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神華  作者: 紫音
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一章 五十話



 華守市の駅に降りて太陽の眩しさに目を瞬かせる。隣に居る大輝の不機嫌を通り越して、殺気だった様子が気に為るが今は無視する事にした。


 幽体離脱から体に戻った麗華は、すぐさま大輝に華守市に起きている事を話した。そして、勾玉廻りを完了させる為に、華守市にもう一度行く必要があると話した。優斗を殴りに行きたいと言う、最も大切な理由は話さない。話したら鼻で笑われるか、怒られる気がしたからだ。

 でも、華守市に行く事を大輝は猛反対した。力のない麗華が行けば、狙われるだけだと言われる。それでも、藤森家をこのままにする訳にはいかないと説き伏せる。菫も加勢して麗華が華守市に行く必要があると、大輝に話した。

 麗華一人では、勾玉廻りを完了させる事はできないし、大輝の火山家も残っている。大輝に一緒に来てほしいと、大輝の力が必要なのと、最後には泣き落した。

 本当は麗華を華守市に連れて行きたくなどない大輝も、最後に折れて華守市に行く事になった。当然のごとく菫も一緒に来るのだと思っていたのに、菫は華守市に入れないと言う。元々、実体では華守市に入る事を麗夜から禁じられていた。麗華の霊体を利用して、麗夜の命令の裏をかいて幽体離脱をしていた。実体が華守市に行けるのならば、初めから麗華一人で、華守に行かせたりなどしていない。菫の核は家の中に縛られているのだ。


 麗華と大輝は交通機関で最も早く行けると言う理由で、新幹線に乗りやってきた。時刻は一時を回ったところ。あれから五時間も経っている。華守市で、異変が起きていないか心配だ。

 麗華は幽体離脱の所為で具合が悪くなり新幹線の中で寝ていた。だから、大輝にはまだある可能性については話せていない。言う機会を失うと中々言いだし辛い。もしその事を話せば大輝はどんな反応を見せるのだろう。


 初めに向かうのは優斗の荒木家だ。勾玉廻りの順番が次は荒木家だからと言う理由と、怒りをおさめる為に優斗の涼しい顔を殴って遣りたいという理由だ。

 殺気だった大輝の隣を、町並みの様子を注意深く見ながら歩く。誰かが潜んでいる様子は見当たらない。

 荒木家に向かっていると、大輝が急に止まった。何かあるのかと、緊張して大輝を見る。

「結界が張ってある」

「彰華君が張ったって言うやつ?」

 何もない空間に大輝が手を伸ばす、結界に触れると空間が揺らぎ波紋の様なものが見えた。見えた事が少し嬉しい。

 大輝は呪文を呟く。二分ぐらい呟き続けるが、空間に変化は見られない。

「駄目だ、中に入れない。出入りを出来なくする結界だ」

 大輝が結界を解こうとしている横を、自転車に乗った人が悠々と通って行く。

「今チャリが通ったけど?」

「術者だけを排除しているんだ。だから、一般人は普通に出入りできる」

「あ、じゃあ、私通れないかな?」

 術者と言っても、微かに見えるようになった麗華なら、結界を通れるのではないだろうかと思った。麗華は試しに手を伸ばしてみた。柔らかい布団に触れたような感覚がある。麗華も弾かれてしまい通れない。

「私も駄目みたい」

「っま、そうだろうな」

 大輝はどうするか考える。式神を紙で折り飛ばしてみるがやはり入れない。何度か、結界が解けないか呪文を呟いてみるが、変化は見られない。苛立ってきた大輝は結界に向かい攻撃の術を放った。波紋が大きく広がり、結界に吸収される様に術は解けて消えた。

 何度か攻撃を繰り返すが、結界はビクともしない。

「っち。……彰華の結界を解くのは俺一人じゃ無理だ」

 術を使い少し疲れた様子の大輝は自分一人では解けないと認めた。

「一人じゃ無理って、私じゃ何もできないし……。他の人に協力してもらえれば解けるの?」

「多分な。わかめはとか、どうなんだよ」

「すみれ君は無理だよ。来れないって言ってたし。それより、私心当たりがあるんだけど」

「心当たり?」

「うん。蓮さんって、きっとこの結界の外に居るんじゃないかな?」

 藤森家の出入り禁止を命じられた真琴と優斗は家に帰された。でも、蓮は家に帰る事が出来ずに、今何処に居るか分からない。恐らく、華守市の近くには居ると思うが、土屋家の敷地内には居ないはず。結界の外に居ると麗華は考えた。

「……蓮な。まぁ確かに、蓮がいれば結界の中に入れるかもしれないけど。あいつに協力頼むのが嫌だ」

「何言ってんの?」

「麗華にした事、忘れた訳じゃないだろ。なのに、手伝ってくれてって頼むのが嫌だ」

「忘れてないけど、大輝君一人じゃ無理なら、蓮さんにも協力して貰った方がいいじゃない」

 大輝はむっとする。確かに大輝一人じゃ出来そうにないが、麗華に力不足を指摘された気がして苛立つ。力不足は自分が悪い。分かっているが、苛立つ。

 大輝は自分が使う事の出来る最大の術を結界にぶつけた。熱風と空気が振動するような感覚に麗華は驚く。

 それでも、結界は変化しない。肩で息をして力の使いすぎで体がだるいが、何より結界が解けなくて悔しい。

「くっそ!」

「……大輝君?」

「蓮に呼びかければいいんだろ! 分かったよ!」

 大輝は鞄から札を取り出して念を込めて放った。蓮の居る場所に向かうはずだ。大輝は不貞腐れた様に近くの家の塀を蹴る。

「あのね、大輝君。大輝君の力不足を責めている訳でも、馬鹿にしている訳でもないよ。蓮さんが今どうしているのかって気になるし、勾玉廻りを完了させた後、守護家には何かしらの役割があるんでしょ?」

