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神華  作者: 紫音
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一章 四十三話





 昨夜、麗華が父の事を調べると決めた後すぐに、実家に向かいバイクを走らせた。早く行かなければ、藤森家の手が回り家に入る前に麗華が捕まる可能性があるからだ。一日経っている為、もう藤森家の手の者が麗華の家を見張っているかもしれない。それでも少しでも早くついて行動した方がいい。

 夜中バイクを走らせていたが、仮眠を少し取る為にホテルに泊まる事にした。手頃なホテルがラブホテルしか見つけられなかったが、さすがに二人でそこに泊る事が出来なく公園に寝る事になった。

 夏の暑さは夜も変わらず外で寝ていても寒くはなかった。慣れない仕事をした後にずっとバイクを走らせていたので、疲れていたが朝日が昇る少し前に目がさえた。ベンチに横に為り隣で麗華が寝ているのを確認して安心する。


 今頃、藤森家ではどうなっているのだろう。

 麗華と大輝がいなくなり、必死に探しているのだろうか。真琴達の処遇はどうなっているのだろう。祭典も近いのに勾玉廻りの途中で麗華を連れてきた。そうなるとやはり何か不味い事でも起きたりするのだろうか。残りの家は大輝の火山家と優斗の荒木家の勾玉が残っている。あの儀式は結界を強める為に年に一度神華が舞を踊り、力を補充する為に行われているものだ。荒木家は優斗がいるから、彰華に頼めば勾玉の力補充が出来るだろう。だが大輝がいないと火山家の陰の祠を開ける事が出来ない。自分から家を出た身だけれど、生まれてきた時より藤森家や家を守る様に教えられてきた。今更、華守市に戻るつもりはないが、一番被害を受けるのは大輝の家に為るのは納得がいかない気がする。

 これも全て真琴達の所為だ。結界が弱まり何かが起きた時に彼らが責任をとれば良い。

 隣で寝ている、麗華がうなされ始めた。何かに追われている夢を見ているらしく、助けを求める寝言を言う。

 藤森家に居た時も夢見が悪く寝付けないと言っていた。眉間に皺を寄せて苦痛そうに助けを求める麗華の手が縋る様に大輝の服を掴む。

「……ステーキ」

 また、ステーキの夢を見ているらしい。どれだけステーキに執着しているのか。うなされている事を不憫に思っていたのに、ステーキの夢だと思うと力が抜ける。

 今日は麗華にステーキを食べさせてあげようと決める。きっとステーキを食べればうなされる事もなくなるだろう。

「……何で、……守ってくれないの……。私だけじゃどうする事も出来ないのに」

 閉じられた瞳から一筋の涙が零れおちる。いつも明るく振舞っていた麗華がステーキの夢の所為で涙を流すとは思わなかった。こんな時どうしたらいいのか分からなくて、大輝は焦り何か良い案は無いだろうかと公園内を見渡す。

 悪い夢なら叩き起せば消えるはず。麗華の肩を揺すって起こそうとすると、大輝の服を掴んでいる手が震えているのが見えた。

 衝動的に震える手に手を重ねて強く握る。出生の秘密から逃げないで向き合おうとする、強い心があるのに、たかが夢で何を怯える必要がある。

「ステーキぐらい、俺が守って遣る。だから心配するな」

 麗華の肩が少し揺れた気がした。震えはおさまり、かわりに穏やかな寝息が聞こえてきた。

 なんだ、こんな一言で静かに寝てくれるのか。大輝は安堵の様な脱力する様な長いため息をつく。

 改めて寝息を立てている麗華を見る。優斗達の所為で負った足の傷はまだ癒えていないらしく、バイト中も立ち続けるのが辛そうだったし、痛々しく包帯がされている。こんなに為るまで、やるなんて改めて優斗達に怒りが沸いてくる。真琴、優斗、蓮に真司も神華じゃなければ守る気もなく、傷つけても平気なのだ。最低な奴らだ。最近まで自分も同じ事を考えて居た事を棚に上げて、大輝は真琴達の行動を不満に思う。誰も守らないなら、自分だけでも麗華を守ろう。気持ちを新たに大輝は未だに掴んでいた麗華の手を強く握った。





