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神華  作者: 紫音
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一章 三十二話





 甘みがあり神華の血の様に力があると言われても、麗華にその理由が分かるはずがない。麗華もその理由を知りたいぐらいだ。


 恥ずかしくて未だに顔をあげる事も出来ずに居ると、優斗が屈んで麗華の様子を見る。

「大丈夫? 貧血で気分が悪くなったりしていない? 部屋まで連れて行こうか?」

 自分の身を案じてくれる優斗のやさしさに少し癒される。立てないほど具合が悪い訳じゃないけれど、この場に居たくない。醜態を演じた後で、どんな顔で彼らと接すればいいのか分からなかった。

 それに守護家にとっては力を満たしてくれる重要な血でも、自分の血を人が飲んでいるところを見たい気持ちにはなれない。

 優斗のやさしさに甘えて、具合の悪いふりをしてこの部屋から抜け出そう。

「うん……ちょっと、気分が……」

 優斗が手を差し出して来たので、立ち上がるのを手伝ってくれるのだと思い手を乗せた。

 だが、その手は予想外の場所に運ばれる。切られた手とは反対の手には血を止めようとした時の血が残っていた。その血を優斗が舐る。

 予想外の行動に麗華は驚いて手を引こうとするが、優斗は離そうとしない。指の間に流れた血まで丁寧に舐めとる。

「ゆ、優斗君! ちょっと、やめてよ」

「何で? 血が体に付いたまま外に出るのは危険だよ。それに、折角麗華さんが痛い思いをして流してくれた血を少しでも無駄にできない」

 優斗の舌先が手のひらを踊ると、くすぐったい感触に体が震える。恥ずかしさで血が沸騰しそうだ。

 ふと、まわりの視線が気になった。優斗に手を舐められている姿を見られるのは恥ずかしい。嬉しそうに血を舐める優斗から本気で逃げようと思い、力一杯手を引いてなんとか逃れる事に成功する。

「血ならあれで十分でしょ」

 麗華の不満を無視して、再度麗華の手を取ろうと優斗は手を伸ばす。

 このままだと、麗華に付いている血が全部無くなるまで止めてくれそうにない。でも、そんなの恥ずかしすぎる。走ってこの場から逃げ出したい。だけど、優斗も術が使えるのだから、足止めをされたら逃げようがない。


 麗華は他の人に助けを求める事にした。誰なら、優斗の行動を諫めてくれるだろう。


 彰華は論外。何もせずに成り行きを見そうだ。

 真琴も論外。優斗がやらなければ彼が変わりにやりそうだ。

 大輝も論外。助けてくれることなく、優斗に差し出しそうだ。

 残るは真司か蓮だ。この二人は、先ほども麗華の事を気遣い彰華の馬鹿げた提案に賛同しなかった。

 真司はきっと止めてくれる。何度か、優斗の行動が行きすぎた時に止めていた。でも、真司も血を舐めた時中々離してくれなかった。その事を思い出すと、真司に助けを求めるより、蓮の方が良さそうだ。

 この中で一番の長身で眼つきが鋭い蓮から止められたら、優斗も言う事を聞くだろう。


 麗華は手から逃れるために素早く立ち上がり、蓮の後ろに逃げ込んで服を掴み盾変わりにする。

「蓮さん、助けて。優斗君を止めてください!」

 盾にされた蓮は驚いた顔で、服を掴んでいる麗華を見た。それから、軽く眼鏡を触り優斗の方を見る。

「優斗。あきらめろ」

 優斗は不服そうに麗華を見て、それから諦めたようにため息を付く。

「何で、蓮の後ろに隠れるのかな……」

「日頃の行いだろ」

 どこか勝ち誇ったように蓮が言う。何はともあれ、優斗を防げた事にホッとする。蓮にお礼を言おうとしたら、急に横抱きに持ち上げられた。

「具合が悪いのだろ。部屋まで運ぼう。いいな?」

 確認を取ると彰華は軽く頷く。部屋から出られる事は嬉しいけれども、この横抱きと言うのも結構恥ずかしい。本当なら、自分で歩けると主張したいが、具合が悪いふりをしているので出来ない。蓮には悪いがそのまま部屋まで運んでもらう事にした。




 蓮に部屋まで運んでもらい、用意されていた布団の上に下ろされた。少し動くだけで、麗華に染み付いたお香の匂いが漂う。

「重いのに運んでくれて有難う御座いました」

 布団の上でお辞儀をする。

「……いや。今、薬湯を作って来させよう」

「有難う御座います。あ、蓮さんの衿に血が付いちゃいましたね。ごめんなさい」

 運ばれた時に血のついた手で掴んだ所為だ。白い布に付いた血は落ち辛そうだ。

 衿元の血を見て、蓮の顔色が少し悪くなる。油汗の様な物が薄らと見える。どうしたのだろうと、心配になり手を伸ばす。

「蓮さん? 大丈夫ですか?」

 蓮は麗華の手を掴む。必死に押さえていた欲求があふれ出し、とどめきれない。蓮は手に残っていた血を食い入るように舐めた。

 まさか、蓮に手を舐められると想像していなかった麗華は、驚きで手を引く機会を失う。今までの誰よりも急性に荒々しく舌が這いまわる。背中がぞわぞわするような、不思議な感覚に陥り、心臓の鼓動がうるさいほど鳴り始めた。

