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神華  作者: 紫音
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一章 四十八話




 彰華は自室で書物に目を通していると、招かれざる訪問者の気配を感じた。藤森家にある結界を乗り越えてくる者など普通はあり得ない。殺意は感じない。妖魔とは違う気配だ。

 何者なのか。ゆっくりと落ち着いた様子で振り返り訪問者を見た。

 漆黒の髪が緩やかに波打ち、印象的な藍紫の瞳。黒い長袖の服を着た男がいる。正確には人ではない。別の種のモノに感じる。

「お初にお目にかかる。陽の神華殿」

「お前は?」

「麗華姫の家の者。陽の神華殿に窺いたい事があり参った」

 麗華の父、麗夜の関係者だとすぐに予想がついた。藤森家の内部に簡単に侵入を許すなど許されない事だ。藤森家を管理している岩本家や陽の守護家は何をしているのか。

「何故、麗華姫にかけられている封印を解こうとしない」

「おかしなことを聞くな。俺が術を掛けたのはわけではない、術を解けるのは麗夜さんだろ」

「繋がりから干渉すれば、術を解けるのではないのか」

 全てを知っているような様子の男を彰華は鼻で笑う。この男、麗夜が何をしたのか詳しい事を知らないようだ。

「繋がりは立ち切れている。だから、今の状態で俺が出来る事はない」

「繋がりが立ち切れる事はないはずだ」

 疑うように藍紫の瞳が座っている彰華を見下ろす。

「麗夜さんがしたんだ。それに、俺が繋がりを切る事に同意したから切れた」

「何故、そのような事を」

「理由を言う必要があるのか?」

「……このままでは、陽の神華殿が一番難儀するであろう」

「そんな事は、俺が一番分かっている」

「ならば、麗華姫の術を解く手伝いをするがいい」

「嫌だな。お前が本来は何処の者なのか分かった。何故、お前たちの思惑道理に動かなければいけない。そちらに影響でも起きているのか?」

「異変は起きていない。だが、このまま一人で役目を果たせると考えているのか」

「出来るさ。俺は元よりそのつもりだ。お前は麗華をどうしたいかは知らないが、余計な事をしないで欲しい」

 彰華が横に手を滑らせる。すると、同時に陽の守護家が彰華の部屋に飛び込んできた。

 戦闘態勢の麻美、莉奈の二人で男を囲い、小百合、湖ノ葉、瑛子の三人は彰華の前に立ち壁を作る。肌がしびれる様な緊張感が部屋全体を包み込む。男が変な行動をとれば、すぐさま攻撃が出来る体制だ。

「何処から入ったかは知らないが、藤森家に無断で入りただで済むと思うな」

 彰華が視線で合図を送ると同時に、麻美と莉奈が男に攻撃の術を放つ、湖ノ葉は後ろから男に拘束の術を使い、小百合は彰華の部屋から逃げられない様に結界をはった。

 男は陽の守護家の攻撃を、舞を踊る様にするりと優雅に避けた。

「まだまだ青い。陽の神華殿、無謀な事を考えるのは止める事だ。藤森の創設時よりの定めは、誰にも揺るがす事は出来ない」

 男は薄く笑うとその場から消えた。

 自分たちの力がまるで通じなかった。今までこんなことが起きた事はない。陽の守護家は、自分たちの無力を思い知り愕然とする。

「俺が変えてみせるさ」

 彰華は男が消えた場所を見つめて呟いた。







 真司の気持ちは嬉しいけれど、人から護衛される事に慣れていないので、傍に居て貰う事が悪い事に思える。でも、真司は麗華の所に来ると決めている。これからどうなるか、麗華自身分からないけれど術が解けた時に、また妖魔の標的になる。そうなると、真司が一緒に居てくれると心強い。