 久しぶりに良く寝た思いで麗華は目を覚ます。昨日もいつもと同じ夢を見たけれど、お豆腐レンジャーのイエローの活躍によりステーキが守られる夢だった。かっこよく禿鷹や狼を蹴散らす様は爽快だった。最後はイエローとステーキを美味しく食べて、初めて夢の終わりがハッピーエンドだった。今日一日良い事がありそうな予感がする。

 朝からまたバイクを走らせ、十時頃に為る大輝が昨日言っていたお金を稼ぐ場所に向かう。

 その先はパチンコ店だった。当然の様に入ろうとする大輝を制止する。

「ちょっと。お金稼ぐってこれ? 冗談でしょ?」

「大真面目。ちょっとやれば十万ぐらい軽く行く」

「いや、パチンコって十八歳以下お断りじゃなかった? ほら書いてある」

「んなの、誰も気にしてねぇーよ。ちまちま稼ぐより、こっちの方が楽」

「ギャンブラーだ。駄目。絶対駄目」

「俺が負けるとか思ってんの? まずねぇーよ。ちょっと力使えばあっという間に出せる」

「詐欺じゃん。犯罪じゃん」

「別に良いだろ。パチンコ店は儲けてんだから少し出したって気にすることねぇーって」

「あぁ。もう。その考え絶対間違ってるよ大輝君。楽して稼いでいたら、ろくな大人になれないよ。……それに。大輝君の行動が知れ渡ってるとしたら、パチンコ店からの通報で私達の居場所が藤森家にばれるって事もあるかもしれないよ」

 藤森家にばれる可能性を言われて大輝は少し考える。確かに華守市での大輝の素行の悪さは皆知っている。遊ぶ金をどうやって作っていたかも知っているはずだ。全国の有力者と繋がりがある藤森家の力を使えば、パチンコ店に麗華達の顔写真を配り来たら報告するようにする事も出来る。

「……確かに、そうだな」

「でしょ。もうすぐ私の家に着く。少しだけど家にお金置いてあるから、当分はお金の心配はいらないと思う。だから、パチンコは辞めてとりあえず、うちに向かおう」

 折角一万を十万に変えて麗華を喜ばせようと思ったのに、犯罪は駄目だと諭され、ばれる可能性があると拒否された。大輝は自分の行動が空回りしたに苛立ち舌打ちし気持ちを晴らす様に乱暴にバイクを走らせた。大輝の運転を後ろで非難する麗華の声は聞えないふりをした。


 麗華の家近付くにつれ、大輝は麗華の父親の得体の知れない力の強さを思い知らされる。麗華に言われてバイクを走らせなければ、道路に気が付かなかった場所が幾もある。都市全体に、巨大な惑わしの結界がはられていた。藤森家の家にも施されている部外者を奥の間に行かせない術と同じだが、その規模が全く違う。こんな大きな結界を維持する力があるのは人物が何故、麗華の前から消える必要があったのか疑問が膨れる。これだけの力を持っているなら、何か起きた際でも力で相手をねじ伏せるのは容易いだろう。

 麗華の案内がなければ麗華の家にたどり着けない構造になっているなら、藤森家の手の者が麗華の住所を割り出したとしても着く事は出来ないはずだ。

 案の定麗華の家の前には他の誰かが近づいた形跡は見当たらなかった。だが、荷物を盗まれたので鍵がない。家の傍に予備の鍵を置いていたりはしていない為、鍵を開ける業者を頼む事になりそうだ。鍵がない事と告げると大輝は家を見上げた。庭付きの二階建て一軒家。何処にでもありそうな平凡な家だ。庭の手入れも意外にされてあり、小さな花壇に色とりどりの花が植えられている。それに花だけではなく、自家菜園もありきゅうりやトマトが生っていた。庭の野菜は麗華の貴重な食料源だ。出来すぎた分を近所に配ると、優しい隣人たちは別の物でお返しをしてくれる。

