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神華  作者: 紫音
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一章 六十話





 各部屋の前に座る、狩衣姿の長い兎のような耳のような狸のようなふわふわの尾を持つ式神の姿を見て、父がかけた術が徐々に解けているのだと改めて実感する。

 藤森家の裏手に出た麗華達は岩本家の式神の手引きにより、誰にも気づかれる事なく藤森家に入る事が出来た。さすがに、森を抜ける時に付いてきた人数で藤森家内を歩けば他の者に気がつかれる恐れがある為に、荒木家の者たちとは途中で別れた。今いるのは岩本家の式神一体と、蓮と大輝の四人で行動している。

更に式神の案内で奥の部屋に繋がる裏道を通り母屋の奥へと足を進めた。藤森家には荒木家や火山家の様な争った跡はない。麗華が居た時と何ら変わりない藤森家だ。

菫と霊体離脱をして華守市に来た時、藤森家に強い結界が張ってあり入る事ができないと言っていたが、彰華が張ったその結界がない。麗華が藤森家に来た事に彰華も気が付いているのだ。身動きの取れない状況らしい彰華は今どうしているのだろう。



 初めて足を踏み入れる部屋に案内され中に入る。畳みの座敷に、鮮やかな花が二輪描かれた屏風、二つ並べられた三方の上に勾玉廻りで預かった勾玉が載せられていた。淡く其々光りを発する勾玉は五色の色合いが混ざり合い不思議な色を成していた。彰華が預かった方の勾玉が濃い色をしていたので、麗華か彰華が預かった勾玉がどちらか分かる。麗華が預かった勾玉は左に彰華が預かった勾玉は右側に置かれていた。

 これを一つの首飾りにするのだが、ふと疑問に思う。

「これ、どうやって一つの首飾りにするの?」

「そりゃ、術で糸を作って一つに纏める……だけど。麗華、お前出来んの?」

「それは、つまり、勾玉を一つの首飾りにするのは神華の仕事ってことね」

 額を押さえて考える。確かに少し見える様になってきた。実は先ほど、父の術を解くための暗示を遣ってみた。宝箱から出てきたお豆腐レンジャーブラックのぬいぐるみを出してから、また少し力が付いた気もしていた。式神が見えるようになったのもそのおかげだと思っていたが、自分で術を使う事が未だに想像できない。

 蓮の方を見ると首飾りにするのが神華の仕事だと言う事を失念していたようで、渋い顔をしていた。

「これが他の家の者が出来る事ではないからな……」

 どうしたものかと、悩んでいる。ここまで来て、間の抜けた話だ。首飾りにしなければ身につけて舞う事が出来ない。

「ただ手に持って舞うって言うのじゃダメかな?」

「力を均一に勾玉に入れる為に一連にするのだから、持つだけでは駄目だろう。こう、指先に力を集中させて伸ばす感じ糸を作れないか?」

「無茶ぶりだ。……んー。はっ!」

 それらしく指先に力を溜めてみるが、麗華の声虚しく何の変化も起きなかった。

「本気でやってんのそれ?」

 大輝に白い目で見られる。

「やってるよ! 大体、指先に力を集中させるって言われても、そう簡単に得体のしれない糸指から出したり出来ません!」

「簡単だって。ほら」

 大輝が手本を見せる様に指先から赤い糸を出す。大輝にすれば簡単なのだろうが、麗華には出来そうにない。大体時間がないと言うのに、こんな事に時間をとられている余裕はない。

「なんか、適当な糸見つけて来て結ぶんじゃダメなんですかね?」

「前例がない。普通の糸で結び結界が強まるかどうか分からない」

「でも、このままじゃ、首飾りにする事も出来ないんですけど。前例がなくてもこの際やるしかないんじゃないですかね。第一代役の私がやる事自体前例がないわけだし」

「そうだな。仕方がない」

「じゃあ。糸を探さなきゃ……」

 周りを見渡すが糸らしきものはない。更にここは藤森家の奥で麗華だけでなく、蓮も大輝も滅多に入る事の出来ない場所だ。何処の何があるか知っている人はいない。式神に尋ねて見るが、澄ました顔で知らないと首を振るだけだった。

