の顔? その辺では見かける事が出来ない貴重な美しさがあるわ」

「ええ。私もそう思います。そんな美しい真琴さん、蓮さん、優斗君、真司、大輝君と一緒に実家に帰ったら近所の人がどう思うか」

「お前、なに世間体気にしてんだよ! 俺たちと歩くのが恥ずかしいって言いたいのか!?」

 大輝は金髪に染めた髪を大きく揺らし麗華に詰め寄る。

「いや、恥ずかしいとまでは言わないけど。吃驚すると思うの、近所の人がさ。変な噂立ちそうじゃない」

「近所って、あぁ。あの幼馴染の男とかか?」

 大輝は麗華と一緒に麗華の家に帰った事がある。その時に会った麗華の隣の家に住む、麗華の幼馴染の司を思い出した。大輝が睨みつけるから、司は怯えていた。

「……うん」

 麗華が実家に帰る事を決めた後、一番に気にしたのが司の事だ。初恋の幼馴染は大輝を見て驚いていた。そこを五人の男を連れて家に戻ってきたら更に驚かせる事になる。もう、恋する気持ちはない。それでも、一番仲が良い友人に心配を掛ける事はしたくなかった。

 何と説明していいか分からない事態の麗華は、簡単に親戚と一緒に暮らす事になったので、転校すると話した。

「それなら、余計にちゃんと挨拶しておきたいわ」

 真琴がにっこりと綺麗に笑う。

「そうだね。俺もその方がいいと思うよ」

 優斗も微笑んで賛成する。それに続き、真司、蓮も挨拶したいと言い始めた。

「いや。ホントいいよ、そう言うの。だから、あんまり目立った行動はしたくないの。一日直ぐに戻って来るだけだし、危険な事しないって約束する。それに、家には菫君がいるから、何人もいらないよ」

「ダメよ。何かあったら困るでしょう?」

 このままだと、皆が付いてくる。それは、避けたい。麗華は何か良い案はないかと考える。

「……あ。夏休みの宿題は終わっています?」

「私はまだ夏休みだから、関係ないわよ。それに課題は先に済ませるタイプなの」

「俺もすでに終わっている」

 真琴と蓮が即答する。

「宿題なんて直ぐ終わる。そんなもん、後でやればいいだけだろ。そんな小さな理由で付いて行くのダメとかいうなよ」

「大輝君。終わったの?」

「終わってねーよ。でも一日あれば終わらせるから、付いて行く!」

「真司と優斗君は?」

「まだ終わってないけど、宿題なんて直ぐ終わらせる」

「俺も、大した量でてないしね」

「いやいや、学業をおろそかにしちゃいけないよ。私に付いて来て成績がさがったと後で言われるのは嫌だし」

 大輝、真司、優斗は三人で宿題ぐらい直ぐ終わると、絶対付いて行くと言い張るが、麗華は首を横に振る。


「真琴さん、蓮さん、一緒に行きましょう! 三人で! 真琴さんと蓮さんの二人なら何があっても大丈夫な気がします! 頼りにしています!」

 不満を言う他三名を無視して、麗華は真琴と蓮の手を掴み、力強く笑う。

「まぁ。麗華さんたら、結構姑息な手を使うわね」

 真琴は軽く笑い、蓮は少し困ったように無言で眼鏡を触る。

「姑息なんて、そんな。私は二人が強いのは分かっていますから信頼しているんです。二人なら大丈夫だと」

 蓮の戦闘は見た事がある。素人目でも蓮の強さは分かる。真琴が戦っている所はあまり見た事がないが、回復が得意な彼がいれば何かあった時対処出来るはずだ。この二人なら、なにかあっても大丈夫だと思えた。


「わかったわ。それじゃあ、私と蓮で麗華さんを護衛しましょう。三人共、良いわね?」

 真琴は有無言わせない笑顔で三人に言う。異論を唱えようとしたが、口が術で閉ざされているかのように三人は口を閉ざしたまま、小さく頷いた。




 こうして、麗華、真琴、蓮の三人は麗華の実家に行く事になった。駅からタクシーで家まで行く。家に行くまでに、幾つも術者避けの結界が張られている為、タクシーの運転手でさえ道に何度も迷いそうになった。