 

「どの窓割っても平気?」

「窓割るの?」

「じゃないと入れないだろ」

「どの窓も割ってほしくないんだけど。ガラスって結構高いんだよ」

「じゃあ、どうする気だよ」

「窓を割るぐらいなら、隣から入れないかな?」

 麗華は隣の家を見る。二階の窓は換気の為に少し開けてある。隣とは少し距離があるが何とか開けられる距離だ。さすがに窓から出入りをした事はないが、幼馴染の男の子が住んでいるので昔は良く物を窓から投げて遊んだりしていた。

「あの窓から、あっちの窓に飛び移るとか出来る?」

 距離は一メートル程なので、運動神経の良さそうな大輝なら出来そうだ。

「余裕」

 大輝の自信満々の顔を見てほっとする。さっそく隣の家のチャイムを押すとすぐに返事があった。

「あれ? 麗華じゃん」

つかさ。久しぶり!」

「ちょっと、まって。今そっち行くわ」

 隣に住む司は勢いよく玄関の扉を開け麗華に向って微笑む。麗華も笑って手を振って近寄る。彼は初恋の相手だ。麗華より十センチほど背が高い。黒髪の短髪で陽気な性格が愛嬌ある瞳に現れている。

「突然帰ってきたんだな。吃驚したよ」

「驚かせてごめんね。帰って来るって連絡したかったけど、ちょっと携帯が駄目に為って」

「どうした? トイレポチャでもしたの?」

「違うけど。ま、色々」

「ふーん。……で、そっちらは?」

 大輝が何故か司を威嚇するように睨みつけていた。麗華は態度の悪い大輝を軽く肘で突き、司に紹介する。

「お母さんの実家に行ったじゃない。そこで知り合った、火山大輝君。ちょっとした用事で一緒に居るんだ」

「へー……。ちょ、来い」

 司が麗華の腕を掴んで大輝から少し離れた所で耳打ちする。

「大丈夫か? なんか、めちゃくちゃガラ悪いじゃんか。すっげー睨まれてんだけど。俺」

「あー。うん。元々ああいう顔なんだよ。うん」

「無理あるぞ。不味い事にでもなってんのか? 実はおばさん借金一杯あって、ヤちゃんに追われてて、その息子が取り立てに付いて来たとか」

 大輝がヤクザの息子と想像してしまって笑う。

「違うよ。そんなんじゃないよ」

「あいつ、口にまでピアスしてね? 穴から水漏れとかしないのかな」

「しないんじゃないの?」

「鼻輪はしてないよな?」

「鼻輪って……」

 麗華と司は大輝の方を軽く見る。思わず大輝が牛の様な鼻輪をしている所を想像してしまって二人で吹き出した。

「や、やめてよ。変なこと言うの!」

「だって、気になったから。……おい、笑うの止めろって、マジで殺されそうな勢いで睨んでる。本気で恐いんですけど」

 司は麗華を盾にして、大輝の殺気だった視線から身を守る。

「ごめん、でもビビり過ぎ。いきなり噛みついてきたりしないから大丈夫……。でも、大輝君血の気多いから、下手なことしたら危ないかも」

「それ、やばいじゃんか。何でそんな凶暴なのと一緒なわけ?」

「まぁ色々あったのよ。そのうち機会があったら話すよ。前、鞄盗られた話ししたじゃない。鍵がないから家に入れなくて、司の家の二階から入れるかやって見て良いかな?」

「いいよ。今、多分誰も居ないし、入ってよ」

 司は快く家に上げてくれた。大輝が睨んでいる為、司は委縮した様子で顔を引きつらせて案内する。

 司と麗華が他愛ない近況報告をした後、窓から部屋にあった竹刀を使い、麗華の家の窓を開けた。

「行けそう?」

 二階から下を見ると意外に高さがある。落ちたら痛いだけではすまなそうだ。

「余裕」

 ひらりと窓の縁に上がり、軽々と麗華の家に飛び移った。

「身軽だね」