 麗華は自分の家の場所を真司に教え、真司からは何かあった時の為に携帯の番号を暗記するように言われた。


「新幹線で三時間、それから電車に乗り換えてこれるから」

「分かった。今日の夜にはそっちに着くよ」

「駅に迎えに行くね。近くになったら電話かメール、って私、携帯持ってなかった」

「大輝に術で知らせるよ」

「話は終わったか」

 突然現れた菫に麗華と真司は驚く。真司が言っていた結界は菫に効果がなかったようだ。

「すみれ君、驚かせないでよ。って何処に行っていたの?」

「私がいると話辛いと思い、離れておりました」

「麗華、こいつが式神?」

「うん。お父さんが作ったって言う式神さん」

 真司は菫を警戒してみる。ただの式神にはとても見えない。麗華は式神に気を許しているらしく、真司とどういう話をしたか掻い摘んで説明している。

「ほう。一人増えると、それは賑やかになりそうだ」

 菫は警戒して見られているのを見て、大輝よりは使えそうな人間だと思う。

「麗華姫、そろそろ一度体に戻りましょう。長い時間体から離れていると、体に影響が出る恐れがある」

「うん、分かった。じゃあ、真司また後でね。連絡待ってるから」

「あぁ」

 麗華が軽く真司に手を振ると、けたたましい警報が鳴り響く。甲高い笛の音の様な音に驚いて体を固くする。

「え? 何の音?」

「警報だ!」

 顔を強張らせる真司は、反射的に麗華を守る仕草をする。

「え? 警報って?」

「では、失礼する」


 菫が言うと同時に視界が揺らいだ。


 気がつくと自分の部屋に居た。起き上がろうとすると、激しい眩暈に襲われベッドの上に倒れる。体が思うように動かせない。指先を動かす動作一つで苦労する。初めての幽体離脱は、思っていた以上に体に負担があったようだ。

 瞳を閉じて、眩暈が治まるのを暫し待つ。カーテンの開けたままの窓から強い日差しと、部屋の蒸し暑さに流れる汗を手で拭う。

 最後の瞬間の警報は何だったのだろう。藤森家で何かあったのだろうか。

 それにしても暑い。冷房の設定温度を下げなければ、蒸し暑さで余計に具合が悪くなりそうだ。暑い? 麗華はハッとして、眩暈も忘れてベッドから飛び起きる。

 今何時だ。藤森家で真司と話しているうちに太陽は陰り始めて、一日で最も暑い時間は終わったはず。こんなに日差しが強く暑いと言う事は、今の時間は?

 部屋の時計を見ると朝の八時を指していた。昨日あのまま眠りに着いてしまったようだ。真司を駅に迎えに行く約束をしていたのに、行きそびれて。でも連絡は大輝に行くはずだから、大輝がかわりに真司を迎えに行ってかもしれない。

 折角真司が来てくれると言うのに悪い事をしてしまった。

 未だに地面が揺れる様な気味の悪い感覚に耐えながら、階段を転がる様に降りて居間に飛び入る。


 一番初めに目に入ったのは、ラップが張ってある肉の乗ったお皿とテーブルに顔を伏せて寝ている大輝だった。近付いて見ると、お皿の上にステーキらしき焼いた肉が一枚乗っている。

 その光景に驚いて考えていた事が頭から抜けてしまう。

「なに? ……このステーキ?」

 眠りについていた大輝が口元をぬぐいながら目を覚ます。

「………………おせぇよ」

 まだ寝ぼけているらしい大輝は目をこする。

「お早う、大輝君。これは?」

「…………昨日の晩めし。お前が起きてこないから、固くなっちまったじゃねぇーか」

「え? 焼いてくれたの?」

 大輝はテーブルに肘をつき手に顔を乗せてそっぽを向く。

「そうだよ。なのに、呼んでも降りてこねぇーし、部屋の前にはわかめが陣取って近づけないようにしてるしよ」

 大輝が麗華の為にステーキを焼いてくれたのだ。まさか、大輝が晩ごはんを用意してくれたとは想像もしていなかった。少し焦げているステーキを見て胸が熱くなる。しかも、ステーキは麗華の大好物だ。嬉しい。