「あ。ブラの紐でいい?」

 下着の肩紐は二つある。陰陽の勾玉に使えそうだ。麗華は服を軽くずらして下着の紐の太さを確認する。勾玉に空いている穴に入りそうな太さだ。

「ブラの紐で繋がった勾玉とか、なんか嫌だな。結界余計に壊れんじゃね?」

「……想像したくないな」

「紐なら何でも良いじゃないですか。勾玉が繋がってる事が大事なんでしょ? 今から引き返して紐捜す時間もないんですし、これで我慢すしかないでしょ」

「……背に腹はかえられないか」

「そうですよ。じゃあ、ちょっと二人とも外で待っててくださいね。今パパッと取っちゃいますから」

 麗華は蓮と大輝を部屋の外に出し、急いで服の上から下着を取り外し、紐を取ろうとした。だが肝心の紐がフック型ではない取り外しの出来ないモノだった。蓮か大輝に渡して紐を術で切る事は出来るだろう。だが。それを頼むのが死ぬほど恥ずかしい。何で下着の紐を使おうと提案してしまったのか、今はなによりも悔やまれる。

 やっぱり、下着の紐を使うのは止めようと言うべきだろうか、時間がないからこれしか方法はない。先ほどまで身に付けていた下着を渡す行為が嫌だ。その間なにも身につけていない状態で居るのも恥ずかしい。

 どうするべき悩み悶えていると、部屋の外から早くしろと大輝の催促の声が聞こえた。

 悩んでいても最後はやらなければいけない。麗華は恥ずかしい気持ちを押さえてどちらか一人を呼ぶ事にした。二人呼んで辱めを受けるよりは一人の方がまだ良いと思ったのだ。

 蓮と大輝ならどちらが、この下着の紐を切ると言う行為を馬鹿にしないでやってくれるだろう。

 下着を渡したら、大輝なら計画性がなさすぎると馬鹿にして笑うだろう。しかもさっきまで身に着けていた物を触るのも嫌だと、怒られそうだ。

 蓮は更に悪い。眉間に皺をよせ鋭い目で睨まれて、きっと地の底を這う様な深いため息を吐くだろう。

どちらが良いか考えてみたが、どちらにしても馬鹿にされるのは決まっている。それならまだ、大輝に馬鹿にされるなら慣れている。


「ね、大輝君ちょっと良いかな?」

 襖の扉を少しだけ開けて顔を出す。

「なに?」

「いや。ちょっと問題が発生して……」

「どうした?」

 蓮が不思議そうに麗華を見る。

「い、いや。蓮さんはちょっとそこで待ってて貰っても良いですか? すぐ、ホントすぐ済むんで」

 麗華は大輝の手を掴み部屋の中に引きずり込むと、腑に落ちない顔の蓮に苦笑いをして戸を閉めた。よく分からないまま部屋の中に入れられた大輝は麗華を見て、その手に持っている下着に目が行き、麗華と下着を交互に数回見て、一歩後ずさる。

「な、何してんだよ。紐外すじゃなかったのか?」

「それが、紐が付いたタイプで、取れなくて切ってくれないかな?」

「お前馬鹿だろ!」

 そう叫びながら視線が自然と麗華の胸元に行く。手に薄紅色の下着を持っていると言う事は今、なにも身につけていないと言う事で、夏用の薄手のワンピースだと体の形見えそうだった。

 その視線に気が付いた麗華は慌てて前を隠す。

「ちょっと、注目しないでよ! 紐切れるか切れないか、どっち?」

「そのくらい簡単だ……」

 そう言いながら、大輝の顔がやらしくにまりと笑った。何か、よくない事を考えている顔だ。

「間違って、紐以外切ったら怒るよ! すけべ」

 もし、それ以外が切られて下着を付けることが出来ない状態になったら、これから先ずっと今の格好で過ごさなければいけなくなる。そんな事になったら恐ろしい。

「し、しねぇーよそんな事! つーか、それが人にモノを頼む態度なのかよ」

 大輝の言葉に、確かに態度が悪かったと少し反省する。

「ごめん。切ってくれる?」

「貸せよ」

 大輝が麗華から少し乱暴に下着を取ると、軽く指を動かして紐を切った。

「B……。ちっさ」

 下着と紐を渡す際に大輝が呟いた言葉に、麗華は思わず大輝の頭を叩いた。

「いってぇな!」

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

「はぁ? 本当の事言っただけだろ!」

「ホントの事でも、思っても口に出さないでよ! 馬鹿!」

「うるさいぞ。忍んで入って来ていると言う事を忘れているだろ。静かにしろ」

 蓮が襖を開けて、麗華と大輝に一喝する。

「――――ぅ。ごめんなさい」

「準備は出来たのか?」

「はい。一応」

 そう言って蓮を見るが、手には下着を持ったままだ。また一回二人を部屋の外に出そうと思ったが、蓮が麗華胸元のある一点を凝視していた。下着を外した時に前に付いているボタンを一つ多く外していたので、長身の蓮には麗華の胸元が良く見えた。