 無事に帰って来られた事にほっとして、久しぶりの家を見上げた。二階建ての一軒家は小さな庭付きだ。家庭菜園を作っていたが、放置していた為雑草で埋まっている。丹精込めて作っていたのに、少し残念だと思いながら玄関に着く。

 以前大輝に壊された玄関は修復しないまま藤森家に来ていた。ガムテープで簡単に止めるだけにしていた。家には式神の菫がいる為、泥棒に遭う事はないはずだ。

 でも、ガムテープがはがされ玄関が修復されていた。

「直っている」

 麗華は不思議に思いながら、鍵を開けてみると扉が普通に開いた。菫が直してくれたのかもしれないそう思いながら中に入ると、玄関マットには一枚の紙が置かれていた。

『修理代 1000万円也 司

  P.S.おかえり』


「あ。司が直したんだ。修理代一千万ってどんだけぼってるのさ」

 玄関先に置かれている紙を拾い上げて思わず笑ってしまう。玄関を直したとは電話した時に何も言っていなかった。

「なにそれ?」

 真琴は麗華が持っている紙を覗きこむ。

「あ、大輝君が壊した玄関、隣の人が直してくれたみたいで、その書き置きです」

「幼馴染の?」

「はい。さぁ、取り合えず中にどうそ」

 麗華は二人にスリッパを差し出して、家の中に招き入れた。




 麗華達が家に入って行くのを陰から見る三名がいた。大輝、真司、優斗の三人だ。麗華が表で護衛されるのが嫌だと言い張るので、彼女が真琴と蓮を選んだ時、真琴が三人は後ろから着いて来いと術で伝えて来たのだ。一緒に家に入れない事が悔しいが、周囲に警戒する役も確かに大事な役目だ。陰の守護家の取締役の様な真琴に言われれば、それに従うしかなかった。

「いいな。今頃、麗華の入れたお茶飲んで、くつろいでいるんだろうな。僕らはこんなまだ暑い中外で、見張り役だよ」

「全くだ。ここ華守市より暑いな! 蒸し暑くてイライラしてくる!」

 大輝はTシャツの袖をまくり肩まで出して、額から出てくる汗をぬぐう。

「大輝、苛々するなよ。見張りも大切な役だよ。ほら、水でも飲みな」

 優斗は大輝に持っていた水を差しだす。大輝はそれを一気に飲み干し、空になったペットボトルを道路に投げた。

「こら、ごみ捨てんなよ」

 真司が注意すると同時に、ペットボトルが道路から跳ね返って大輝の額にぶつかった。

「痛ぇ! 真司! なにもぶつける事ないだろ!」

「僕じゃないよ」

 真司が首を振る。優斗も自分じゃないと首を振った。

「じゃあ、誰が……!?」

 麗華の家の二階の窓から、真夏なのに黒い長袖を着た、波打つ黒髪の男が薄く笑って大輝達を見ていた。

「わかめ!!」

「はぁ?」

 大輝が窓を睨みつけたのを見て、真司達もそちらを見た。二人が見たときにはすでにその姿はなかった。

「あのわかめ野郎。俺達がいるって気が付いている」

「あのわかめって。麗華さんが言う、父親が作ったって言う式神?」

「そうだよ! 麗華に言いつけるかも知れない」

「まぁ、付いて来てるってばれた方がその後、簡単だからそれならそれでいいんじゃない? 麗華なら追い返したりしないだろうしさ」

「麗華さんは、そうだろうけど、真琴さんがなんて言うか。尾行も出来ないって訓練厳しくされそうだね」

 優斗の言葉に、大輝と真司は真琴のする訓練を思い出しげんなりする。それでなくても、蜜狩りがあってから、訓練内容が厳しくなっていた。

「大輝が騒ぐからばれたんじゃないか? お前、気配を消すの苦手だろ」

「ちゃんと消してるだろ!」

「そうやって怒鳴るから、周りに気付かれるんじゃないの? 学習しなよ」

「あぁ?」

 交戦状態に入った大輝が、真司を睨みつける。

「二人ともやめなよ。このままだと、家の中にいる真琴さんに何があったか気付かれるよ。俺は訓練3倍とか嫌だからね」

「僕も嫌だよ」

「俺だって」

「じゃあ、静かにしなよ。それより、この周辺本当に危険はないか探索に行かないか?」

 優斗の提案に二人は頷き、麗華の家の周りの探索をする為、三人は別々に別れる事にした。



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