表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神華  作者: 紫音
57/99

一章 五十六話



 蜜狩りで負傷した者たちの手当てに水谷家の者たちは駆け回っていた。自宅謹慎していた真琴も例外ではなく、回復術や薬湯の優れた技を活かして各家の負傷達を治してゆく。


 あの一件が露見した時、水谷家に戻された真琴は水谷家の地下にある独房に入れられた。暫くそこで反省するようにと、父から言われ窓も明かりもない石で出来た壁に寄りかかりながら、今後の事を考えていた。

 優斗が持ち出して来た提案に乗った事に後悔はしていない。真琴も麗華が陰の神華だと考えていた。会った瞬間から、麗華が陰の神華なのだろうと確信めいた思いがあった。だから、危険を冒してそれを証明しようとした。麗華を傷つけただけで最悪な結果に終わった。

 守護家の中で年長の真琴が制止役に入らず、指示するとはどういう事かと、菊華に叱責された。

 制止役に入るはずがない。何十年も、待ってやっと現れたと思った陰の神華を見定める為なら。何でもやる。ただ麗華を必要以上に傷つける必要はなかったと、後悔している。危機的状況に陥れば、力が解放されると言う安易な考えに走ったのが間違いだった。


 泣くのを必死に押さえていた様な、辛そうな顔で非難された事が思い出される。

 麗華の怒りは最もで、恐らく二度と真琴たちの事を許さないだろう。他愛もない世間話で笑っていたあの顔をもう見られないのだと思うと、何より辛かった。


 神華じゃないと、優斗は言った。

 本当は初めて占った時、勘違いを暗示する結果が出ていたのだと白状した。

 それでも、信じたくなくて、麗華が神華だと信じたかったと。


 何度危機的状況に陥っても覚醒の予兆すら見えなかった麗華は本当に神華じゃないのかもしれない。


 自分達のした事は、最悪と言うほかない。

 麗華が神華であろうと、なかろうと、女の子が妖魔に襲われる様に仕掛け、瀕死に為るまで見ていたのだから。

 謝っても許される事じゃないと、分かっている。でも、麗華に会えたら謝りたい。

 償いをしたい。身勝手な願いだけれど、もう一度あの無垢な笑顔を見せてほしい。


 ここから出られるのが何時になるのか、想像もつかない。今大輝と共に何処かへ行方をくらませた麗華の事を考える。

 神華じゃなくても、藤森の血族の麗華は無事でいるのだろうか。




 独房に入れられて、一日半が経ったと時異変が起きた。

 水谷家の結界が大きく揺らいだのを感じた。何かが起きている。独房の中から出る事の出来なかった真琴だが、水谷家で一番力の強いのは真琴だ。すぐに真琴の力を必要とした家の者が真琴を外に出して、状況を説明した。


 藤森家、守護家が奇襲に遭っている。そして、藤森家を奇襲した主犯は陰の神華だと言う。

 真琴の健闘により、水谷家の被害は守護家の中で最小限に止める事が出来た。だが、他家の損傷は酷く、回復術が得意な水谷家は他家の者たちを救護に向かった。


 藤森家の出入り禁止になった真琴は藤森家に入る事が出来ず、陰の神華が本物かどうか確かめる事が出来ない。陰の神華の出現を水谷家の当主が見に行ったきり連絡が途絶えていた。藤森家で何かが起きているらしいと分かるが、何の力にもならないもどかしい気持ちを抱えたまま、負傷者の手当てに追われていた。



 藤森家の長女、知華が誘拐されていたが解放されたと言う情報が回って来る。だが、知華の救出作戦時に負傷者が多数出た。真琴は数人の水谷家の者と共に岩本家に救護役として向かう事になった。


 岩本家に車で向かう途中で、少し大きめな鞄を肩にかけて歩いている女が目に入った。すらりとした細身の体型に水色のワンピースを着た女だ。背筋が真直ぐ伸び、優雅に歩いている姿だけで育ちの良さが伺えた。その女から、甘い香りがする。どこかで感じた事の香りだが、それが何処なのか通り過ぎながら考え、胸騒ぎを感じた。