「……ありがとう。凄くうれしい!」

 ステーキを見つめると、心の底から喜びの笑みがこぼれる。こんな、幸せな気分になるのは久しぶりだ。

 大輝は麗華の嬉しそうな笑みを見て、大輝も嬉しくなる。この笑みをずっと見て居たい。そして、顔に熱がこもってきた事に恥ずかしくなり視線を逸らす。

「これ、食べても良い? あ、大輝君の分はある?」

「食えよ。俺はいいから」

「でも、朝ご飯はまだだよね。今、チンしてくるね」

「まて、温めるぐらいすぐできっから」

 大輝が軽く指を動かすと、赤い線の様なものが皿を囲い数秒で消えた。麗華はそれを見て目を瞬かせる。今、何か見えた。

「い、今。何したの?」

「あ? 術使っただけだけど」

「見えた。私。今赤い線みたいなのが見えた!」

「マジで? じゃあ、これは!?」

 見えていなかったモノが見え、興奮する麗華と同様に驚いて興奮する大輝が指を軽く動かした。

目を凝らすが、今度は何も見えない。

「……見ないよ? 本当に何かしてる?」

「してるさ!」

 頬に熱風を感じて驚く。

「熱い! 何かしてるって分かったよ。でも見えないよ」

「はぁ? なんでだよ。なんでさっきのは、見えてこれは見えないんだよ。じゃあ、これは」

 指先からひょろ長い赤い線が出て形を作る。

「見えるよ! 数字の八でしょ?」

「これは見えるのか! じゃあ、こっちは?」

 何度か、大輝が使う術を見えるか見えないか、当てる事を繰り返す。どうやら、見えるモノと見えないモノがある。

「……分かった。お前、術の初級が見えるんだ!」

 大輝に指を指される。

「初級? って」

「術にも色々な技があるんだ。今使ったのは幼稚園児でも使える超初級の術だ」

「でも、見えたね!」

「超初級が見えたぐらいで喜ぶなよ」

「でも、見える様になって来たって事でしょ! 今まで微塵も見えていなかったんだから、凄い進歩だよ。お父さんの術が少しずつ解けているのかも知れないね!」

 どんなに初級編でも、術が見えた事が嬉しかった。このまま、行けば父の術を完全に解く事も出来る気がしてきた。菫の言うとおりに、精神統一したのが効いたのかもしれない。それに、過去の記憶をたどったり、藤森家に行った事が役になったのだ。

 藤森家で思いだす。真司が来てくれる事になっていた。その事を確認したくて眩暈がする中、一階に降りて来た。

 麗華は大輝に真司が来る事になった事を話し、真司から連絡がないか確認する。


「連絡なんか来てない」

 真司の話をしてから、少し機嫌が悪くなる大輝を不思議に思いながら麗華は首を傾げる。

「でも、夜には着くって言っていたよ。大輝に知らせるって言ったから、何か術で来なかったかな?」

「来てない。……わかめはどうなんだよ。なんか来たか?」

 大輝は麗華の横に立つ菫に話しかける。麗華は気が付いて居ないようだが、菫はずっと麗華の隣に居た。

 麗華の住む地域には父、麗夜が惑わしの術を掛けている。麗華と共に来なければ麗華の家に辿り着く事は出来ない。ちなみに大輝は買い物に行く際、菫から術に惑わされる事のない様に目印となるお守りを貰った。

 惑わしの術の効果で真司の術が届かなかった可能性もある。家を管理しているらしい菫ならば術が掛ったモノが届けば気が付いていそうだ。

「何も来ていない」

「来てないのか? 変だな。真司なら飛んで来そうじゃね?」

「うん。私も来るって言っていたから、絶対来ると思うんだけど……場所分からなかったのかな?」

「分からなかったら、それで知らせが来るだろ」

「そうだよね。あ、電話してみようか」

 麗華は真司の電話番号を暗記している事を思いだし、真司に電話を掛けた。電話に出たのは、電源が入っていない時の音声案内だった。

 音声案内を聞きながら不安に為る。真剣な眼差しで、麗華の傍に来ると言った真司が簡単に約束を破るだろうか。

 何か、真司の身に予想外の出来事が起きたのではないだろうか。事故にでもあったのかも知れない。

 いや、違う。

「藤森家から戻る直前、警報なってたよね? あれ、なんだろ?」

「警報? どんな音だった?」

「ビィーって甲高い笛の様な耳に響く音」

「鈍い音じゃなく? ボォーって感じの」

「違うよ。ビィーって音だよ。ねぇ?」

「私もそのように感じた」

 菫も同意する。大輝の顔から血の気が引きみるみる青ざめて行く。

「それ、岩本家の式神が発する、最もヤバい時の奇声だ……」

 藤森家に無数にいる式神が緊急事態が起きた際、知らせる為に一斉に奇声を鳴らす。それが警報となる。

「藤森家の結界が破られたんだ!」

「結界が破られるって、なにかまずいの?」

「ヤバいに決まってんだろ! それも、一番ヤバい警報ってことは、侵入者は一人じゃない。どっかの組織が襲って来てる」

「お、襲って来てるって?」

 大輝の青ざめた表情から、麗華もそれがどれだけ危険な事態なのか読み取り不安に為る。

「蜜狩りだ」



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