 麗華が大輝の姿に軽く拍手をする。これで家に入れると喜んでいるのもつかの間。部屋の中で大輝が叫んでいる声が聞こえ、何かに突き飛ばされた様に窓から落ちた。

「大輝君! 大丈夫!?」

 驚いて下を見ると大輝は綺麗に着地して、麗華の家の窓を威嚇するように見上げる。

「お前の家になんか居るぞ!」

「えぇ!? 藤森家の人!?」

「違う! 別の奴だ! くそっ」

 大輝は悪態付くと玄関に向かい扉を乱暴に破壊して、家の中に入って行った。麗華と司は互いに顔を見合わせる。

「なんだ、今の。あいつ何で、窓から落ちたの? なんか居るって? 空き巣にでも入られたのか?」

「分かんない。でも、様子見に行かなきゃ」

 家に一体何がいるのか不安に為る。藤森家の人ではないなら、一体だれが家に侵入すると言うのだろう。

「空き巣だったら、やばいだろ。麗華はここに居ろよ。俺が見てくるから」

「いや、司はここに居て。話がややこしくなる」

 大輝が飛ばされたと言う事と、あの様子からして普通の人ではないはずだ。ここで、普通の人の司を巻き込む訳にはいかない。

「なんだよそれ。警察に連絡するか?」

「ううん、しないで。とにかく居て。助けが必要なら呼ぶから」

 階段を駆け下りと同時に後ろから追ってきた司に手を掴まれる。

「俺も一緒に行く」

 幼馴染のこんな強張った表情は初めて見た。手には竹刀が握られている。麗華は司に付いて来て欲しくないが、本気で心配してくれている様子に拒否で出来ない。

 司に手を握られたまま家を出て、大輝に破壊された玄関の扉が地面に落ちているのを唖然と見てから中に入る。居間から大輝の声が聞こえた。慎重に部屋の中を見ると、大輝が何もない空間に向かって怒鳴っているのが見えた。

 麗華と司はその様子を不思議に思う。

「あいつ、何やってんだ?」

 恐らく、大輝には見える何かがいるのだ。でも、力のない麗華と司には何も見えない。空き巣では無かったけれども、それより事態は悪そうだ。家の中で術を使われ司が巻き込まれたら困る。

「じ、実は、劇の練習で。そう。大輝君は劇団員で、閃くとすぐに役に入り込みたがる人なの。今も練習中みたい」

 司は疑いの目で麗華を見る。

「お前、嘘下手過ぎる。一体あいつはなにしてるだよ。本当は知ってんだろ」

「…………知ってるけど、言えない。ごめん。でもって。本当に悪いけど、司には関係ない事だから、家に戻ってくれる?」

「お前なー」

「ごめん。心配してくれて嬉しいけど……」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫。大輝君が居るから。終わったら話すから、今は戻って」

 司は未だ何かを怒鳴っている大輝を見て、麗華を心配そうに見る。

「……分かった。何時でも警察に電話出来る様に、携帯持って玄関に居る。声上げれば飛んで行くから」

「ありがとう」

 司は手に持っていた竹刀を麗華に渡して、心配そうに何度も麗華の方を振り返りながら玄関に向かった。司が離れた事を確認してから、麗華は居間に入る。

 大輝は麗華が入って来たのを見て、何かに向かい指差す。

「こいつお前のなんだ!」

 いきなり訳のわからない事を言われて麗華は首を傾ける。

「どういう意味? 大輝君、大丈夫?」

「見えないのか? ……なに!?」

 麗華が見えていない事に驚いて、後半は何かが言った言葉に驚いている。

「何が居るの?」

「……麗華の父親が造った式神が居る。麗華が生まれた時からずっと一緒に居るって言ってるぞ」

 生まれた時から傍にいた式神が居る?

「えぇ!!」



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