 車を更に走らせると、胸騒ぎは強くなり岩本家に向かう道をそれた場所が気になった。

 岩本家に行こうと走らせる車を制止させて、一人車を降り気になる方向へ走ると、一本の線が見えた。術で作られた糸。それに触れると、蓮が作ったモノだと分かる。蜜狩りが起きてから、家を追い出された蓮とは連絡が取れていなかった。彰華が張った結界の外にいるのだと思っていたが、結界の中で何かしているらしい。

 糸の先から何か気になる気配がする。そのまま糸を辿って行くと、血の気の失せた青白い顔をした泥だらけの服を着た麗華が倒れていた。


「麗華さん!」

 何故ここにいるのか分からない。だが、それよりも脂汗を流して、呼吸が乱れている麗華の状態が気になる。半袖の腕から見えた血で滲んだ絆創膏。すぐに誰かに血を抜かれたのだと分かった。頬を軽く叩いて、意識確認をするが反応はない。

 血が大量に抜かれて、ショック状態になっているようだ。すぐさま術を使い、力を麗華に送り込む。だが、大量に抜かれた麗華の血は唯の血じゃない。藤森家に流れる蜜と呼ばれる力の源だ。

 いくら真琴が力を送ったところで麗華が意識を取り戻す程の力を送る事が出来ない。血を抜かれたのだから、すぐさま病院で輸血するべきなのだが、彰華が張った結界の外に病院がある。

 刻一刻と、様態が悪くなる麗華。早く手を打たなければ本当に死んでしまうかもしない。麗華の手に付いている糸を伝い蓮に麗華の状況を知らせる。

 こんな糸まで麗華に付けているのに何故傍を離れたのか。

 麗華に力を送る方法は何かないだろうか。考えて、一つの方法が浮かび上がる。真琴の持っている力を極限まで麗華に注ぎ込む事が出来れば、麗華は意識を取り戻すまでに回復するはずだ。

 ただ。陰の守護家である真琴も、いつも飢餓状態になる一歩手前までしか力を溜めていない。送り終わった後、真琴の方が倒れて暫く動けない状態になるだろう。

 今、藤森家で起きていることや、守護家達に起きている事の手伝いが出来なくなる。いくら、無用の守護家と罵られていても能力は高い為、術者としては必要とされていた。また、水谷家の当主達からもっと考えて行動しろと、激怒される事になりそうだ。真琴は綺麗な顔を少しゆがめて苦笑いする。

 今更、他の評価なんて気にしない。またなにか言われようと、今は麗華の様態を治す事が最優先だ。



 一番簡単に力を送れる方法がある。でもそれを遣った事を知られたら、麗華にさらに嫌われそうだ。今は緊急事態と言う事で許してもらおう。真琴は自分の長く艶やかな黒髪を掴むと、小刀を使い根基かバッサリと髪を切った。

 元々、女に見せる為に伸ばしていた訳じゃない。本当は、僅かな力を髪に貯蓄させていた。長年、陰の神華の補給が受けられていない真琴にとって、飢餓状態は身近なモノだった。だから、少しでも力を作れる時に、髪に力を溜めて飢餓状態にならない様にしていたのだ。

 呪文を唱えて、切った長い髪を力の源に変化させる。髪は小さな黒い玉に変わり、それを麗華の口に押し込んだ。

「ごめん」

 と一言謝ってから、青ざめた柔らかな唇触れ、力が送りやすい様に舌を奥へとねじ込む。舌が重なり合い、ふと力がみなぎる感覚に少し焦る。麗華に流れる液体は全て蜜になる。力を送り込んでいるのに、逆に力を取ってどうする。名残惜しい気持ちを捨てて、真琴の持っている力を全て麗華に注ぎ込んだ。






 何もない場所に出てきた。離れた場所にどこかで見た事のある祭壇ある。真琴は場の感覚を読み取り、麗華の意識の中に入ってしまった事に気がついた。真琴自身人に力を送り込むと言う行為は初めてだったので、人の意識の中に入ってしまう副作用がある事は知らなかった。