 ぼやけた赤い痣がそこにはある。麗華は慌てて胸を隠すが、蓮の少し喜びを含んだ瞳が手遅れだと語っていた。

「あ、あの……」

 蓮の手が、胸を押さえる麗華の手に重ねられる。

「見せてくれるか?」

「いや、あの、生チチはちょっと……」

「俺は気にしない」

「私が気にします」

 蓮の眼鏡越しに見える切れ長の瞳が麗華を捕らえる。蓮は確信している。このぼやけた痣が何なのか。森の結界を抜けた時言葉を濁して逃げたけれど、今回は逃げられない。自分でも本物か偽物か、はっきりしないこの状況は気持ちが落ち着かない。

 この際はっきりさせるべきなのだろう。そう、分かっているが、不安なのだ。

「ただの痣、ですよ」

「それは、俺が見て確認して判断する」

「本当に唯の痣だったからって、がっかりしません?」

「唯の痣だとは思えない」

「でも、今まで何度も確認して違っているのに、今度は本当だったって確証はないでしょ?」

「父に掛けられた術が解けてきた、とは考えられないか?」

「……そうかもしれないし、違うかもしれない。今日一日で結構痣出来たし」

「不安なのか? もし違っていても、そうであっても麗華はそのままでいてくれれば良い」

「…………そうでしょうか。もしそうだったら、そのままでいるなんて無理ですよ」

 もし神華だったら、今までの態度と変わる人が出てくるのは当然だろう。それに、麗華自身が何か変わってしまうかも知れない。それが不安で嫌なのだ。

「……そうだな、変わる事も出てくるだろう。だが、麗華が今のままで居てくれる方が俺は良い。麗華もそれを望むなら、俺の全てを尽くして災厄から君を守ろう」

「神華じゃなくても?」

「神華だからではない。麗華だからだ」

 蓮の瞳に見つめられて、気恥かしくなって苦笑いする。

「……ホントかな?」

 蓮を疑う様な言葉を口に出しながら、蓮の言葉が嬉しかった。まだ不安はあるけれど、この不安を一つ拭う為に、蓮に確認してもらう事に決めた。

 前に付いているボタンをもう一つ外して、痣を見えやすくして、蓮に触れて良いと軽く笑って頷く。


「どーぞ」

 大輝が二人のやりとりを怪訝そうに見ている。蓮の少し冷たい手が、麗華の胸元にゆっくりと触れた。

「五星護契約の下、我願う。尊き華の加護があらんことを」

 やっぱりその言葉なんだと思う。華神剣と呼ばれる武器を神華の華から取りだす言葉。一番分かりやすいと、真司が言っていた。

 なにが起きても驚かない様に、緊張する気持ちを落ち着かせながら変化を待つ。

 暫く経って、何も起きない。

 もう一度、蓮が同じ言葉を繰り返す。だが、やはり何も起きなかった。

 期待させて、やっぱり違った。そうじゃないかと、思わせぶりな行動をしておきながら、やっぱり違ったのだ。

「……ごめんね……」

 蓮の顔が見られない。

なんで違うのだろう、と自分でも思ってしまう。愚かだ。陰の神華はすでに藤森家に居るのだ。違う事は始めから分かっていたじゃないか。

「謝る必要はない」

「でも、期待に応えられたかった」

「神華じゃなくても、麗華を守ると決めたから変わらない。むしろ、方向性が定まった」

 蓮が眼鏡を軽く触って直す、澄ましたその顔に、ほんの少しだけ神華じゃなくて残念に思っている顔が見えた。蓮の微かな表情を身抜ける様になってきた事を少し喜びながら、案外嘘の付けない顔だと思って軽く笑う。



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