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神華  作者: 紫音
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一章 七十六話




 麗華、真司、大輝の三人はお昼ご飯を買いに出店にやって来ていた。彰華達はまだステージに上がって司会進行をしている。一応お弁当が用意されているが、お祭りでお弁当と言うのも味気ないので、お祭りらしい食べ物を買ってこようと思ったのだ。

様々な出店の広がる道は人が多く混雑していた。人ごみではぐれない様に注意しながら歩く。おでん、からあげ、たこ焼き、お好み焼きなど様々な出店に目移りする。すでに、幾つか買った物を手に持ちながら、他にいいものがないか麗華は探しながら歩く。

 長いフランクフルトを発見して麗華は足を止める。

「ねぇ、あれも買っていこう!」

 前にいる真司の浴衣を、引っ張り声をかける。

「あ?」

 紺色の浴衣をひっぱったはずなのに、振り返った紺色の浴衣を着た人は真司とは別の男性だった。

「ごめんなさい。間違えました」

 手を離して謝る。後ろにいるはずの大輝に真司がいない事を伝えようと振り返ると、後ろはまた別の人がいた。

「あれ?」

 周りを見渡し、真司と大輝を探すが見当たらない。大輝の様な金髪の頭は目立つはずなのに、何処にも見当たらない。どうやら、二人とはぐれてしまったようだ。店の脇にずれて携帯電話を取りだす。麗華が以前持っていた携帯電話は使えなくなったが、新たに伯母の菊華が携帯電話を新しく用意してくれた。

 真司に電話をかけると、直ぐに電話にでた。

『麗華? ちょっと、どこにいるのさ?』

「長いフランクフルトの隣だよ。そっちこそ何処にいるの?」

『フランクフルト? そんな店何処にある? こっちはたこ焼き屋の所だけど』

「こんな人ごみじゃはぐれちゃうよね。手、繋いでおけばよかったね。大輝君もいるの?」

『やば。大輝もいないの?』

「うん。そっちにもいないのね」

『そこ動かないで。今すぐ行くから』

「いいけど。場所分かるの?」

『そのフランクフルトの店に店舗番号聞いて。そしたら直ぐ分かるよ』

 麗華は忙しそうに働く店員に店舗番号を聞いてそれを真司に伝える。

『絶対そこを動かないでよ。美味しそうな物があるからって動いたりしないでよ。ふらふらしたら余計に迷子になるんだから』

「うん。わかってるよ。大人しく待ってるから」

『大輝には僕から連絡して、そっちに向かわせるから』

「わかった」

『本当にじっとしていてよ。動くなよ。絶対だからね!』

 再度真司に動かない様にと釘を刺されて電話を切られた。いくらなんでもはぐれていると言うのに動きまわったりしないと、麗華は苦笑いする。

 手に持ったお好み焼きの袋からいい香りがしてきた、お好み焼きから出来たての暖かさを感じて食べるのが楽しみになって来る。焼き鳥も買ったし、あとラムネも買おうと考えながら立っていると、人ごみに押された。馴れていない下駄をはいていた為、突っかかり転びそうになったのを何とか耐えた。だが、人の流れと反対側に体が向いてしまったせいで、前から来た人とぶつかってしまう。

「す、すみません」

 手に持っていた、お好み焼きの袋が人にぶつかってしまった。

「痛てぇな。気をつけろよ」

「すいません!」

 慌てて頭を下げて謝る。

「洋介兄さん大丈夫? あぁ。ソース服に付いてるじゃん。お前何処見てんだよ! ……あ」

「あ」

 聞き覚えのある声だと思ったら、見知った顔二つがこそにはあった。軽く髪を逆立てた青年と短めの黒髪の青年。土屋洋介ようすけ土屋孝之たかゆきどちらも土屋家の人間だ。蓮の義理の兄で、瑛子の実兄の二人だ。

 二人は麗華を見て少し気まずそうに顔を引きつらせる。初めの勾玉廻りをする為に土屋家に行った際に、彼らとはひと悶着あった。その後何度か見かける事はあったが、話した事はなかった。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「……平気だ」