 麗華が意識を取り戻せば、自然に真琴も弾かれるだろう。麗華を起こし、早く意識を取り戻した方が良い。

 何もない場所に一つある祭壇に、真琴は向かう事にした。祭壇にまつられているモノを覗き込むようにして、麗華がそれを見ている。

「麗華さん」

 近付きながら声をかける。麗華は真琴に驚いて目を瞬かせた。

「え、真琴さん? お豆腐レンジャーじゃない。なんで?」

 なにか、よく分からない事を呟きながら、首を傾ける麗華に真琴は苦笑いする。

「そこで、何しているの?」

「真琴さんこそ、何で居るの? いや、そうだよ。ステーキを守りに来たんですね!」

 恐らく麗華は夢を見ているのだ。だから真琴の登場をなにか勘違いし、前と変わらない様子で話しかけてくる。その様子が少し嬉しい。きっと、目覚めたら二度と見る事は出来ない。麗華は祭壇から何かを掴むと、真琴の所に持ってきた。

「このステーキ守り切りましょうね!」

 そう言って麗華が真琴に見せたモノは、どう見ても水晶の中に入った鮮やかな赤い花だった。

「これ、ステーキなの?」

「そうですよ! この香しい肉の香り! 丁度良く揚げられたポテトまで付いて! どうみてもステーキじゃないですか」

 麗華が熱弁するが、真琴から見たらどう見ても花だ。水晶の中に花があるので香りは分からない。

「ちょっと見ても良いかしら」

「どうぞ」

 真琴が水晶の花を取ろうとすると、麗華はすっと器をどけた。

「ステーキを手で掴む気ですか?」

 正気を疑うような目を送られる。麗華から見ると、本当にステーキの様に見えているようだ。

「ごめんなさい。じゃあ、器ごと見せて貰ってもいいかしら?」

「はい。禿鷹どもが来る前に、二人で食べちゃいましょうね!」

 麗華から器ごと貰い良く観察する。水晶に触れればもっと何か分かりそうだが、『手でステーキを触るなんて絶対駄目!』と言い麗華がそれを許さなかった。

 何かがやって来る気配を感じる。

「来たな! 禿鷹め!」

 麗華が、ステーキを隠す様に立つ。上を見るとホントに禿鷹に似た何かがこっちに向かって来ていた。

「あれは?」

「このステーキを狙う悪い禿鷹です。そのうち狼も来るので、早く逃げましょう!」

「何故分かるの?」

「毎度毎度、ワンパターンな夢ですからね。ステーキを守れた事はまだ一回しかないんですよ」

 真琴はとりあえず禿鷹の動きを縛ろうと思い、術を使おうとしたが麗華の夢の中では術は使えないようで発動しなかった。

 真琴は麗華の手を引きながら、禿鷹から逃げる事にした。周りに武器になるモノはないか探してみるが何もない。そのうち麗華の言う通り狼まで出てきた。

「毎回って、毎日同じ夢を見ているの?」

「そうなんですよ。華守市に入ってからずーっと。同じ夢ばっかり。嫌に為りますよ」

 華守市に入ってから、と言う事が気になる。この花は何かの暗示なのだろうか。

 何処からともなく、戦隊モノの登場シーンの様な音楽が流れてきた。驚いて振り返るとそこに居たのは、昔流行したレンジャー戦隊。五人特色のスーツを着て決めポーズをする。その戦隊モノの登場に麗華は目を輝かせた。

「お豆腐レンジャー! 今日もあいつらやっつけちゃって!」

 拳を握って力強くお豆腐レンジャーに呼びかける。お豆腐レンジャーの活躍は凄かった。よく分からない必殺技を使って、次々と狼や禿鷹を倒して行く。麗華がお豆腐レンジャーの活躍に気をとられている隙に、真琴は水晶に触れた。

 流れてくる感覚は、やはり思っていたモノだ。

 あの祭壇も見た事がある気がしたが、やはり一度だけ子供の頃に盗み見に行った、藤森家の奥にある歴代の神華の華を祀る祭壇だ。


 この水晶の結界からどうやったらこの花をとりだす事が出来るのだろう。


 そうこうしているうちに、お豆腐レンジャーの活躍により禿鷹や狼は倒れていた。お豆腐レンジャーはまた決めポーズをとると何処へ居なくなった。麗華ははしゃいで手を振りながら彼らを見送る。あのお豆腐レンジャーは一体何なのだろう。

 

