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神華  作者: 紫音
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一章 五十八話



 まるで、何かの妖精のように軽やかに柔らかくそして、見た者を魅了するように美しく舞う。布団の中から、知華が舞う神華の舞を見て居るだけで、鳥肌が立つほど美しく自分が覚えなきゃいけないと言う事も忘れて魅入る。胸がやけに疼く気持ち悪さが消えないかと思いながら胸を擦る。知華の舞が終わると思わず拍手をした。

 舞を踊るのは体力を消耗する。少し息の上がった様子で、知華が床に膝を付いてお辞儀する。

「以上が陰の神華の舞で御座います」

「彰華君が知華ちゃんは舞が綺麗だって褒めてたけど、本当にすごいね! 妖精さんかと思った」

「……兄様が?」

「うん」

 何故か知華が驚いた顔をしている。彰華が褒めた事が意外だったようだ。

「そうですか」

 それから、暫く知華が舞を教えてくれる。蓮と大輝は、会議があると言い席を外す。知華と二人になると、麗華も起き上がり舞の手順を習った。

 初めてする動きに戸惑いながら、それでも必死に舞を覚えた。


 知華は始終丁寧語で話してきた。生粋のお嬢様の様な仕草と話し方に麗華は少し憧れる。彰華も菊華の前だと丁寧な口調になる。そういう風に話す様にしつけられているのだろうか。

 知華を攫った女が、知華が連れ出してと頼まれてうんざりしたと言っていたが、表面上は知華がそんな事を考えて居る様には見えなかった。


 そう言えば、他の守護家と連絡が取れたと言っていたが、真司は今どうしているのだろう。やはり藤森家の中に居るのだろうか。そしたら、陰の神華とも会ったはず。彼は何を思ったのだろう。


 舞を覚える事に集中しすぎて時間の感覚が分からなくなっていた。気がつけばすでに、七時を過ぎていて蓮が食事を持ってきていた事にも気がつかなかった。冷めた食事を知華と共に取りながら、蓮達に舞の進行状況を教えた。とりあえず最初の十分ぐらいの形は覚える事が出来た。完璧な知華の様に舞が踊れる訳ではなく、幼稚園のお遊戯のような舞になってしまうが、急遽覚えたでは舞はこの程度が精いっぱいだ。

 

 蓮達から、藤森家の状況と、守護家を襲っていた者たちがどうなったか聞く。状況は守護家の各家が有利なり、蜜狩りをしていた大半の賊は捕まえられた。だが、藤森家に立てこもっている者たちには手を出す事が出来ずに居る。陰の神華が連れてきた者という立場上守護家が手を出すに出せない状態だ。


 舞の最終確認をして、藤森家に向かう事になった。


 浴衣姿はさすがに動き辛いので、岩本家の人から服を借りた。渡された服は、バルーンリースで衿がレースの可愛らしいワンピースだ。

 部屋に一人になって着替える。起きたから違和感を覚えていた胸を見た。胸の谷間の少し上に、赤い痣の様なモノが出来ている。いつの間に、こんな痣が出来たのだろう。何か動いている様な違和感があるが、痣が動くはずもない。痣を擦る様に押さえる胸の少し下。そこに何か、ある様な気がする。

 

 あれ。夢で真琴さんに何かされた気がする。

 

 ぼんやりとしていた記憶が段々とハッキリしてくる。そうだ。真琴にステーキの破片を埋め込まれた。だからって、こんな赤い痣が出来る筈は……。

 真琴は他にも何か言っていた。陰華がどうのこうのと。

 でも、真司の話によると、鮮やかな赤い花らしい。こんなぼやけた赤い痣が陰華なはずがない。誰かに確認してもらうべきだろうか。いや、きっとどこかで胸をぶつけてそれが赤あざに為っているだけだ。陰の神華が藤森家に現れていると言うのに、麗華にもそれと似たようなモノがあると言うのは変だ。

 唯の痣を大げさに言うのも、なんだか恥ずかしく思える。


 疼く様な違和感を押さえて、麗華はワンピースを着た。





 藤森家に向かう。元々出入り禁止に為っている蓮は正面から入る事が出来ない。華守市から麗華を連れ出した、大輝も似たようなもので、藤森家の門をくぐる事は許されていなかった。それに、藤森家の門は今、陰の神華が連れてきた者たちによって閉ざされている。藤森家の母屋や重要な場所は彰華の結界で出入りが出来なくなっていた。

 勾玉が集められている場所に行き、祭典の場所で舞を踊り結界を強める為には、藤森内部に入る必要がある。

 では、どうやって中に入るか。藤森家は各守護家と森で繋がっている。森の抜け道を使い、陰の神華が連れてきた者たちに気がつかれない様に中に入るのだ。中にいる、守護家の当主達とは麗華が勾玉廻りを完了させるために、中に入る事は知らせてあるの。