「というか。おま、……麗華、さま、お一人ですか?」

 黒髪の短めの青年、孝之が麗華に敬語を使っている事に驚いた。陰の神華の麗華に対する態度を改めたらしい。だが、蓮の一件があった時の印象が強く、今更敬語で話しかけられると抵抗がある。

「一人ですけど、普通に喋って貰っていいですよ」

 洋介と孝之は互いに顔を見合わせるが、洋介が軽く顔を横に振る。

「護衛の真司と大輝はどうしました?」

「はぐれてしまって。今、二人と連絡が付いて。待っているところなんです」

「あいつら、馬鹿じゃね」

 孝之が呆れたように呟く。

「二人は祭り楽しんでいる最中ですか?」

「一応、見廻り中です」

 洋介がシャツの袖に付いている『関係者』の腕章を軽く指差しながら言う。見廻り中の人にしては随分態度が悪い気がする。麗華の視線に気が付いた孝之が苦い顔をして軽く舌打ちした。横の洋介が足を軽く踏み、態度を直させる。

「二人が来るまで、私達が一緒にいます」

「え、いいですよ。ただ、待ってるぐらい出来ます」

「いえ。貴女を一人にさせるわけにはいきませんので」

 洋介が真顔で言うので断り辛い。藤森家の人間を外で一人にしてはいけないと、前に言われた気がする。待つぐらい出来ると思うが、陰の神華になったのだから、危険を回避するためにも土屋家の兄二人と、真司と大輝が来るのを待つ事になった。


 フランクフルトのお店の前が込んでいると言う事で店の裏側で待つ事になる。洋介に付いたソースの染みを拭くように。ポーチに入っていたウエットテイッシュを取りだして渡す。

「ホント御免なさい。とりあえず、これで」

「……ありがとう」

「………………」

 孝之が無言で麗華を見つめてくる。

「何か?」

「お前さ。本当に陰の神華だったの?」

「孝之、敬語を使え」

 足を踏まれて痛そうに顔を歪める。土屋家長男の洋介は、藤森家の人間には敬語で接するようにと教育を受けている。

「こいつがいいって言ったんだからいいだろ」

「いいですよ。ホント、今さらですし」

「そう言う事。で、どうなのよ?」

「本当ですよ」

 孝之が指を一本立てた。その上に霧の様なぼんやりとした物が浮かび、三角の形になった。どうやら、力が見える様になったのか試したいようだ。

「三角ですね。力も見える様になったんですよ」

「へー。良かったな。無能も無用も卒業できて」

 この兄二人は、麗華と蓮の事を力がない無能と、陰の神華もいない無用の守護家と呼び嘲笑っていた。孝之の言葉に嫌味の意味がなく、本当に良かったと思っている響きで少し麗華は驚く。養子の蓮の事を土屋家でいじめていた。だから、麗華がそれを改善させるために彼らに勝負を持ち掛け勝ち、蓮に対する態度を改める様に要求したのだ。

「なんだよ、その意外そうな顔。俺たちにとっても、いい事なんだよ」

「そうなんですか?」

「あいつのうざい顔を二度と見なくて済むだろ」

「うざい?」

 あいつと言うのは言われなくても分かる。蓮の事だ。でもその言い草に眉に皺が寄る。

優斗、真琴、蓮が麗華にした事が明るみに出た時に、土屋家は蓮との縁を切った。土屋家に帰る事を禁じ、追い出したのだ。今は家に戻ってもいいと言われていると言っていたが、土屋家に用事で行く時でさえ蓮は同行しない。あれ以来、蓮は土屋家に戻っていなかった。