「あんな風に皆揃って戦ってくれたのは初めてなんですよ! いつも誰かは戦いに参加しないでぼけっとしたり無視したりで、皆が戦ってくれるなんてホント嬉しい!」

「そう、よかったわね」

「はい」

 嬉しそうに笑う麗華。その笑顔をこうしてみるのもきっと最後だ。もうすぐ麗華も意識を取り戻すだろう。

 その前に、言わなければいけない。

「麗華さん、私達の暴走で貴女を散々傷つけてしまって、本当に申し訳ないわ」

 麗華は真琴の方を見て少し驚いた顔をし、思いだした様に眉を潜めて表情を暗くする。

「…………」

「もう二度と、あんな事はしないから」

「…………あの、ここに居る真琴さんは私の想像の産物ですか? それとも、本物?」

「本物よ。今麗華さんの意識の中に入り込んでいるの」

「意識の中? 何でそんな事を?」

「意識なくなる前の事は覚えているかしら。血を抜かれて倒れて居たから、治療したのよ」

「……あぁ。治療で中に?」

「ちょっと副作用見たいなものかしら。別に記憶を探ったりはしていないから安心してちょうだい」

「真琴さん達がした事、簡単に許せるほど私。心広くないんです」

「えぇ、そうでしょう」

「生身で会ったら一発殴らせてくださいね」

「え? 殴って気が済むならどうぞ」

「……。……ダメだ、やっぱり不意打ちで殴らなきゃ効果が低い」

 麗華がぼそりと呟く。

「それに、菊華さま宛てに手紙を書いてくれて有難う」

「……いえ。真琴さん達の為に書いたって訳じゃないです。ただ、私が来た所為で守護家の人を混乱させたのは事実だと思うから」

「あんな目に会わせた私達の事を考えるなんて、人が良いのね」

「お人よしって、言いたいんですか」

「あら、卑屈にとらないで欲しいわ。本当にいい子なんだなって思っただけなのよ。そんな子を……。償いをさせてね」

「償い?」

「えぇ。でも、その前にもう一つ酷い事をしてもいいかしら」

 首を傾け愛らしく微笑み物騒な事を言う真琴に麗華は驚く。

「え? って思いっきり矛盾してませんか!?」

「分かっているわ。でも、やらせてもらう」

 麗華の手を掴むと真琴は足を払って、地面に麗華を押し倒した。真琴に組み敷かれた麗華は、非難の目を真琴に向ける。

「痛い! 何するんですか!」

「すぐ済む」

 麗華は抵抗しようともがくが、両手を片手で掴まれて真琴に服を器用に上にあげてられ脱がされた。露わになった胸元に、先ほどの水晶を押しこまれる。

「痛い、痛い、痛い!!」

 水晶を押しこめるが、麗華の胸に入る事はない。

「やっぱり駄目か」

「なに、するんですか! ステーキめっちゃ熱いし痛い!」

 麗華の非難を無視して真琴は水晶を床に投げつけた。ガラスの様に割れて鮮やかな赤い花が現れた。

「あぁ! ステーキ! 酷い。食べようと思ってたのに!」

 食べ物の恨みは恐ろしいと、言わんばかりに麗華は真琴を睨みつける。

「これは、ステーキじゃない。よく見て御覧。何に見える?」

 真琴は鮮やかな赤い花を持ち上げて麗華に見せる。麗華は目を細めてそれを見るが、やはり麗華の眼には違うように映っているようだ。

「ステーキの欠片にしか見えません」

 真琴は持っていた花をまた麗華の胸元に押し込んだ。今度は、花は潰れる様に麗華の中に入って行った。真琴は麗華の手を放して体をどける。


「痛い! 何これ、凄く痛い!」


 胸元を押さえて痛みを訴える。

「ごめん。大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃない! なんか、変。何かが動いている。それにめっちゃくちゃ痛い!」

「落ち着いて、元々、ここは麗華さんの意識の中。夢の中なんだから、そんなに痛いはずがない」

「いや、これ、痛いって! 真琴さん何してくれたんですか! 信じられない、ステーキを押しこめるとかありえない」

「ステーキじゃない。水晶に封印されていた、陰華を入れた。でも、意識の中の行動が現実に現れるかどうかは分からないな」

「何寝ぼけた事を言ってるんですか! 陰の神華なら、藤森家に現れたって聞きましたよ!」

「あれは偽物だ。本物だったら、彰華が藤森家に立てこもったりしないだろ」

「何言って……」

 麗華が何か言い返そうとしたが、そのまま意識を失った様に目を閉じた。麗華の意識の中が揺らぎ、真琴はそのまま麗華の中からはじき出された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