 蓮の一番血が濃く、いつも飢餓状態ギリギリだと言っていた事を思い出した。

 逃げる事も止める事も出来なく、蓮から与えられる感覚に呑まれない為に呼吸を必死に整える。


 手に付いていた血が無くなると、蓮は顔を上げた。眼鏡越しに欲望の炎を宿した鋭い瞳が見えて、衝撃と怯えで体が震える。

 いつもの蓮とは別人のようで恐い。ゆっくりと伸ばされた手が麗華の耳元をかすめて、髪に触れる。

「……れ、蓮さん?」

 ぐいっと腕を引かれたと思ったら、次の瞬間、布団の上に組み敷かれていた。至近距離から見下ろされて、麗華は動揺する。

「あ、あああの。蓮さん!?」

 蓮の足が麗華の足の間に滑り込む。何が起きているのか、理解できなく頭の中が真っ白になる。

 蓮の指先が麗華の頬を撫でて、首筋を通り、その下に運ばれようとした。

 さすがに、麗華もこのままだと不味いと、焦る。蓮の胸元を押して抵抗した。

「蓮さん止めて!」

 麗華の手は無情にも蓮の片手にあっさり掴まれ布団に押しつけられる。男の強い力に押さえられては、女の弱い力なんて通用しない。両手の自由を失って、足を動かすが、袴の裾が踏まれているせいで、思うように動かせない。


 何かに取り付かれたような、無言の蓮が恐い。

 なんで、こんな事になっているのだろう。訳が分からない。

 蓮なら、嫌がっている女を無理矢理押し倒すなんてするはずがないと思っていた。

 まだ、知り合って数日だけれども、信頼を裏切られた様な気がしてむなしく思えた。

 

 蓮がハッと何か驚いた顔をした。それから酷く悔しそうな顔をして、麗華の手をどけて体を起こす。

「クソっ!」

 吐き捨てるように言うと、麗華の体の上からどけた。

「蓮さん……?」

「すまない。抑制が出来なかった」

 自己嫌悪に顔を歪ませ蓮が謝罪する。何が何だか未だに理解できなく、麗華は茫然と蓮を見つめた。

「二度とこんな事にならない様にする。怯えさせてすまなかった」



 蓮が部屋からいなくなり、布団の上で麗華は混乱する頭を整理させようと考える。

 

 守護家が血を欲する理由に、力を回復させる以外の他の理由でもあるのだろうか。

 抑制出来なかったとは、どういう意味?

 もしかして、血を飲むと催淫効果があるのか?

 真司が血を飲んだ時も様子が変になった。真琴も優斗もそうだった。

 ぞっとする。なんて、恐ろしい血が自分に流れているのだろう。

 ここに来て、彰華の忠告を思い出す。

 守護家が藤森家の人と性行為をすると強い快楽が得られる。好奇心で試してみたくなる事もあるかもしれない。だから、藤森家に滞在するなら避妊は重要な事だと言っていた。

 彰華から渡された、貞操帯が袋に入ったまま部屋の隅に置いてある。何度彰華に突き返しても、気が付くと部屋の中に置いてあるのだ。彰華の呪いだと、嘆いたけれど、彰華の心配した意味が少しわかった。

 本当に、女の力と男の力には差があるのだ。蓮が正気に戻らなければ、恐らくされるがままだった。

 貞操帯をするべきか真剣に悩む時が来るとは夢にも思わなかった。

今度、血をあげる機会があったとしたら、気を付けよう。





 服を着替え、小百合が運んでくれた薬湯を飲み、布団の上で悩んでいるといつの間にか寝ていた。

 携帯電話の鳴る音で起こされて、寝ぼけ眼で電話に出る。


「おい、今すぐ部屋の窓から外に出ろ」

「……え、なに?」

 誰からの電話か確認しないで出たけど、この声は大輝だ。寝ている人を叩き起して、急に部屋の窓から外に出ろとは何事だ。

「なんで?」

「いいから。今日一日俺の言う事聞くんだろ。さっさとしろ」

「……あぁ。そうだったね。でもちょっと待って、着替えるから」

「一分以内な」

 麗華が返答する前に電話が切れる。どうしたのだろうと、不思議に思い時間を確認すると午後四時だった。外に出てなにがあるのか不信に思いながら、着替えて窓を開けると、靴を持った大輝がいた。顎をしゃくって早く窓から下りるように急かす。

 窓から下りると、額に衝撃を受けて目の中央の半分が白くなる。額に紙が貼りついた感触でお札が額に貼られたと分かる。

「何これ?」

「姿消しの札。それがあれば他の奴に気が付かれないで外に出られる」

「外って藤森家の敷地内から出るって事?」

 不思議に思う麗華に返答しないまま大輝は、麗華の髪の毛を一本引き抜き、人型の札に貼り付けて部屋の中に飛ばす。これは麗華が部屋に居るように見せかける札だ。


「これから、口一切開くな。術が解ける」

 理解不能なまま大輝に連れ出された。森を抜けようとした時は色々嫌な思いが過ったが、何事もなく森から出られた。隠して止めてあったバイクに乗る様に促され、大輝の後ろに乗る。

 どこに、向かうつもりなのか不安になる。

 後ろに乗りながら、大輝が中学三年生である事を思い出す。バイクの免許持っているのだろうか。運転に慣れた様子があるけれど、恐らく無免許だ。ヘルメットをかぶっている事が奇跡に思えた。


 バイクを乗ったのは初めてで、札の隙間から通り過ぎて行く景色の速さに目を奪われ、体に感じる風がとても心地よかった。



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