「あいつ、力は人一倍強い癖に、陰の神華がいないからって家じゃ、うじうじして鬱陶しかったんだよ」

「それは、貴方方が蓮さんを目の敵にしたからじゃないですか」

「来た時からそうだったんだ。五歳ぐらいだったか。そりゃ、俺たちだってやりたくなるだろ。な」

 孝之に同意を求められて、麗華の苛立ちが伝わっている洋介は少し顔を引きつらせる。

「まぁ。俺達が何をしても、蓮は無視を貫いて可愛げがなかったし」

「だからって、やっていいことと悪い事があるでしょ。もう二度と、しないでくださいよ」

「もう、する必要がなくなった。無用の守護家ってうじうじしないだろ。だから、よかったと思ってさ」

 蔑ろにする理由がないので良かったと思うと言われても少しも嬉しいと思えない。

 でも、もう二度と無用の守護家と呼ばれないという点にだけ、麗華が陰の神華になって良かったと思った。


「あいつ。もう家には帰って来る気ないだろ?」

「親父も帰って来いって言っていたけど、無理っぽいよな」

「……一度縁を切られたんだから、それはそうでしょうね」

五家にとって陰陽の守護家が揃っている事に価値がある。陰の神華が現れた事に寄って、立場が逆転したのだ。

「麗華さまから、家に帰るように伝えてもらえますか?」

「自分で言えば良いじゃないですか」

「嫌だね」

「ありえない」

 二人揃って否定する。

「なにそれ。それに今までした事、蓮さんに謝罪したんですか?」

「謝る必要があるか?」

「ない」

「うわー。最低。蓮さん家出て正解だわ。むしろ、私蓮さんを応援する気持ちが強くなった。家の問題でごたごた言ってきたら、私のもてる全ての力を使って蓮さんに付こう」

 麗華の決意を込めた言葉を聞いて、洋介と孝之は焦る。

「なんだよそれ、こっちが下手に出てるのに」

「それのどこが下手何ですか?」

「お前、前から思っていたが、失礼な奴だな! それに、あの時お前、俺の事思いっきり足で踏んだだろ!」

 あの時と言うのは、麗華が勝負を持ちかけた鬼ごっこで捕まえた時のことだ。捕まえた孝之を踏んだ事が確かにあった。

「懐かしい。そんな事もありましたねー」

「こいつ!」

 麗華としてはここ最近色々な事があり過ぎて、本当に懐かしく思えたのだが、麗華の態度が馬鹿にしていると勘違いして、腹を立てた孝之が麗華に詰め寄ろうとした。それを洋介が、止めようと手を伸ばした瞬間、洋介と孝之の足元の土が盛り上がり、二人の足を拘束した。

「蓮?」

「クソ」

 洋介と孝之の言葉で蓮が術を使った事を知る。


「大丈夫か!?」

 たまたま裏道を通っていた蓮からは、麗華が見知らぬ誰かに詰め寄られている光景に見えた。近寄って、その相手が自分の義兄だと知り少し驚いた様に眼鏡のずれを直す。


「何をしているのですか?」

 蓮は鋭い目で麗華に危害を加えようとしているように見えた義兄を見据えた。

「何もしていない。守護家の使えない馬鹿が、こいつとはぐれたって言うから少しの間、面倒見てやっていたんだ」

「そう、真司と大輝君とはぐれちゃって、偶々通ったこの二人と一緒にいたの」

「……何もなかったんだな」

「うん。唯話していただけです」

 麗華が頷くと、蓮は術を解いて二人を解放させる。

「蓮さん、蓮さん。お二人が是非とも蓮さんに言いたい言葉があるそうです」

 麗華は微笑む。蓮は眼鏡のずれを直し洋介と孝之をみた。


「何か?」

「…………」

 二人は押し黙って何も言わない。麗華はさあ、今までの事を謝れ、と二人に念を送る。

「今まで全く役に立たなかった分、これからは、少しでも役に立つよう、精々藤森家に尽くすんだな」

「そうそう、無用の守護家だったからって、折角現れた陰の神華に、使えないって言われないようにしろよ」

 麗華が思っていた言葉と全く違う言葉が、見下したような態度の二人から発せられる。

「元よりそのつもりです」

 蓮は眉ひとつ動かさず答えた。


「ちょ――」

「じゃあ、俺達忙しいから、行こうぜ」

「おう」

 麗華が呼び止める先に、二人行ってしまう。元々、蓮にした事を悪いと思っていない人に、謝罪させようとしても無理な話か。麗華は少し残念に思いながら、義兄二人の変わらぬ態度を気にしていない蓮を見る。

「まぁ、蓮さんには私が付いていますから」

 蓮の背中をぽんぽんっと叩く。

「何だ?」

「いえ。お気になさらず」

 不可解そうな蓮に麗華は微笑みかけた。




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