「……あるけどさ」

「ね。その時に為って、蓮さんが居ないって困るじゃない。蓮さんも結界解くのを手伝ってくれたら助かるし、大輝君ばかりに負担掛けるのも悪い気がするんだよね」

「お前は気に為らないのかよ」

「私にした事? まぁ、気に為らない訳じゃないけど……。正直言うと、あの時、優斗君と真琴さんには自分達が犯人だってハッキリ言われたし、やられたから印象深く残ってるんだけど、蓮さんにはハッキリ言われてないから、印象が薄いと言うか……。陰でやってたって事は同じなんだけど、二人と比べると怒りの度合いが少ないと言うか」

「なんだよそれ」

「んー。蓮さんに言われたらまた違うと思うけどね」



 蓮からの連絡を待ちながら、麗華は結界の不思議な感触を確かめる。大輝はすぐに結界があると気が付いた。もしも、見えていたらこの結界はどんなふうに映るのだろう。結界のふかふかな感覚を楽しみながら結界に沿って歩く。

「麗華! 引き返せ!」

 急に後ろから怒鳴りが聞えた。数歩しか歩いた気はしないのに、大輝から離れたのだろうか。五歩ぐらい後ろに大輝が居る。そんなに離れていないと思っていたら、横から強烈な体当たりを食らう。投げ飛ばされて三、四メートル宙に上がり、痛みを自覚する前に背中の服を何かに掴まれた。落ちて行きながら、何か獣の息遣いと「そのまま動くな」と男の声が聞こえた。

 軽い衝撃とともに地面に着地すると、何かにくわえられている様に、宙づりにされた。

「麗華!」

 ぶつかられた腕や脇腹が激痛で悲鳴をあげている。引きつるような浅い呼吸を繰り返す。一体何が起きたのか、痛みで薄目しか開けられないが、何が起きたのか理解しようと周りを見た。

 大輝を囲うように六人の男女が居る。皆、戦闘態勢の様で、刀、長刀や何に使うか分からないが竹笛を持っていた。大輝が術を放った力の振動を聞きつけてやってきたようだ。

「お前、火山家、大輝だな」

「赤の毛並みの妖獣。妖獣使い、彪毛あやけ村の凪沼なぎぬま家の者か! どういうつもりだ!」

 日本各地に居る術者の中で、彪毛村は古来より妖獣を慣らし使役していた。

「この結界を解いて欲しい」

「何?」

「守護家ならば解けるだろ」

「はっ、それが人に頼む態度かよ。その前に、そいつを離せ!」

 宙づりにされていた麗華を、ゆっくりと地面に下ろす。でもすぐそばに獣の息遣いを感じる。ここで走って逃げ様なものなら、噛み殺されそうだ。痛みに耐えながら後ろを振り返る。微かに術が見えるようになった所為か、一メートルぐらいの高さに十八ぐらいの青年が跨るように宙に浮いて居た。何かが居るのは分かるが見えない。

 大輝が妖獣使いと言っていた。恐らく、妖獣と呼ばれる何かに跨っているのだろう。それにはねられて咥えられた。

 青年の黒髪が遊ぶようにはねている。鋭い眼差しで麗華を見て軽く笑う。

「れいかって言ったな? 藤森家の者だろ?」

 大輝の顔が強張る。華守市では名の最後に『華』と付ける事を許されているのは藤森氏の直系だけだ。一般人が『華』と名の最後に付ける事があっても華守市の術者は付けない。

「結界を解けないなら、こいつを貰う」

 痛みを訴える腕を押さえながら、青年をふざけるなと、睨みつける。

「彰華君が結界張ったのはあなた達の所為でしょうが。解いて欲しいならさっさと消えたら?」

「目的が済んだらそうするさ。いや、この際お前でもいいか」

田矢たや、中に居る綾奈あやな達を置いて行く気か!?」

 大輝を囲う男と女は二十代前半から十代後半の年頃だ。田矢と呼ばれた青年の行動を咎めるように言う。

「忘れたのか綾奈も言っていただろ。目的が第一だと。俺は蜜さえ手に入ればそれでいい」

「誰が、麗華を連れて行かせたりするかよ!」

 大輝が術を放つ。男達が逃げられない様に、周囲に一斉に火柱が上がり更に、男達に向かい攻撃の術を放った。

 六人の男女と大輝が術や刀を使い戦闘を始めた。熱風や、空気の振動が伝わって来る。優勢に戦っているのは大輝の方で、周りにいた六人を次々と倒す。

 麗華は大輝の方へ行こうとすると、背中辺りを咥えられて宙づりにされた。

「さすがは守護家。あいつらじゃ敵わないか。なら、撤退だな」

 このままでは、分が悪いと分かった田矢は麗華を咥えさせたまま火柱の上を飛び越えて逃げた。

「大輝君!!」

 麗華が叫ぶ。大輝が麗華を連れ去られたと気が付いた時には、すでに遅く麗華の姿は消えていた。





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