 正面に居る者たちを倒して中に入れば楽なのだが、たとえ奇襲をかけてきた者たちだとしても、陰の神華が連れてきた者たちを手荒に扱う事が出来ない。


 岩本家から一番近く、抜け道がわりと簡単に通れる場所は荒木家だ。いよいよ優斗に会える。ここに来るまでに色々な事があった所為で忘れていたが、何より、優斗に会いたくて来たのだ。奮い立つ思いを、力拳に変える。

 

 荒木家に着くと、別の荒木家の者たちが麗華達を出迎えた。麗華の顔を見た瞬間に、荒木家の者たちが、地面に頭をこすりつける勢いで土下座をした。出迎えた二十人程の大人達に土下座されて、驚いて少し引き気味になる。優斗の行動を、荒木家として長い謝罪の言葉を述べられた。守護家の優斗のした事は、荒木家全体の評価と責任の様だ。鬼気迫る迫力のある謝罪に、麗華は思わず言葉を飲みこんだ。別に荒木家の人から謝罪されても嬉しくもない。でも、ここは謝罪を受け入れなければ、この人たちはずっと謝罪を続ける事に為る。

 もういいです。

 と、短く謝罪を受け入れた。まだ謝る荒木家の人達に、時間がないので案内をしてほしいと頼む。破壊された荒木家の壁を横目に森に案内してもらう。薄暗くなり始めた森を松明の明かりを持ち歩く。麗華の隣には蓮と大輝、その四方を囲う様に荒木家が十人、岩本家が付けてくれた式神が数体いる。

 優斗がいないか目で探してみるが、何処にもいない。

「あの、優斗君は?」

 案内する男に聞いてみる。

「別働隊と共に動いております」

「別働隊?」

「かなりの数の侵入者達を捕まえたとはいえ、まだ捕まえていない者もいます。そう言う者たちを捕まえる為に、働いているのです」

「そうなんだ……」

 顔を見た瞬間に殴って遣ろうと思っていたのに、会えなくてとても残念だ。言って遣りたい言葉も色々用意してきたのに、この調子だと、全てが終わった後に会う事に為りそうだ。

「優斗に会いたかったのかよ?」

 大輝が信じられないと言う様な眼で麗華を見る。

「うん、ちょっとね」

「お前、馬鹿じゃね。なんで、あんな目に遭わされたのに会いたいとか思えるんだよ」

「ああいう事が遭ったから余計にこう、ね」

 殴ってやる気満々と握りこぶしを振る。大輝が少し呆れた顔をしている。

「……それ。間違っても不意打ち狙うなよ」

「え、なんで?」

「俺もそうだけど、反射的に攻撃してくる奴を倒す様に体が出来てるから。麗華程度なら軽く避けて、逆にカウンター食らう事になるぞ」

「……マジで?」

 確かに、大輝達は体を鍛えている。しかも今の様な異常事態にいきなり殴って来た者を反射的に攻撃してもおかしくない。殴りかかって逆に殴られたら、もう立ち直れそうにない。別の作戦を考えるべきだろうかと悩む。


 ふと、隣の気配がなくなって後ろを見ると、大輝や蓮、それに他の案内人達が立ち止まっていた。

「え。どうしたんですか?」

 何か居るのか、焦って周りを松明で照らしてみるが何も見えないし、気配も感じない。

「手を引っ張ってくれるか」

 蓮が手を伸ばして不思議な事を言う。不思議に思いながら、蓮の手を引き少し歩くと、何故か周りの人がどよめく。何がしたいのか良く分からない。

「麗華。俺も」

 大輝も手を引くようにと手を伸ばす。

「何? 普通に歩けばいいじゃん」

「結界越えられないから、やってんの。ほら、引っ張れよ」

「結界?」

 そんなモノ何処にあるのか。大輝の手を引いて歩きながら不思議に思っていると、思いだした。

 藤森家と各守護家を繋ぐ森には出入りが簡単に出来ない様に結界が張ってある。それに弾かれる事なく通れるのは、各家の当主か、藤森家の当主からもらったお守りを持つ者か、神華。

 今、菊華から貰ったお守りは持っていない。それなのに、弾かれる事なくすんなりと通過できてしまった。

 ぞわっとする冷や汗の様なモノが背中を伝う。疼く胸を押さえながら、蓮と大輝を見る。


「あ、あれ? 私、通れましたね?」

「前も通っていただろ」

「前と言うと?」

「土屋家の勾玉廻りの際だ。藤森家から土屋家の森に来る時森の結界を、お守りを持たずに抜けていた」

「そ、そんな事あったような、なかったような……」

 あの時の事を思い出してみるが、あの時は特に何も考えていなかった。結界があると言うけれど、少し見える様になった今でも結界に気がつく事なく通った。

「何で、通れるんでしょう? というか、本当に結界あるんですか? 実はないんじゃ?」

 麗華が疑うと、荒木家の一人が松明を麗華の方に差し出した。松明の炎は何か壁に当たる様に形を変化させた。目に見えて結界がある事を証明されて、口を開けて驚く。


「もしかして、私って、やっぱり?」

 疼く胸を押さえて、また出てきた、ある可能性を不思議に思う。



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